Antipyretic

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いたいけな彼女

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この作品は周囲の登場人物がほぼゲスやクズキャラで占められており、そうした「悪辣な話にするためのご都合主義の箱庭」に、これまた歪んでいる主人公とヒロインを放り込んだ上で話が進行していく。わかりやすく言えば、ハッピーエンドではなくバッドエンドのためのご都合主義にまみれている世界。だからここには胸糞悪い展開しかない。

私はまともなキャラクタがどうすることも出来ず泥沼にはまって狂っていく展開に一番エグさを感じるので、『いたかの』のような露悪的な物語にはあざとさを感じてのめりこめないことが多いんだけど、今回は胸糞悪い話が読みたくて読み始めたのでそうしたご都合主義はむしろ大歓迎だった。おかげで思いっきりドン引き出来たし、そもそも偏愛というテーマがツボだった。大満足。

ヒロインが一人だけでルートも二つしかないけど、だからこそ二人の描写の掘り下げに専念されていて「互いに唯一無二の存在」であることが真に迫って来た。二人とも親から愛情を得られず歪んでしまったというありきたりな過去を持つが、他の作品ならそこからトラウマに向き合って克服→成長→脱却させるところを『いたかの』ではしなかった。そうして二人が到達した答えは異常ではあるけど納得もさせられてしまった。あと短い上に内容が濃密なせいか集中して読めるので、甘酸っぱい空気の漂う純愛ルートでもあまりダレなかったのが良かった。凌辱ルート後半は寝取らせや輪姦が延々続くもんだから「まだやるのか」と少しげんなりしたけど、許容出来ないレベルではなかったかなと。

文章は読みやすい。エロシーンの台詞が拓巳も含めて気持ち悪いおっさんのよーでそこは気になったが、凌辱ゲーだからこーゆーもんだと割り切った。それでもキツかったのが村田。クラスでのイジメや拓巳のほのかに対する言動よりも、村田の気持ち悪いセクハラのほうが抉られた。「酷い」や「えぐい」よりも「気持ち悪い」のほうが強いことを実感させられた。授業中に生徒の前で指導と称して堂々と性器を弄るだけでもアレだけど、拓巳に止められたら逆ギレして授業をボイコットするんだから開いた口が塞がらなかった。途中で退場してくれた時は本気でホッとした。一方、絵は可愛らしくあまり凌辱作品ぽくはないけどほのかのキャラクタには合ってるし、一見ミスマッチな絵柄だからこそエグさが強調されていて、これでよかったのではないかな。

システムはビジュアルアーツ製なので基本的には快適。ただ本作で声がついているのはほのかだけでそれは別にいいんだけど、ほのかが喋るたびに自動的に BGM がフェードアウトしていく。ほのかが喋り終わると音量が戻ってくるが、毎度毎度これをやられるのが鬱陶しい。設定で切ることも出来ないから結局ほのかの音声も off にしてしまった。

というわけで一部の不満はあれど、たいへん面白かった。悪辣な話が読みたい気分だったから期待通りの話が読めて満足したというのもあるけど、その上で私のツボを突かれたのも大きい。歪んだ二人が歪んだままでいられる運命の相手と出会い、最強カップルになるのがいい。二つのルートで経緯は異なるのに同じ結論に到達してしまうが、それは二人がそれほどにかみ合った存在だから他の結論が存在しないということなのだと解釈した。

秋吉拓巳

拓巳のほのかへの接し方はルートごとに異なる。純愛ルートではなんだかんだでほのかを助けるし、終盤には命令することをやめようとする。いわゆるツンデレのよーな振る舞いを見せる。凌辱ルートでは命令しまくってほのかを散々苛め尽くす。これは一見ブレているように見えるが、二つのルートの結論が同じだったということは拓巳の中ではブレていなかったということなんだろう。これが面白かった。そしてこうした二面性があるのに本人に自覚がなかったために、拓巳はどちらのルートでも己の思考や行動に自分でも振り回されていた。だから最後に「命令して支配することでしか愛せない」という自分の本質に気付いた時、「拓巳の命令に従って生きていきたい」という意志を貫くほのかを前にして拓巳は「ほのかと歪んだまま一緒に生きていく」以外の道を選択しない。

とはいえ拓巳がクズなことに変わりはない。特に実感させられたのが、凌辱ルートで拓巳が村田と同じようなことをほのかにしているところを村田に目撃され、村田と同じような言い訳をしていた時だった。村田には嫌悪感を抱いていただけに、主人公を動かしているプレイヤとしては苦い気持ちになった。拓巳は村田みたいに気持ち悪い勘違いはしないだけマシかと思ったけど、よく考えたら恋人の振りをしてそれを利用してほのかを襲っているからやっぱりクズではある。おまけに純愛ルートでもそうだったけど中に出してばっかだしなあ。凌辱ゲーで突っ込むのは野暮かもしれないが、子供が出来ても責任を取るつもりはなかったんだろうなあ。海外への引っ越しが決まっているし、万が一のことがあっても向こうに行ってしまえば後は知らんしどうとでもなるよな、くらいの考えだったんじゃないか。でも凌辱ルートの魔王みたいな拓巳は結構好きだけども。

ところで無気力イケメン主人公は別に珍しくもないが、拓巳はイケメン部分がやたら強調されていたのが面白かった。拓巳のビジュアルは一切出て来ないからどれほどのイケメンかはわからないが、村田にも嫉妬されるしクラスメイトはみんな認めてるし桜木や飯島まで拓巳に惚れるという有様でこれはもう相当だろう。そのご尊顔を拝見したかった。

七瀬ほのか (CV:田中美智)

ほのかは健気で可愛いし苛められているのを見るとさすがに同情してしまったけど、一方でイライラさせられるところもあったのが何とも言えず。いじめは肯定したくないのに、ほのか自身がいじめを許容しているところもあるからいじめられても仕方がないな、と思わせるところがあったというか、そういう描写は絶妙だった。しかし語尾に「~なの」、「ふあああああん!(あえぎ声ではない)」という口癖、走ってきてコケて「へーき!」と起き上がる一連の流れなど、ヒロインのキャラクタをこうして作っているあたりは Key の影響を感じて面白かった。Key ってほんとに偉大なんだなあ……。

そして唯一のヒロインだけあってほのかの印象的なシーンは多かった。凌辱ルートで拓巳の命令で輪姦された時に口や後ろを他の男に奪われても前だけは拓巳のものであろうと必死になる健気な姿とか、冗談で付き合っていることを知らされても拓巳についてくる姿とか、自慰をしながら自分の思いを訥々と語るシーンとかどれもこれも良かったけど、一番震えたのは純愛ルート終盤、拓巳の前で輪姦されながら拓巳への思いを叫ぶシーン。

「私…私、拓巳くんの命令しか聞かないのっ!」

「これから先も、ずっと、ずっと好きな拓巳くんの命令なら、聞いていきたいのっ!」

「私の性格や、生活が変わっても、それだけは変わらないのっ!」

「私…」

「拓巳くんの…犬だから…っ!!」

「だから…だから、拓巳くんの命令なしで生きてなんかいけないのっ!」

「好きな人に従うのは、駄目なことなのっ? ねぇ、拓巳くんっ!」

「好きな人に命令されて、嬉しくなるのは、だめなことなのっ!?」

純愛ルートは凌辱ルートに比べると大人しい印象を受けていただけに、終盤にこれまでの凪いだ海から一気に嵐に突入したかのようなこのシーンはインパクトがあった。拓巳の中の理性が「命令に従って生きていくことは間違っている」と判断したのに、ほのかは拓巳の命令に従うことで好きな人に尽くす喜びを得ていた。だから拓巳は己の歪みに気付くとともにほのかの想いを受け入れた。歪みを矯正しなくても互いに満たし合える相手が現れてしまったから、常識を拒絶して二人で寄り添うことに決めた。

だから拓巳が志づ香の墓前でほのかとセックスをおっぱじめた時はリアルで口が開きっぱなしになったけど、それでいて納得もした。拓巳がいつか愛する女性と幸せを掴んでくれることを願っていた志づ香のために、拓巳は自分の幸福のあり方を報告しただけのことなんだろう。私の価値観からすれば異常だし二人にも自分たちがおかしいという自覚もあるんだろうけど、それでも二人で生きていくと決めたんだからあれが二人の幸福の形。この手の歪んだ異常愛は互いに異常だと気付かないまま破滅に向かっていくパターンが多いけど、拓巳とほのかは自分も相手もおかしいことを知っている上での純愛ルートの結末だったから最初は驚いた。けどそうした驚きを凌駕して納得させてしまうだけのパワーがあるのがこの作品の一番すごいところなんじゃなかろーか。ネットの感想を見てみるとやっぱりこの結末は不評だったしそれもわかるんだけど、私は納得している。させられた。

一方、凌辱ルートでも二人は心も体も結ばれたけど、拓巳はほのかを所有物として愛して終わる。本当にこれでいいのかとほのかに問い詰めたくなるような結末だが、でも不思議とこの二人はラブラブに見える。なんだこの理不尽。でもやはり納得させられたから尚更理不尽を感じる。まあこんな形のラブラブがあってもいいんじゃないでしょーか。

緒方寛之 & 岩田洋介

緒方は終盤の展開に持っていくための発火装置でそれ以上でも以下でもなかったけど、岩田は面白かった。彼は周囲の空気に逆らえず苛めが行われるとそれに乗ってしまうが、それも限度があるからやり過ぎると引く。恐らくはほのかを好きだったんじゃないかと思うんだけど、だからといってほのかを助ける勇気もなく、そんな時は拓巳を当てにしようとしてしまう弱さが見ていて興味深かった。出番が多いわけじゃないんだけど、サブキャラクタの中では岩田の心理描写が一番光っていたんじゃないかなあ。

桜木恵 & 飯島亜紀子

桜木は率先してほのかを苛める女子だけど、拓巳も心の中で突っ込んでいたようにほのかを苛めていることを堂々と認めていたのが意外だった。普通なら「えー? 別に苛めてませんしー?」みたいに最低限ノリだけでも取り繕うケースが多いもんなあ。ただ自分と拓巳は「自分のモノが、誰かによって虐げられていく姿に…興奮する人種」として同類だと煽っていたのに、そのへんを感じられる強烈な場面がなかったのは残念。

飯島は桜木のおまけみたいな子だったけど、拓巳の指示で岩田に犯されていた時に秋吉くんじゃなきゃ嫌だとわめいていたのが印象に残った。このあたりのシーンは桜木よりも飯島のほうがインパクトがある。どちらも拓巳に惚れていたけど、桜木がこのシーンで飯島に比べて大人しかったのはプライドの高さ故なんだろうなあ。