Antipyretic

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夢をもう一度

http://www.mirai-soft.com/youth/intro-youth.html

レディコミで読めそーな内容を、乙女ゲーのフォーマットに落とし込んで来たよーな作品。シナリオもそうだし、文章や絵柄も古いのでやっぱり乙女ゲーのキラキラした要素はあまりない。エロシーンの背景だけは今回もキラキラしてるけどこっちのキラキラはあまり嬉しくない。とりあえず G スポット連呼は笑うからやめたほーが。

シナリオも伏線が放置されたり唐突な展開が入ったりと雑な作りで、おまけにあまり面白くない。一人だけユニークなシナリオがあったけどそれくらいで他は微妙。変なところでインパクトを与えてくるところはあったけど、それが作品の魅力に繋がっているのかと言われるとそうでもなく。それでもフルコンプまで辿り着けたのは読みやすいテキストだったから。スキップも選択肢のたびに止まるのが鬱陶しいけど高速だし、サクサク進められたのは良かったんじゃないでしょーか。

なんかあまり褒めてない気もするけど、雪村ルートだけは楽しめたのでそこだけでもプレイして良かったかなとは思えた。

佐々木瞳

仕事に生き甲斐を見出す女性は好きなんだけど、瞳からは魅力を感じなかった。かといって嫌なヒロインってわけでもないが、ただ何度も「本当に?」と聞き返すことが多くてそこが鬱陶しかった。たぶん鸚鵡返しのような感覚というか意味もなく条件反射的に出てしまう台詞で、瞳の癖というよりは作者の癖っぽいけども。

都筑俊 (CV:紫花薫)

グダグダなシナリオだった。中盤までは綾香が出張って来てゴタゴタするが、俊に魅力を見出せなかったので早くからダレていた。ちなみに一周目は俊と綾香との間に子供が出来たと勘違いした瞳が他の男からのプロポーズを受け入れてしまい、そのうち瞳は夫を亡くし夫の連れ子である娘も結婚し一人ぼっちになった頃に思い出の高校で俊と再会してお互い初老になったけど今からやり直そうみたいな困惑させられる内容で、それはまあいいんだけど俊の立ち絵が20代の時のままなのでギャグにしかなっていなかった。テキストウィンドウの名前欄には堂々と「老人」と表示されるから尚更立ち絵と噛み合っておらずシュール。おまけに中の人の声はこちらの初老俊のほうが合っていたのが何とも言えず。いやいい声なんだけど20代の声はさすがにちょっとキツいなあと。

二周目はいつの間にか改心していたらしい綾香のおかげで二人は再び寄り添い、俊も芸能界に復帰して活躍して結婚して子供も出来ました的なハッピーエンド、と思わせて俊が胃癌を患っていたことが発覚。そして闘病生活がダラダラ続くが、これがもう極悪なレベルで退屈。プレイ中は『CLANNAD』のアフターシナリオを思い出したし、実際ああいう作品にしたかったのか読者の涙腺を刺激しようとしている展開や演出もあったが、描写が浅いのとあざといのと先が読めるのとでまったく響いて来なかった。最後までモニタ前の私の表情は能面だった。とにかく疲れた。その割に内容はなかった。

泉智明 (CV:山芋タロウ)

印象に残らないシナリオだった。真っ先に挙げたくなるような不満はないけど面白くもない。つまり得られるものはマイナスにもプラスにもなかった。泉は実は復讐のために入社して来た男だが、その復讐劇が薄っぺらい。アドサーチの件とかグッダグダでもうアレ。川村さんもどうでもいいような存在だった。瞳に嫌味を言ってくれるけどそれだけで、とんでもないことをやらかしてくれるのではないかと期待してたのになんもなしか。

むしろ泉ルートは中田が可哀想で、泉よりも彼が気になった。泉は復讐云々を抜きにすればただのエリートイケメンだけど、中田は可哀想なことにその可哀想さが彼のステータスになって輝いていたのがまた可哀想で印象に残る。一応シナリオでの役目は「瞳に好意を寄せる男としての泉の引き立て役」だったけど、その泉が面白くないので私の視点では泉が中田の哀れな姿を引き立てる役になっていた感すらある。といっても中田が不憫なことに変わりはないので中田にとっては喜べるようなことでもないけども。そしてそんな中田に対する瞳の態度がはっきりしない瞳の狡さも目立っていた。というかもう振ってあげたらいいのに、中田の告白に返事しないままグズグズしてたらプロポーズまでされちゃったもんなあ。そして結局、最後まで返事をする場面はなかった。泉と川村さんに結婚の予定があることを知ってショックを受けた瞳が、以前好きだと告げてくれた泉に「その気がないならあんなこと言わないでください」と言う場面があったが、その気もないのに中田の誘いに応じてダラダラ食事や映画に付き合っていた瞳が言えた義理なのか。

久我直樹 (CV:沖野靖夫)

やっぱりグダグダなシナリオだった。直樹は第一印象では興味がなかったんだけど、実は空気は読めるし頭の回転は速いし約束も守れる人で、外見とのギャップも効いて一気に好きになれた。問題児だし喧嘩もするしあまり仲が良くないらしい母親とのことについて瞳が言及するとカッとなるし「やっぱり子供だなあ」と思わせられるところもあるが、根は普通にいい子だった。何気にツボったのがデート中の映画館でのやり取り。瞳が映画に感動して泣いているのに映画に誘った当人の直樹は豪快に寝ていて、瞳が呆れたら「ご、ごめん…ストーリー教えて! 今から泣くから…」と必死に返していたのが面白過ぎた。

が、シナリオは先にも書いたように微妙。直樹と連絡が取れず瞳が遊ばれたのかともやもやしたり、直樹に一方的に付き纏っていた女の子の逆恨みで輪姦されそうになったり、母親の件とか兄への劣等感とか実は写真家になりがたっていたりと色々あったけど、そういう重要な伏線は適当に放置されたまま掘り下げられることもなく終了。直樹が冤罪で捕まるも相手の権力云々でどうにもならず、何故か一姫部長の取り計らいでなんとかなったけどこの展開も何がしたかったんだか。これは直樹ルートに限らないが、なんか面白くもない小さな展開の数々を適当に繋いだような印象を受ける。

ところで後半の強姦じみたセックスシーンで直樹が「お姉さんのまんこが云々」とか言い出して吹いた。これが男性向けの抜きゲーなら何とも思わないが、乙女ゲーというよりレディコミの香りが漂う作品で言われると何とも言えない気持ちになる。しかしこの手の単語は伏字になると思ってたんだけどセーフなんか。ソフ倫の基準はよくわからん。

吉野仰 (CV:山賀弘一)

やっぱりグダグダなシナリオだった。ミュージシャンを目指して田舎から出て来たピュアな少年を瞳が拾う話で、徐々に人気が出て若い女の子にちやほやされる仰に瞳が嫉妬に駆られて大人げなく当たってしまう場面まではそれなりに面白かった。特に私は仰の純粋さを可愛いとは思えず苛立たされる場面も多かったから(例えばライブをやっても歌を聞いてくれる客がいなかったから、とたった三日で夢を諦めようとしていたところとかイラッと来た)、酷いことをまくしたててしまう瞳の気持ちのほうが理解できた。そして「田舎に帰ればいい」と言われて反発もせず、そのまま帰ろうとするのもちょっとなあ……。夢のために覚悟を決めて田舎から出て来たんじゃなかったんか。仮にミュージシャンとしてデビュー出来てもやっていけるのかこんなんで。それにしても瞳さんによる嫉妬を内包した仰への攻撃はやたら長く饒舌で、半ば演説を聞いている気分になったな後半は。そして雪が降る中出て行った仰を捜して仲直りしてそのままセックス。

そこからはグッダグダ。いきなり仰が行方不明の女友達を探すとか言い出してキャバクラの客引きバイトを始めるし、瞳も仕事が忙しくて勤務時間が噛み合わない二人はすれ違いの連続で、ようやく瞳の仕事が落ち着いてゆっくり出来るかと思えば事務所にいつの間にかスカウトされていたらしくミュージシャンとしてデビューするから家を出て行くことになっていて「えっ」。デビューすることに驚いたのではなく、探していた女友達の件が物語の蚊帳の外に追いやられていたことに驚いた。なんつー雑なシナリオだ。そして最後には夢を叶えたら迎えに来るとか俊みたいなことを仰が言い出して、瞳のほうは俊のことですでに経験しているからもう会えないだろうと覚悟を決めて別れたのに、ED でミュージシャンとして成功して売れっ子になったけどやっぱり瞳が必要なんだ、とすっぱり事務所をやめて帰って来た仰に閉口。やっぱりこの子は色々舐め過ぎじゃないか。仰にとっての歌は百万人に聞いてもらうことではなくたった一人の好きな人に聞いてもらうためのものだと、綺麗事で片付けていたけどそれでいいのかほんとに。約束を守れなかった俊との違いを表現したかったのかもしれないが、中途半端な男だなという印象しか受けなかった。もう一つ仰がミュージシャンになったまま戻ってこない結末もあるが、そっちのほうが納得出来た。仰がいわゆる「売れる音楽」しか作らなくなったけど(私は基本的に売れるための音楽が悪いことだとは思わないけど)、ストリートライブをやっていた時に瞳が気に入っていた曲を歌い、それをテレビで見ていた瞳が感極まって泣く。物悲しいけど余韻もあってささやかながらもぐっと来た。

やっぱりピュアな子がピュアなままで終わる物語はあまり楽しめない。仰が世俗に塗れて穢されていくようなシナリオだったらテンションも上がったかもしれないけど。

雪村繪 (CV:犬神帝)

酷い男が酷いことをして主人公や自分の妻を不幸にするだけの話なんだけど、ユニークな内容で面白かった。というか唯一楽しめたシナリオがこれ。美蕾お馴染みエロシーンのキラキラ背景も雪村だけはおどろおどろしい背景になってて盛大に吹いた。ED も音楽が怖い。たびたびネガ反転も入るのも面白すぎる。ちなみに雪村と幸せになれる結末は一切ないが、これはなくていい。まっとうな愛というものを信じていない雪村に、瞳が真実の愛とやらを教えられるとはとても思えない。

ただ雪村がクズなのは間違いないんだけど、両親から愛情らしいものをもらえなかった過去をつらつらと酔いに任せて零していたし、精神科医になったのも自分のどうしようもない性格をどうにか矯正できるきっかけを求めてのことだったらしく、その点で弱さを曝け出していたのでそこは甘いなあ。弱さを出す場面を一切なくして徹底的にクズとして描いて欲しかった。もしかしたら瞳を繋ぎとめるために嘘をついた可能性もなくはないが、そんな面倒なことをする人とも思えないのでやっぱりあれは本音だったんだろう。

ただ雪村は愛を信じていないが、ある意味では「愚かで醜くくておぞましい女」を愛しているんじゃないか。瞳との不倫関係を求めたのも瞳に興味を持ったというよりも、真実を知った時の瞳と結奈の反応が見たかったからで、つまり不倫は手段であって真に求めているのは絶望する瞳の姿と発狂するほど嫉妬に駆られる結奈の姿。雪村のこうした性質は面白かった。診察に来た瞳の体を舐め出したり、よくわからない理由で病室で犯したり、瞳をプライベートルームに誘って薔薇まみれのベッドに寝かせて一人で悦に入ったり、無意味に赤ワインをドバーと垂らしたり、グランドピアノを弾かせたり(心療内科の奥に何故天蓋付きベッドとグランドピアノが置いてあるのかは突っ込んではいけない)、瞳と結奈が親友であることを知りながらセックスしたり、初めて三人で食事した時に真実を知って自分に憎悪を向けてくる瞳を見て楽しんだり、結奈に隠れて雪村邸でセックスしたり、瞳に結奈と電話させながらセックスしている時の雪村はたいそう楽しそうで、なんというかそれらを眺めている私も楽しんでいた。でも一番印象に残っているのはやっぱり二人でオペラ鑑賞に行った帰りを結奈に目撃された瞬間。狂乱状態の結奈に詰られる瞳、という壮絶な光景を見て拍手しながら哄笑していたのがアレ。この人はこういう光景にこそ喜びを見出すんだろう。オペラを鑑賞している時と同じ感覚でしか眺められないから拍手も惜しみなく送る。最高に悪趣味で素晴らしい。いや結奈を可哀想だとは思いつつ、それとは別次元で雪村のクズっぷりを楽しんでいる自分もアレだけども。

結末は瞳が結奈に刺されたり瞳が結奈の幻覚を見るようになって怯えたりとどれもぶっ飛んでいて面白かったけど、地味に気に入ったのは雪村と結奈が別れる展開。この時に結奈が「私の立場、あなたにバトンタッチするわ」と言うんだけど、この「バトンタッチ」が単に「雪村の公然の恋人や妻」という立場のことだけを言っているわけではなかったことが面白かった。瞳が雪村と晴れて恋人になったかと思えばある日瞳が雪村が浮気をしているところを目撃するんだけど、その相手が結奈だったというオチがつく。つまり「バトンタッチ」ってのは「雪村の妻や恋人でいることの苦しみ」すらも含めて立場がきれいそっくり入れ替わることだった、てのが最悪に最高だった。大満足。

(2015/12/19 追記)

雪村は、数ある乙女ゲーの歪んでたり壊れてたりトラウマ持ちだったりする色んな攻略対象たちの、「自分を救ってくれるヒロインに出会えず手遅れになったルートでの未来の姿」な気もしてきた。雪村も高校生くらいだったらまだ間に合ったかもしれない(本人も自分が歪んでいることに気付いていたしどうにかしようと思っていたから、愛を教えることは出来たのかもしれない)。が、社会人になって結婚もしてるからもう矯正の余地がないんじゃないかなと。そしてそれは瞳も同じで、親の庇護下にある高校生だったらまだしも、社会人になって自分のことでいっぱいいっぱいな瞳には、雪村のような男に一喝してどうこう出来るような余裕なんてない。だから彼にはバッドエンドしかないのが正解なんだろうな。

一姫真矢 (CV:浜五郎)

やっぱりつまらないシナリオだった。部長は一番好きなキャラクタだっただけに残念。部長には瞳と同じような境遇にいた恋人を失った過去があるので、その点で軽くすれ違いみたいなものがあるんだけど、そんなことよりも部長と雪村の会話のほうが面白かった。この二人はとにかく険悪で顔を合わせりゃ皮肉の応酬しかないくらいなんだけど、趣味だけは完璧に一致しているのがおもしろおかしい。ボーナストラックでも言われていたけど実はめっちゃ仲良しなんじゃないか。何気に二人ともオペラの題材が各個人の事情とリンクしているシナリオになっているところまで一緒でもう笑うしかない。だから瞳と部長の恋の行方よりも二人の関係のほうが気になったんだけど、二人とも相手のことは語りたくないらしく特に掘り下げはなかったのが残念。ただ雪村が一姫を「先輩」と読んでいたので学生時代の先輩後輩? どちらもエリートだから同じ学校にいた可能性は高いか。

瞳と部長の話に戻すと、部長の進退が問われていて危険な状況だってのに二人で職場で盛り上がるシーンはぽかーん。仕事とプライベートは分けるべきだ、とか部長が言ってたのは何だったんだ。社員に目撃されでもしたら完全にアウトだろうに。

中田正義 (CV:鳥取砂丘)

泉ルートでは瞳が中田のプロポーズに返事をする場面は描かれなかったが、泉ルートから分岐する中田 ED ではちゃんと描写されていた。でも結末は瞳にどうしても振り向いてもらえず何度を嘘を吐かれた中田がとうとうキレて、拉致った瞳に媚薬を飲ませてわざわざ瞳と泉が泊まったホテルの部屋で強姦する内容だったのが何とも言えない。最後まで可哀想な扱いでしかなかった中田が不憫で泣ける。中田は瞳の気持ちをよそに一人で盛り上がるタイプなので瞳が好意を寄せられないのもわからなくはないんだけど、それならもっと早く振ってしまえば良かったのだ。ちなみに泉ルートではあんまりな扱いだったけど、俊ルートではさり気なくサポートしてくれたりして好青年ぶりを発揮していた。

しかし彼のクワッとなった表情は雪村ルートの内容よりも怖かったなあ。

秋元健二 (CV:森上ショウ)

男尊女卑+学歴差別発言無双。ただ和解するルートを見る限り根は善人なんだろうし、嫌いなキャラクタというわけでもなかった。瞳も秋元も負けず嫌いで向上心が強いタイプなのでぶつかりやすいだけなんじゃないか。実は似た者同士。

金剛雷太 (CV:須田勝也) & 金剛風太 (CV:須田勝也)

双子設定はいらなかったんでは……もしかして攻略対象になる予定だったんでしょーか。

衛藤今日子 (CV:本山美奈) & 白鳥餡子 (CV:佐々部愛華)

この二人や課長も含めて営業部とのくだらないやり取りは楽しかったなあ。特に眼鏡を外すと美人、てなベッタベタな設定持ちな白鳥さんはキャラも立っていて面白かった。