Antipyretic

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絶対階級学園

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疲れた……。実際のプレイ時間はともかく、私の体感ではこれまでプレイしてきた乙女ゲーの中でも最長だった。それでも挫折癖のある私が何とかフルコンプにまで漕ぎ着けたのは楽しめた部分もあったからで、しかし最終的には楽しめない部分が大きく上回ってしまった。

ルートは大きく三つに分けられるけど、まず石ころルートは「普通の乙女ゲー」以上の感想が持てずダレることも多かった。面白くないわけではないけど夢中にもなれない。キャラクタの抱える問題を解決させないまますべて書き切らず、いくつかの謎を浮き彫りにした後で「俺たちの戦いはこれからだ!」と締めるのも気に入らない。そして続きは全員の石ころルート攻略後に開く真相ルートまでお預けにされるんだけど、学園の謎やキャラクタの過去の殆どは容易に想像がつくので続きが見たいとも思えず、なのに真相ルートも攻略人数分読ませられるのかと思うと真相ルートが開く前からすでに疲れていたというか、気持ちが冷めていた。

逆に楽しめたのは薔薇ルートで、ネリが階級制度のルールに染まってしまうので謎や伏線は放置されるけどその分ネリと攻略対象の滑稽な関係に集中できたし、尺が短いので展開も早いけど濃い内容で楽しめた。石ころルートにとっての真相ルートのように、中途半端に区切らず後に続くシナリオがないのも良し。薔薇ルートはどの物語もあれ以上続けても蛇足にしかならないだろうし。そして石ころルート+真相ルートの構成に盛大に萎えていたので尚更、シンプルな薔薇ルートが好印象だった。

最後に解放される真相ルートは、読む前からすでに真相への興味を失くしていたので殆どが苦痛の時間になった。真相は予想通りの内容で得られるものはなかったし、同じ展開のシナリオを五人分読ませられるのも辛かった。物語を畳もうとするせいか過去を思い出してトラウマを克服する場面はあっさりしていたが、そこは助かった。ここまで来たら丁寧に描写されても余計に疲れるだけだっただろうから。ついでに言うと共通ルート後半でも同じ展開がちらほら入るのに既読スキップが使えない仕様で疲れていた。

つーわけで私が楽しめたのは薔薇ルートで、石ころルート+真相ルートに対してはあまり良い印象がない。過不足がないのがベストだけど不足分より過分のほうが遠慮したい派なので、過分にならなかったところも薔薇ルートが気に入った理由の一つかな。しかし薔薇ルートは楽しんだけど、「マイナスに向かっていく物語」としか描かれないのは気になるなー。まるで上昇志向を抱くことが悪いことなのだとも捉えられるというか。けど薔薇階級の生徒ほど歪んでいるらしいから仕方ないんですかねえ。

システムは基本的なものは揃っていて快適。前後の選択肢にジャンプできるのは本当にありがたかった。これがなければ挫折していた。しかし一つだけ細かい不満を言わせてもらえば、ストーンヘッズ系列のゲームはセーブの時にコメント入力やアイコン設定を求められるのが地味に邪魔。これを off に出来ればなー。

ゲームの「長さ」は実際のシナリオ量云々より、読者がどれだけ作品を楽しめているかどうかで大きく変動するけど、それを考えると私にとって『絶対階級学園』は要するにそういうことだったと。設定は面白いと思ったし萌えもなかったわけじゃない。薔薇ルートは結構楽しめた。でも「疲れた」。この一言に尽きる。作品のボリュームも相当なものだったんだろうけど、それ以上に「長さを感じさせられた」のが辛かった。

藤枝ネリ

ゲーム開始時点のネリは階級制度に対してこれといった考えを持っておらず、知識として知っているだけに過ぎない。しかし階級制度を濃縮させたような学園に来たことでその身で体感し、制度に対して疑問を抱くか染まるかで分かれる。ちなみに乙女ゲーヒロイン斯くあるべしな選択を続けると石ころルートに、そうでない場合は薔薇ルートに入る仕様。石ころルートが良くも悪くも「普通の乙女ゲー」になっているのは、ネリが「普通の乙女ゲーヒロイン」になっていくからなんだろうなあ。

しかし石ころルートのネリは階級制度のことは何度も言われてるのにちゃんと理解してなかったり軽く受け止めたりで物分かりが悪く、イライラさせられることが多かった。忠告を聞いてもらえず萌花がネリに苛立つのもよく理解できる。それでも最初のうちならまだわかるけど、結構ずっとそんな状態が続くのが……。特にハルの石ころルートとか。

でも石ころに降格してもあまり酷い目に遭ってる印象はなかったな。壱波といい萌花といい、石ころに落ちてもなんだかんだでネリを気にかけてくれる子がいるのでネリは恵まれている。多分ミツバチの中には本気で石ころをどうでもいいと思っている子はいるんだろう。それこそネリが石ころに落ちたら本気で見限るような、ネリがピンチでも見て見ぬ振りをしてしまうような子が。でも壱波と萌花はそうじゃなかった。プレイ前はもっと酷い目に遭うんだろうなと予想していたけど、そこは主人公に甘く優しい世界だった。

薔薇ルートでのネリの弱さは理解しやすかった。父親とあんな形で別れ、突然極端なルールの敷かれた学校に放り込まれればそりゃ不安にもなる。だから周囲に迎合してしまうのもわからないではないし、薔薇階級に昇格したネリが「友達(摩耶子)」という記号に縋るのも仕方がないとも思える。そして徐々に依存していくのも。

良かったのは豊富な表情の数々。もうシナリオの内容や出来以前にネリの表情如何で「これでハッピーエンドってことでいいじゃんよ」って思えるくらいに笑顔が可愛かった。そういう意味で、陸ルートと十矢ルートは特に笑顔が多くて良かったなあと。

ところで学園内はともかく世界の階級制度は最後まで変わらないままだったけど、学園内部だけでもネリ、十矢、ハル、エドワード、レジスタンスのメンバーとこれだけの人間が階級制度に疑問を持っているんだから、外には大勢いるんじゃないかなあ。更に壱波や萌花のように、疑問を抱いていはいるけどとりあえずルールに従っているだけの人間はもっといるんだろう。そのうち革命でも起きて国も大きく変わってそーな気がする。

高嶺陸 (CV:浪川大輔)

偉そうな俺様キャラが「黙れ」と言い出したら陥落したな、と私は認識するんだけど、赤薔薇様はファーストコンタクトでだまれだまれと連呼していたので爆速にもほどがある。これに限らず陸は台詞がいちいち安っぽいというか三下モブキャラっぽいのがずっと気になっていて、これも単なる馬鹿王子のキャラ付けかと思ってたらちゃんと伏線になってて驚いた。陸は財閥の御曹司でも何でもないから言葉に説得力がないのも当然だった。

陸とネリのやり取りは可愛かった。ダンスの練習シーンは陸が的確にネリの駄目なところを指摘していたのが格好良かったし、陸の部屋を掃除する時の母と息子のようなやり取りにも和んだ。この二人は会話がいちいち可愛い。二人セットだと互いの可愛らしさが増幅されるのがいい。それと陸がたびたび愛おしそうにネリを見つめる描写が入るが、立ち絵の表情だけでもそれが十分伝わってきたのもいいな。

石ころルートでは赤薔薇の座を狙う真一が陸を罠にかけていたが、証拠もないのにネリと陸の関係の噂をバラまいていく真一の行動は、共通ルートで陸が十矢にやっていたことと同じなんだよなあ。あの時の陸は十矢が怪しいから、という理由だけで女王に毒を盛った犯人だと決めつけていたが、こうして陸に跳ね返ってきているのは面白い。しかし証拠もないのに噂が広まっていくってこえーね。まあコミュニティってそんなもんよな。

だからこそゴミ捨て場でのシーンは、今まで薄っぺらな台詞を大量に吐いてきた陸の言葉が確かな響きを伴って聞こえてくるのが効果覿面だった。それはちゃんと陸の中で気持ちと覚悟を伴っているからで、こうして陸の成長がはっきりわかるのが気持ちいい。お茶会での恋人宣言も陸らしい真っ直ぐな台詞でとてもよかった。石ころルートは陸の物語が一番王道で面白かったなあ。「ふたりの宣誓」ED はいいハッピーエンドだった。

一方石ころ BAD「聞けなかった言葉」ED は陸が石ころに降格させられるが、参月が陸を独占する形になっていてちょっとした NTR で興奮。そして陸は陸でネリのことを思ってわざと冷たく突き放すのが切ない。ちなみに私は陸を初めて見た瞬間から彼が石ころに落ちる展開を見てみたいと思っていたので、そういう意味でも満足した(石ころ階級に落ちる陸は薔薇ルートの BAD ED でも見れたけど)。

薔薇ルートはネリを可愛がるあまり陸が暴走するシナリオで、裸の王様ってのは本人よりも見ている周囲が何とも言えない気分にさせられるのだなと実感。陸はチョロいな、と抱いた最初の印象が増幅されていて、だからこその展開になっていたのは面白かった。

陸が参月に告白されているところを見てネリが誤解して云々という二人が恋人になるまでの展開は安っぽいけど重要なのはそこではなく、恋人になってからの転落。ここからが痛い。何が痛いって他の薔薇ルートじゃブースター役を担っている摩耶子が殆ど必要もないくらいに陸が一人で盛り上がっているのが。陸の前にレイを攻略したんだけど、陸の薔薇ルートをやってようやくレイの薔薇ルートであんなに摩耶子が関わってくるのはレイが手強いからだったのだと理解した。レイは基本的に暴走出来ないキャラクタなので(その分ショウに皺寄せが来るけど薔薇ルートではショウはほぼ登場しない)ネリを暴走させるしかないが、摩耶子によるブースト効果がないと手強いレイのそばにいるネリは堕落しにくい。対して陸の薔薇ルートはネリではなく陸の暴走で転落していく。その上、陸は何もしなくても一人で浮かれて勝手に盛り上がってくれる。だから摩耶子の役割を軸にして薔薇ツートップの話の構成を見下ろすと、えげつない対比にしか見えず苦笑いしか出ない。

一番酷いと思ったのは、パーティでウィリアム・テルを模した出し物でレイが本気で怒った時にネリが「これはやりすぎだと思います」と言い出す場面。直前まではみんな喜んでるからいいのかな、と流されていたのにレイに非難されて意見を覆すネリがもうアレ。

「赤薔薇姫」ED は傾国の姫になることをネリが回避した結末だが、陸の名誉は守れているものの二人の関係は長続きしないんじゃないか。陸はネリに頼られることで承認欲求を満たしているので、実はネリのほうが陸を支えているという事実に気づいてしまえばどうなるか。陸は馬鹿だけどネリを好きなのは確かで、だからこそネリの暗躍に気付きかけている。そして女王暗殺が成功した場合はネリが女王の素顔を見てしまう可能性が高く(私が鏑木なら確実に女王の顔を見せて絶望させる)、姉を殺してしまったことに気付いたネリはどうするのか、と考えると悲惨な末路が見えるようで何とも……。まあ先の想像はともかく、陸を守ろうと暗躍するネリは色んなネリが見れるこの作品の中で一番好きなネリかもしれない。面白かった。一方薔薇 BAD「報い」ED は陸が石ころ階級に落とされて惨めに引き込もる結末。陸の降格よりもレイが陸を見限ったことが一番痛い。

真相ルートでは学園の階級制度が子供の頃の陸が考えた遊びから来ていたことが判明するけれど、確かにこのシンプルでえげつないルールは子供の発案だと考えると納得出来る。しかし「咲き誇る薔薇」とか「名もなきミツバチ」とか「捨て置かれた石ころ」って微妙なセンスだなあ、とか思ってたらおまえかー!

このルートではレイとは親友だからかショウが出張ってくるが、この時の様子を見るにレイは自分のルート以外ではショウに主人格の椅子を奪われてしまうらしいのが遣る瀬無いなあ……。これが陸ルートでわざわざ描かれていることもそうだけど、レイの消失は陸にとっても数少ない友人の喪失を意味しているのが切ない。

「家族に」ED はスラム出身で家族に見捨てられていた陸が、ネリにプロポーズすることで家族を得ようとする終わり方で良かった。陸とネリの祖父との関係もいいっすね。

鷺ノ宮レイ (CV:木村良平)

一見完璧超人の王子様に見えるけど、実は登場人物の中で一番弱かった。ただ彼は精神を弄られたせいで二重人格になってしまい、逃げ癖がついてしまった。つかざるを得なかったと言うべきか。こういう癖は一度ついてしまうと克服が難しいだろうからレイが弱い人間になってしまうのもわからなくはないというか、むしろ気の毒。

しかしショウもレイの一部であるとはエドワード先生も言っていたけど、ネリはそう思うのが難しかったようで最後までショウを拒絶している。普通はこういう展開だとヒロインがもう一人の人格を肯定してやることで本人も受け入れていく傾向にあるけど、このルートはレイが自力でショウの存在(=自分の弱さ)を受け入れていたのが珍しく印象に残った。きっかけはやっぱりネリの影響が大きいんだろうけど、ネリが求めているのはあくまでもレイだけ。だからショウはどこにいっても可哀想なことになっていた。私にはレイよりもショウのほうが魅力的に見えたから、尚更ショウが不憫でしょうがなかった。二重人格を抱えるキャラクタは大抵もう一つの人格のほうが好みなことが殆どなんだけど、レイとショウに関しても案の定だったなあ。

石ころルートはそうしたレイの人格の問題が浮き彫りになるが、ネリとレイの関係にあまり興味を持てなかったのが……。ただ、他の攻略対象の登場率が高いのは良かった。特に陸は美味しいところを持っていったよーな。ネリがレイを好きなのだと聞かされた時の寂しげな表情とか、ネリの世話係を解任したレイにわざと煽ってみせる場面とか。

結末は BAD「遠くへ」ED が好み。もうレイはいないのにレイが消えたという事実を受け入れられず、どうしても自分のことを認識してくれないネリに絶望するショウが可哀想で萌えた。最後にショウがレイの振りをすることで交わされるデートの約束も切ない。

薔薇ルートはネリが摩耶子に唆されて嘘を塗り重ねていくシナリオで、ネリの異変に気づいていながらも必死に隠そうとしているネリの意志を尊重して踏み込めないレイも気の毒な展開。そして何と言っても摩耶子が一番活躍するので、摩耶子が好きな私には美味しいルートだった。乙女ゲーの主人公がテストでカンニングをしたり高価なブローチを盗んだりするケースはあまりないと思うので、そういう意味でも面白かった。しかし結末はろくなことにならないんだろうと思ったら「愛の苦しみ」 ED では救いのある終わり方になっていたのはさすがレイ様というか、思わず「様」付けで呼びたくもなる。ただちょっと呆気ない終わり方で私には物足りなかったなあ。薔薇 BAD「甘美な支配」ED のほうはネリに何もしてやれなかったことを反省し、レイが徹底的にネリを管理してしまう展開なのに何故かピンと来なかった。鏑木とやっていることがまったく同じなので、そこに気付くと面白かったけども。いやもーさすが親子です。

真相ルートは他のキャラクタもエドワード先生も活躍するしマリアとのシーンも多く、他のルートに比べても盛り上がりが桁違いだった。レイと十矢が手を組むのも熱い。

しかしショウがもっと出てくるかと思ったのに出番が少なくて落胆した。彼は真相を知っているから出てくるとそれだけで物語が終わってしまうし出番が限られるのも仕方ないんだろうけど、いい加減同じ展開を延々見せられてぐったりしていたので、ショウが真相を全部ぶちまけてくれてショートカットしてくれたほーが嬉しかったな、てのが本音だこんにゃろう。レイとショウの人格統合もあっさりだったけど、これはもういいか……。ネリたちを追ってくる研究員の股間にエアガンぶっぱしていたレイ様は結構好きかな。すました王子様なレイよりもこっちのレイのほうが好感が持てる。最後の「陽だまり」ED でもロボットにタイミングのずれたプロポーズをさせていたのは可愛かった。

ショウに関してはショウ×マリアが面白そうな組み合わせだなと思った。この二人がくっつくなら傷の舐め合いになるんだろうけど、ショウにとってマリアは愛した女に生き写しの双子の姉で、マリアにとってショウは愛した男の息子。どちらにとっても毒にしかならずグズグズに落ちていきそうでたまらん。破滅的で最高。萌える。

なんかレイについてはあまり語ってないけど、機械工作が関わると子供のようにキラキラするところや嫉妬深いところを含めても私には刺さらなかった。レイは自分のルートよりも陸の石ころや真相ルートでの姿が好きだったなあ。ネリと陸を温かく見守ってニコニコしているポジションが一番輝いていたよーな。

真相 BAD「ごめんね」ED はショウと心中させられてしまうけど(といってもショウとの結末は心中が多いが)鏑木にとってはある意味息子に寝取られた結末でもあるし、鏑木に思いっ切り「m9(^Д^)プギャー」出来るのはここだけかもしれない。ネリがショウのことを思い出して「レイではなくショウ」だと認識したのはこの結末だけだったと思うので、ショウにとってはある意味では報われた結末、かな。

加地壱波 (CV:柿原徹也)

最低だクズだと聞き及んでいたけど別にそんなこともなかった。このゲームの攻略対象はみんな弱さを抱えているし、壱波が特別酷いわけでもないというか、むしろ壱波も反省して成長するし乙女ゲーの攻略対象らしいキャラクタだったなと。

石ころルートは壱波の中途半端な優しさにネリが翻弄される展開で、シナリオの出来がいいとも言えないけど壱波の言動は面白かった。で、そんな壱波にネリがどう惹かれていくのかが気になってたんだけど、まずネリは壱波ルート突入直後は特別な感情を抱いてはいない。壱波が他の女子と仲良くしていてもまったく気にしちゃいなかった。が、壱波は十矢と仲良くしているネリを見て気にしてしまう。本音を隠して生きている壱波は周りの目を気にせず自分の意志を貫く十矢に劣等感を抱かずにはいられないんだろうけど、それ以上にネリが他の男と仲良くするのが気に入らない。そして石ころに落ちてしまったネリが心配だったからどうしても視線で追ってしまう。そうして壱波がネリをいちいちチラチラ見てしまうから、ネリも視線から壱波自身が気になっていったのかな。だからネリは壱波を信じたくなった。十矢やハルのように最初から石ころにいて普通に接してくれる人もいるが、壱波には一度裏切られた形になったからこそ信じたくて必死になった。一方、壱波も気になった女の子が石ころに落ちたからミツバチに戻したくて必死になった。「キミがミツバチだったらなあ」とは何度か口にしていたけど、「おかげで堂々といちゃいちゃできないだろ妹にも紹介したいのにできないだろこんな回りくどいことして会わなきゃならないだろ昼食だって二人で食べたいのに人目を気にしなくちゃならないだろ演劇部に入っても一緒に芝居もできないだろキミを彼女にしたいのにできないだろあーーーーーあ」っていうタラタラした身勝手な不満が詰まってて笑った。ちなみに壱波がネリに興味を持ったきっかけはやはり家族についての会話になるんだろうけどそれもきっかけに過ぎず、十矢のような生き方に憧れている壱波にとって、十矢と同じ生き方が出来るネリが眩しく見えて惹かれていったんだろうなと。だからこそ「ありのままの自分」ED でハムレットの状況に自分を重ねて演じるシーンは説得力も伴っていて良かった。

私は萌花の掌返しにテンションが上がった人なのでそれを何度も見せてくれる壱波は見ていて楽しかったけど、もっと酷くしてくれても良かったのに、と物足りなく感じなくもなかった。でも壱波にそんなこと出来っこない。彼は悪人になれない人で、この中途半端なところが壱波の壱波たる所以。特にネリと一緒にいるところを薔薇の女子に見られて咄嗟に冷たい態度を取ったけど悪気はないんだよ、とか言い訳した挙句「キミならわかってくれるよね?」と言う場面は笑った。『パルフェ』や『コルダ2 アンコール』でもそうだったけどこの手の台詞が出る時は大抵ロクなものじゃないなほんと。

石ころ BAD「狂喜と愛の実践」ED は超展開で唖然。狂気と愛に翻弄されるハムレット役を演じるためには狂気と愛を得なければならないと考えた壱波がネリを襲い、それでプッツンしたネリが狂気と愛ってこうでしょ! と壱波をハグしたまま炎の中に突進。恐怖するよりも爆笑した。何だったんですかあのスチャラカな展開。

他に印象に残ったのは新聞部部長。彼の顔芸はイラッとしつつも楽しんだ。しかしネリはもっと早く有沢と新聞部部長のやり取りのことを壱波に教えるべきだっただろうに。やっぱり石ころルートのネリは変に鈍いというかイライラさせられるなあ……。ところで有沢くんを描いているのはことみようじ氏かな。

薔薇ルートは、石ころルートで自分のためにネリのミツバチ昇格を望んでいた壱波と同じく、今度は薔薇になったネリが自分のために壱波の薔薇昇格を望む話で、一番の見どころはノーブルボールでの顛末。一度ノーブルボールで屈辱を受けた経験のある壱波に今度こそ守ってあげると言い切ったネリが、結局は壱波を守れず再び屈辱を与えてしまう。しかしこの時点では壱波はネリに対してまだ好意を持っていたんじゃないか。壱波は周囲の空気を読むのが上手く、また自身も保身に走る人だからネリの気持ちも理解できて、だから傷つきはしたけどネリを責めなかった。でもネリが家族より自分を優先したことで壱波のネリへの気持ちに完全な亀裂が入ってしまう。壱波にとって「家族より男を優先する女」は自分を捨てた醜悪な母親そのもので、幻滅すべき対象でしかなかったから。しかしネリにはそれがわからない。だから壱波の心が離れて行ったことが許せず、薔薇の立場を利用して壱波を束縛していく。「リヴァイアサン=国家」ED の CG は壱波に夢中になっている愚かなネリと、そんなネリのために「愛を捧げるミツバチ」を演じる冷めきった壱波の二人の表情の落差が最高だった。壱波を貪ってはいるものの、壱波にはもうネリへの愛がないからネリはいつまで経っても満たされない。だから尚更求める。そして求められれば求められるほど壱波は冷めていく。この悪循環が萌える。

ノーブルボールで薔薇のエチュードを体現するシーンの CG も綺麗だった。だからこそ直後に来る惨めなシーンが効いた。それと屈辱を受けた壱波が「道化でいるのに疲れた」と言っていたのが印象的だった。ノーブルボールで受けた仕打ちのこともそうなんだろうけど、壱波は普段から「学園のルールに準じる生徒」という道化を演じている意識があったんじゃないかな。それにも彼は疲れ果てていた。それにしてもネリちゃん、藤枝様、藤枝さんと呼び方で壱波の中のネリへの距離と印象の変化がわかるのは面白いなー。これは階級次第で態度が変わる壱波ならでは。

薔薇 BAD「ニルヴァーナ=消滅」ED は摩耶子 ED とも言うべき結末。「あなたが死んだら、ハッピーエンドなの」と自分のために自殺してくれと言う摩耶子と、壱波と離れるのが嫌で自分のために壱波と心中する死に方を選んだネリの二人の薔薇女子の身勝手によって到達した結末で、唐突だったけど摩耶子さん万歳な私には美味しくいただけました。

真相ルートで判明する壱波の過去は予想以上に重かった。『ハムレット』の「生きるべきか、死ぬべきか」は有名な台詞だし作中でも何度か言及されるけど、壱波は妹を「生かすべきか、殺すべきか」の選択を迫られて後者を選んでしまったのが残酷。

あとは荒井先生へのハニトラで笑った。鏑木といい教祖といい何故このゲームには変態が多いんだ……。男が男を好きなのはいいけど大人が少年に手を出すのは犯罪です犯罪。

ところで摩耶子が再登場した時はテンションが上がったけど、一気に微妙なキャラクタになってて泣いた。いきなり毒ドバァとやらかしたのもアレだったけど、毒の正体も実は大してダメージのない液体だったよ、というよくわからないオチでズコーてなった。こんなしょっぱい摩耶子さんは見とうなかったヽ(`Д´)ノ

Sweets to the sweet」ED では妹の墓前でネリのことをきちんと報告しているし、このネリと壱波ならやっていけるんじゃないかなと思える。妹が壱波にとって大きな存在だったからこそ。真相 BAD「To me it is a prison」ED のほうは薔薇ルートで家族より壱波を選んだネリに失望した壱波が、今度は壱波より家族を信じたネリに絶望するという皮肉な終幕になっていて印象に残るエンディングになった。

七瀬十矢 (CV:前野智昭)

十矢は共通ルートの時点では、まだ学園の階級制度に対してこれといった考えを持っていないネリにやたら絡んで来て自分の主張を押しつけているように感じたから苦手だった。石ころルートをやってた時も「窮屈な子だなー」くらいの印象しかなかったしなあ……。けど他のルートをプレイしていくうちに好意的に見れるようになった。特にネリが石ころに落ちた時は、どのルートでも助けてくれるのが頼もしい。

石ころルートでは十矢の潔癖に過ぎるところが言及されるが、二見の件ではその片鱗が見える程度の描写しかなかったので特に異常だとは思わなかった。そこはエドワード先生の「潔癖すぎる」の一言だけで説明されてしまったのが残念。むしろちょっと考え方が極端というか、二見を許すのはともかく「これからは、大事なダチだ」ってそこに飛ぶんですか君は、とそっちのほうに驚いた。許すだけで良かったんでないの? ダチだと思えるかどうかはまた別問題じゃないの? 潔癖云々よりもこの「許さない or ダチ」と二極化してることのほうがやばない? ところで二見はスズケン先生が描いてると見た。

「守りたい気持ち」ED は萌花が印象的。特に廊下でのやり取りにが良かった。

薔薇ルートは薔薇階級にしがみつきながら「レジスタンスのリーダー」との刺激的な恋に酔っているネリと、薔薇に染まっていなかった頃のネリの姿にしがみついている十矢の、互いに相手をオカズに自慰に耽っているような関係が最高に面白かった。

十矢はかつてのネリを知っているからこそ、放っておけない性質だからこそ染まりつつあるネリを見捨てられない。そうしてズブズブとネリから離れられなくなっていくのが面白かった。いざとなれば自分だけでも這い上がろうと覚悟を決めたネリの暗い欲望が見える「薄氷の上の幸福」ED もいいけど、冷静になってネリから離れようとする十矢を繋ぎ止めるためだけに薔薇階級の人間としてレジスタンスのリーダーを煽り続けるネリが見られる「ねじれた愛情」ED も好きだな。このネリはいっそ健気にも見えて可愛い。

真相ルートでは十矢の魅力全開で安心して見ていられた。十矢が赤薔薇でもおかしくないなと思えるくらいに。陸も陸で真相を知った後でも赤薔薇に相応しいキャラクタだったと思っているけど、十矢が赤薔薇でも面白そう。けど安心して見ていられるからこそ退屈でダレてしまった。唐突な音痴設定も何かの伏線かと思いきや何もなかったしなあ……。陸と壱波が仲良くしているシーンはニヤニヤしたけどそれくらいかな。「高嶺」と壱波に呼ばれてプンスコしている陸と、呼び捨て出来て嬉しそうな壱波が可愛かった。そいや疲れているのに無理して学園内のパソコンを調べにいこうとした十矢に、ネリが「私も一緒に行くよ」だの「全力で十矢くんを守りたい!」だの言い出した時は「うわ足手纏いフラグだこれ!」と思ってたら案の定で笑った。

結末は真相 BAD「私の恋人」ED が特に印象に残った。母を殺したのは自分だと勘違いしたネリが鏑木に縋ってしまい、「絶望に耐えられず良くない存在に依存して駄目になってしまった女」としては十矢にとっては宗教に入信した母親の件をオーバーラップさせる展開で、その十矢も入信してしまうんだけど、鏑木とのキスシーンがあったことにも衝撃。いや鏑木と共に過ごすことになる結末はキスもセックスもしてるんだろうけど、なんだかんだでそういった描写は割愛するだろうと思っていたので驚いた。

ペド教祖の登場は不意打ちだった。ロリコン学園長とは類友なのかもしれない。

五十嵐ハル (CV:石川界人)

エドワード先生も言っていたが、学園の環境はどの階級の生徒にとってもストレス増幅器でしかない。彼らは常に無意識下で抑圧されている。そこにお誂え向きとばかりに石ころの存在があるからストレス発散の的になる。中でもハルは独自の価値観を持っていて自分を曲げない生徒だからターゲットにされやすい。学園のルールに迎合しているように見えてしていない。だから目立つ。この子が苛められるのもわからなくもなく。

石ころルートは真っ当なヒロインと真っ当な攻略対象による真っ当な乙女ゲーで、堅実なシナリオだった……けど堅実すぎた。もう少し劇的な展開が欲しかった。オフィーリアの絵やら水辺でのトラウマやら伏線がわかりやすく展開が読めていたせいもあるし、ハルのキャラクタが刺さらなかったせいもある。あとこのルートのネリが苦手なのも響いているかな。年下なのにあまり年下らしくなく小生意気なハルとのやり取り自体は可愛いと思ったけど、可愛いだけで留まってしまった。

水恐怖症の件が来た時は雨にも怯えるのか、と雨に纏わるシチュエーションが大好物なので期待してたんだけど、そういったイベントはなく終了。ハルにとって雨が NG かどうかは不明だけど、雨に心を壊されてしまうハルとかそれこそまさにオフィーリアのようでたまらないじゃないですか。見てみたかったなあ。それとルート後半は色々詰め込み過ぎてるよーな。小屋探検とか真相ルートでやってもいいと思うんだけど、敢えてここに伏線を置きたかったのかな。何故ハルルートだけこんなギッチギチなんだ……。

結末は BAD「渇く水底」ED が印象的だった。ハルの CG はこれが一番好きだな。あの壮絶な色気が痛々しくていい。ネリが生徒を花瓶で殴るという事件を起こしたのに、その告白を楽しそうに聞いている異常な学園長も印象に残った。

薔薇ルートは苛められっ子のハルを何とかしたくて世話係に任命するも、世話係に友達として接したことで薔薇階級の中で孤立し、ハルに縋るしかなくなっていくネリの話。面白く読めたけど、わざと薔薇階級に相応しくない振る舞いをして階級降格を狙えば解決できるんじゃないか、と序盤の時点で考えていたので、そこに思いつかないネリに焦らされもした。必死で余裕がなかったのはわかるけど、だからこそネリなら下の階級を恋しがるだろうと思ってたんだけどなあ。故意の降格はありえない発想かもしれないが、他のキャラならともかくネリならそういう考えに到達しても不思議じゃないのだし。と、ここまで書いて気付いたけどこれでは「薔薇ルート」じゃなくなってしまうのか。一度階級を移動したらしばらく移動できない、とかそういう設定が欲しかった。

「恋われた愛」ED は新しい世話係の偶然の迂闊な行動で「黒い絵」に気付くのが安っぽい展開で少し残念。これなら絵の下に隠されたハルの想いに気付かないまま数年後に気付き、遅すぎたことにネリが絶望するという展開が見たかった。薔薇 BAD「壊れた愛」ED はハルが何故離れて行ったかを考えもせず、ハルの意志も無視してどうすれば戻ってきてもらえるかを考えているネリが浅ましくていい。「恋われた愛」ED では真っ黒に塗り潰した絵だったのにこちらでは真っ白な絵を発表したという対照的なキャンバスも、ハルの気持ちがそれぞれ表現されていて面白い趣向で良かった。

真相ルートは、母の死のことで父親に責められているのだと思い込んでずっと苦しんでいたハルが父の最後の作品を見て自分も愛されていたことを知る「春」ED が綺麗に終わっていて良かったんじゃないかな。一方、真相 BAD「どぶさらい」ED はハルが荒んでいたのがやや唐突かな。両手が不自由になったことではなく、ネリがハルを匿ったことで歪んでいったんだろうけどそこは割愛されている。ただ薔薇 BAD ED と対になる構成は好み。ハルは BAD ED も CG が豊富で、BAD ED 好きとしてはそこも美味しかった。

マリア (CV:高口幸子)

何故鏑木はわざわざ「女王」という地位を据えたのか。生徒に自分の意志を伝える傀儡としてもそうだろうけど、何かがあった時(レジスタンスのように生徒が反抗した時)のスケープゴートでもあったのかな。現に生徒は学園長より女王のほうが立場が上だと思っていて、レジスタンスも学園長ではなく女王に矛先を向けていた。

ちなみにマリアは鏑木を愛したことは鏑木のコントロールに依るものではないと言っていたけど、私にはそうは思えなかったなあ。でもマインドコントロールされた結果でも自然に発生したものであっても、どちらにしろマリアが鏑木を真剣に愛しているのは事実。

鏑木蒼一郎 (CV:置鮎龍太郎)

サイコパスを自称するのはどうだろな。変態とかもそうだけど、自称すると途端にファッション変態とかファッションサイコパスになる気がしてどーにも……。鏑木もただの「ないものねだり」な気がしなくもなく。あるいはロリコン

しかしネリを第二のアリカに仕立て上げて花嫁にするためだけに、こんな大掛かりなことをしたもんだなと呆れる他ないけれど、実はその過程こそが鏑木にとって一番の楽しみになっていたんじゃなかろうか。ネリと結婚することよりも、ネリがアリカに近づいていくことに愉悦を見出していた。むしろネリと結婚した後は飽きるんじゃないかこの人。ネリだって結局はアリカとは違う人間なんだから、鏑木は遅かれ早かれ失望してそう。

エドワード高崎 (CV:三木眞一郎)

普通にいい先生でびっくりした。しかしレポートの件を筆頭にこの学園は機密情報が筒抜けになりがちというか、みんなもうちょっと周囲に気を配ったほうが。

八木沢萌花 (CV:塙愛美)

『絶対階級学園』をプレイしていて一番テンションが上がったのは、ネリが石ころ階級に落ちた時の萌花のテノヒラクルーだったかもしれない。侮蔑の眼差し最高っす! もっと友好度最低値状態の藤崎詩織みたいなことを言ってほしい!

薔薇に上がった時の萌花の態度は予想通りだったけど、ただ私が萌花の立場ならネリに嫉妬するかな。転入生が自分より先に薔薇階級に上がっちゃったんだからいい気はしないだろう。でも上の階級の人間には逆らってはいけないという徹底したルールがあるし、そんなことは表には出せない。だから下の階級からの嫉妬の嫌がらせはないんだけど、その分抑圧された嫉妬は内部で蓄積されていくだけになるんじゃないかと思うと気の毒に思えてくる。もちろん嫌がらせはやっちゃいけないし、ストレスも自分で上手く発散させていくしかない。もっと言えば階級システムこそが悪いんだけども。

玖珂真一 (CV:山中真尋) & 玖珂参月 (CV:志水由佳)

玖珂兄妹は陸ルートでしか活躍しないので印象は薄いけど、キャラクタは結構好きだったなあ。参月は普通に可愛いし、陸の真相ルートでの血は繋がってはいないけど兄妹としての絆を感じられる場面は良かったなと思えた。

三宮摩耶子 (CV:武田華)

摩耶子は変化するキャラではなく、ネリに変化を促していくキャラであったことが異質で面白かった。ネリは薔薇階級の世界にいるだけでも徐々に染まっていったのかもしれないが、薔薇ルートは短いから摩耶子という「ネリを薔薇に染めるため」のブーストをかける役が必要になってくる。だから彼女は薔薇ルートにしか登場しない。

しかし何故ネリに絡んでくるのか不思議だったんだけど、女王が気にかけていた子だから「どんな子かしらウフフ」みたいな感じ? 摩耶子の絡み方が毎度唐突なので何らかの意図があると思ってたんだけど、特になかったらしい。同じ「友達」でも萌花のほうは理解できなくもない。学園について知らない子に「教えてあげられる」という優越感を満たしていたところもあっただろうから。それでも真っ直ぐなネリと接することで、次第に本当にネリに対しての友愛が生まれていったんじゃないかな。摩耶子はなんだろうな。薔薇の蕾を私が大輪の花に咲かせてあげるわ的な満足感かな。

ネリと摩耶子の関係は妖しさもあって美味しかった。この学園の階級設定は男女ではなく女同士の園として描いたほうが濃密な話になったんじゃないかと思うんだけど、そこら辺はこの二人の関係からも見え隠れしていて面白そうに見えた。