Antipyretic

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時計仕掛けのレイライン -黄昏時の境界線-

http://unisonshift.amuse-c.jp/products/project26/main.html

物足りないけどまったく楽しめなかったわけじゃないしこれはこれで、的な感想になった。道中は遺品の暴走→使用者昏倒→特査奔走というパターン化された展開が続くのでそこは辛いが、個性的なキャラによるコミカルなやり取りは可愛かったし終盤の盛り上がりはちゃんとあった。

けど一作目をプレイした時点で言ってしまうけど、これを三部作にする必要はなかったんじゃないかなあ。モー子以外の二人はルートをわざわざ用意するほどのシナリオだったのか、と言われると疑問。何しろこれまでの伏線、謎、展開を全部放り投げてヒロインとのラブラブが描かれるだけだし、尺が短い上にジェットコースター展開で適当。それと眠子と鍔姫はセックスまでの過程が「周囲から偏った性知識を植えつけられて速攻で実践に移す」と被っているのがどうもな。二人とも思い込みが激しいし真面目だからネタにしやすいのはわかるんだけども。とはいえ私にとってはイッチャイッチャしてるだけの描写は苦痛でしかないので、短いのは正直助かった。

意外だったのは魔術が生きている学園を舞台にしてるけど、魔術を駆使して戦うような展開がなかった点。主人公たちは魔術で動く厄介な遺品を回収するために推理しながら奔走し、その中で特査の面々が信頼し合うまでに至る過程が描かれる。つまり魔術は舞台装置に留まっており、風紀委員は制服警察官、特査は刑事みたいなポジションで学園探偵団っぽくドタバタしながら事件を解決していく。が、先述したように展開が基本的に同じなのでもーちょい変化が欲しかったなあ。大きな謎や疑問を保留にしたまま進んでいくのも気になった。それでも最終話はちゃんと盛り上がるし、犯人も意外な人物だった。鍔姫とスミちゃんの再会、主人公の本名、みっちーとモー子の和解、しーちゃんの特査加入など物語がようやく動き出した感じはある。やっとかー。

文章は癖がなく読みやすく、絵も表情が多彩で可愛いけど SD 絵のが好みかな。そいや距離に合わせてキャラクタの立ち絵を縮小させる演出があるんだけど、上手く馴染んでなくて違和感しかない。これは『車輪』でもあったけどやめたほーがいいと思った。

頑張っていたのは演出。魔術があるからエフェクトもそれなりに派手だけど、それよりも立ち絵変化の指定が細かい。台詞内容と表情差分変化の同期は標準装備だし、キャラクタが普通に歩く場面でも立ち絵をひょこひょこ動かしてくる。しかし一方で、演出が細かすぎてクリック回数が結果的に増えていてぶっちゃけちょっと鬱陶しく感じてもいる。やっぱり ADV における演出は、やり過ぎると邪魔に感じてしまいがちだなと実感した。

というわけで欠点は多いしサブヒロインはどちらも中身のない話だったけど、その分メインのモー子のシナリオで頑張ってくれればそれでいい、と割り切ることにした。明かされてない謎は多いけど三部作なのは事前に知っていたし、前半は起伏がなく退屈だったけど後半は山場が用意されている。いまいちモー子を好きになりきれないでいるのが気がかりではあるけど、続編を読みたい欲求は、まあ、なくはないかなあ……。

久我満琉

みっちーに関する謎は完結編まで引っ張るだろうと思っていたので、ここである程度回収されたのは意外だった。結構細かく伏線を張ってたっぽいし新鮮なうちに回収したかったんだろうけど、全部明らかになってはいないものの一作目にしてはちょうどいい塩梅で回答を提示してくれてたんじゃないでしょーか。

みっちーは結構頭も回るし運動神経もいいから活躍の場が多く、鈍感ではないからあまりイライラさせられることもなかった。モー子と一緒に寝る時にズボンを貸してあげたり、エロシーンでも相手の意志を何度も確認したりと一応気遣いも出来る。時々暴走するけど反省して謝罪もする。特に好きなキャラではないけど不愉快にもならない。

鹿ヶ谷憂緒 (CV:森谷実園)

好きになれなかった。行方不明の親友が見つからなくて焦ってるんだろうけど、それでもいちいち感じの悪い言い方をするのがなあ……。みっちーにも隠し事はあるし大人げない面も多かったけど、モー子はそれ以上に理不尽な態度や棘のある言い方が気に障る。ただハイタースプライト事件の手錠トラブルや、アンリ・シェブロ事件で思わず助けを求めたモー子の元にみっちーが駆け付けた時など、ニヤニヤ出来る場面もあった。この二つのエピソードのモー子は可愛かったなあ。

本編のみっちーとモー子は恋愛関係に発展しないまま終わったので予想はしていたけど、モー子ルートのクピドの弓事件はモー子とのエロシーンを入れるためだけのエピソードになっていたのが残念。メインヒロインのエロシーンがないのは論外だし入れなきゃならなかったんだろうけど、もうちょっとこう……まあここまで目的の明確なシナリオに徹底したのはある意味で潔いなとも思えるけども。でもいつものキレがなく、特査のメンバーとしては使い物にならなくなっていたポンコツモー子は可愛かった。今後のモー子の態度次第では好きになれる可能性はありそうだと思ったので続編以降に期待。

烏丸小太郎 (CV:門倉宗一)

おまるは衝突しがちなみっちーとモー子を取りなす緩衝材で、上手くバランスを保ってくれていた。しょーもない言い合いで会話が進まなくなるといつも叱って進行させてくれるあたり、何気に有能なキャラクタ。この手の気弱な感じのキャラクタにはあまり興味が持てないことが多いんだけど、おまるはみっちーとの会話でのリアクションが楽しいし思った以上に好きになれた。遺品回収の際に足を引っ張ることも多いけど、何故かイライラさせられない不思議な魅力を持っている。あとはみっちーが名付けた愛称も彼の魅力を引き立ててくれた気がする。いやもーほんと「おまる」って感じするもんなあ。しーちゃんが鍔姫に恋をしていると思い込んでた件もおまるらしい可愛い勘違いだった。

風呂屋町眠子 (CV:萌花ちょこ)

恋に一生懸命な女の子は好きだし、妄想が暴走するタイプのヒロインも嫌いではないが、眠子はどうもモブキャラ(サブキャラではない)を無理やりヒロインに押し上げたような印象が拭えない。あと眠子の妄想が結構頻繁に会話の合間合間に挿入されるので、テンポが悪くなるのも気になった。あれはもうちょい減らしても良かったんでは。

シナリオは微妙。『車輪』や『ユースティア』のように途中下車タイプの構成になってる以上、眠子ルートに突入すると色んな謎が放置されるのはしょーがないけど、作中でも言及されていたようにみっちーと眠子は違う世界の人間同士であるという問題があって、そこはさすがに書いてくるだろうと思ったら何の根拠もなく「平気だよ」で終わって唖然。いやこの問題って生活時間が異なるだけのように見えるけど、そもそも世界の謎が解明されてないので不安しかないじゃないですか。それでいいのか君ら。

ナースさんは大好物なのでアナザーはなかなかに美味しかったです。

壬生鍔姫 (CV:かわしまりの)

最終話はしーちゃんやスミちゃんという鍔姫に関わるキャラクタが重要な位置を占めていた分、活躍が多くて美味しかったんじゃないでしょーか。鍔姫ルートは眠子ルート以上に印象に残ってないが、それはメインルートの鍔姫のほうが輝いていたからでもあるのだし。むしろ鍔姫ルートは鍔姫の良さが削がれていた気がする。つーわけで鍔姫自体にはそれほど興味を持てず、キャラクタもシナリオも印象が薄い。

アナザーは悪い意味で印象に残った。鍔姫ではなくみっちーに問題があるんだけど、結婚式の直前にドレス姿でセックスをするのはいいとしても、式の時間が迫ってて鍔姫がやめろと言ってるのに聞かず、挙句の果てには邪魔だからとウェディングドレスを引き千切ったので思わず「うわあ」。夢オチで何よりだったけど夢オチでもいらん。

村雲静春 (CV:古河徹人)

要するにシスコンらしい。最終話で正体を露わした時の、サーペントをはめた指を向ける絵は一気に厨二みたいになって不覚にも笑ってしまったすまない。しーちゃんは機動力が高そうなイメージがあるので、新たに加わったことで特査にどういう影響を与えるのかは楽しみ。四人の会話はいかにも賑やかそーだもんなあ。

村雲春霞 (CV:野神奈々)

スミちゃん本体がちゃんと登場するのは最終話からなので、みっちーや鍔姫にお節介を焼いたり軽く説教したりしていた人形としてのスミちゃんのほうが印象に残っていた。モー子ルートを読むまでは。頬にキスをするのが当たり前だという鍔姫とスミちゃんの、百合に近いけど百合にはならない(だろう)関係は結構好きかもしれない。

リト (CV:鶴屋春人)

人間ではないんだろうなこの子。クピドの弓でおかしくなってるみっちーがモー子にキスをしようとしているのを目の前にしても平然としていたシーンが面白かった。

九折坂二人 (CV:小倉結衣)

中の人の演技に味があって、クリアして数時間が経った今でも脳内再生可能なほど。出番も多く、一番気になってたキャラクタだっただけにそこも私には美味しかった。

しかし夜の世界を召喚させている理由は最後に一応説明されたけど、いまいち納得が行かない。悪用されては困るラズリット・ブロットストーンを守るためだけに、わざわざ魔女を探し求めてまであれだけの大掛かりな大魔術を発動させなきゃならない、てのがピンと来ない。もっと他にやりようがあったと思うし、やはり狙いは別のところにあるんじゃないか。真相を全部語ってはいないんだろう間違