Antipyretic

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装甲悪鬼村正

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これは英雄の物語ではない。英雄を志す者は無用である。

物語を読んで震えたのは初めてかもしれない。欠点は大量にあるんだけど、それ以上に主人公と物語に魅力がありすぎた。私は基本的に読み物には話の面白さとカタルシスを求める傾向にあるし『村正』でも十分すぎるほどにそれを得られたけど、クオリティ云々以前に私のツボを揃えすぎていて怖かった。これ以上はないくらいに萌え殺される主人公がいて、その主人公だからこその話が萌え殺される展開で綴られていて、萌え殺されるほどの結末があった。萌え死ぬとはこのことを言うのだと思い知った。

まず欠点を語ると、とにかく動作が重い点を真っ先に挙げる。選択肢を読み込む時に若干のもたつきがあり、なのに選択肢が大量にあるから更に重くなる。超速スキップもやっぱり遅かった。どうも双輪懸が入る場面でスキップが遅くなるらしいから演出のせいなんだろうなあ……。普通の ADV なら「超速」だったのかもしれない。そして奈良原氏のテキストも冗長(でも文章自体はかなり好み)。おまけに物語が恐ろしく長いので、プレイしているとどうしても長さを意識せざるを得なくなる。つまりダレる。他にもエロシーンを途中でぶった切るのがちょっとなあ……。私は基本的にエロシーンを飛ばす人だから普段なら歓迎するんだけど、『村正』はこれだけ魅力的な主人公でかつセックスに雪崩れ込むと鬼畜になる病気を抱えてて、しかもエロシーンでヒロインより喋るのが美味しいのにどのルートでもこれからだ、ってところで暗転するのが憎かった。エロシーンが少ないだの薄いだのと文句を言うユーザの気持ちが初めて理解できた。なるほどこれは腹が立つ。他にも賑やかで楽しい六波羅に比べ、GHQ が敵としての魅力に欠けていたのも気になった。香奈枝が頑張っていたが、香奈枝一人だけでは弱い。

戦闘で図解まで用意して解説してくれるところは視覚的に「くどさ」が前面に出るだけに一見うんざりしてしまうけど、ちゃんと読むと面白かった。動作が重い原因と思われる演出も、双輪懸を表現するのに必要だよなとも思う。『エースコンバット』に出てくるようなコクピット画面が凝っていたのも良かった。あの画面のおかげで最初は村正をロボットだと勘違いさせられたし、画面が回転して目が疲れる時があったのも御愛嬌。縦書きのテキストも最初は戸惑ったけど、読みやすいフォントを使ってくれているし慣れると逆に読みやすく、何より『村正』の世界観には合っている。

絵は初原画のなまにく氏。独特ではあるけど結構好きな絵柄で、特に女の子のむちむちした体がたまらなかった。立ち絵の枚数は少ないけど、登場人物の数が凄まじいのでこれくらいが妥当かなと。音楽も ZIZZ が担当しているだけあって相変わらず良かった。中でもクライマックスで流れる「BLADE ARTS IV」が一番気に入った。「英雄襲来」も英雄に「襲来」とつけるあたりが英雄を否定する『村正』らしいタイトルで秀逸。挿入歌のタイミングも良かった。特に終盤の「落葉」は鳥肌が立つほど。

シナリオは「敵を殺す者は味方をも殺す覚悟をしなければならない」というシンプルな設定を置くことで、「視点が変われば正義は悪になり、悪もまた同様に正義になる」というテーマを延々と描いている。これは大人になるにつれて気付いていく人は多いだろうし今時珍しい論でもないが、これを真っ向から書いたことがすごい。善悪相殺の呪いを景明が根性で打ち破る、みたいなありがちな展開がなかったのも良かった。善悪相殺の戒律を絶対としたままであの長い話を面白く書き切った。そして結論の理非はともかく、登場人物全員にその人物なりの結論に到達させた手腕には惚れ惚れする。サブキャラクタにも一人一人にきちんと役割が振られているのもいい。景明が収監されている拘置所の看守さんもいいキャラしてたもんなあ。いやもうほんとに濃密で面白かった。大作で名作。

遅れましたが、Nitro+ 十周年おめでとうございます。

湊斗景明 (CV:石川ゆうすけ)

これは英雄の物語ではない。装甲悪鬼村正の物語である。

『村正』がこれほど面白い作品になったのは、景明という主人公が魅力的だったからで、更に景明が景明たらしめているからこその『村正』だったから。

悪人を殺せば善人を、敵を殺せば味方を、憎しみで人を斬れば愛している人を斬らねばならない善悪相殺。この戒律が惨いのは善悪の判断が仕手に一任される点。だから景明は苦しむ。この手のゲームにおける「好感度メーター」は他の作品なら「ヒロインの主人公への好感度」になりそうなものなのに『村正』では逆。景明がどの人物にどれだけ好意を抱いているかが重要になっており、それはつまり「次に代償として殺されるのは誰か」という恐ろしいメーターになっているのは面白かった。そして景明の天然ド真面目な性格が私にも好ましく映ったように、作中の登場人物もそんな「いい人」な景明に好印象を抱きがちで、景明のほうも自分に好意的な人にはいい印象を持つようになるのが当然。だから殺さなければならなくなる人間候補は増える。この「景明自身が魅力的な人間であることが景明を苦しめることになる」という構図も酷い。いっそ「俺に構うな」と言えばいいのに真面目だからなんだかんだで景明は応じてしまうし、応じないわけにもいかない時もあるだろう。そして真面目だから景明は余計に苦しむしかない悪循環。

景明のこうした真面目なところは、突き抜け過ぎて異常と言っていいレベル。まともな人ならとっくに狂っている。しかし景明は狂うことすら己に許さなかった。ていうか「まともな人ならとっくに狂っている」てな表現は皮肉が利きすぎてて嫌過ぎるなこれ。景明をそうして真面目で善良な男として育てた統は理想的な母親かもしれないが、それも善悪相殺の理に縛られてからは景明にとっての呪いに摩り替わってしまったのが皮肉。統の教えたことや願ったことは、何もかもが景明を苦しめることになった。

だから景明は自分を罰してくれることを望む。あまり卑下が過ぎると鬱陶しいが、景明は口だけじゃないのがわかるだけに何とも言えない。自罰的という言葉ですら生温いほどの自己への憎悪。それだけに「復讐編」で善悪相殺に対して思考停止してしまう景明を見ても「もっと頑張れ」とか「放棄するな」とは言えなかったし、香奈枝に断罪されたのだと信じたまま安らかな死を迎えた景明を見て安堵したところもある。「悪鬼編」に至っては光を殺し、光との戦いが原因で今も止まない世界中の争いを止めることも出来ず、自分は今も何千人何万人と殺し続けているも等しいのだと自虐してダメ人間になってしまうが、やはり景明を責めることは出来なかった。酒をかっくらって堕落生活を送る主人公なんて見ていて愉快ではないけど、景明の場合は抱えているものが重すぎるのと今までが生真面目すぎたのと、そのせいで葛藤し過ぎたのと、そんな景明に読者としてずっと付き合ってきたから何も言えなくなる。むしろ「ダメ人間でいいんじゃね?」と思いながら見てたもんな。しかしダメ人間生活をしてても根がド真面目だから、そんな自分が許せない→でも出来ることは何もない→堕落するしかない→でも許せないのループでこの人鬱陶しいなほんと! 鬱陶しいけどこの鬱陶しさは理解できるのがまた面倒な……。しかし私ですら肯定した主人公の堕落を、雪車町だけは許さなかった。結果、悪鬼が誕生する。

善人だった景明は人を殺す以外の選択肢がなく人を殺し、その代償として愛する母親を殺し、そして一度殺した後はもう善人には戻れない。何故なら「罪もない人を殺した意味」がなくなるから。善悪相殺の呪いを放棄するということは、それによって殺された人の命が無価値になってしまうことを意味する。景明はそれを容認出来ない。なら今後も善悪相殺の道を駆けるしかない。つまりこれからも善人と悪人を同時に殺すしかない。善人だったが故に悪鬼になった。それが『装甲悪鬼村正』の物語。そうして人を殺した責任を背負い、修羅の道を行く景明の悪鬼としての表情には圧倒された。

……と真面目なところだけを挙げてきたけど、景明が魅力的なのは真面目でド天然で、更に言うと実は本人が気付いてないだけで有能である点も大きい。卒業旅行に一緒に行くような友達がいるし、装甲競技研究会や蹴球部や茶道部に所属していたし、能や和歌、毒や山登りに関しても知識があるし、英語やドイツ語も少し話せるとかどんだけハイスペックなんですか。「英雄編」の「YOU ARE GUILTY」はさすがに笑ったけど。更に野球もやってて光曰く「バントの魔王」と呼ばれていたらしく、こっちは地味なところで才能を発揮しているのが景明らしい。でも「魔王編」で六波羅に所属した時の有能ぶりや「悪鬼編」での難民と先住民の諍いを上手く処理していくところを見ても、やはり相当に出来た人間なんだろう。暗闇星人と言われるくらいに陰鬱だし友好的に接するのは苦手だと本人は言うが、喋る時はよく喋るし空気は読めるしコミュニケーション能力も高いしで隙がない。「友好的に接するのが苦手であること」と「コミュニケーション能力の低さ」は必ずしも比例しないんだなあ、と景明を見ていて思わされた次第。

しかしそんな出来る人でも、本人が自分に対して誰よりも憎悪しているのがどうしようもない。だから景明と恋愛関係になるのは難しい。自分を心底から嫌悪している人に生半可な気持ちで愛を伝えても届くわけがない。性欲には正直だからそのへんは状況が許す限り喜んで受け入れるんだろうけど、恋愛となると違ってくるんだろう。現に一条には「憚ることなく善人として正義を執行できる者への憧憬」、香奈枝には「自分を断罪してくれる女神への信仰」しかないから恋愛には到達しない。憧憬にしろ信仰にしろ、どちらも本気だからこそ恋愛の入る隙がない。茶々丸は利害の一致で付き合っていただけだし、光には家族としての複雑な想いを抱いているから、景明が本当に愛したと言える存在は統と村正だけになる。エロゲ主人公としては難儀すぎる。相手が養母と蜘蛛て。

印象に残っているのは第二編で「脱糞した」とわざわざ描写されているあたりとか、「悪鬼編」で光におじさんといわれて「自分はまだ20代です」って心の中で抗議するところとか、エロシーンでよく喋るところとか。あとは一条か香奈枝のどちらかを善悪相殺の戒律に則って殺す場面。香奈枝を殺す時は、殺される寸前の香奈枝の中の僅かな躊躇を察して景明が絶望するあたりからも香奈枝のいい女っぷりが出ていて気に入ってるんだけど、一方で一条を殺した時のほうが景明が怯えていたのも印象的。あれは一条があの時点では景明を心の底から信じていたからなんだろうなあ。香奈枝を殺した時は、香奈枝が自分を信じていなかったことがわかったから景明も取り乱さなかった。あと中の人の声と演技もハマっていた。この声なくしての景明はあり得ない、と断言できる。

千子右衛門尉村正三世 (CV:須本綾奈)

これは英雄の物語ではない。誰もが英雄ではいられない。それでも誰もが戦っている。

一番好きなルートは「復讐編」だし香奈枝も好きなヒロインではあるけど、やっぱり景明の隣にいるのは村正が相応しい。そして褐色肌属性のある私には人型村正も好みだけど、第三編でレースに出ろと言われて渋ってたのに景明に「俺の纏う劔冑はお前の他にない」と言われて大人しくなったり、レースでは数打に圧倒的な差をつけられ雷蝶に散々馬鹿にさた時にブチ切れて陰義を使って景明を呆れさせたり、雷蝶から褒められたら今度は得意気になったり、「魔王編」で拘置所で自分の体の汚れを拭こうとする景明に困惑して《およめいけなくなるっ》とわめいたり《あーん、かかさまー!》と泣き出したりと、とにかく村正の印象的なシーンを挙げると蜘蛛型形態が圧倒的に多い。つまり蜘蛛型形態が一番可愛い。拘置所でのやり取りは、看守に不審がられて「人間大の蜘蛛と愉しむ性的交渉」のイメージ・プレイに耽っていたと景明が回答するシーンで綺麗にオチがついていてものすごく好きなシーンだった。笑ったしニヤニヤもした。その後心甲一致を果たさねばならないと歩み寄ろうとした景明を拒絶し、一人で銀星号に挑んでボッコボコにされる場面は痛々しかったが、間一髪で駆けつけた景明に「俺には、お前でなくてはならないのだ」と告げられて正式な帯刀ノ儀を結ぶ時に蜘蛛の脚をちょんと上げるシーンも可愛かった。いやほんと蜘蛛の時のほうが可愛いんだよなあ断然。

しかし「魔王編」でようやく人型になったことでヒロインらしくなったが(でも私としては蜘蛛形態のままで景明とイチャついてくれたほうが萌えた)、村正は人外ではあるものの性格は普通の女の子なので人型になるのを後半に持ってきたのは英断だったのかもしれない。でないと埋没していたんじゃないか。景明の相棒なので出番は多いが、正義狂とか殺人狂とか阿修羅とか魔王とかとにかく景明の周囲の女子がいかんせん強すぎてもう。

ただ「魔王編」で茶々丸の策略によって「光を救う」以外の意志を剥奪された景明に過去を捨てるかどうかの選択を本人に委ねたり、銀星号との戦いで無我になることを望んだ景明の指示を嫌がったり、結局最後には景明を求めてしまったが故に景明を開放したりと正しくヒロインしていた。むしろ唯一ヒロインしていた。強引に景明の意志を奪おうとしていた光とは対照的に描かれていて。なんというか正妻オーラを感じる。

「魔王編」は村正ルート(相棒)であり光ルート(家族)でもあるのでここに書くが、これまでのシナリオに比べてもスケールが大きく圧倒された。やっぱり「復讐編」が一番好きだし「英雄編」も面白かったけど、「魔王編」はやはり本筋のルートなんだろう。光の真実が語られ、景明が六波羅に所属することで四公方の面々がより一層掘り下げられ、緑龍会の狙いも発覚し、ついには六波羅GHQ の戦争が始まる。とにかく盛り上がりが桁違いだった。そして景明と村正が真に相棒となるのも、護氏暗殺の真相がわかるのも「魔王編」に入ってからだった。光との最終決戦も「英雄編」より苛烈になってるし、薄々感づいてはいた景明と光の関係の真相も最後に開示される。これまでだって濃密だったのに更に上を行く展開の数々に魅せられ、魔剣・装甲悪鬼での閉幕で一息吐く頃には一気に疲れが襲ってきた。まあ八剣姫の必要性とか金神の力に捕まった時の時間旅行中に遭遇した "少女" と難破船の意味がよくわからなかったこととか単純に長すぎてダレたこととか不満もあるんだけど、それ以上に面白かった。しかしその後も「悪鬼編」が控えていた。

「悪鬼編」には最初はうんざりした。「魔王編」が綺麗に決着しただけに、死んだはずの景明を光が生き長らえさせるというご都合主義展開を入れてまで書かねばならないことが残っているようには思えなかったし、正直「まだ続くのか」という気持ちと「最後の最後に余計な蛇足を入れてせっかくの作品を台無しにされた」という落胆があった。しかしコンプした後には「悪鬼編」がないと『装甲悪鬼村正』の物語は成り立たないし、入れて正解だったのだと考えを改めた。「悪鬼編」で初めて景明は答えを導き出したのだから。

村正に関して印象に残っているのは、一人で腐っていく景明に「あなたって、どうしてそうそこまでどうしようもなくて、どうにもならなくて、どうにもしようがないのよ!」とブチ切れて何故か足コキをかますところとか、陰義を使ってまで料理を振る舞おうと四苦八苦していた場面とか、あとは村正とのイチャイチャ生活ではっちゃける景明に辟易する場面とか。ここらへんは楽しかったなあ。この後は絶対に絶望が待ち受けているんだろうと予測出来たので怯えながら見守る羽目になったけど、それはそれとして『村正』では貴重な安寧の時間には違いなく、景明と村正が好きな私もまったりとイチャイチャする二人を堪能した。特に散々セックスした後の景明の「有意義な時間だった」は清々しすぎて吹いた。そして劔冑である自分の存在が景明を戦いから完全に遠ざけることを許さず、結果として景明を苦しめていることに村正が苦悩する姿も切なかった。というか村正は善悪相殺への覚悟が、祖父や母親の信念と比べても浅いというか「祖父と母がそうだから自分も善悪相殺の理を掲げた」ように見えてしまうんだよな。実際そうだったんだろう。だからこそ罪悪感もある。でも村正が劔冑だからこそ景明と共にいられるのも事実で、どうしようもなくてどうにもならなくてどうにもしようがない景明に、何も出来なくても生きていいのだと言えるのも村正しかいない。景明の罪も葛藤も知らない他人からの許しは景明にとって苦痛にしかならない。だから景明の隣にいられるのも、景明の怠惰を肯定出来るのも、景明と同じだけ手を血で染めた共犯者の村正しかいなかった。

しかし雪車町が村正を襲うシーンは、絶対に何かがあるだろうとわかってはいても、というかむしろ絶望に叩き落とされるのがわかっていたからこそ震えた。ここでの挿入歌の使い方がまた上手く、愛する人を拉致られたのに追うことすらままならず理不尽を叫ぶ景明に、その景明自身がこれまで「罪のない人を殺す」という理不尽を強いてきた事実が跳ね返ってくる演出がえげつないなあ……。客観的に見ればここで嘆いて喚き散らす景明は無様で醜悪かもしれないが、それでも責められなかった。

そして雪車町と相対し、これまでの自分の悪行を頑なに否定して来た景明がここに来てついに「やりたいから、やったのだ」と肯定し、悪鬼になることを決意するシーンは壮絶。自分が村正を愛していることに気づきながら、その村正とも恋人などという甘ったるい関係ではなく善悪相殺という武を布くために二人で修羅を駆け、再び血に塗れる相棒関係に戻るのが切なくもたまらない。そして最期には互いの大事なものとして互いを捧げ合うことを誓うのがまた王道で萌えた。装甲悪鬼村正、始。

綾弥一条 (CV:海原エレナ)

これは英雄の物語ではない。それでも英雄はやってくる。

一人称「あたし」、乱暴な言葉遣い、景明の足を引っ張りがち、と苦手要素の多い一条は最初から最後まで好きになれないヒロインだった。空気の読めないヒロインとして描かれるのも辛い。何よりも過剰な正義感を振り翳す人間は周囲に迷惑をかける存在でしかないと思っている私には、正義厨を通り越して正義狂である一条への感情移入も難しい。一条が正義に依存するのはかつて正義のために父親をその手で殺したからで、それは母親を殺して後退出来なくなった景明と同じなんだけど、それでも一条を好意的に見れない。

序盤は「寄るなの一条」らしく攻撃的な空気を纏っていた一条が、景明が村正の仕手だと知ってからは急に態度を変えて景明に詰め寄るようにして協力を申し出るのがぶっちゃけウザいと思ったし、「英雄編」の普陀楽城潜入では不快指数が更に増加。特に桜子に父親を殺されてどう思っているのかを聞いた時は、モニタ画面ごと一条を殴りたい衝動に駆られた。挙句の果てには童心殺害。童心を殺せばどうなるかを考えず、ただ「悪人だから」という理由で殺してしまった。景明や親王、雷蝶の都合も何もかもを無視したあまりにも身勝手で短慮な暴走。そして今際の際の童心に「正義の名の下で人を殺した」ことを突かれて動揺し、景明に泣きつく。しかしこの時の景明と一条のセックスは一条よりも景明のほうこそが必要だったんじゃないか。ここで一条が折れたらまた自分の手で人を殺さなければならなくなるから、一条には何としてでも立ちあがってもらわねばならないという卑しい考えがあった。まあ処女の一条に五発はちょっと笑ったけども。鬼や。

しかし最終的に、私は一条の標榜する正義に文句を言えなくなった。正宗を装甲することで文字通り自分の身を削ってでも正義の刃を振るい、義清に「正義を以て人を殺めることも悪行である」ことを突きつけられて善悪相殺を理解し、しかし自分が結果的に殺した胎児の腐肉を飲み込んだ上で「それでも」と正義を貫徹したのだから。

私は一条を好きになれないが、これが一条の一条たらしめている核なので、例え私の苦手な部分であっても変えずにそのままでいてくれたことは好ましく見れた。私があーだこーだいうのは好みの問題なので、「一条の物語」を形成する重要な要素という観点から見た場合、一条のこの部分は失くして欲しくなかった。なくなれば一条は一条でなくなる。だから普陀楽城で一条にかんざしを贈る時、普通の少女のように照れて笑う一条を見て凡百の少女になった、と考えている景明には共感出来た。

そして景明と一条は決裂する。目指すものはどちらも大和国の太平なのに、どちらも自分の中の邪悪と正義を譲れないから互いを認めながら互いを否定するしかない、という熱い展開。一人殺せば殺人者、万人殺せば英雄とはよく言うが、それをどう捉えるかの違いなので二人の構図はシンプルでわかりやすい。「復讐編」のほうが好きだけどあれは私の最大級のツボと奇跡的に合致したからで、「英雄編」も一条が劔冑を手に入れたことで「自分がわざわざ手を汚さなくても誰かが銀星号を殺してくれるかもしれない」という逃げ道を景明に作ったのは面白かったし、善悪相殺をテーマにするのであれば「正義」もきちんと描かれなければならない。そういう意味でも「英雄編」も読み応えはあったし満足もした。景明が自力で善悪相殺の本質に気付くのも「英雄編」のみだった。茶々丸や雷蝶が呆気なく死ぬあたりは一抹の寂しさを感じさせるが、「復讐編」と違って銀星号との決着もつけられるのはいいんじゃないでしょーか。全裸パンチには呆気に取られたけど、そういうところも含めて「英雄編」らしいっちゃらしい。最後の景明と一条の戦いも、自分の腸で主人公を攻撃するヒロインが見られると思えば貴重な物語に出会えた気がしなくもないし、なんかよくわからないけどすごい神形正宗・最終正義顕現が出て来るあたりからはもう論理的な術理解説など知ったことか、と言わんばかりの根性論合戦に突入しており、いい意味での「普通の燃えゲー」ぽい空気があって結構好きかもしれない。体を両断されても戦い続ける一条さんはだいぶ狂ってますが、そりゃもう今更だ。

最後には景明と正宗が死に、一条と村正が生き残る。しかし大和国は更に乱れる。これが一条の正義の執行の結果なんだから生き残った一条には辛いだろう。例え善悪相殺を理解して覚悟していたとしても、かつての自分はとんでもないことをしでかしたのだということを突きつけられるんだから。それでも一条は正義を標榜し続ける。しかし正宗を失ったため、代わりに結縁したのはあの呪いの村正だというんだから笑えない。「ヒロイン同士が敵対しながらも手を組んで奇妙な友情が芽生える」なんて生ぬるいものは一切存在しない徹底した互いへの拒絶の中で、それでも互いに手を取り合うしかなかったという展開は美味しい。わかりあえないから殺し合ったのに、わかりあえない者同士で相棒にならなければならなくなったという結果は無慈悲な皮肉が効いている。一条のこの結末にはゾクゾクした。そして拒否し合いながら一人と一騎は今後も共に駆けるのかと思うと……。でもそういう風にしたのは一条で、一条は正義という悪行の結果を受け止める義務がある。逃げたら楽になれるんだろうが、一条の性格が、父を殺したことが、そして景明を殺したことまでもがそれを許さない。そういう意味では本当に景明に似ている。それと第二編での迷子の一条に景明が示した迷子対策が伏線として効いてくるのもぐっと来た。ちなみにこの迷子対策は「魔王編」でも活かされている。景明と真逆の道を自分が歩めているかを確認するために一条が振り返った時、そこには金神の時間歪曲に捕まって過去から来た景明が出現していた、という展開は運命的。ここで一条が景明に反応せずそのまま去っていったのは謎だけども。一条は「英雄編」以外では噛ませ犬になることが多くあまり活躍はないが、「魔王編」のこのシーンが一条関連のイベントの中で一番気に入っている。

ところで「英雄編」の中盤、景明と一条が入った蕎麦屋にいた店員は『ハナチラ』のあの子かな。懐かしいなあ。というか『村正』と『ハナチラ』は世界観が一緒なのかな。

相州五郎入道正宗 (CV:転河統一)

一番インパクトのある劔冑。七機巧があかん。特に肋骨が飛び出す隠剣・六本骨爪と腸が飛び出す割腹・投擲腸管がヤバかったが、共通しているのは攻撃しながら仕手にもダメージを与える点。一条だって仮にもヒロインなのに、おかげでヒロインにあるまじき表情差分の乱舞……。「身を削って戦う」という言葉がこれほどハマるヒロインもいないんじゃないか。おまけに正宗のキャラクタも結構アレ。

《クハーハハハハハハハァ!! その一撃が正義の怒り! その一撃が弱者の嘆きと知るがいいィ!》

《肥溜めの底で腐った糞尿より汚らしい血を撒き散らして死ねェ!!》

とか

《痛くない苦しくない! 腸なんぞ所詮は消化器、物を食う時以外は無くても困らん!》

とかもう色々ひどい。正義を体現する劔冑の台詞にしては馬鹿で過激すぎるが、まあ700年ぶりに暴れ回れてはしゃいでるのだと思えば……。ただ正宗が仕手に無茶苦茶を強いているのは確かだが、防御力が高く仕手への治癒能力も高いのであれば、仕手が覚悟さえすればむしろ高性能な劔冑なのかも。そういう意味では一条とは相性がいい。あと正宗は限界が近づいたら仕手の体を気遣っているので、決して仕手を使い潰すつもりではないこともわかる。おまけに因果応報・天罰覿面が強力。「相手が陰義を先に使わなければならない」ことと「相手の陰義に耐えなければならない」という限定された状況下でないと発揮出来ないが、ひとたび成功すればこれ以上の陰義もないんじゃないでしょーか。

大鳥香奈枝 (CV:吉川華生)

これは英雄の物語ではない。それでも科人は断罪れる。

最高の一言に尽きた。私が思い描いていた理想の設定と展開と物語が、理想を遙かに越えて現れてしまった。読んでいる最中は萌えのあまり震えが止まらなかったほどで、しかし同時に今後これ以上の物語に出会える可能性が殆どなくなってしまった不幸を嘆いた。

元々復讐劇が好きなんだけど、このルートはその「復讐」という要素をこれでもかこれでもかとばかりに詰め込んで掘り下げてくれたのが良かった。「銀星号を追うために善人も悪人も殺してきた景明」と「その縁者の復讐」の戦いの結末も壮絶だったけど、何よりも「愛する従兄弟を景明に殺されて復讐を誓う香奈枝」と「大恩ある義父を香奈枝に殺されて復讐を誓う景明」という互いが互いの復讐相手になる構図がツボ。そしてその構図を俯瞰できているのは香奈枝だけで、景明は復讐の相手だと気付かず香奈枝を「自分を裁いてくれる女神」として守ろうとする。この見事な擦れ違いが美味しすぎた。何より葛藤して葛藤して疲れ果てた男が悪魔のような女に一も二もなく跪く、という図は美味。復讐者よりも、復讐される側の景明のほうが景明自身を憎悪していたことが、復讐の体現者である聡明な香奈枝の唯一の誤算だった。これで萌え死ねないはずがない。

香奈枝は恐らく、署長が景明の義父だと知っていたら署長の頼みを断って親王を殺していたんだろう。景明の家族を殺してしまうと景明に正義として復讐出来なくなる。どっちもどっち、という図が出来上がることは香奈枝の本意ではない。村正の戒律を知りながらも雄飛を殺した罪を糾弾し、景明を「殺します」と言えたのも署長が景明の養父だと知らなかったから。だから景明に大切なものを奪われた自分もまた景明の大切なものを奪ってしまったことは、復讐の正当性を基準にする香奈枝にとっては痛い失点。

これは香奈枝のキャラクタ設定が秀逸だった。香奈枝にとって復讐とは殺戮欲を満たすための大義名分でしかないが、貴族としての誇りもあるから大義名分を決して疎かにはしない。だからこそ貴族の義務を果たす大鳥家の人間としての香奈枝と、殺したいがために復讐と言う名の正義を執行する殺人狂としての香奈枝が奇跡的に両立出来ていた。そして何の因果もなく歪んだ人間として生まれた香奈枝は、しかしものの道理をわかっているから自分が歪であることも理解しているし、自分が忌み嫌われて当然だと知っている。しかしそんな自分を景明が肯定してくれたから、香奈枝は情を抱いてしまう。

一方、景明は「自分を殺人者として処刑してくれる」という約束を親王と署長に反故にされて絶望していた。面倒なのは景明は決して死にたがっているわけではない点で、むしろ死にたくないからこそ自分は苦しんで死ぬべきだと思っている。だから殺人者として処刑する気がないと言われてしまった景明にとって、自分に復讐してくれる正当な断罪者の存在は救いでしかなかった。これは香奈枝という女神への信仰。絶望している人間にとって信仰は強力なもので、だから景明は香奈枝に跪いた時に思考停止した。以降、景明と香奈枝は罪人と断罪者という形でしか交差しなくなる。最後を除いて。

しかし香奈枝のほうはそうは行かなくなった。「憎悪の情が強い人間ほど、愛する情も深い」とさよが言っていたように、景明に情を抱いた香奈枝は悩む。自分に価値を見出さない景明に苛立ち、戸惑い、復讐者としてのアイデンティティの崩壊危機にまで陥る。景明は香奈枝を「信仰の象徴」としか見てないのに、一人で葛藤する香奈枝が少し可哀想でもあったけど、このどうにもならない一方通行に萌えた。香奈枝は景明のことでここまで揺らいだのに、景明はとうとう最後まで「大尉」としか呼ばなかったことが二人の関係を表しているようで切なかった。ああでも第四編の「ミリタリビッチ」は萌えました。

獅子吼と香奈枝の「もう一つの復讐の輪」も良かった。幼い頃に忌姫と呼ばれていた香奈枝に真っ直ぐな愛を向けて将来を誓ってくれた少年が、やがて香奈枝の復讐相手になる無情。それでも復讐の何たるかを確かめるために、獅子吼への復讐を香奈枝が果たそうとするシーンは燃えた。香奈枝は貴族としての務めのために、獅子吼は国への忠誠のために殺し合う。どちらも崇高な理由を掲げているが、根には復讐の連鎖が絡みついているのが大鳥家の終焉を示しているようで遣る瀬無くなる。そして獅子吼を殺して復讐の意味を悟った香奈枝の哄笑が、炎上する大鳥邸に響き渡るのがもう……。

景明が裁かれる前夜の絡みも萌えた。最初は香奈枝×景明で、後半はやっぱり発病した景明による言葉責め祭になっていたのが美味しかった。敬語+「大尉」呼び、てのがもうよくわかってるじゃないですか。香奈枝に獅子吼を思い出させて「不貞を愉しまれれは宜しい」とそれこそ愉しそうに景明が犯すのは笑った。性交悪鬼景明。

最後に景明の前にバロウズが現れた瞬間は、香奈枝の景明への想いが伺えてもうそれだけで泣きそうになった。自分を無価値だと思っている景明なら、例え香奈枝が養父を殺したと知っても裁きの刃を受け入れる。だから香奈枝は自分の正体を明かさず「景明の養父を殺したバロウズ」を装甲し、景明に裁かれるべき者として、唯一景明と対等にあれる人間として景明の前に立った。一方景明はバロウズを「香奈枝という裏切り者を抹殺しようとする武者」だと思い込み、自分を裁いてくれるべき女を守るためにそうとは知らずその女を殺そうと決意する。この構図が凄かった。そして景明だけが何も知らないまま、互いに復讐するための殺し合いへと香奈枝が導いたことで、これまでずっと「罪人と断罪者」でしかなかった二人がようやく初めて深く交わり合えたことに震えた。

香奈枝は「復讐は死者のものであり、生者のものではない」という結論に達していて、それは「復讐を執行する生者である自分」の気持ちすら省みることはない。だから「景明を殺したくない」と認めながら、あんな死にたがる男は(幸せになることが更に景明を絶望させることを承知で)思い切り幸せになればいい! と心の中で慟哭しながら、肉体は躊躇なく自分の恋心ごと景明を殺せてしまう。これは愛しているから憎い、憎いから愛している、という性質の愛憎ではないのが肝。愛も憎悪も相互関係はなく、愛は愛、憎悪は憎悪でそれぞれ別個として二つが同時に存在しているのが香奈枝なんだろうなあ。

そして景明も香奈枝を守るためではなく、養父を奪った憎い敵を殺すために戦うことを決意する。バロウズを斬った後に村正の戒律で香奈枝を斬ることになっても、香奈枝なら必ず自分を断罪してくれる。だからバロウズを憎悪で殺せる、という絶大な信頼。二人が結ばれたのはまさにこの時だけ。憎悪を互いに向ける時にだけ強く交われる。だから終盤の選択肢では、景明は「守るため」ではなく「殺すため」を選ばなければならなかった。そうして憎悪で交わった瞬間に、今まで一方通行の恋に翻弄されてきた香奈枝は殺人狂としても乙女としても狂おしいまでに歓喜した。壮絶すぎる。

戦闘も面白かったなあ。バロウズは石弓と剣が獲物なのでこれまでの武者とは違う戦い方をするのが新鮮だったし、終盤の複眼から血を流しながらチートとしか言えない陰義を繰り出してくる香奈枝に対し、景明が獅子吼の技で打ち破るのが燃えた。景明と獅子吼の関係や香奈枝と獅子吼の関係を思うと、ここで獅子吼の技が出てくるのは皮肉。

そして壮絶な戦いの末に静謐な終わりが訪れる。苦しみながら死ぬことを望んでいた景明にとっては、不満を訴えたくなるほどの安らかな最期。ここで表示される CG も素晴らしかった。雪がしんしんと降り続ける森の中で終わったのも美しかった。そうして復讐の連鎖を終わらせた香奈枝は本当にいい女だったなあ……。これほど滑稽で慈愛に満ちたハッピーエンドはそうそうない。恐らく景明にとっては一番幸せで不本意な結末。『装甲悪鬼村正』という作品で、景明が唯一得られた救い。景明を救えるかどうかは、香奈枝という生まれついての悪魔の女の情と決断ひとつ、と考えるともうたまらんよね。

と絶賛したものの「復讐編」にも欠点はあって、その最たるものが先述したように景明が善悪相殺の本質を知ることもないまま終わった点。まあ「英雄編」では光に諭されたことが気付くきっかけになったのに、その光が「復讐編」ではあっさり退場するもんな。「魔王編」のように村正の過去を知ることもなかったから、景明が善悪相殺の本質に気付くのは難しいんだろう。戒律に対しては最後に香奈枝に頼ることで開き直り、「復讐編」ならではの答えは一応出てるけども。それと銀星号や雪車町など、重要な敵が景明と関係のないところでバッタバッタと退場していくのが寂しかった。後はやたら多い選択肢の嵐。攻略情報を見ながらプレイしていたので攻略の難しさについては私が文句を言えた筋合いではないが、このゲームは選択肢が出るたびに動作が重くなるのでそういう意味では文句を言いたかった。必要スペックは満たしているのにフリーズするとは……。

香奈枝はギャグ担当でもあるので、真面目な場面で空気をぶち壊すこともあったけど、これはまあ好み次第かな。私は寒いと思う時と楽しめた時があった。一番笑ったのは鍛造雷弾投下阻止での景明の「冗談は糸目だけにして頂きたい」。吹いた。

地味に気になったのは「売国論」を書いた石馬左近将監。もしかして『ハナチラ』の戒厳かな。「復讐編」でも蕎麦屋の娘がいたからその可能性は高そう。

他には「魔王編」でも香奈枝が活躍していたのが印象的。パンツ教授の邪魔をしたり村正を普陀楽城内に送り込んだり。有能なおねーさんはいいですね。

足利茶々丸 (CV:金田まひる)

ビジュアルは好きなんだけど茶々丸の言動には苛立つことが多く、それでも結局は好きになれたので印象が二転三転した。他のヒロインは最初から最後まで印象は変わらなかったので、そういう意味で茶々丸は面白いキャラクタだった。

茶々丸に苛立った最大の原因は「神の声がうるさいから地中にいる神を引きずり出す」という途方もなさすぎる動機に感情移入出来なかったから。茶々丸が苦しんでいることはわかるが、なんつーか反応しづらい。茶々丸本人が自分の苦悩を他人に理解してもらえるとは露ほども思っていないから尚更。ただ生体甲冑として産まれてしまった茶々丸の過去には同情したし、父親の無責任な所業も酷いなと思った。茶々丸が謀略に強いのは人の声がどうしても聞こえてくる性質のせいもあるんだろう。だからあらゆるものを利用してのし上がって行った。しかし世界中の人間を敵に回すことを決意した茶々丸が湊斗兄妹に惹かれ、しかしその二人すら利用し、それでも最後には景明にわかりにくいヒントを残した優しさと愛にはぐっと来たなあ……。そして茶々丸 ED も、自分勝手な願いのためだけに世界中の人間を滅ぼした二人の選択は嫌いじゃない。

《世界のためって理由がついたら、何もかも諦めなきゃいけないのか?》

《世界が他の何かを犠牲にするのは許される、けど他の何かが世界を犠牲にするのは絶対許されないってのか!?》

特に茶々丸の動機には共感できなくても、村正による景明説得を阻止する場面でのこの本音は痛々しくて胸に迫ってくるものがあったから。それに父の愛を求めて世界を滅ぼそうとする妹、妹と世界を天秤にかけて妹を選んで世界を滅ぼした景明、自分の安寧のために世界を滅ぼした茶々丸の三人だけが生存している、と考えると面白い構図だと言えなくもないかなあと。でも割愛されてしまった雷蝶との戦いは見たかったなあ。景明と虎徹のコンビの戦いも気になるが、雷蝶が戦いで輝くシーンが欲しかった。

茶々丸の装甲形態については、頭だけ生身で格好悪いのが可哀想だった……。女の子なんだからさあ……いや女の子だからこそ顔を出したのかもしれないけどあれでは逆効果じゃないですか。ただ装甲時の口上は格好良かった。特に景明が唱える方。

「獅子には肉を。狗には骨を。龍には無垢なる魂を」

「今宵の虎徹は――血に飢えている」

この時の景明は余計な葛藤の諸々が吹き飛ばされた状態で、傲岸不遜になっているから尚更格好良い。そうそう傲岸不遜と言えばエロシーンも酷かった。六波羅に連れてかれた直後で驚いたし、挿入するには濡らさにゃならんけど前戯が面倒だから酒で濡らせ、と言い出す景明の鬼っぷりにも吹いた。それで茶々丸がうっとりするのも笑ったけど、あれも人間としても劔冑としても中途半端でしかいられない自分を徹底的に道具として扱ってくれることに喜びを見出していたということで、一応伏線とも言えるんでしょーか。

あと第三編で奇跡について雷蝶と話していた時の「奇跡は起きないから鬼籍って言うんですよ」という発言が何気に忘れられない。「魔王編」だと護氏に同性愛疑惑を持たれた時の「あてはちんちんとかちゃんと好きだ! 見たことないけど!」も可愛かった。

湊斗光 (CV:九条信乃)

一言で言えばエレクトラコンプレックスの塊。母を憎悪し、それが高じて世界を滅ぼし、産まれた時点ですでに奪われていた父親を奪い返そうとした娘。この光の世界を滅ぼそうとする理由が筋が通っているような印象を受けて、私には納得出来てしまったのが恐ろしかった。世界を巻き込んだ家族喧嘩と捉えると大迷惑以外の何物でもないけども。

ただ、光は最後まで好きになれなかったな。景明の葛藤や思いにはほとんど同調しながら読めたけど、葛藤の根である光が好きになれなかったのでそこだけは感情移入出来なかった。俺っ娘は特大地雷なんだよなあ……。けど憎悪している母親への態度の生々しさは興味深かった。母への憎悪を真っ直ぐにぶつけるようなことは普段はしないのに、母を憎んでいるのがわかってしまう。あれは本気で嫌いになった人間への接し方だ。面白かったのは「体位(タイ)が曲がっておるわ!」のシーン。実に光さんらしい一場面でした。

しかし光は好きにはなれなかったものの、実は光が善悪相殺の理を真に理解していない人間として描かれていたのは面白かった。光はどのルートでも葛藤する景明に村正の理を諭すが、光自身は結局最後まで憎悪で人を殺さなかった。つまり彼女は村正の戒律を知識として知っているだけ。逆に景明はその手で何度も敵を、悪人を、憎い人間を斬り、そのたびに味方を、善人を、愛しい人間を斬って来た。一条も正宗を得て人を殺してからそれを理解したし、香奈枝はすでにその点を弁えた上で人を殺している。でも光にはそうした経験がない。母を憎んだが、母を殺したことで景明を殺してしまうことを厭い景明に親殺しを代行させた。だから「英雄編」で殺人という行為を他人に押し付けた景明を詰る光は、自分の行いを棚に上げて他人を説教するという醜態を晒している。というわけで光には村正の仕手としての実感は恐らくないんじゃないかなあ。そういう意味では光と銀星号は心甲一致を果たせてないとも言えるんじゃないでしょーか。「魔王編」の堀越屋敷で光が嫉妬で村正を殺しかけるシーンがあったが、あそこで村正を殺し、その手で景明を殺した後の光がどうなるのかは BAD ED でもいいから見たかった。

しかし心甲一致を果たせてないとは書いたけど、それでも銀星号の脅威は十分すぎるほどに伝わってきた。光は徒手空拳だから武者の戦いの基本を無視していて、それでも圧倒的な強さを誇るのがすごい。まあ光の強さの原因は辰気操作と光自身が夢(夢想状態)だから、てのがあるんだけど。そいや光が景明の見ている夢を操作出来たのも、光自身が夢だからだと思えば納得も行く。いやああの一連のイベントは面白かったなあ。

しかしそんな神にも等しい強さを持つ光も、景明との最終決戦では変わってくる。序盤は馬鹿らしいほどの強さを見せつけてくれるもののやがては追い込まれ、それでも景明を執念深く求める光の姿からは神としての風格は失われた。「往生際の悪さは頂けぬ」と右京に諭したことを思えば光の執念深さはまさに「お前が言うな」なんだけど、この子もこんなにみっともない面がある年相応の子供らしい子供だったのか、と初めて実感出来た。それでもやっぱり最後まで好きにはなれなかったけど。

最後は景明が憎悪している自分を殺すことで光を殺すという、善悪相殺の理に沿った魔剣装甲悪鬼にて決着。この決着の付け方は予想出来ていたが、挿入歌の効果も相俟って実際にその場面が来ると鳥肌が立った。これは光への愛と共に景明の己への憎悪の深さも証明されているので遣る瀬無いが、これ以外の決着はあり得なかった。結局景明が光を妹として愛していたのか娘として愛していたのかは語られなかったが、光は父からの愛情の存在を信じられたんだろう。そして善悪相殺の理を真に理解していなかった光が初めて理解出来たのは、善悪相殺の戒律によって殺されたこの瞬間だった。

「復讐編」での銀星号の成れの果ては結構強烈。そりゃ景明も絶叫する。

勢洲右衛門尉村正二世 (CV:北都南)

あまり印象に残ってない。話題を挙げるとすればアホの子気味な光に突っ込みを入れるところとか、娘の三世村正にやたら厳しすぎるところくらいか。

「才なく心なく刀刃を弄んだ愚物! 相応の惨めさで果てるがいい!」

これは『ハナチラ』が好きな私にはたまらない台詞だったけど、フルボッコにされる村正が痛々しくてやはり母親より娘のほうが印象に残ってしまった。

雪車町一蔵 (CV:氷河流)

実力最強クラスの主人公の宿敵。この手のキャラクタは普通なら若いイケメンで敵のエースとして据えるだろうに、敢えてチンピラの卑屈なおっさんてのが素晴らしい。グリーンでリバーでライトな声でこのキャラクタ、ってほんと英断にもほどがある。そしてその人が善人にしろ悪人にしろ「真面目に生きている」のであればすべての人間を愛する雪車町が、少なくても作中の描写を見るに唯一嫌っている人間が景明で、そんな景明を真剣にストーキングしているのが面白い。それも景明に執着するようになったきっかけが「景明が人を殺して泣いているところを見たから」てのがもう美味しすぎる。

出番は多くないが、雪車町との戦いは名場面が多い。第二編でバイクに乗って逃げようとする雪車町を追うシーンは右京戦や小太郎戦よりも面白かったし、第四編の金翅鳥王剣に至っては、景明を容赦なく言葉で追い詰めた末の絶妙なタイミングでの披露だったせいもあって震えた。そして雪車町本人との戦いだけでなく、雪車町は景明を嫌うが故に誰よりも景明のことを理解しており、如何にすれば景明を効果的かつ最大限に苦しめられるかを知り尽くしているのが一番の脅威。「英雄編」では一条に景明の罪を暴露して一条に弾劾させることで景明を苦しませ、「復讐編」でも GUTS EIDER を仕向けてやはり景明の心が壊れかねないほどに追い詰めた。「悪鬼編」では町の人々を助けて自分にも出来ることがあったのだと救われた気持ちになりかけていた景明に、彼が殺人者であることをやはり暴露して再び景明を絶望に陥れた。クリティカルすぎる。

そして「悪鬼編」のラストですべてが収束する。逃避しようとしていた景明の隙を突いて村正を刺す場面は、恐らく景明が一番苦しんだ場面でもある。自分を誰よりも憎んできた景明が、唯一自分よりも憎悪を向けたのが雪車町。憎悪ってのはつまるところ、どちらか一方だけでも相手をそれだけ理解していないと湧き上がって来ない感情だな、とここで改めて実感した。雪車町は本当に景明以上に景明のことをよくわかっている。この景明の憎悪は雪車町に誘導された感情だが、だからこそ自分に向けるもの以上に純粋で重い。

しかし自分は苦しむべきだと考えている景明にとって、実は雪車町はいなくてはならない人じゃなかったか。確かに村正が刺される前の景明は束の間の幸せを得られていたが、雪車町が何もしなくてもそれは崩れていた。例え善行して救われた気になっても、罪からは逃れられない。快楽や酒に逃げようと村正の与える甘さに溺れようと景明は結局割り切れない。こんなことで救われるならもっと早くに楽になれていた。

永倉さよ (CV:千代鈴)

バルトロメオに勝てるくらいだから生身としては最強クラスだよねこのおばあちゃん。そんなさよを震え上がらせた香奈枝はどれだけ恐ろしかったのか。大鳥主従のコミカルなやり取りは寒い場面もあったけど、『村正』という作品が重すぎるので息抜きになることもあった。香奈枝に仕える身でありながら主人にも容赦のない突っ込みを入れるスタイルは結構好きだったなあ。しかしエリザベート・バートリィは強烈なエピソードのせいか創作の世界ではよくネタにされるけど、まさか『村正』にも出て来るとは思わなかった。あと「魔王編」での時間旅行中のまさかの邂逅とか何気に美味しい。

装甲すると吸血して若返るのはまあいいとして、エロシーンまで用意されていたのは驚いた。しかも「光を失って腑抜けになってしまった景明に活力を与える」という結構重要なセックスだったもんなあ。しかしいくら若い美人に戻ったとはいえおばあちゃんスタイルのさよを結構長い時間見てきたので、どうしても本来のさよの顔がチラついて不思議な感覚で二人の行為を眺める羽目になった。しかし慈愛に満ちたセックスであれば例のアレが発病しないあたり、景明さんてやっぱりとんでもねえマザコンなんですね……。

菊池明堯 (CV:祭大!)

結局誰が一番悪かったのか、と問われたらこの人かもしれない。どうしようもなかったのはわかるんだけど、まだ幼い景明に湊斗の婿としての責務を押しつけたのは明堯の罪。血は繋がっていなくても父親なら尚更明堯が息子のために、そして妻と産まれてくる湊斗の娘のためにも諦めずに抵抗するべきだった――のだけど、かといってどうすれば良かったのかと問われても私には結局答えが出ないのがもどかしい。

印象的だったのは「魔王編」で建長寺襲撃の際に景明と対峙する場面と、神になった光を見上げながらの景明との最後の別れの場面。前者は二人が初めて敵対することで、これまでベールに隠されてよく見えなかった二人の複雑な関係が浮き彫りになっていたのが面白かった。ここでの景明は精神汚染の影響で疑似無我状態になっているため恐ろしく強く、明堯すらも殺してしまいかねない勢いだったが、景明がこの時点で明堯を殺してしまうと景明にとっては更に救いがなくなるので冷や冷やした。母親を殺し、更に妹であり娘を殺さなければならない状況なのに、更にここで父親を殺したとあっては……。護氏暗殺の代償として署長を殺す覚悟をしたことはあったが、あれは景明が自分の意志で決断したんだからまだいい。景明の本来の意志が剥奪されている状態で父親を殺してしまえば、更に景明は追い詰められてしまう(本来の意志さえ戻らなければ景明は何とも思わないだろうけど)。奈良原氏ならそこまでやるんじゃないかと思ってたんだけど、そうはならなくて安堵した。結構本気で心配してたもんなあ私。

最後の別れは遣る瀬無かった。景明の養父に向けた「貴方の出る幕こそ、もう何処にもない」の一言が重い。これを言わなければならなかった景明の気持ちを思うともう……。

舞殿宮春煕 (CV:深川緑)

六波羅GHQ とも彼なりに渡り合えるんだから、親王は有能な人なんだろう。毎度毎度親王と署長の企みが六波羅に看破されっぱなしだという印象もあるが、相手が悪辣さにかけては百戦錬磨の六波羅からしょーがない。

「復讐編」と「悪鬼編」を見るに親王と署長は景明を処刑するつもりがないらしく、そこはどうかなあと思った。景明を殺人犯として処刑することの是非はともかく、約束というか契約を反故にされた形の景明にとってはたまらないものがあるだろう。これは二人の罪悪感や優しさから来ているのかもしれないが、だとしても「悪鬼編」の態度を知って親王と署長への印象は悪くなった。娘を殺し、目的もなくなった景明がこれまでの罪に苛まれることはわかりきっているだろうに、そこでお前を処刑するつもりはないと言ったまま放り出すんだからちょーっと無責任が過ぎる。親王は嫌いじゃないし、あの朝廷の人間らしくない軽いノリ自体は結構気に入ってるのだけども。

足利護氏 (CV:秋山樹)

「英雄編」と「復讐編」では景明が護氏暗殺依頼を辞退するのでよくわからないままあっさり死んでしまった印象があり、大和国のトップなのに影が薄かったけど、「魔王編」でようやくその真相が明らかになると共に護氏との戦いが描かれる。でも出番らしい出番は本当にそれだけだった。正式に帯刀ノ儀を交わした景明と村正の初陣としては申し分ない相手だし、王についての問答や髭切を駆る護氏が狭い室内で合当理を吹かして壁を蹴るという滅茶苦茶な戦法で逃げ切るなど一応見せ場はあるんだけど、その後銀星号に一蹴された挙句に茶々丸に止めを刺されてしまうからなあ……。しかしこれで八幡宮の消滅の真相は理解出来た。恐らくどのルートでも光が護氏に覇者の何たるかを問い、回答に落胆し、止めは茶々丸が刺していたんだろう。しかし光は「愛がない」という理由で否としたが、「ただ奪いたいから奪う」という護氏の動機もシンプルで、シンプルだからこそ強いし馬鹿に出来ないんじゃないかな。実際六波羅の将として大和を治めていたのだし。これで護氏がもう少し魅力のあるキャラクタとして描かれていれば良かったんだけどな。

ところで「魔王編」では景明が茶々丸の副官として六波羅につくことになるが、そこで読者が四公方の魅力をより一層見せつけられることになるのが面白い。立場によって善悪の判断が変わる、という『村正』のテーマを読者に体感させているのは上手いなあ。まあ六波羅の軍装を身に纏う景明が見れただけでも美味しすぎるんですけども。「光を救う」こと以外の無駄が全部取り除かれて傲岸不遜になったことといい、村正好きとしてはちょっと辛い気持ちがありつつも、景明が六波羅に属する展開は楽しかった。

遊佐童心 (CV:居口伝衛門)

噛ませ犬だろうと思ったらとんでもなかった。「英雄編」の能舞台での所業を見るに確かに悪徳坊主なんだけど、彼は自分が悪いことをやっている自覚があり、「いかにも!」を連呼しつつ桜子を犯していた時の様子からもわかるようにそれを敢えて楽しんでいて、でも悪いことをしているから正義の英雄が自分を倒しにくるのは当然だとも思っていて、その上で英雄を踏み潰してこその婆娑羅公方だと自負しているところがいい。悪いことを真剣に楽しんで遊ぶ欲望に忠実な僧で、悪い人だけど見ていて清々しい。特に「英雄編」で一条戦に敗れた時も悪足掻きはせず、むしろ正義を執行するということは悪を「殺す」ということでもあるのだと、呪いのように告げたまま高笑いをして死んでいったのが印象に残っている。負けたのは童心だが、貫録という意味においては一条の惨敗。

「魔王編」では堀越屋敷で景明に夢想と無我についての助言を残し、景明が茶々丸の副官となってからも景明の有能さを認め、GHQ 戦の最中に銀星号が降臨した際には殿下を雷蝶に託し、自分は負け戦と知っていて銀星号に立ち向かって行った。六波羅のためでもあったんだろうが、それ以上に婆娑羅公方しての誇りが銀星号との一騎討ちを望んだからやったことで、光との問答は童心相手ならではのやり取りで面白かったし、光に褒められて嬉しそうにしていたのが可愛かった。あと中の人が楽しそうに演じていたのも良し。

今川雷蝶 (CV:杉崎和哉)

ライナーノーツで言及しているスタッフがいたが、作中で全裸を曝した貴重な人。雷蝶様のモーニング・ビューティ・タァイムは「英雄編」での最大の萌えシーンだよな間違いなく。そして同時に最大の不遇担当でもあるのが……。六波羅最強なのに、景明の見立てでは光に匹敵するほどなのに、銀星号にも万が一の可能性があるとまで言われているほどの実力の持ち主なのに、実際「英雄編」では銀星号の母衣にダメージを与えたのに、「魔王編」では一条と正宗をあっさり一蹴したのに、GHQ との戦争では無双したのに、装甲した茶々丸ですら瞬殺したのに、茶々丸 ED でも景明と虎徹を相手に死闘を繰り広げたのに、肝心の描写のことごとくが割愛されてしまうという……。なんでや。キャラ的にも強さ的にも人気が出るのはわかっていただろーにこの扱い。勿体なさすぎる。

大鳥獅子吼 (CV:蒼井大地)

この人も噛ませ犬かと思いきや、獅子吼は獅子吼としての魅力を十分に発揮しつつ、活躍もちゃんとあったのが嬉しい誤算。特に「復讐編」と「魔王編」ではそれぞれ違った視点から獅子吼の良さが見られるのが美味しい。「復讐編」ではかつての主人への忠誠をまだ失っておらず、本来なら主人の影に控えるべき自分が表に出なければならなかった苦悩を抱える忠臣としての獅子吼が、「魔王編」では六波羅の公方として、大和国のために真剣に命をかけられる武士としての獅子吼が見られるが、どちらも魅力的だった。

「復讐編」は香奈枝の敵として登場。選択肢の嵐が鬱陶しいが、それを差し引いても「兇器に銘など無用!」という痺れる台詞に始まり、武者の正道からはかけ離れた攻め方をしてくる獅子吼に景明が苦戦し、しかしここでの戦いが最後の香奈枝との戦いを制するきっかけになるのが燃える。ちなみにこの時の景明と獅子吼の戦いは、香奈枝さんにとっては復讐すべき相手同士の戦いでもある。何より二人が兄弟である可能性を思うと、そして肝心の二人がその事実に気付かないまま殺し合っていることを思うと、なんというか胸に熱いものが込み上げてくる。銘伏も名前がないことといいフォルムといいかっこいいんだよなあ。装甲時の口上がないところもいい。実は一番好きな劔冑。

香奈枝と獅子吼の関係も燃えるし萌える。「復讐編」は景明と香奈枝の関係に萌え死んだが、この二人の関係も良かった。かつては婚約者同士で、獅子吼は香奈枝を真剣に想っていたし香奈枝も獅子吼に惹かれるものはあったかもしれない。しかし香奈枝の父親が獅子吼の主人を殺したも同然の事件が起こり、獅子吼は香奈枝の父親に復讐した。そして父親を殺された香奈枝にとっては獅子吼が復讐の相手になってしまうという哀しい連鎖。しかし香奈枝は獅子吼を復讐すべき相手だと見定めた後も、きちんと操を立てていたというのだからもう萌え死ねる。そんな獅子吼に「大義名分が出来てしまったから」羽虫のように殺し、復讐のなんたるかを理解してしまった時の香奈枝の哄笑は強烈だった。

そして「魔王編」では景明が六波羅に所属することもあって、獅子吼の強烈なデレが見られたのが衝撃的。初対面で辛辣なことを言う湊斗中佐を大層気に入って、長くもない時間で「悪くない」を五回も言うほどで笑った。かと思えばその後の湊斗中佐の有能ぶりを目にして食事に誘い、茶々丸を切って俺のところに来いと誘いをかける始末。理由を問う景明に生き別れた弟を思い出すのだと告げ、自嘲して照れる獅子吼がもう素晴らしい。

「ふん。下らん。馬鹿馬鹿しい。これでは妄想狂だな。ああ、下らん。ふん……俺も先は長くなさそうだ。馬鹿め」

「貴様を側に置いて、俺は同じ血肉で出来た弟と一緒に生き、一緒に戦う、そんな心地を味わいたいらしい。下らん……下らんな!」

「俺としたことが!」

こちらは「下らん」を六回も連呼。よほど景明を引き抜きたかったんだろう。大鳥家に来てからの獅子吼の名前が大鳥新で、湊斗家に来る前の景明の名前が改次郎だったことからしてもこの二人は本当に兄弟である可能性が高く、兄弟としてのささやかなやり取りはこの一瞬の食事の時だけだったのかと思うと切ない。

しかし明らかに怪しいのに、何故獅子吼は茶々丸会津に行ったことを看過したんだか。散々茶々丸は油断ならんとか阿修羅だとか言ってたのに肝心な時にはスルー……。

GHQ 戦では獅子吼の援軍が間に合うかどうかがキーになっていたので、古河を GHQ に抑えられつつも少数で向かうことを即断し、ギリギリで摩天蛟で駆け付けた獅子吼には燃えた。そして竜気砲を採用した零零式が登場して GHQ を圧倒するが、これが反転して後の地獄を生み出すことになるのが皮肉。

最後は茶々丸の策略に嵌まったことに気付くが、「馬鹿な!」とわめいたり茶々丸を罵ったりはせず、「自分もかつてはして来たことだ」と潔く受け入れつつも最後まで足掻いて散った姿に、「英雄編」でも最後の最後まで諦めずにしぶとく生き抜こうとしていた獅子吼を思い出して震えた。本当に魅力的なキャラクタだった……。

柳生常闇斎 (CV:空乃太陽)

さよと並んで生身の人間最強かもしれない。一応村正は名甲のはずなんだけど、そんな村正を駆る景明を相手に圧倒するバルトロメオって一体……。室内だったからとか景明のほうは余裕のない状況だったからとか色々理由はつけられていたものの、そんなものは瑣末な問題だよなあ……。あ、ちなみにここで瑞陽さんを褒めていたのが、瑞陽さん好きとしては何気に嬉しかった。本当に強かったんだなあの人。

「魔王編」で GHQ に襲撃をかけた時のさよとの因縁の戦いの行方は知りたかった。「悪鬼編」では香奈枝と会話しているさよが見られるので、恐らくさよが勝った(あるいは引き分けた)んだろうけども……ああそういえばさよには吸血装甲があるもんな。

足利四郎邦氏 (CV:小倉結衣)

邦氏といえば桜子との幼い恋。勝者の息子が敗者の娘を想う展開は好きなんだけど、これは『村正』だから二人が結ばれて幸せになるような展開はない。自分の目の前で好きな女の子が犯されるとか、まだ幼い邦氏には惨すぎる。しかし「英雄編」での童心のこの乱痴気騒ぎは鬼畜の所業だったが、「魔王編」の茶々丸のしたこともえぐい。桜子に刺され、その後自分の立場を理解して桜子を殺した邦氏のことを思うともう……性根が健全な彼からは明るい未来を感じさせられただけに(といいつつ二人のこの結末には萌えた)。

義清 (CV:木村あやか)

一条には悪人にしか見えなくても見る人にとってはそうとは限らない、ということを痛烈に一条に叩きつける役。ここは一条にとっても越えるべき最大の壁だったが、正義を執行したことで生まれる前の赤子を殺してしまった事実を受け止められるか否かで一条と正宗の反応が違ったのは興味深かった。正宗が受け止められず壊れかけたのに対し、一条が受け止めた上で乗り越えられたのは、正宗は元寇の時に抱いた義憤だけでここまで来たが、一条は父親を殺したという呪いがあるからだろう。呪いは義憤よりも根が深い。

ところで童心様は男の子も食っちゃうんでしょーか。「魔王編」での湊斗中佐への褒美の内容からするに、義清は攻めも受けもやれるらしい。ということは義清×童心の可能性もなくはないわけで、ぶっちゃけ童心なら本当にあり得るのがまた。

クライブ・キャノン (CV:転河統一)

派手な活躍こそないものの、差別なく優秀な人材は大和人だろうがなんだろうが使うし、本人も有能で結構好きなキャラクタ。雪車町と酒の話をするシーンもいいし、「魔王編」でパンツ教授を追い詰めたつもりで逆に追い詰められた時もかっこよかった。

「神に祈る者、神を敬う者、神を知らぬ者、神を罵る者が勝者になった例はある。しかし、神に縋る者は常に敗者だ」

名言。しかし教授が鍛造雷弾を使いたがっているのは露骨すぎるほどでクライブも早いうちから不審を抱いていたのに、糾弾するのが遅すぎたのが惜しいな。

ジョージ・ガーゲット (CV:瀬路啓維)

偏見と思想がはっきりしていていっそ清々しいくらいのキャラクタだったが、活躍というほどの活躍があったのかと問われると……。荒覇吐は欠陥兵器ではあるけどメチャクチャなところが厄介で景明にとっては難敵だったし、その後の雪車町戦は更に熱い戦いが繰り広げられるし、謎の英雄と六波羅を潰し合わせて漁夫の利を狙うも最後には銀星号が全部掻っ攫っていくのでアスカロン VII は影が薄かった。あーでも銀星号の "卵" が初めて孵化する宿主としては一応重要な役割を果たしたと言えなくもないか。

チャールズ・ウィロー (CV:秋山樹)

悪い人ではないんだろうけど、教授の真意を見抜けるほど賢くもなかった。GHQ ってほんとクライブ一人で持たせていたよーなものだったんだろうなあ。

トーマス・コブデン (CV:J一郎)

ありがちなダメ上司。しかし「復讐編」の親王と署長は何故このおっさんを利用しようとしたのか。あれ? 二人が直接コブデンを指定したわけじゃなかったんだっけか。その辺はもう有耶無耶になってんな。それくらい印象がない。

ウォルフラム・フォン・ジーバス (CV:野☆球)

茶々丸と結託して裏で暗躍する厄介なおっさん。少女のパンツを脱がすことに情熱を傾ける変態ぶりはともかく、緑龍会周辺はあまり面白くなかったな、てのが正直。神云々はどうでもいいんで、ストレートに六波羅GHQ親王との戦いだけを描いて欲しかった。宗教じみた団体が絡んできて暗躍する展開は好きじゃないんだよなあ。ところで "リトルガール" はやっぱりリトルボーイを捩ったんでしょーか。

パンツ教授のパンツ論にわざわざ付き合う景明は真面目が過ぎるというか、パンツ云々はともかくとして案外この二人は馬が合うのかもしれない。

ルービィ・サシュアント (CV:竹田いづも)

キャラクタは強烈なのに出番は一瞬。この人はウィローだけを殺したけど、本当に殺すべきはパンツ教授だった。そうしたら茶々丸と景明の目論見はパアになっていた。

何気に生粋の大英連邦派としては唯一のキャラクタ? 香奈枝さんも実はそうだけど、あの人はやっぱり根が大和人だと思うので除外するとこの人だけになる。

大鳥花枝 (CV:河合花華)

ビジュアルだけならこの子がダントツで一番好みだったし、あの一筋縄では行かないキャラクタもいい。登場してすぐに発せられる台詞がもう最高だった。

「お前の言葉なんてうんこにしか聞こえんわ。うんこうんこうんこうんこうんこうんこ」

この言葉を向けた相手が獅子吼っていうのがまたいいじゃないですか。獅子吼による花枝調教は見たかった……見たかった……。

岡部桜子 (CV:まきいづみ)

書かなきゃならないのはやはり「英雄編」での童心の悪徳ぶりがこれでもかと出る能舞台の場面。敗将の娘としての誇りを捨てない桜子に敬意を表したのは童心の本心だろう。しかしそれを穢すことに童心は愉悦を見出す。だから桜子の兄の頭蓋の杯で酒を振る舞い、父の顔の骨を削った面を渡し、多くの観客の前で桜子を凌辱した。それも邦氏の目の前でやったのが外道。「英雄編」では六波羅から逃れてその後は一条と志を共にすることになるが、「魔王編」ではやはり童心に能舞台で凌辱された挙句、茶々丸の策略により邦氏を殺し殺される結末を迎えるのでこちらもまた惨い。とことん報われない娘。

黒瀬童子 (CV:野☆球)

印象に残るのは「魔王編」で真打を装甲しているのに、疑似無我状態とはいえ生身の景明を相手にあっさり負けたことか。まあ印象に残るのは黒瀬童子ではなく景明のほうなんだけど。しかし兜割って結局どういう技なのかよくわからないんだよなあ。奈良原氏は技が出るたびにねちっこく説明するのに、兜割だけは細かい描写がない。トランス状態になって初めて出来るスーパー技らしいけど、理屈じゃないってことなのか。

新田雄飛 (CV:葵海人)

本作は第一編だけ主人公が異なるが、そうすることで『村正』という作品の本質を読者にわかりやすい形で示していた。毎朝起こしてくれる少女がいて、ちょっと変だけど有能な親友がいて、主人公はやりたいことが見つからず宙ぶらりんなまま今を過ごしていて、更に実は名門大鳥家の嫡男で、強烈だけど美人な婚約者もいるしその姉にも愛されていて、何よりも絶望の中で悪に立ち向かう勇気を持っている。そんな主人公斯くあるべしな要素を全部持っている雄飛が、最後には正義の味方だと信じていた者に首を刎ねられる。そうして『装甲悪鬼村正』は「そういう話」なのだと、これ以上ない形で知らされる。だから最初のエピソードだけは雄飛の視点で話が語られる。憎い構成だ。恐らく『村正』でなければ、雄飛は間違いなく主人公でいられたんだろう。それでも第一編は手を抜くことなく雄飛たちの姿をきちんと描いてくれていたのは良かった。雄飛が鈴川に怒りを剥き出しにするシーンは燃えたもんな。だからこそ最後には殺される衝撃が大きかった。

来栖野小夏 (CV:まきいづみ)

王道ヒロイン系キャラクタ。ヤクザに絡まれているところを雄飛に助けられるシーンは正しくヒロインをやっていたんじゃないでしょーか。小夏は前から雄飛を好きだったんだろうけど、ああして庇われたら雄飛に惚れるのもわかるし、やはり他の作品であれば雄飛と喧嘩しながらも恋人になって幸せな結末を迎えられたのかもしれない。鈴川に脅されても屈しようとしなかったのも良かった。結局はえぐい目に遭うけども。しかし『村正』の最初のエロシーンが達磨て……。更に好きな男の子の目の前で別の男の子に強姦され、処女なのに中に出された挙句尿を裸体や口にもぶっかけられる始末。惨い。

しかしその後は更に惨い展開が待っていた。共通ルートのキャラクタをその時のエピソードで使い捨てず後半でも活かしてくるのはいいんだけど、その活かし方がまさに奈良原悪鬼。雄飛を殺した犯人への復讐心を利用される形で「復讐編」で再登場させられるが、この展開は景明にとっても小夏にとっても不幸でしかない。自分は断罪されるべきだと考えている景明にとって小夏は失ってはならない人間なのに、そうとは知らず GUTS EIDER と戦ってしまう。そして自分の手で自分を罰する人間を殺してしまったも同然の景明が絶望して嘔吐するシーンは痛々しすぎた。雪車町はどうすれば景明にダメージを与えられるのかをよくわかっている。目の前で小夏たちの死体がバラバラになるのもえぐい。

ちなみに私が一番恐怖を感じた敵は GUTS EIDER だった。特徴のある中の人の声質も相俟って台詞がヤバい感じにカッ飛んでいて震えた。合体シーンも血が飛び交っているところを見るに、仕手の肉体同士をそのまま乱暴にくっつけているらしい。ひでえ。しかしそんな相手にも、君は素人だから自分を倒したいなら今は撤退してちゃんとした師匠について勉強したらいいとか律儀に忠告する景明に笑った。第一編での鈴川戦や「英雄編」での最初の一条戦でもそうだったけど、敵にアドバイスしたがるのは景明の生真面目な性格故なんだろう。景明のそうした態度に一条が怒るのは当然だが、敵からすれば舐められているとしか思えない態度も、景明にとってはそんなつもりはなかったのだなあと。

稲城忠保 (CV:竹田いづも)

頭はいいし空気は読めるし夢に向かって努力もしているし、ヤクザから小夏を守ろうとした雄飛に付き合うだけの勇気と友情もある忠保が、鈴川に捕まってからは小夏を強姦するよう強制され、失明させられてしまったのが見ていて辛かった。小夏強姦は小夏もそうだけど忠保も被害者。更に鈴川は忠保の夢を知っていた上でそれを奪った。

雄飛と小夏は「復讐編」で重要なキャラクタとして再登場するが、まさか忠保まで「魔王編」で出てくるとは思わなかった。ある意味では他の二人より重要な役割を持っており、村正に人を殺した罪の重さを教えるのが彼だったのは意外。雄飛を殺した犯人を憎むが、雄飛の死を無為にすることが許せないから復讐はしない、という考えは年齢を考慮すると達観しすぎな気もするが、残酷な事件の被害者になったからこその達観でもあるのかな。まあ忠保は序盤から達観気味なところがあったけども。ヤクザに絡まれた時に土下座する景明を見て雄飛は幻滅していたが、忠保はしなかったんじゃないかなあ。

飾馬律 (CV:北都南)

ゲーム開始時点ですでに殺されているキャラクタなのに、数度台詞が出るだけで印象に残るくらいには強烈。恐らく雄飛を好きだったんだろうが、だとすると雄飛は小夏、律、香奈枝、花枝に好かれていたのか。いやもー本当に主人公らしい子だったんだなあ雄飛は。

鈴川令法 (CV:相馬ユウタ)

WW2 周辺以降をベースとした独特の世界観と設定を、第一編の学生主人公の授業という形で説明するのは基本。説明が延々続くので少し辛いが、特に世界情勢はここできちんと理解しておかないと今後はついていけない。しかし鈴川は六波羅への憎悪を隠そうともしないので、第一編の犯人はわかりやすかったなあ。表情差分が顕著だった。

美しいものを愛するが故にそれが醜くなることを恐れ、美しいまま壊そうとする思考回路を持つキャラクタは珍しくはないしありきたりだが、中の人の演技に熱が入っていて最後の授業は思わず聞き入ってしまった。しかし強姦させたいのに恐怖で役に立ちそうにない教え子の性器を一瞬で勃起させたのは吹いた。陰儀の無駄遣いにもほどがある。

井上和泉守国貞 (CV:滑川菊太郎)

性格も性能も文句なしの名甲なのに、仕手が屑で素人だったのが不運としか言いようがない。景明も言っていたようにまさしく宝の持ち腐れ。村正との双輪懸の終盤、仕手の犯した非道の報いを受けるべきだと覚悟を鈴川に促すシーンが印象的だったなあ。

長坂右京 (CV:本多啓吾)

三十年前から惚れている初恋の女(故人)を神から奪い返すために山を掘り続け、かと思えば初恋の人に酷似した一条と会ってからは一条を自分のものにしようとする。なんて濃いおっさんだ……。そんなおっさんがエロゲで一エピソードとはいえメインとして登場するのが斬新過ぎる。しかもめちゃ強い。数打で村正に肉薄するくらいだから相当の手練なんだろう。ちなみに冒頭の地上戦でいきなり襲った自分を通り魔だと称した右京に、(なるほど。次からはそう名乗ろう)と大真面目に受け止める景明には笑った。第二編からは視点が景明に変わるので、景明の生真面目で天然なところが如何なく発揮されていて楽しかった。香奈枝や村長との面会で小粋なジョークを口にするシーンも可愛らしい。

右京の話に戻すと、こんなに強いのに最後は呆気なくやられてしまったのは残念。電磁撃刀 "威" が見れるのは恐らくこの時だけだったと思うのでそういう意味では貴重なシーンだけども。ちなみに死ぬ寸前に山の底に本当に神がいたことを知って敗北宣言をするが、まさかこれが今後の伏線になるとは露ほども思わなかった。

「魔王編」終盤の金神右京はギャグとしか思えなかった。多分「悪鬼編」で景明が助かる展開の前振りでもあるんだろうが(光が致命傷を受けたはずの景明を助けられたのは、右京を蘇らせた金神の力を使ったためじゃないかと思った)、ビジュアルがあかん。全身が劔冑の形態であれば百式っぽく見えなくもないのに、茶々丸のよーに顔だけ生身になっているのがどーにもな。極めつけが、こんな姿になってまで一媛もとい一条を求めて下山しようとするからアレ。結局一瞬で倒されてしまうことも含めてギャグ。

弥源太 (CV:真木将人)

ええと、まあ『うたわれ』に出て来そうな人でした。『村正』の中では数少ないまともな人なんだけど、まともな人は幸せにはなれないのがこの作品っつーことで。右京にとっては女を巡っての因縁の相手であり、最後には正宗の腕パーツだけでボロボロの数打とはいえ武者である右京を相手に一騎打ちで決着をつけるが、景明ですら苦戦させられた右京に勝てるあたり実はそーとーに強いのかもしれない。

何気に村正の戒律のことは知ってたんじゃないかなあ……。戦いの後に景明と飲み交わす約束をするシーンが妙に胸を打つ。その時の景明の心情描写も切なかった。

「今宵は一献……今宵は、一献……」

この台詞も、たった一言なのに状況も相俟って印象的。

ふき (CV:木村あやか) & ふな (CV:北都南)

第一編は雄飛視点だったからわからなかったが、景明の視点で語られる第二編の「戦闘」ではない「殺害」シーンは壮絶。ふきは一撃で殺せたからまだ救いはあったかもしれないが、ふなは殺し損ねて痛みを与えることになってしまったのが惨い。

「なんて可哀想なことをしたんだと――俺は嫌々ながらやったのだと――本当はこんなことをしたくなかったのだと、涙を流して――俺も性根は善良なのだと」

「そう言えというのか?」

「……ふざけるなよ。村正……」

「本当に善良なら、最初から人を殺したりはしないのだ! 殺しておいてから流す涙など、最も醜悪な偽善に過ぎん!」

「人を殺すことは悪業であり、悪業を為す者は悪鬼なのだ! 俺は悪鬼なのだ!」

「俺は悪鬼なのだッッ!!」

この血を吐くような景明の慟哭には、こちらの胸を容赦なく抉るようでゾクゾクした。その後の村正との罪悪の責任を互いに?ぎ取ろうとする不毛なやり取りを含めて、第二編の終盤は『村正』序盤の重要な要素。

それはそうと景明と姉妹のやり取りには萌えた。20代の天然ド真面目青年がちっちゃい女の子たちに対して敬語で話す、てのは美味しすぎる構図だ……。

風魔小太郎 (CV:滑川菊太郎)

見た目は妖艶な美女なのに中身と声がじーさま、てのは強烈すぎる。第二編プレイ中は、もしかしたら小太郎のエロシーンがあるかもしれないと本気で怯えていた。さすがにそれはなかったが、じじい声の喘ぎを聞かせるくらいはニトロというか奈良原氏ならやってもおかしくはない(たぶん)。しかし何故女性の肉体なのかは謎のままだったな……。

月山従三位は仕掛けがバレさえしなけりゃステルスとしては完璧に近いのに、名前がヒントを与えているのが滑稽っつーか、もっとはっきり言ってしまうと月山戦は数ある戦闘の中で一番面白くなかった。ステルスの仕組みに気付いたらそれで終わりだし。

皇路卓 (CV:J一郎) & 皇路操 (CV:河合春華)

実は父娘ではなく兄妹、という設定は捻って来たなあとは思ってたんだけど、兄妹に見せかけて実は父娘だった景明と光の関係との対比になっていたことに後で気付く。そんな皇路兄妹だったからこそ光は景明と自分の関係に重ね、"卵" を与え、レースを観戦していたんだろう。でも卓が操に向けているのは「操に代行させて自分の本懐を遂げてもらう」という歪んだ自己愛で、父や兄として操を愛していたとは到底思えない。しかしそんなことも承知の上で卓のために生きた操のほうに、光は思うところがあったのか。

第三編はギャグとシリアスと熱い展開がバランスよく配置されていて読み応えがあったけど、最後の "卵" を得たアベンジが深夜のコースを滑走しながら世界記録を打ち破るシーンは、ここで初めて流れる「BLADE ARTS IV」の力もあって鳥肌が立つ。

芳養武史 (CV:深川緑)

出て来た瞬間に死ぬんだろうなとは予測出来たが、蓋を開けてみると死ぬよりももっとえぐい末路が待っていた。荒覇吐から一度は救出させておいて、後にとことん落とす奈良原氏の悪鬼ぶりが輝いていた。ただこの子と会話するのは一度だけなので、景明のほうはともかく私はそれほど情が湧かずそこまで胸を抉られることはなかった。第四編は濃密過ぎる章で芳養の影は薄いし、むしろ名前すらわからないまま呆気なく死んだ研究所の所長のほうが印象に残っている。あの所長はいいキャラだったなあ。

青江貞次 (CV:空乃太陽)

出番は少ないが、あのニッカリ笑った顔のインパクトが強くて妙に忘れられない。幻覚攻撃を用いるが、悪夢も安息もどちらも効かないあたりに景明のこれまでの生き様が見て取れてなんとも言えない気持ちになった。

湊斗統 (CV:奏雨)

統は雄飛とは違った意味で正道を邁進するキャラクタで、だから景明があんなふうに育ったのだと得心が行った。統のいう「戈を止めると書いて武の一文字」という理念は理想論だと一蹴されてもおかしくはないが、統はそれを実現させることの難しさをよく理解しているし覚悟もある。ただそんな統が犠牲になるばかりか、結果的には景明に呪いをかけることになってしまったのが皮肉としか言いようがない。ちなみに私はどちらかというと光の「戈にて止むと書いて武の一文字!」のほうに共感出来た。だからといって光のよーなことは出来ないし、そもそもどちらの考えも極端としか思えないけども。

しかし景明はほんとにマザコンだなあ。養母として敬愛していたのもあるんだろうけど、恐らく一人の女性としても統を愛していたんだろう。そんな真っ直ぐな相手と、真っ直ぐに育てられた景明が強制的に性交させられるのがもう地獄っつーかなんつーか……。恐らくこの時の景明は少年と呼べる年齢だったはずで、それを思うと余計につらいな。

一ヶ尾瑞陽 (CV:木村あやか) & 一ヶ尾一麿 (CV:瀬路啓維)

瑞陽は好きなキャラクタだった。特徴のある笑い方からも伺えるように高飛車だが、武士としての実力と誇りがあり、部下を守る将としての覚悟もある武人。景明との立ち合いで負けた後は武家のお嬢様としての慎ましさが出るのが上品なデレという感じでツボ。負けてからも景明の要求を飲めない自分を恥じたり、重病の妹を抱える景明の事情を思いやれる優しさも兼ね備えるなど本当に魅力的な女性で、しかしそんな「いい人」は犠牲になるのが『村正』。弟の命令で部下に輪姦され膾斬りにされ、満身創痍で景明との約束を守れなかったことを悔いて泣き、景明に名を呼ばれて嬉しそうに死んでいったのが泣けた。

景明と瑞陽の真剣勝負は第五編の見所の一つで、緊張感の漂う戦いが『ハナチラ』を彷彿させて懐かしかった。息の詰まるような空気の中での一進一退の攻防が美味。武者の戦いも面白いけど、やはり奈良原氏の本領が発揮されるのは素肌剣術にあると思うな。

弟はまさに下種。下劣。下郎。狭量悪辣卑劣外道佞人奸物畜獣駄六愚昧蒙昧暗迷妄者小人曲物低俗堕落、亡八輩の護摩の灰。いやほんと酷かった。

オーリガ (CV:木村あやか)

緑髪のキャラクタは好みから外れることが多いが、オーリガさんは数少ない例外。出番はあんなに少ないのに何故か惹かれるんだよなあ。渉外担当っつーことは戦ったりはしないんだろーか。"武帝" のことを楽しそうに「社長」と呼んでいたのが妙に印象に残る。