Antipyretic

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華アワセ 姫空木編

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『蛟編』続編。二作目だからか新たな伏線のばら撒きが多く、そちらに意識を奪われがちで姫空木周辺の描写は割りを食っていたよーな。ただ私は姫空木への若干の苦手意識が出来てしまったので、姫空木よりも伏線や謎が目立っていたのは正直助かった。と、なんだかネガティブな書き出しになってるけど、姫空木ルートも含めて今作も丸ごと楽しめたのは確か。発売直後にプレイして一気にクリアしているのがその証拠。

華闘は今回からアクティブターン制が導入されており、スピードが重要になった。他にもステータスが細分化されたりスキルの仕様が若干変わったりしているが、敢えて特筆しなきゃならんよーなものもなく基本は前作と一緒。元々ゲームとしてはほぼ完成されているので相変わらず面白いし、演出が派手なのでプレイしていて気持ちがいい。ランキングに参戦するとシナリオを放置してまで夢中になる中毒性の高さも健在。ただ、ランキングで遊ぶ分にはいいんだけどシナリオを進めている時は物語に集中したいので、姫空木ルート終盤の連戦にはげんなりした。連戦の必要はないのに何度もボス級の敵との戦いが続き、その上今回はやたら敵の HP が高いので億劫に感じる。これはせっかくのシナリオのテンポを阻害しているだけになっているので、次作での改善に期待。更にやたらと派手な完全勝利の演出も飛ばせるようにしてくれれば言うことない。

逆に今回で改善が見られたのは、レベルを引き継いだ上で途中から始められるようになった点。最初から始めるか、プロローグを飛ばして始めるか、共通の最後から始めるかを選べるので、選択肢のわかりやすさもあって今回はフルコンプが楽だった。

シナリオについては『蛟編』もそんな感じだったけど、メインの姫空木よりも他のキャラクタのルートが面白かった。ただ姫空木のシナリオも複数の思惑が絡んだ先の読めない内容になっており、纏まってはいるものの先が読めて若干の物足りなさがあった『蛟編』の蛟ルートよりも気に入ってはいる。でも今回は TV 局が関わって来ることで華アワセ独特の世界観が俗っぽくなってしまった気がして、そこだけはちょっと残念だったなあと。最後までプレイしてみると気にならなくなったが、求めていたものとは少し違ったというか。それでもきっちり面白い作品に仕上げてくるあたりはさすが。ちなみにエロスは前作以上にオープンにはなっているんだけど、私はチラリズムのほうがエロいと思うタイプなので前作のほうがエロかったと感じた。

みこと

今回は姫空木がメインなのでみことが姫空木に夢中になるのかと思いきや、意外とそうでもなかった。確かに姫空木のことをどのルートでも気にしてはいるが、それよりも水妹としてパートナーに真摯であろうとしていた姿のほうが印象的だった。それは姫空木だけではなく全員に対してもそうだったので、『姫空木編』のみことは結構好みかな。でも『蛟編』に比べてみことのキャラクタが劇的にブレている風でもなく、違和感がないように描かれている。

あと前作以上に胸への言及どころか触られていたのが災難だなあと。姫空木は初対面でいきなり胸にキスをするし、唐紅に至っては鷲掴みにしていた。鷲掴みて。

いろは (CV:寺島拓篤)

『蛟編』でも感じたことだけど、やはりみことにとっていろはだけは特別なんだろう。みことは『蛟編』であれば蛟と、『姫空木編』であれば姫空木と結ばれる運命にあるらしいけど、どちらもいろはルートだけはいろはを強く意識している。みことが恋をするのはあくまでもその時のツキの相手だけなんだろうし、みことといろはが結ばれることは永遠にないといろはも言うが、それでもいろはを無視できない何かがみことにはあるのだとわかる。なのに結ばれない二人を思うと切ない。だから姫空木に釘を刺しにきたのにサヴァランに反応してしまうシーンとか、唐紅に噛みつかれたみことの唇の殺菌と称してはちみつを塗るシーンとか、みことの安全の保証を理由に手錠で繋ぐシーンとか、そのせいで離れられず片づけや寝癖直しという微笑ましいイベントが発生していたことが明らかになったりとか、うさぎリンゴをひたすら食べ続ける時のやり取りとか、着ぐるみの中に入って(ばいばい、ばいばい)やってたりとか、そうしたものすごく些細なひとつひとつのいろはとのイベントがどれもこれも大切なもののように思えて泣けた。

シナリオの内容は、泉姫候補を覚醒にまで導くこととみことを泣かせる運命を回避することが使命であるいろはと、泉姫候補を求める五斗による運命改変合戦。時系列を把握しづらくややこしいが、その分読み応えのあるルートになっていた。しかしカラクリ命といいカラクリ戻といい『蛟編』ではそんな凶悪なアイテムはさっぱり出て来なかったのに、今回から突然登場して物語を掻き乱すほどに影響力を与えていたのが残念。それとカラクリ君がみことの名前で運命を改変していたように、「カラクリ命を使用した本人が問答無用で代償を支払わされる」のではなく、他人の名義でも使用出来てしまうのが引っかかる。これならノーリスクで悪用出来てしまうんじゃないのか。『姫空木編』で一番面白いシナリオだったし強く文句は言えないんだけど、やっぱりそんなアイテムが存在しない設定でいろはルートを楽しみたかったな、てのが本音。

印象的だったのは終盤にみことがいろはのいない運命から脱出し、遊園地で花伐を行っていた地点に遡ってからのやり取り。みことが泣かない運命に改変したはずなのに、みことがいろはのところに戻ってきた。何度運命を繰り返しても自分を忘れて別の男と結ばれるみことを想い続け、それを咎として甘受しているいろはにとって、カラクリ命によって改変された運命ではみことだけがいろはを覚えていて、更にいろはのためだけに戻って来てくれたことがどれほど嬉しかったのか想像すら出来ない。『蛟編』では最後まで感情を否定していたいろはが、みことと過ごした「うれしいと感じられた」時間を大切に思っていたことを淡々と語るシーンはぐっと来た。「うれしい」だけでなく、「悲しい」という気持ちを自覚してしまったことも告げるのも切ない。そしてその大切な思い出すら、いろは一人で抱えていくことになるのが……。前作でもそうだったけど、いろはルートだけは物語に決着が着かず時間がループしているらしい。おそらく蛟から順に行われている「儀式」では、鬼札が選んだ相手のルートであればハッピーエンドに到達するが、それ以外の「いろはを除く」キャラクタのルートに入るとバッドエンドになるんだろう。唯一の例外であるいろはだけは、ハッピーエンドはおろかバッドエンドにすら到達出来ない。何故ならみことはいろはとだけは結ばれないから。だからいろはルートに入ると「結末」なんてものはなく、強制的に最初に戻されて繰り返されるらしい。この「バッドエンドにすら辿り着けない」ってのがかなりえげつないなあ……。そしてランキング勝利イベントに繋がる構成になっているのも切なかった。これは不意打ちだった。

切なさを刺激されてそんな感想ばかりになってしまったけど、服が濡れたからという理由で半裸になったのは笑ったし、そこで蛟の服を着る新鮮な姿が見れたのも美味しかった。手錠で繋がれている二人を不思議に思って問うた蛟に「泉姫候補の安全を確保している」といろはが答え、それに蛟があっさり「さすがいろは様、お考え深い」と返すシュールコントも吹いた。ツッコミ役がいないとこうなるのか……。

やはりツキの半身とは密接な関わりがあるようで伏線も結構提示されたけど、学園創生の話から察するにいろははツキの使者? たびたび入る幼少時のみことたちの回想にいろはだけは名前が出てこないので、五人の王子ではなさそう。

蛟 (CV:福山潤)

『姫空木編』は恐怖を煽るシーンがちょくちょく入るが、中でも一番怖かったのが蛟ルート。葵さん、唐紅、いろはと主要人物が徐々に行方不明になる展開ではなく、みことと蛟をくっつけようとする姫空木本人が怖い。みことを好きなくせに蛟の恋を応援する姫空木は何も怖いことはしてないはずなのに、彼を見ているだけで背中が薄ら寒かった。で、その真意はどこにあるのかと思ったら、まずはお姫様を演じる裏で自分が罪を犯していることをみことに知られたくなくて逃げ出し、更に「親友の恋を応援するお姫様」を演じることで必死に尊厳を保とうとしていたらしい。蛟の恋を応援する気持ちもあったんだろうけど、普段から蛟に劣等感を持っていた姫空木はこんな形でしか自分を保てなかった。それでも本心では蛟はみことを一番奪われたくない相手だったから、姫空木の心は歪んでいく。前作の姫空木ルートの時も思ったが、この二人の場合、蛟が変に遠慮せずみことを真っ直ぐ求めたほうが姫空木にとっても良かったのかもしれない。その結果、みことと蛟が本当に結ばれることになったとしても、そのほうが姫空木にとっては楽だったんじゃないか。蛟が想い人だけでなく親友に対しても誠実であろうとするから、姫空木の中の闇は更に増幅されていくのだろうし。とはいっても誠実であろうとするのが蛟という男でもあるし、蛟は何も悪くないんだけども。みことに惹かれる気持ちに抗えず、帝の勅命に従ってしまった己の浅ましさに自嘲する蛟のシーンは何気に好きなシーンのうちのひとつになった。

結末はどちらも面白かった。まずは、みことが姫空木を思っていることに気付いていながら、自分の気持ちのままに動くことを決めた蛟の辿り着いた先が、親友の喪失と自分を姫空木だと思い込んで接してくるみことの姿、という残酷な結末。しかし蛟は自分の恋の行く先には破滅しかないことを承知の上でみことを求めたから、責任感の強い蛟はその事実から逃げることなく受け止めている。しかし機械に苦手な蛟が送った "かたはむ。ことかてまる" という一見意味不明なメールをかつては一瞬で解読していたみことが、ここでは解読出来ず暗号だと思っているのがやりきれないなあ……。もうひとつは蛟にとっては NTR 的な展開を迎える結末。劣等感を持っていた親友にみこととセックスしているところを毎晩見せつけ、精神や肉体の何もかもが限界に来ている親友にみことの背中を舐めさせて優越感に浸る姫空木が楽しそうで、読んでいる私も正直楽しかった。唐紅ルートの時といい、姫空木は他の男に NTR を味わわせるのが好きなんだろな。それが姫空木の中の劣等感の深さを思わせて、なんというか興味深くもある。

蛟ルートと言えば二人で夕暮れの公園を訪れるシーンがあるんだけど、『蛟編』の姫空木ルートでは姫空木と共に訪れた場所に、『姫空木編』の蛟ルートで今度は蛟と共に訪れるのが因果を感じさせて面白かった。そういえば過去の公園での回想もあったけど、そこでひめくんが「二人だけの秘密の場所に、みことがみんなを連れて来たから」と拗ねていて『蛟編』の姫空木ルートの内容とリンクしてるけど、これには何か意味があるんでしょーか。

それと忘れてはならないのが葵。みことが深く蛟に関わらなければ頼りがいのある水妹の先輩として接してくれるし、蛟ルートでは姫空木に反撃したり水妹としての誇りを提示してくれたりと結構おいしいところを持っていった。しかし立ち絵は『蛟編』のものが流用されており、プッツン状態の怖い表情になってしまっているのがもったいないな。

蛟に関しては、姫空木の弱さが露見されるシナリオになっているだけに対比として位置している蛟は格好良い姿を見せてくれるんだけど、一方で相変わらず童貞キャラとしても輝いていたのが良かった。特に笑ったのが華うつしランキングのイベントで、みことの胸を掴みながらの「透けていたのを手で隠したのだ!!」でもう堪え切れなかった。あれは吹く。共通ルートで本の貸し出しの延滞を気にしているのも笑ったなあ。蛟は『蛟編』でトップバッターを飾っただけに今後不利になるのでは、と実はちょーっと心配していたんだけど杞憂に終わって何よりでした。今後も童貞王として君臨していてほしい。

唐紅 (CV:日野聡)

ドヤ顔で「本当は感じてるんだろう?」とか言ってくるよーな乙女ゲーの攻略対象は好みじゃないんだけど、唐紅だけは別なんだな。私の本命はいろはなのに、要所要所でおいしいところを持っていくのがずるい。姫空木ルートでは月光組の歓迎パーティで不愉快な思いをしているみことを連れ出してくれたり、事件のおかしいところに気付く冷静さを今回も見せつけてくれたり、チンケな変装として眼鏡姿も披露してくれたり、TV 局に来てわけもわからず泣き出すみことにハンカチで涙を拭ってくれたりと見せ場が多い。ランキングで勝利すると見られるイベントも可愛かった。いやほんとシナリオが面白いのは重要だけど、萌えも同じくらい大事なのだと改めて実感させられた次第。あと今回はやけにおっぱいおっぱい言ってたのが面白過ぎたんだけど、この人前からこんなおっぱい星人だっけか……。

肝心の唐紅ルートでも唐紅の格好良さは健在で、特に今回は唐紅の水妹への深い愛情が感じられるシナリオになっており、姫空木が自分の水妹を犠牲にしているだけに唐紅がより一層男前に感じられる。そして今回はみことが水妹としてしっかり向き合うことになるのも相俟って、二人の対比がますます顕著に出た。ルートに入ってすぐに唐紅がみことを襲うけど、あれも爆破することが決まった講堂にまだ残されたままの水妹たちを助けるためだったもんなあ。確かに爆破を決めたのはいろはだし、そのいろはに交渉を持ちかけるためにみことという弱点を突くのはこの上なく理に適っている。いろははみことへの独占欲もあるし、元々極度に合理的な考えの持ち主だから水妹のことは言っちゃなんだけど二の次だし、蛟も優しい人だけど基本的にいろはや学園の決定には従うスタンスの人だしで、あの時点で巻き込まれる形になった周囲の生徒のことまで考えているのは唐紅だけだった。それと唐紅はいつも偉そうにしてはいるけど、持っていたナイフで事故とはいえみことを傷つけてしまった時は素直に謝罪していたので、ちゃんと反省も出来る人だということがわかったのが一番大きかったかもしれない。

そして終盤はひめくんによる「いちばん、くるしむほうほう」の演出として洗脳された水妹たちからリンチされ、それでも自分からは一切手を出さずひたすら耐え続け、もう水妹たちを救う術がないことがわかると自分の手でカタをつけることを即座に決断する唐紅に惚れた。物事を冷静に見れる人だな、てのがここでもわかる。

「てめえら全員、くれなゐ様が抱いてやる。絶頂のままに逝かせてやるよ」

これは唐紅らしいいい台詞だったなほんと。

唐紅のこうした判断力や決断力の優秀さは、ひずみから落ちた自分とみことのどちらももう助からないことに気付いたラストでも伝わった。血まみれになりながら、みことを脅えさせないように抱きしめてささやかな話をしながらキスをしかける優しさがずるいな。みことを脅えさせないようにするという唐紅の振る舞いは、怪我をした状態でうつろひと戦う時でも見ることが出来たけど、あれもこのラストシーンのための布石だったのか。血の誓いによる "いのち" の儀式は次作への前振りっぽい?

他にも "くれなゐ様の女" を探しているという少年らしい目的を持っていることが発覚したり、理事長に尻ぺんぺんされて拗ねて部屋に閉じ籠ったりしてて和んだ。『蛟編』をプレイしていた最初のほうはあまり興味の持てないキャラクタだったのに、今やおっぱいを揉んでいる唐紅を見ても「こやつめハハハ」くらいにしか思わなくなったもんな。それくらい華アワセの世界の性への価値観に毒されてしまったとも言うが、唐紅は乱暴ではあるけど優しい人だというのはわかっているし、逆にここまで清々しく「ヤりたい」「ヤりたい」アピールされると妙に安心して見ていられる。それに今後も水妹の資格を奪ってしまうよーなことはしないだろう(と思いたい)。姫空木ルートで姫空木が水妹の資格を奪っていると誤解して悪く言った(姫空木が水妹を犠牲にしていることに変わりはないが、セックスは最後まではしてないと思われる)んだから、そうやってみことの前で一度口にしたからには、まさか、自分は、しませんよね? と目を覗き込みながら問いかけたいな! これで唐紅がやってしまうようなことがあれば、私の中の唐紅への信頼度はガタ落ちになると思うので頑張ってくださいくれなゐ様。

一方姫空木はほぼずっと煉獄にいるので大人しい印象を受けるが、ひめくんは姫空木の凝縮された闇が姫空木本体と分離された存在らしいので、ひめくんも姫空木本人と言っても差し支えないだろうしそういう意味では大暴れも大暴れだった。ひめくんを退けて姫空木を助けた二人が死んでしまい、残された姫空木がみことの実家で "いのち" の儀式に縋りながら自殺してしまう結末は、無情感を煽られて胸が塞がれるような陰鬱とした気分になってしまった……。もう一つの結末はひめくん無双。唐紅はおろかいろはを始めとして学園の人間が大量に殺されたようで、そのままみことの魂も飲み込んだひめくんが唐紅の死体の前でみことに触れるところで閉幕。いろはたちの死体が温室の木に串刺しにされているところを、目の当たりにさせられてしまったみことが気の毒。

姫空木 (CV:立花慎之介)

今回のメインキャラクタなんだけど、クリアしてから振り返ってみても姫空木の格好良い場面が思い浮かばない。他のルートでは格好良いのに自分のルートではダメになる攻略対象は珍しくもないが、華アワセの「一作につき結ばれる相手は一人だけ」という仕組みではそれが響くんだな多分。他のルートでも何の苛めだと邪推したくなるくらいに姫空木のダメな部分を浮き彫りにするかのよーな対比シナリオになっており、だから余計に姫空木が情けなく見えてしまうし他のキャラクタは輝くようになっている。自分のルートでは罪と脆さを暴かれ、他のルートでは浅ましさを暴かれる。姫空木は普通の男の子なんだよ、ってことを描きたかったのかもしれないけど徹底しているなあと。

『蛟編』では謎のままだった姫空木の能力の正体は、他人の水を自在に扱うことだったらしい。こう書くと水妹の能力を持っているように見えるけど、厳密には違う。水妹は華詠に水を与えるが、姫空木は水を吸い取る。唐紅ルートでひめくんが唐紅の水妹たちに穢れを注ぎ込んでいたので与えることも出来るのかと思ったが、あれはひめくんが作った「ひめくんがなんでも出来る世界」で行われているからノーカンだろう。その能力をまだ制御出来ないでいた頃に、茉莉花の魂を吸い取って殺してしまったのが姫空木の最初の罪。そして茉莉花の言いなりとなって今も罪を更に重ねている。だから彼はみこととの距離が急速に縮まっていくのを感じつつも、一歩がなかなか踏み出せない。みことと結ばれたとしても、自分のやっていることを知られたら幸せが壊れるのではないかと怯える。それが不安定な言動となって表れてしまうため、姫空木が面倒なだけの厄介な男に映る。いやまあ実際その通りの「面倒で厄介な男」なんだけども。

しかしそんな姫空木をみことは罪ごと全部受け止める。みことが何故姫空木を好きになったのかはよくわからないけど、そういう運命だからだと言われてしまうともう何も言えないしそれでいい気もして来た。ただ、みことが無条件に姫空木のすべてを受け入れたことで、姫空木が自分の弱さと向き合って乗り越える必要がなくなってしまったのはちょっと物足りなかったなあ。茉莉花を殺した直後の幼いひめくんにみことが会って話すことで、姫空木の中の問題がきれいさっぱり解決されてしまうから呆気なく感じてしまったというか。これは姫空木が自分の罪を受け入れた上で自分なりの答えを見つけたわけではないし、月光の水妹たちの失踪事件も理事長の一言であっさり許されてしまったのがびみょー。確かに彼は講堂の一件で活躍はしたけど、それで姫空木の罪をなかったことにしてしまえるわけでもないんじゃないかなあ。私も別に攻略対象は自分の弱さを必ず乗り越えるべきだ、とかそんなことを言いたいわけじゃないんだけど、責任を持って己のけじめをつけた花神がいるだけに、姫空木の罪への扱いの軽さがどうしても引っかかってしまう。ED を見るに姫空木は幸せそうだけど、本当にそれで良かったのか聞いてみたい。

印象的だったのは、序盤のみことの家でのカレーパーティ。みことの部屋に入らず庭でずっとみことたちを眺めながら待っていたらしい姫空木に軽く引きつつも、それ以上にテンションが上がってしまった。一瞬引いたけどこれこそ姫空木だな、とも思えて。けど姫空木ルートでの姫空木に関する強力なイベントがこれくらいしか思い浮かばないあたり、やっぱり姫空木のシナリオは弱かったかなという気が。蛟以外のキャラクタが歪んでいった『蛟編』とは違い、今回は姫空木ルート以外のシナリオでおかしくなっていくのは姫空木で、姫空木ルートよりも他のルートの姫空木のほうが輝いていた印象がある。

で、私が姫空木に苦手意識を持ったのは姫空木が罪を犯したからでもなくカレーパーティの件で引いたからでもなく弱い人間だからでもなく、単に「エッチしよハァハァ」を連呼していたからなんだよなあ。華アワセの攻撃的なエロ要素は受け入れられるんだけど、姫空木だけは合わなかった。いろはは動物的なキャラクタだからわかりやすいし、蛟は童貞キャラクタとして輝くことに繋がっているし、唐紅に至ってはストレートすぎて逆に安心して見ていられる。でも姫空木は上手く言語化できないんだけど駄目だった。姫空木のキャラクタも好みからは外れるが、それ以上にエロが関わると寒気がしてくる。元々男キャラの喘ぎに苦手意識があるので、やたら姫空木がハァハァ言うのもマイナスだった。

姫空木ルートで良かったところもある。事件の真相を追うのは面白かったし、五光全員に見せ場があったのも嬉しかった。『蛟編』の蛟ルートはみことと蛟だけで話が回っていたように記憶してるけど、せっかく魅力的な五光がいるんだからみんなで協力していく展開になるほうが美味しい。特に TV 局に舞台を移してからサダクローを追い詰めるまでは、一度罠にかかったことで逆に罠を利用したいろは、サダクローを炙り出すためにいろはをサポートした蛟、サダクローを抑えるための保険役を担った唐紅、そして主役の姫空木とまさに五光オールスターだった。これでテンションが上がらないはずがない。

花神 (CV:代永翼)

妹に禁忌の愛を注ぐ姉として最後までブレなかった。お姫様であることを嫌がった姫空木とは逆を行くかのように、喉を潰されてでも男を演じ続けた女として最後まで全うした。そして花神が姫空木を憎んでいるのは愛する妹を殺した人間だからというだけでなく、茉莉花が姫空木に恋をしていたから、という理由のほうが大きいんじゃないかなあ。つまり嫉妬していた。だから茉莉花と結ばれる可能性のある男を憎む。なのに茉莉花花神に男になることを強いたんだから、花神にとっては地獄だったんだろう。自分は男を演じていも茉莉花とは結ばれないんだから。ただ、近親同性愛を持ってくるのは乙女ゲーとしても尖っていて面白いなあと思ったんだけど、花神茉莉花の描写が足りていないのでどうせやるならがっつり描いて欲しかったな。

それでも花神は一見男性ではあるけど中身は女性らしさに溢れたキャラクタで、そんな花神を演じているのが男性ってのがまた面白かった。ちなみに中の人の奇妙な関西弁はどーにかならんのか、と思ってたんだけど冊子によると「テレビに出ているお笑い芸人の口調をマネしているため、専らエセ」との説明があって納得。

茉莉花 (CV:五十嵐裕美)

姫空木は最後まで気付かなかったらしいが、茉莉花は恐らく姫空木に恋をしていたんじゃないかなあ。だからこそ一層、自分を殺した姫空木に憎悪を抱いた。そして終盤のやり取りを見るにただの敵キャラというだけでなく、過去に行われていた儀式にも絡んでいるらしい。当事者ではないんだろうけど、茉莉花が剣を隠したことで儀式に影響があったのかもしれない。この剣は唐紅にとっての重要なキーワードらしいナイフと何か関係があるのかな、とちょっと考えたけどさすがに剣とナイフを混同することはあり得ないか。

百歳 (CV:水島大宙)

結構伏線が散りばめられていた。中の人が男性なのもやはり意味があるんだろうし、少なくてもただの「主人公に優しい女友達ポジション」ではないんだろう。百歳もまたみことを愛した男性で、今回は何故か女性の "器" に入れられてみことのそばでみことの恋を見守る役を強いられている節があるけど、この推察が当たっていたのだとしたら百歳も結構えぐい目に遭ってるんだなあと。男性であるいろはとは違い、女性として生きている百歳がみことと結ばれるのは難しいだろうから。それと、男性しか反応しないはずのみことの匂いに言及しているのも気になる。ただみことは百歳の言う「匂い」は誘い水とは違うと受け止めたらしいので、今のところはまだ何とも言えないけども。

ところで前回はみことをミューズと呼んでいたのに、今回はエンゼルに変わってて驚いた。なんだエンゼルて。やーでも GS のデイジーやバンビのように毎回呼び方を変えて来るんだとしたら、次はどう来るのかが楽しみのひとつになりそうな。

斧定九郎 (CV:黒田崇矢)

正体は数斗チャリスだったということで、恐らく前作でも暗躍していたんだろうなあ。名前は「斧 定九郎」で区切るらしいが、「サダクロー」と唐紅が呼んでいたのは伏線だったのか。そしてサダクローもみことたちの過去に関わっている人間で、どうやら泉姫を狙っているらしいけど五斗とは違った思惑で動いているらしいのは気になる。

ラクリ (CV:逢坂良太)

ソードの手足として動いていたらしいけど、サダクローの元にいたということはカラクリ君にサダクローもインプットしていた可能性もあるんじゃないか。彼は五斗とは違う理由で動いているらしいから尚更、誰がいつ何をカラクリ君にインプットしたのかが重要になると思ったんだけど、それともカラクリ君にインプットできるのはソードだけ?

阿波花 (CV:豊永利行) & 金時花 (CV:豊永利行)

攫われたり魂を奪われたり死んでしまったりと散々な目に遭っていた気がするけど、それでも要所要所でみことを勇気付けたり背中を押したりしていて、やっぱり学園の理事長なんだなという感じで頼もしかった。何やら理事長周辺も瑠璃の蘇生の器の鍵だの紅の流転の鍵だのの重要な設定があるらしいので、そこらへんも含めて続編が楽しみ。