Antipyretic

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ギルティクラウン ロストクリスマス

http://www.nitroplus.co.jp/game/lost_x/

主人公のキャスト目当てだったし正直あまり期待してなかったんだけど、予想していたものとは違って結構エグい話で、そういう作品が大好きな私には嬉しいクリスマスプレゼントになってくれた。

読む前は原作アニメ未視聴でも楽しめるか不安だったけど、そこは問題なし。シナリオを楽しむ作品というよりは戦闘描写を楽しむ作品に特化されていて、それでちゃんと面白い作品として成立するあたりは鋼屋氏のセンスに依るものなんだろうなあ。元々鋼屋氏のスピード感のある戦闘描写、独特の表現が好きなのでそれらが詰まっている『ロスクリ』は美味だった。それと文章から無駄がだいぶなくなっていたのは驚いた。『デモベ』はあのくどい表現があるからこそ盛り上がったんだと思ってたんだけど、無駄のない文章になってもかなり面白かったのはさすが。各章タイトルでクリスマスに関連している映画のタイトルを使っているセンスも好み。シナリオ量が短いのもサクサク遊べるほうが嬉しい私には助かった。スクルージとキャロルが研究施設を脱出してすぐ話が数ヶ月ポーンと飛んだ時はさすがに面食らったけど。

中央氏の絵は相変わらず男性キャラクタがかっこよくて、動きのある構図が多いのが見ていて楽しい。絵を使った演出がダイナミックだから尚更戦闘シーンで映える。あとやたらエロい。リメイク版『鬼哭街』もそうだったけど、ギリギリに抑えられたエロスにはたまらない色気がある。18禁だったら交配シーンが描かれてたんだろうな。

音楽は元々澤野音楽が好きなのでアニメは見てなくてもサントラは聞いてたけど、こうしてスピンオフとはいえ実際に作品で使われているのを聞くとやっぱり得られる感動の量が違う。そういう意味でも『ロスクリ』をプレイ出来て良かった。

演出は先にも書いたように派手で、むしろこの作品の最大の見どころとも言える。特に終盤、エンドレイヴから発せられる無数の砲弾を避けていくシーンは圧巻。鳥肌が立った。思わずロードして何度も見返してしまったほど。演出はやりすぎると鬱陶しく感じることもあるけど、『ロスクリ』くらい短いとあまり気にならない。

システムに関しては、テキストウィンドウの背景にキャラクタの目元の絵が使われているのが気になった。特にキャロルとプレゼント。大きな眼の印象が強くて立ち絵より目が行くんだよなあ。下手すりゃ文字より意識が向かうこともあったのが厄介だった。

と、細かい不満はあれど予想以上に面白かったし、シナリオも一本道で無駄がなく気持ちよく読めたので満足度は高い。定価で買ってたらもーちょい文句が増えたんだろうけど、投げ売りされていた時に買ったのでコスパも良かった。テンションの上がる戦闘描写といい魅力的なキャラクタといい、何より作品の面白さが残酷な設定の上に成り立っていたことといい、鋼屋作品はやっぱり最高だなあ。満足。

スクルージ (CV:櫻井孝宏)

スクルージはとにかく戦闘シーンで輝く。スクルージのような立場になると人を殺すことに対して葛藤が出てくると思うんだけど、スクルージにはそういう躊躇が最初からほぼないのが珍しい。でも鬱陶しい葛藤を延々聞かされることもなく次々と無双してくれるので読んでいて気持ちよかった。結構なハンデになるだろうに、キャロルを抱えたままパストやプレゼントとやり合ってるのもすごい。死神のような雰囲気に血のような赤いフードを被っているビジュアルも好み。剣呑なサンタクロース。

しかしそんなスクルージの物語は、自分が生き残るためだけにそうとは知らず我が子の命を次々と食い潰して行く話だった。このあまりにも残酷な真相を思えば、戦闘描写に特化している構成にも皮肉が効いている。濃密かつ面白くシナリオ量の殆どを占めているから尚更。悪趣味な作品だなー(超笑顔)。終盤のパスト戦は武器を引き出す→酷使する→壊れる→またすぐ引き出す――の連続で熱かったけど、真相を知ると背筋が凍る。あの短時間でスクルージは数人の赤子の命を使い捨てていたんだから。この戦闘シーンで得られる熱量と真相を知って一気に落とされる時の、容赦のない温度差が最高。

だからスクルージは生き残ることを諦めた。自分にとっての戦う手段は、産まれることのない命を食い潰すことでしか得られないから。その後は選択次第で二つの結末が用意されていてどちらも好きだけど、印象的だったのは償う ED。「生きる」という選択肢は「無意味」だと突き付けられるので二人はどちらも結末でも死んだんだろうけど、この結末は最後の最後でスクルージがキャロルの笑顔によって救われているのが少し泣けた。

どんなものが出るのかわからないバリエーション豊かな武器をキャロルから引き出し、それをスクルージが「壊れるくらいにメチャクチャに」振るう様にワクワク出来る楽しみもあった。気に入っているのは結構えぐい殺し方をする喇叭、大きな赤子の泣き顔が印象的で『DOD』感のあるオルガン、強姦するかのごとくに引き摺り出したせいで聖剣になり損ねたノコギリあたり。特にオルガンはインパクトがあった。

キャロル (CV:阿澄佳奈)

『デモベ』の九郎とアルもそうだったけど、男女の相棒関係は元々好きなのでスクルージとキャロルの関係は美味しかった。見た目の印象から大人しい子なのかと思いきや、結構いい性格をしているところもいい。服もエロかった。下乳だけが見えているのが特に。

クリアした今になって振り返ると、研究施設で何があったかを知ることを恐れるスクルージにキャロルが抱きしめるシーンは深い意味があったように思えてぐっと来る。キャロルの子宮は子宮としての役目を果たすのが難しく、孕んだ子は産まれることも死ぬことも出来ずにその腹に宿したまま。でもその子らの魂が失われていくことを咎めようともしない母親未満のキャロルが、母親のような慈愛でスクルージを包む。あの瞬間、キャロルの胸の内にどんな想いが去来していたのかとか考えると切ないやら苦しいやらでもう。

パスト (CV:高垣彩陽)

しつっこい敵だなあと思ったら正体は真名の母親で、そりゃ必死にもなるわなとすんなり納得出来た。この作品は「母親」もテーマの一つになってるいるようで、自分の子の命が次々と失われて行くことに対して何の感情も湧かない空虚なキャロルと、自分自身が消滅してでも真名を守り続けようとしたパストの対比が面白かった。

プレゼント (CV:小林ゆう)

『ロスクリ』は櫻井孝宏という名前の他にもう一つ、実はこのキャラクタも購入動機の一つだった。性別不明ってのは事前に知ってたんだけど、女の子だといいなあと思いつつも男ならそれはそれで萌えるのでどっちでもオッケーだ。しかし自分の性別もわからない状況ってのは想像以上に辛いのかもしれない。

ただ思ったより派手な出番がなかったのは残念。戦いもパスト戦のほうが派手で長かったし、決着までの盛り上がりもすごかったのでそちらのほうが印象に残っている。プレゼントもプレゼントならではの立場からスクルージを追い詰めるし、スクルージにキスをするシーンとか大量の羽虫に食い殺されるシーンとかは好きなんだけど、期待していたキャラだっただけにパストに比べると少し物足りないまま終わったのが残念。

イェット・トゥー・カム

「七歳までの子にしかヴォイドがない」「未来のクリスマスの精霊」「子宮」。ここらへんのキーワードからえぐい話であることを察するべきだった。消去法でキャロルが最後のゴーストなのではないか、とは思ってたんだけど。