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『痕』感想

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伝奇は好きだし評判も良かったので期待してたのだけど、実際に読んでみると微妙だった。『雫』と比べると確かにキャラクタや物語に厚みは増したけど、その分蛇足が多い。薄いけど一本綺麗にまとまっていた『雫』に比べると、本作は色々盛り込み過ぎて余計なものまで付け足しちゃった感がすごい。と、どうしても比べてしまう。

千鶴さんと梓ルートまでは良かったんだけどな。猟奇事件を追いかけていくので先が気になったし、シナリオ量が少ないせいもあるけど一気に読破してしまったくらいには夢中になった。ただ、後半の楓と初音ルートは酷い。せっかくの鬼の設定に余計なオプションを盛り込んで来るので、鬼の設定にロマンを感じていた分一気にテンションが下がった。もったいないなほんと。

システムは古いゲームだから仕方ないけど、スキップが遅く少し使いにくい。音楽は安定のリーフですばらしー。絵はなで肩が気になったけどいちゃもんつけるほどでもないかな。文章は読みやすくて好み。あと『雫』でも思ったけど、高橋氏の書くエロシーンはやたらエロいのがいいっすねえ。

柏木耕一

基本的には見ていて不快になるよーな主人公ではないけど、例外として初音ルートの耕一だけは好きになれそうもない。正確に言うと耕一が酷いというよりはシナリオが酷いんだけども。他には相当に強い鬼らしいのに、耕一無双シーンが千鶴さんルートくらいしかないのはちょっともったいなかったかなと。もうちょっと強い鬼としての耕一が見てみたかった。

柏木千鶴

最初に通るルートだし終盤には衝撃の事実が明らかになるなどアドバンテージもあるが、それらを抜きしても話も上手く纏まっている千鶴さんルートが一番面白かった。というか真犯人が判明しないことを除けば、千鶴さんルートで終わっていれば『痕』は美しい作品になっていたんじゃないかな。夢の内容と現実の事件の共通点から来る耕一の自分自身への疑惑、一族の長としての務めを果たそうとする千鶴さんの悲痛な決意や穏やかに見えた表情の裏の苦労と辛酸、千鶴さんの口から知らされる父親や叔父の死の真実と柏木一族の呪い、と見どころが多い。千鶴さんが耕一を殺そうとするのは「勘違い」の一言で終わってしまうが、千鶴さんが耕一を一連の事件の犯人だと思い込んでしまうのも仕方ない状況ではあったし、色々頑張っていて疲弊している中で事件が起きてしまい、千鶴さんにも余裕がなかったのだと思えば納得も出来る。

結末は最初に見れる BAD ED がいい。千鶴さんは死んでしまうけど、すべての重荷から解放された穏やかな最期にぐっと来た。それと何気におまけシナリオの「柏木家の食卓」は、千鶴さんの根深いキャラクタの一端が見えたようで印象深い。

柏木梓

梓どうこうより、犯人が判明することにこそ意味のあるシナリオ。鬼についてはほぼ千鶴さんルートで出尽くしたから、梓ルートでは書くことがあまりなかったんだろうな。最後は耕一が力に目覚めて無双するのかと思ったらそんなこともなく、貴之が柳川に発砲して終了という呆気ない終わり方なのがまた……。それに梓ルートなのにかおりちゃんに狙われていたりパワーは姉妹の中ではトップだと豪語した直後にあっさり返り討ちに遭ったりと、とにかく梓のヒロインとしての魅力を押し出すようなシーンがあまり用意されていないよーな。そして柳川によって強制的に耕一とセックスをさせられ、耕一と心を通わせた後のエロシーンも途中から割愛されるのが更に不憫というか。

しかし私はこの手のヒロインが好きじゃないし、梓も途中まではあまり好きになれなかったけど、事件が終わって耕一の前で素直になる梓が可愛くてそこでやっと好きになれた。だからこそもったいない。もっと梓の可愛さを堪能したかった。

柏木楓

見た目は一番好みだったのに、楓ルートから一気に私のテンションが下降していった。一度前世の夢を見ただけで惚れたと言い出してそのままセックスしてしまう耕一と楓にも呆れたし、雨月山の鬼の話までは面白かったのにここで唐突に前世云々が絡んで来るからポカーンとなった。現に耕一は楓を好きなのかエディフェルが好きなのか、少なくても楓のシナリオを読んだ限りではわからなかった。あーもー前世ネタはこういうはっきりしない部分が出て来るから安易に使って欲しくないんだよな。そもそも私は前世ネタが好きになれない。前世でいくら悲恋をやろうがなんだろうが、今を生きるキャラクタと前世のキャラクタは別だと捉えるので、むしろ後世の人間の人生にまで介入してくる前世の人間は迷惑な存在に見えてしまう。次郎衛門とエディフェルの前世のエピソードもありふれた内容で面白くもないし、そもそも鬼の一族がエルクゥという別の国の存在だった、という超展開オチで一気にずどーんと萎えた。

更に最後には鬼の力を制御出来るかどーかで千鶴さんと戦うことになるが、それはさておき千鶴の攻撃から耕一を庇って死んだと思われた楓が翌朝には普通に登場して実は生きてました、というよくわからん結末で私の顔は見事な無表情になった。

柏木初音

楓ルート以上に斜め上を行くシナリオで、最後には宇宙船ヨークまで出て来てもう完全についていけなくなった。まー不自然な SF 要素については半分諦めの境地に達してリネット云々はどーでもよくなったが、それ以外にも突っ込みどころは大量にある。初音が嫌がるのに怪しげな洞窟に入ろうとする勝手な耕一にはイライラしたし、亡霊に操られた耕一に初音が孕ませられそうになって、ギリギリで中出しを堪えて何とか危機から抜け出したのに、直後に「あんなのが初めてじゃ、可哀想だから」とか言い出してセックスしようとする耕一には反吐が出た。あんな恐ろしい目に遭った場所でそのままセックスしてしまうのも心底から呆れたし、最後には中出ししてしまうんだからもう開いた口が塞がらない。アホなのかこの二人。初音が可愛くて好きだったから、尚更このいい加減な展開にはがっかりした。おまけにラストも新たな戦いの予感を残した結末になっており、もう『痕』という作品がよくわからなくなっていた。

長瀬源三郎

『雫』や『ToHeart』にも登場していた長瀬姓のキャラクタということで気になっていたんだけど、有能な刑事というだけでわざわざ特筆するよーな活躍はなかった。

柳川裕也

犯人はヤス、ととりあえず言っておかねばならないか。こういったサスペンス系で二人組刑事の若い方が犯人だったというオチのつく作品が多い気がするのは、やはり警察の人間であることとか若いから動かしやすいとかで都合がいいからなのかな。

『痕』は真犯人についても必要最低限は掘り下げが入っているのが素晴らしいと思う一方で、まさか男同士のエロシーンがしっかり描写されるとは思わなくて驚いた。