Antipyretic

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吉原彼岸花

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尖った部分もなく大きなツボにがっつり来ることもなかったが、安定した面白さはあった。この安定感が最後まで崩れなかったのはすごい。

プレイ中は要所要所で『蝶毒』を思い出した。描写があっさりしているところとか、BAD ED は唐突なものが多いけど盛り上げようとはしているところとか、ボリュームが少なくサクッとクリア出来るところとか、エロシーンの CG 乱舞とかとにかくアロマリエ作品を思い出す。キャラや展開が『蝶毒』と重なる部分もあった。まあ『蝶毒』は突飛な作品ではないけども。女性向け作品で具体例が浮かばなかったのでエロゲを例えに出すが、この『蝶毒』を思い出す現象は『あやかしびと』をやった時の「これ Nitro+ だ!」って感覚に似ている。

もちろん『吉原彼岸花』ならではの魅力もあって、それは遊廓界隈の世界にしっかり酔い痴れることが出来る点。江戸時代や吉原遊廓についてきちんと調べたんだろうな、てのがプレイしていてもわかる。いやそんな偉そうなことを言えるほど私も遊廓の世界に詳しいわけじゃないんだけど、そんな私が物語の世界に没入出来るくらいきちんとしていて、その土台がしっかりシナリオに活きてくる。文章も読みやすかった。可視性、可読性のどちらの意味においても。シナリオもハイプライスゲー相応の長さだったのが良かったし、章ごとに分かれていて全部でだいたい十四章構成になっているんだけど、一つのエピソードが終了するともう次の章に入るのでサクサク進んでいく。最初はあまりにも早く章が進むので驚いた。でも長いとダレてくる私にはちょうど良かった。

絵柄は私の好みからは外れるけど、綺麗だし作品にも合っていたんじゃないでしょーか。ただ CG より立ち絵のほうが好み。あとエロシーンで CG 無双になるのはありがたいし構図も面白かったけど、無双しすぎたかなという気がする。エロシーン以外の絵が欲しい場面で CG が用意されていない時がちらほらあった。特に時雨ルートの花火の場面は絵が欲しかったなあ。重要な場面だったから尚更。

システムは基本的なものは取り揃えてあるんだけど、スキップが大量に存在している選択肢でいちいち止まるのが鬱陶しすぎる。演出は最近女性向けでも見かけるようになった台詞と表情差分の同期があり、結構細かい指定が入っていて好印象。

総括すると、良くも悪くも優等生的作品。恋愛はきちんと必要な場面があるし、ちょうどいいボリュームで楽しめるし面白い乙女ゲーではあるけどハマれなかった。ツボを掠ってはくれるけど刺さってはくれない。惣一郎はハマれるだけのポテンシャルを秘めていたと思うし、時雨はシナリオや設定がツボったし、彰人はニヤニヤしたし、忍さんもいい人でいい話だったけどどれも決定打がなかった。多分私はもっとドロドロして欲しかったのかもしれない。暗い王道が描かれてはいるが、突き抜け切れないというか容赦のなさがあと一歩足りていないというか。いいゲームだとは思うしハマりたかったんだけどな。

何も主人公に声をつけないところまでアロマリエと一緒にせんでも。毎度思うけど男だけ喘ぐのが微妙なんだよなあ。まあそれはそれとして凛は仕事をきちんこなす花魁で、イライラすることもあまりなかったし一言で言うなら優等生。作品が優等生なのは凛が優等生ヒロインだからなんだろうなあ。花魁ではあるけど性質は従来の乙女ゲーヒロインそのもので、花魁ならではのヒロインのキャラクタに期待していた私はそこが残念だった(上位になるエロシーンはあるけどあるだけで、凛の性格が攻め攻めしいわけではない)。ただ優等生すぎて物足りない感はあるが、だからこそ欠点も特に思い浮かばない。敢えて言うなら CG の凛の腰が細すぎるのと足が長すぎるのが気になったくらいだけど、これは凛のキャラクタがどうこうという話でもなく。あーでも仕事で毎晩二人くらい相手してるらしいのに、攻略対象以外の男とのセックスシーンはテキストでさらっと流されるだけだったのは甘いなあ。花魁なんだからそこもきちんと描写が欲しい。

伊勢屋惣一郎 (CV:佐和真中)

凛のためだけに生きてきた不憫な幼馴染み――なんだけど、惣一郎はとにかく笑う場面でもないのに笑ってしまうことが多かった。これは変なツボに入った私が悪い。すまぬ。でもあの悪人顔が出るとどうしても笑ってしまう。音楽がおどろおどろしいものになっていると更に。大金なんて簡単に持てようになるものじゃないし惣一郎の背景はすぐに察せられたが、いざ暗黒微笑系の惣一郎を見てしまったらよくわからない失礼なツボに入ってしまったらしく一度吹き出したら後はもうダメだった。エロシーンでも悪人顔で実況しながら攻めるとかほんとやめてください。笑いが止まらんでしょうが。

悪人顔云々を抜きにすると、とにかく不憫な人だな、という印象が真っ先に来る。遊女になってしまった凛を迎え入れるためだけに人生のすべてを費やして犯罪にまで手を染めたのに幸せな TRUE ED より BAD ED の印象が強く、そういう意味でも不憫な人だなあと。自分と時雨のルート以外では凛が他の男と結ばれてしまうのでこれまでやってきたことが全部水泡と化しているし、時雨ルートは凛の相手が憎い時雨というだけでも許せないだろうし、とにかく幸せそうな惣一郎ってのがすぐ思い浮かばない。悪人面や悲壮な表情ばかりが脳裏にしっかり根付いてしまったらしい。まあ私が「正義感があって優しくてまともな惣一郎」に興味が持てなかったから、てのもある。惣一郎にハマれなかったのは、恐らく彼の根っこが健全であることが言及されていたからかも。健全だからこそ、花魁の身に落ちた凛を奪還するためだけに自分の身を汚泥に浸した葛藤が語られていれば「葛藤する男」が好きな人間としては萌えられたかもしれないけど、そういう描写も特になかった。惣一郎が悪事に加担するたびに心の底では苦しんでいた、ってのは凛の台詞だかモノローグだかで語られるだけだったし、そこらへんをきちんと描いてくれればまた印象は違ったかもしれない。それかいっそ完全にブラックに染まってくれるとか。

好きな結末は断然「幸福の形」ED。港での惣一郎と時雨の「お前が言うな」合戦は面白すぎたんだけど、それはさておいて凛が手元を狂わせて時雨の片目を潰してしまうシーンで一気に引き込まれた。元々時雨の左目は凛を庇ったことで見えなくなったのに、残された目も凛が失明させてしまった。それも惣一郎にもらった思い出の簪が凶器となった、てのがもう最高にえげつなくて素晴らしい。これで凛は時雨の人生を狂わせてしまった罪悪感で時雨から離れることが出来なくなり、そんな凛に苛立って自棄になった惣一郎の「飼おうよ」の一言で時雨さんペット化。そして 3P に突入するが、この時に惣一郎が「他の男に抱かれてる時の君が、どうしてか一番綺麗に見えるよ」と言っていたのがぐっと来た。惣一郎の不憫な部分が強く出ていて、彼の台詞の中では一番好きかもしれない。悪人顔はやっぱ笑うけど、でも凛が花魁時代にも経験がなかったというアナルセックスを果たして達成感も得られたし、時雨は人間としての尊厳は奪われたものの凛に自分の罪は知られていないし(惣一郎がいずれ暴露するかもしれないけど)凛とセックスも出来たし、凛も気持ち良けりゃいいよねと開き直っているんだからその名の通りハッピーエンドだろう。

「遠い日の約束」ED は悲劇的で美しい結末ではあるが、期待していたものとは違った。惣一郎との思い出の場所である彼岸花の群生を初めて見た時から、血のように赤い無数の彼岸花に囲まれる中で壮絶な死を迎える展開が来るだろうと期待してたんだよなあ。遊女の最期として納得は出来るけど入水 ED は他の作品でも結構見かける結末だし、この作品なら湖より彼岸花が見たかった。不完全燃焼。

朔夜 (CV:木島宇太)

遊女と廓者の禁断の恋が描かれてるんだけど、私が朔夜のよーなキャラクタがツボじゃないこともあって朔夜よりも時雨に肩入れしたくなったルートだった。凛から手紙の返事を受け取って嬉しそうに読むシーンを始めとしてわかりやすい萌えエピソードは用意されているが、猫の死をきっかけに二人が結ばれる展開で萎えたのと、いい意味でも悪い意味でも若さだけで突っ切ろうとする朔夜のキャラクタが好みからズレていた。朔夜は若いから気持ちを抑えるのに苦労しているし、そもそも嘘をつくことを嫌うので「秘めた恋」を続けるにはハードルが高すぎる。朔夜自身はいい子だし若いこと自体は罪ではないけど、終盤の「こんなことをする楼主の元に、これ以上凛さんを置いておけない」と発言したことが一番引っかかったのかもしれない。いや時雨は凛にとって思いっきりアウトもアウトな悪人なんだけど、少なくてもこのルートの凛や朔夜の視点では時雨はただの上司であり雇い主でしかない。朔夜が非難した時雨の折檻についても楼主の仕事の一つとして常識だと説明があったし、蛯名屋に脅されて怒っていた件に関しては、確かに恐喝は卑怯ではあるけどルール違反の恋をしている凛と朔夜がそもそも悪い、とも言えてしまうのが何とも。どちらのほうが悪いかと問われれば私も蛯名屋だと即答出来るし朔夜の焦燥や怒りもわかるが、朔夜には自分たちが脅される隙を作ってしまったという自覚がないし、それ以前に舞台が吉原だからなあ……。だからこそ禁断の恋が燃え上がるのに凛と朔夜の恋は盛り上がれなかった。朔夜を可愛いと思うよりも苛立たされる場面のほうが多かったし、これはもう私と朔夜の相性が最悪だったとしか。

その代わり別の楽しみ方をしていて、要するに蛯名屋による朔夜視点の寝取られはちょっと期待していた。ないとは思っていたし実際なかったんだけど、これは私がお門違いな期待を寄せていただけなのでまあ……。ちなみに蛯名屋は神社での凛や朔夜とのやり取りの末に事故で頭を打ったまま放置されて、その後どうなったかは語られなかったけど時雨が凛を監視していたらしいから時雨がなんとかしてくれたんでしょーか。

終盤、足抜けのために男の振りをすることになって髪を切るのは良かった。髪結いの男が二人の愛のために、愛しい人の髪を切らなきゃいけないという展開はツボ。髪をばっさり切った凛も可愛かった。というかあの凛が一番可愛い。

結末は足抜け失敗の「白の埋葬」ED が気に入った。凛が教えた文字書きの勉強がこんな残酷な形で活かされた皮肉な展開が好み。たった三文字の「いきて」が胸に来た。突然キレた朔夜が凛を凌辱する「袋小路」ED は唐突過ぎてポカーン。

大月忍 (CV:須賀紀哉)

いい人だった。いいキャラクタ、と表現することも出来るけどいい人、ってのがしっくり来る。気遣いは出来るし周りを笑顔にすることに長けた人でそこもいいんだけど、何より約束をきちんと守るところがいい。特に蛍のエピソードは良かった。二人でいつか蛍を見ようと約束したものの凛は吉原から出られないから口約束で終わるかと思いきや、忍がわざわざ川に行って捕まえた大量の蛍を部屋まで持って来て、そんな幻想的な光景の中で不意にキスをするシーンですでに見入ってたんだけど、その後のやり取りが一番胸に来た。蛍は澄んだ川のそばでないと生きられないと知った瞬間、慌てて部屋中の蛍をまた全部捕まえて忍が川へ逃がしに行ったのがじんわり来た。ほんといい人だ。私は基本的にいい人にはあまりハマらないんだけど、忍は珍しくぐっと来た。ちなみにこの時のキスシーン、忍は馴染みだからすでに関係を持っていてもおかしくないんだけど、いつも騒いで酔った振りをして終了だったので凛とは肉体関係がなく、だからこそ体より唇の接触が先になったのがツボ。遊女が唇をなかなか許さないことを思えば特別感が増す。そして初めて結ばれる時の「もー……抱かせてください」も萌えたなあ。これはいい台詞。その後巨根なのが判明したり巨根ならではの悩みが発覚するくだりは笑ったけども。

後半は遊廓を題材にした恋愛物語の王道である身分違いの恋と、これに厄介なお家騒動が加味されたエピソードが描かれる。そして自分の生まれや葉津との問題で家から逃げていた忍が凛と出会うことでそれらに向き合う決心をしたからこそ、「きっと取り戻す」ED は説得力もあったし流れも自然で素晴らしかった。かつては忍と恋仲になった後も花魁として忍以外の男に抱かれ続けてきた凛と、凛という愛している妾がいながら妻を抱かねばならなくなった忍、という対比も効いた。そして忍と忍の妻との子と交流を持ちながらも「この子さえいなければ」と凛がかつての葉津と同じことをしようとしているところで終わるのが、また何とも言えない生々しさがあって印象深い。

一方、忍が仮初の当主としての仕事を全うして凛の年季明けを待つ「ひらひら」ED も納得のいく終わり方で良かった。妾になることを提案されて凛が毅然と断った瞬間、忍が父親と血が繋がっていることを確信する場面も忍ルートらしい温かさがあって、さり気ないシーンだけど良かった。忍ルートは TRUE ED も BAD ED も流れが自然なのがいい。

神楽屋彰人 (CV:髭内悪太)

私は主人公に甘くないキャラクタはそれだけで贔屓したくなるくらいに好きなので、彰人は最初のシーンで一気に期待値が跳ね上がった。この手のキャラクタはどうヒロインに落ちるのか、落ちてからはどう変化するのかを楽しみにプレイ出来るのが美味しい。

最初は有能系ツンデレ担当かと思っていたらツンデレじゃなかった。俺様デレだった。序盤の態度が悪いのはまだ子供だった凛に「虚しい人」と評されたからだし(子供相手に大人げないなとも思ったが、子供であっても真剣に腹を立てるあたりが彰人らしい)、金に物を言わせて凛にひたすら高額な贈り物をして逆に嫌がられる展開も、互いの価値観の違いが出ているだけでツンツンしているわけではなくむしろ彰人はデレデレだった。だから俺様気質ではあるけど、素直になれない系ではないんじゃないかな彼は。ちなみに『吉原彼岸花』の最大のツンデレキャラはお菊さんだ。お菊さん萌えぇぇーヽ(`Д´)ノ

まあお菊さんはともかく、俺様な彰人と意地っ張りな凛のやり取りはケンカップルを見ているようで楽しかった。完璧な花魁に見えた凛が実は音痴だったことが判明した時は笑ったし、売り言葉に買い言葉で床入りするのもニヤニヤしたし、凛が彰人を攻めるシーンは俺様を屈服させるヒロインというテンションの上がる展開でワクワクしたし、逆に彰人に攻められて凛がくやビク状態になったのは吹いた。江戸時代版クリムゾンが見られるとは思わなかった。その後は喜蝶さんと平太が、凛と彰人のどちらのテクニックが優れているかを言い合っているのも面白かったなあ。前半のクライマックスである夏祭りのシーンはもうずっとニヤニヤしていた。虎の根付のエピソードなんてもうベッタベタなネタなんだけどそれが良かった。王道って素晴らしい。萌えろと言われてデザートを大量に出されたような感覚すらある。彰人だけじゃなくて凛も可愛いのがまた楽しい。一度結ばれてからはデレデレで、結構チョロいところも潔い彰人らしくてこれはこれでいい。

彰人が凛の両親の死に間接的にとはいえ関わっていたことが発覚した時はこの重い問題をどう解決させるのか気になったが、まだ未熟だった彰人がこの件を機に反省して変われたから凛も許す気になれた、という展開で着地させたのは妥当だったかなと。きっかけが忍さんのフォローによるものだったのは残念だったけど、スムーズに話が進んだのだと思えばまあ……。しかし正直に話すところがまた彰人らしい、とも思った。普通は隠せることじゃないし隠してても罪悪感に苦しむことになるだろうけど、時雨は凛に伏せたままにしておこうとしていたので二人の違いが出ていたのが印象に残ったというか。時雨が隠そうとしたのは凛の精神を思いやってのことでもあるんだろうし、時雨が凛の両親にしたことまで露見してしまうことを恐れたからでもあるんだろう。正直に告白した彰人は当たり前のことをしただけだけど、時雨のどうしようもない弱さも嫌いじゃないなあ。

「子守唄」ED は彰人が凛を堂々と身請けしたし、両親の件も当人同士で落とし所を見つけて解決しているのであれば忍ルートと並んで一番安心できるハッピーエンドじゃないでしょーか。しかし妊娠中のセックスは女性向けでは初めて見た。でも CG は全部腹が隠れたアングルになっていて笑った。そんな配慮を入れるくらいなら妊娠中のセックスじゃなくても良かったのでは……。それはそうとこの時の対面座位は、クロシェットのゲームに出られそうなくらいに凛の巨乳ぶりが強調されていて思わず目が釘付けになった。

「虎と蛇」ED は『蝶毒』の斯波の「座敷牢の恋人」ED を彷彿させる内容で、何故彰人が唐突に凛を疑うようになったのかは謎だけど雰囲気は好みだった。いきなり剃毛プレイに入った時はなんなんだ、と吹いたけど刺青を入れる時に邪魔だったからだと後で気付いて納得した。凛はとっくに快楽に落ちているけど彰人はまだそうも行かず凛を犯しながら苦しんでいる、という展開はありがちだけど好み。序盤の回想で、彰人と千景の性交を幼い凛が目撃した時の彰人の背中の虎が現れるシーンが妙な色気と迫力があって印象に残ってたんだけど、あの虎が蛇に飲み込まれてしまうのかと思うとゾクゾクする。

桜華屋時雨 (CV:ほうでん亭ガツ)

時雨ルートは二周分用意されているが、一周目は終盤がとんとん拍子であっという間に結末を迎えたし、禁断の恋の盛り上がりもなく食い足りない感だけが残ってしまった。禁断の恋については朔夜ルートでやったから、てのもあるんだろうけど朔也ルートで盛り上がれなかった分だけ時雨に期待していたのと、楼主という立場ならではの展開が見たくて期待していただけに随分と安直な展開に落胆させられた。

しかし二周目をクリアして、一周目のシナリオは時雨の空想の物語だったのではないかと気付いて愕然となった。凛が時雨を意識するようになり、紫乃さんの登場で更に凛の時雨への思いは加速させられるなど凛が如何にして時雨に惹かれていったかだけが描かれているし、時雨に買ってもらった香を焚きながら惣一郎との床入りを果たしたり、「惣一郎に抱かれながら惣一郎を時雨に見立てて悶える凛を見て嬉しそうにする惣一郎」という惣一郎が惨めで可哀想な展開が入るし、その惣一郎が凛に好きな男がいることに気付いてあっさり引き下がったし、時雨が気持ちを抑えている間に凛のほうからキスして告白して来たし、何より時雨が知られたくないことを凛は全部知らないまま二人で吉原を出ていく結末になっているなど時雨にとって都合のいい展開しかない。この構成は時雨の弱さ、浅ましさ、どうしようもなさが出ていていい。憎い演出だと思った。

そして二周目で時雨の罪が一気に暴かれるが、凛が時雨に抱いた感情が最後まで「恋」とは呼べないまま終わったのが良かった。時雨は凛が欲しいがために凛を苦界に引きずり込み、でも凛のために左目を失い、更に養父を殺して右目も失おうとしている。だから凛は時雨を突き離せない。例え両親や幾人かの遊女を殺した男であっても、時雨の可哀想な過去を知ってしまったから。凛が時雨に寄せた想いは恋ではなく同情で、それはやがて聖母の愛のようなものへと進化して、だから凛は「時雨様との子を産みたい」ではなく「時雨様を産みたい」と願う。このシーンが一番震えた。そして時雨も凛に恋をしていたというよりも、両親からの愛を得られなかったからこそ母親から与えられるような無償の愛を求めた。卑劣な手を使ってまで凛を求めたのに凛を他の男に抱かせてしまう時雨の精神構造がずっと気になってたんだけど、時雨は凛を独占したいというよりはただそばにいて欲しかっただけ、てのが一番大きかったのかもしれないなあと。

それにしても二人の男を狂わせた凛は恐ろしいなー。いや凛は何も悪くないんだけど、惣一郎と将来の約束を交わして初めてキスをした場所で時雨とも運命的な出会いを果たしていた、てのが残酷というか。終盤の惣一郎の糾弾も間違ったことは言っていない。惣一郎にとっては凛を奪われた理不尽もそうだけど、自分を愛してくれた育ての親が殺されたという憎悪もある。それでも凛は時雨を選んだ。「彼岸花」ED は期待していた吉原炎上をお約束通りきちんとやってくれたのと、彼岸花で締めくくってくれたので満足した。先にも書いたように時雨は凛にそばにいて欲しかっただけなので、最期まで凛がそばにいてくれたのならこれ以上ないくらいに幸せだったんだろうな。

「見ている」ED も惣一郎の不憫っぷりが最高で面白かった。十年もかけて大金を作って証拠も掴んでやっとの思いで時雨の罪を暴いたし時雨も死んだのに、凛は時雨のことだけを考えている。死人には勝てない、てのは辛い。おまけに惣一郎とセックスしているのに凛は時雨のことを考えて喘いでいる。惣一郎は凛が意識している幻の時雨に見せつけているつもりなのに、凛にとっての惣一郎はもう時雨を思い出すための道具にしかなっていないというすれ違いが最高だった。時雨ルート一周目でも凛が時雨を思いながら惣一郎に抱かれる場面があったが、あれが時雨の願望の表れだとして、時雨の死後にそれが実現してしまったという展開が無慈悲でいい。あまりにも報われない惣一郎が萌える。

辰吉 (CV:四ツ谷サイダー)

辰吉とのエロシーンがなかったのは良かった。惣一郎との関係がわかると尚更。それくらい義に厚い人だからこそ凛には一切手を出さなかったのがいい。しかし惣一郎ルートで辰吉が過去を語り出した時は死亡フラグとしか思えなかったんだけど、TRUE ED だとピンピンしてて爆笑した。すごく……強いです……。

柚 (CV:小倉あずき)

時雨ルート一周目の結末の後に成長して花魁になった柚が誰かに身請けしてもらい、本当に時雨に復讐する展開になったらそれはそれで面白そう。

喜蝶 (CV:青山ゆかり)

まさかのゆかり教育。それはともかく喜蝶さんはいいキャラだった。女同士のドロドロがあっても良かったと思うけど、明るい喜蝶さんとの恋バナは可愛くて楽しかったのでこれはこれでいいかも、と思うようになった。