Antipyretic

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浄火の紋章

沙耶の唄』や『鬼哭街』などでお馴染み虚淵+中央コンビによる映画『リベリオン』二次創作。といっても『リベリオン』を知らなくても問題なかった。選択肢がなく一時間半くらいの短いシナリオだけど虚淵節は健在で、彼の綴る物語やキャラクタがツボに入ることの多い私には楽しめた。何しろディストピアとか銃とか、とにかく虚淵氏の得意分野が詰まってるんだから。

特徴はガン=カタの描写。ガン=カタは言葉こそ知っていたものの詳しくはなかったので、本作でようやく理解出来たのは地味に嬉しかったなあ。虚淵氏独自の解釈なのか原作にもある設定なのかは知らないけど、以前から抱いていた「何故銃弾を避けられるのか」という疑問に対し、避けるのではなく統計によって導き出された「銃弾が通らない安全圏」にいるから、という回答を得られた時はメチャクチャだ! と突っ込みつつも妙な説得力があって納得してしまった。こういう大ボラは気持ちいい。特に序盤のレジスタンス処刑の場面での、信頼し合っている二人の華麗なデュオがいい。感情を抑制された主人公の視点だからこその緻密な戦闘描写がたまらん。そして終盤、ガン=カタを極めた者にとって銃弾は敵から近いほど避けやすくなるから当然互いの距離は縮まり、最終的にはゼロ距離からの銃の撃ち合いになるのが凄まじい。まさに優秀なクラリック同士でなければ実現しない戦いが熱い。銃の鍔迫り合いとかいい意味でバカバカしくて最高だった。それと技の名前が "蓮華の型" とか "乱れ桜" とか厨二マインドを擽るネーミングセンスになっているのもいい。いやもー日本語ってほんと美しいですね。

それと印象的だったのはベルナードの色気。これが凄まじかった。中央氏の絵の威力も大きいんだろうけど、やっぱり中央氏は男性絵のほうが魅力的なんだよなあ。枚数もこのシナリオ量にしてはそれなりにある。ちなみに女の子は一人も出て来ないという潔さ。モブキャラにすらいない。おまけで少女クラリックは見れるけど本編では皆無。

というわけで濃密な時間を過ごさせてもらった。面白かった。おかげで虚淵+中央コンビの新作がやりたくなったけど、もう望み薄なんですかね。

メルヴィン・ベルナード

普段ならどちらかというとティレリがツボに来るんだけど、この作品はベルナードの心理描写に専念して描かれていたこともあって珍しく主人公がツボに来た。眼鏡がなけりゃモアベターだったんだけども。でも最初はカソックをきっちり着こなして理知的に振る舞っていたベルナードが、長年生死を共にして来た相棒を疑って葛藤し、プロジウムを奪われたまま暗く狭い部屋に監禁され、衝撃、恐怖、憎悪、悲嘆、絶望と徐々に芽生えた己の未知の感情に翻弄される姿が官能的だった。エロい。後半、無精髭を生やして後ろに撫でつけた前髪が落ちた姿もベルナードに感情が芽生えたことをわかりやすく表現しつつ、その感情に翻弄されたが故の姿だと思うと美味しい。そして身勝手な理由で自分を「感情」という名の罪の海に突き落としたかつての相棒ティレリに向ける台詞がまた良かった。

「私はあなたに汚された。最悪の辱めを受けた。……償ってもらうぞ、バーソロミュー・ティレリ」

ストイックだった男から発せられるこの憎悪の味はエロティックで美味。

殺す喜びを知ったティレリと、生きる喜びを知ったベルナードで対照的なのもいい。そして生きる喜びを知ってしまったベルナードに未来はなく、感情ってのは一度手にするともう抗えなくなる麻薬のようなものなんだなあ、と。

バーソロミュー・ティレリ

自分がわざわざ感情を植え付けた男に殺されるという展開は、ベタではあるけどやっぱりツボ。ティレリにしてみれば自分の欲求を満たしてくれる相手はベルナードしかいなかったわけで、まさに唯一無二の男だった。それが燃えるし萌える。だからティレリは相棒を罪に引き込んだ。ベルナードにしてみれば不幸でしかなかったけども。

「どうかね、自らが罪そのものになってみた気分は?」

なんつー甘美で妖しい台詞だ。ゾクゾクした。

最後の銃を向け合った CG は『Phantom』でもあったようにこの手の作品ではよく見られる構図だけど、『浄火の紋章』では引きの絵になっており、殺す瞬間あるいは殺される瞬間の静寂が漂っていて引き込まれた。直前まで間断なく撃ち合っていたから尚更。