Antipyretic

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Dies irae ~Acta est Fabula~

http://www.light.gr.jp/light/products/diesirae/

非日常、聖槍十三騎士団、黒円卓、凄絶な過去、詠唱、ナチス、軍服、神父、ルビ振りなど厨二ワールドには必要な要素をフル装備させた厨二ゲーで良質のキャラゲー。お約束はほぼ抑えてあるし、基本的に厨二主人公が厨二敵キャラに立ち向かい、厨二展開を経て厨二バトルを繰り広げる。そしてテキストがくどいのも厨二作品のお約束っつーかもはや必須項目。くどいからこそ厨二が映える。

しかしそのテキストのくどさは欠点にもなっていて、まず冗長すぎて内容を咀嚼するのに時間がかかる。だから読むだけで疲労する。特に双首領の会話は何度もログを遡りつつ、やり取りの内容や裏に隠された意味を咀嚼しなければならなかった。普段なら軽く留めておく程度に理解できればそのまま読み進めていくが、この作品は設定が複雑なのでそれも出来ない。戦闘描写も同様で、同時進行で複数の戦闘が視点を変えて描写されるのが少し鬱陶しい。更に戦闘回数も多いから、厨二作品では重要な戦闘描写でダレてくる。蓮が爽快感のある戦果をなかなか得られないのも痛い。相手が強すぎて敵同士の潰し合いでしか倒せないし、横槍が入ることも多いからだ。おかげで根性論やパワーのゴリ押しもある程度は必要なんだな、という勉強にはなった。ちなみに戦闘中の会話の多さに突っ込むのは野暮。会話の応酬こそが厨二には必要。詠唱中に攻撃しないのも同様に。

他に気になったのは、「レベル3」を「れべるさん」「れべるすりー」とそれぞれ読むキャラがいるなど音声が一部で統一されてない点。特に鸚鵡返しに呟くシーンでは違いが顕著に出てしまう。ただでさえルビが多くどう読めばいいのかわからん台詞だらけなのに、ルビを振る必要もない数字でこういったミスが出るのは痛い。誤読もあったけど、これは中の人ではなく訂正しなかったスタッフが悪い。音と言えば台詞の音割れも多く、せっかくの豪華な BGM も音が安っぽくなってしまっているのが残念。

そしてキャラクタは黒円卓に目が行きがちで、主役は完全に敵に食われている。蓮にも活躍がないわけではないが、それ以上に黒円卓が魅力的すぎた。あっちは見事に厨二テイストを凝縮させたような存在で、そもそも軍服を着用しているだけで美味しいもんな。そして黒円卓内部の複雑な人間関係も面白い。劣等感や悲惨な過去などのネガティブな要素から形成されている各団員の想いや意図が絡み合い、それらがシナリオや戦闘に影響していく。蓮のゴリ押しすらままならない戦闘にダレるとは書いたが、逆に言えば黒円卓同士の潰し合いはそれぞれの思惑の絡んだ戦いになっており、これがまた濃密で満足した。キャラクタがいいだけの作品ではなく、キャラクタの魅力がシナリオをきちんと盛り上げてくるタイプの作品で、私が本作をシナリオゲーではなくキャラゲーだと評したのはそういう意味。難点を挙げるならキャラクタの名前を覚えるのに苦労した点か。長ったらしい横文字ってだけでもしんどいのに、別名が大量に出てくるし呼び方が異なったりで混乱の元になっている。何気にこの問題が序盤の最大の壁じゃないかなあ。

欠点ばかりを挙げてしまったけど、それでも私はこの作品をものすごく気に入った。理由はただ一点、黒円卓が魅力的だったから。彼らに会えただけでも価値はあった。

では一つ、皆様私の歌劇を御観覧あれ。

その筋書きは、ありきたりだが。

役者が良い。至高と信ずる。

ゆえに面白くなると思うよ。

舞台が整って最高潮に達し、主演と主演がぶつかり合う瞬間の、歌劇を指揮したメルクリウス本人のこの台詞こそが『Dies irae』に対する私の印象を正確に表してくれている。

藤井蓮 (CV:先割れスプーン)

最後まで好きにはなれない主人公だった。「男ならこうしなきゃならない」みたいな面倒な思考が苦手。かっこつけたがるキャラが嫌いなわけじゃないんだけど、蓮はダメだったなあ。久しぶりにちょっと読んだエロシーンでも蓮のかっこつけたがりな面が出ていて、主人公も含めたフルボイスな面も相俟ってダメージを食らった。正田卿の書くエロシーンとは相性が合わないらしい。思えば香純と玲愛が挙げていた蓮の欠点「意外に短気。すぐ嘘つく。秘密主義。思ってること口にしない。鈍い振り大好き。カッコつけ。顔可愛いのに褒めると怒る」「あと、古い」「実は男尊女卑思考」「みんな一人で片付けようとするところ」ってほんとそのまま私の苦手な要素を詰め込んだよーなキャラなのよな練炭

というわけで個性の強い主人公ではあるんだけど、目立っているわけでもない。何しろ黒円卓が強烈すぎる。メルクリウスの代替えとして「最終的には獣殿と拮抗するレベルにまで成長する」というお墨付きがあるし、戦いを繰り返すごとに強くなるが、それでも敵が強すぎて成長しても敵を圧倒するまでには至れない。そして戦闘だけでなくキャラとしての魅力においても他に一歩を譲る形になるというか、肝心の美味しいところを司狼のみならずラインハルトやメルクリウスにまで持っていかれるのがもうなんというか。主人公だから活躍する場面はあるものの、それは魅力的な敵の存在という恩恵を受けたが故にではあるし。つまり太陽光によって月が輝くのと同じ道理で、黒円卓の輝きによって主人公も輝く。ギロチンという武器は珍しくて面白かったんだけどな。鎌好きだしな私。

気になるのは蓮が大事にしている日常描写が不足している点。蓮は最低限の倫理を弁えてはいるが、友人とその他大勢の命を天秤にかけなければならないよーな事態になると天秤にかけるまでもなくエゴを突き通す。その自覚があるから自分が新世界の神になろうとは思っておらず、蓮のそういう弁えたところは好きなんだけど、蓮がそうして最後には他を切り捨ててまで掬いあげようとする香純、先輩、司狼とのシーンが足りていない。恋愛描写も十分とは言えず、特に蓮がヒロインに惹かれる展開は強引なケースが多かった。とはいえ稀に挿入される日常描写が退屈に感じてしまうのも事実で、日常描写は不足しているのに日常描写が面白くないというジレンマが発生していたのがどーにも。

マルグリット・ブルイユ (CV:榊原ゆい)

マリィルートが一番派手で面白かったなあ。リザとトリファのゾーネンキントへの想いが衝突する病院での舌戦から目が離せなかったし、そこから神父の悪辣さが溢れ出し、ルサルカを内から食い破って聖遺物を手に入れた司狼との共闘、三騎士の推参、トリファの足掻きと死、ラインハルトの復活、蓮の流出位階到達、更に黒幕らしい気配を漂わせていたメルクリウスの正体と目的が判明し、最後にはマリィや玲愛の力を借りた蓮がラインハルトを倒す。まさに熱い王道物語が繰り広げられていた。司狼やエリー、螢、玲愛は死ぬしメルクリウスは倒せたとは言えないしマリィは新世界の女神になったので大団円とは言えないが、マリィの触覚の誕生の可能性と、輪廻転生によって司狼たちとも再会できる可能性は提示されているし、読後感は良かったんじゃないでしょーか。

特に盛り上がったのは最終章のラインハルト戦。流出に到達した蓮を歓迎し、ラインハルトが「メリー・クリスマス」と祝福した後に互いの詠唱が開始され、メルクリウスがオーディエンスを煽り、主役二人がそれぞれ「Dies irae」「Also sprach Zarathustra」と謳い上げる瞬間は鳥肌が立つ。その後もラインハルトが各エインフェリアの創造を次々と発動させ、蓮は死森の薔薇騎士から脱却すべくラインハルトの一撃を弾くことで満月を粉砕し、己の全力攻撃を弾かれたことでラインハルトが初めての歓喜に打ち震えるシーンは私も震えた。このラインハルトの独白は、終盤の初めての嫉妬に打ち震えるメルクリウスの独白と対になっているのも憎い演出。そして互いの軍勢は拮抗し、ラインハルトがイザークを犠牲に更なる流出を促して、覇道の鬩ぎ合いによる臨界突破で二人が特異点に落ちるまでの展開はやめ時が見つからなかったほど。ゾーネンキントとしての力を応用し、ラインハルトに宿った諏訪原市民の魂を解放した玲愛の犠牲によって蓮のギロチンがラインハルトを倒すに至る展開にも燃えたし、ラインハルトが最後までラスボスとしての風格を損なわずにいてくれたことも嬉しい。満足度は恐ろしく高かった。圧巻。

マリィに関しては、本作のような作品では優遇されてもおかしくない「戦闘における主人公の相棒」なのに香澄ルートや螢ルートでは空気だったから、マリィルートでようやく輝いてくれたのは良かった。パートナーとして武器として、何より生まれながらにして流出位階にいる稀有な魂の持ち主として蓮を支える位置にいられるのはなかなかに美味しい。螢といい雰囲気になった蓮に嫉妬するシーンも可愛かったなあ。しかしこの時の不倫云々の会話がメルクリウスに敗北をもたらす鍵になるとはさすがに思わなかった。痛恨のミスに気付かずマリィの渇望を教え、マリィに振られて嫉妬のあまりメルクリウスが哄笑するシーンは痛快。人死にが多いのにマリィルートの読後感がそれほど悪くないのは、そもそもの元凶であるメルクリウスにこれ以上はないほどのダメージを与えられたから、てのはあるよな確実に。玲愛ルートでのメルクリウスは死んでしまうものの本懐を遂げているので、実は「水銀ざまみろ」感覚を味わえるのはマリィルートしかない。

しかし恋愛描写は薄かった。というより蓮からマリィへの矢印が見えなかったから、「わたしの男ボコってんじゃないわよ、誰にも渡さないんだから」はともかく「なに俺の女ボコってんだ、殺すぞ」は唐突だったなあ。とはいえこの二人が惹かれ合う展開は、蓮の成長の早さや司狼の無敵モード同様メルクリウスの意図するところでもあったわけで、ロマンはないけど一応「神がそう望んだからそうなった」と説明はつく。

ところでマリィルートはメルクリウスにとってはフリン云々を除くと筋書き通りに進んだ物語だったはずだけど、玲愛ルートでラインハルトがマリィルートでのことを一瞬思い出すところを見るにマリィルート後にも回帰されてんのかなあ。そうとしか思えんよなあ。

綾瀬香純 (CV:佐本二厘)

毎朝起こしに来てくれる隣人の幼馴染み、という敢えてテンプレを準えたような日常の象徴が蓮にとっても物語にとっても重要なのはわかる。それでも厨二作品で、非戦闘員ヒロインが不遇な扱いになるのは必至。現に香純は蓮に戦うきっかけを与えるが、それ以降は蓮が巻き込むまいと遠ざける。しかし長年一緒にいた香純が蓮を取り巻く異常な状況に気付かないはずがないし、大切な幼馴染みの役に立ちたいとも思っているから蓮のそうした姿勢に不満を持つ。それでも蓮は誤魔化す。正直、私には一般人が戦闘に介入しても邪魔としか思えないし、そもそも私が香純のような喧しい女子が苦手だから尚更、香純を本筋から遠ざけようとする蓮の態度には理由こそ違うものの共感出来る部分はあるんだけど、あまりにも蚊帳の外に置かれる様が可哀想に思えてきて複雑になった。香純が仲間外れにされるのは香純が強いからだとかみんな彼女が大好きだからとかいい話でまとめられてたけど、それで誤魔化された感がなくもないのが……いやまあ実際いい子ではあるけども。香純の持つ健全さには読者である私も救われたことがあったし。

更に香純ルートは双首領と三騎士が復活せず、他のルートに備えたオードブルシナリオになっている。終盤の戦闘は盛り上がるし神父を倒すまでの一連の流れには引き込まれたけど、黒円卓は余力を残したままなのがなあ……。マリィは槍に貫かれ、司狼と螢と玲愛は死に、エリーは消える。香純も非戦闘員な上に蓮が非日常から遠ざけようとするから目立てないし、むしろ香純よりトリファが輝いてるし、ヒロインとしても最後の美味しいところを螢や玲愛に持っていかれる。香純にも終盤で見せ場は一応あるものの、ピーチ姫状態で不遇のヒロインという印象を覆すには至らない。ヨハンの血を受け継ぐゾーネンキントという設定はあるけど玲愛の下位互換だし、下位互換だからこそ玲愛と違って死ぬことはなかったが、エピローグでも言われていたようにゾーネンキントとしての役割を担ってしまった以上、死後は城に囚われることが確定しており、子を産んでもその子は生贄のゾーネンキントとして誕生する。というわけで香純ルートはハッピーエンドには程遠い。

香純の最大の見せ場は、共通ルートでカドゥケウスの殺し役としての務めを果たして蓮にギロチンを返す場面と、螢ルートでメルクリウスの取引に応じる場面にある。

「あたしは、あたしは皆のために……あなたに勝つため、日蔭の女になってやるわよ! 宣戦布告と受け取れ――馬鹿ァッ!」

あのメルクリウスですら惚れそうになったほどで、あんな男に好かれても香純には迷惑でしかないだろうけど誇っていい(メルクリウスがラインハルトを特別視していることを思えばその血を継ぐ香純にメルクリウスが惚れそうになるのも納得が行くけど)。実際私はこのシーンを見て香純が一気に好きになった。とはいえどちらのシーンもヒロインとして輝いている場面とは言い難く、螢ルートに至っては見ず知らずの男と結婚させられてしまうあたりどこに行っても報われない感が……。トリファにとっては切り札になる存在ではあるが、それも玲愛の代わりの生贄扱いだもんなあ。自分のルートでは影が薄く、螢ルートでは他の男との子を産む契約を交わす羽目になり、それもその子は生贄として産まれてしまう。マリィルートでも流出合戦後までずっと気を失ったままだし、玲愛ルートに至っては司狼もろとも最後のスワスチカに溶ける。

ただ、複雑な世界観や設定を読者に叩きこむのは必要で、結末はさておきそういう意味では香純ルートがオードブルシナリオになっているのは良かった気がする。これで最初からメインディッシュを出されてもついていくのが大変だっただろーしなあ。とか書いてるうちに香純ルートは根本的な問題解決には至れなかったものの、『Dies irae』の最初の授業としてはちゃんと仕事を果たしたのではないかなと思えてきた。

シナリオに敢えてケチをつけるなら一つだけ。香純の父親を司狼が殺し、その遺体を蓮が埋めることになった過去の描写が薄い点。司狼が自滅因子として最初の大仕事を果たしたとも言えるんだし、何よりも幼馴染み三人にとっては重大な過去なんだからもーちょっと詳しく書いてくれてもよかったんじゃないかな。

櫻井螢 (CV:かわしまりの)

戦闘員なので出番は多いし、蓮とは一番恋愛をやっていたよーな。敵同士だから、互いに惹かれあう描写が必要だった点にも助けられたかな。螢のキャラクタも聡明そうな見た目に反して、馬鹿で粘着質で脆く崩れやすかったりでギャップが凄まじい。しかし螢のそういうところを面白いし可愛いとは思うんだけど、何故かツボには来なかった。玲愛ルートで幼馴染みを失って呆然とする蓮に「ねえねえ大事な人が死んでどんな気持ち? どんな気持ち?(意訳)」とそれはもう嬉しそうに聞く場面を筆頭に、あのヒロインにあるまじき粘着質なところはむしろ好きなんだけどなあ。と言いつつあのシーンの螢は好きではあるけど「これは酷い」と思ったのも事実で、しかし直後にイザークにまで「卑小な魂」だの「英雄に非ず」だの言われ、最後には「爪牙足らず、鬣足らず、細胞の一つとして溶けるが相応」と瞬殺されるのが哀れでポカーン。更に自分のルートでも「勃たねえんだよ。お前じゃ無理」とか「おまえ、(血で)臭うし」とか蓮に嫌味じゃなく本心から言われていたのが気の毒でもうアレ。ただでさえ色んなキャラにメンタル面でもフィジカル面でもフルボッコにされがちなのに、主人公にすらボコボコにされる螢のこの苛められっぷり。しかしツンデレ同士のカップルはさぞ美味しいんだろうなと期待してたんだけど、蓮と螢を見ていると「面倒だな」という印象のほうが勝ってしまったのがアレ。螢はいいけど蓮が好きじゃないからなあ私が。

ちなみに戦闘での見せ場は少ない。新人団員で蓮と同い年の螢が弱いのは仕方ないし、見せ場がゼロってわけでもないんだけど、メンタル面での被フルボッコお家芸になってるからそっちのイメージに引きずられてしまうらしい。螢ルートでベアトリスの助力を得てトリファを倒すシーンは、螢に勝機を与えるきっかけになった同時進行の蓮 VS カイン戦が面白かったのもあって盛り上がったけど、螢の見せ場らしい見せ場はここで終了し、あとはベアトリスに美味しいところを奪われてしまう。ラインハルトが降臨してからは蓮はマキナ、ベアトリスはエレオノーレと戦わなければならないため、キングに当たった螢にとってはアリアハンでウロウロしてるレベルでラスボスに挑んでるようなもんで話にならないし、どうやって切り抜けるのかと思ったらたまたまラインハルトが自傷した、という展開で恰好がつかないのがな……いやまー奇跡でも起きない限りは螢がラインハルトに万に一つでも傷つけるのは不可能だし、その奇跡を起こしたのはそれまで螢が諦めなかったからでもあるんだけど、なんだろうなこの納得いかないもやもやした気持ちは。

しかしシナリオは面白かった。カインの正体を勘違いしていたからこそベアトリスを斬り取れた蓮と、勘違いしていたからこそ負けたとも言えるトリファの対比は面白かったし、戒とベアトリスとトリファの過去が僅かとはいえ語られたのも大きい。ベアトリスとエレオノーレの戦いや、最後に城で復活した戒と螢の一瞬の再会と別れもぐっと来た。何より香純ルートでは登場しなかった双首領や三騎士と戦うことになった時はワクワクしたし、バトルの締め方も目立つご都合主義がなく納得のいく終わり方で最後まで楽しめた。司狼がルサルカの聖遺物を与えられる展開や、マリィを失ってスルーズ・ワルキューレと契約した蓮が到達した「死者を赦さない」という渇望から来る創造も予想外で目が離せなかったもんなあ。香純ルート同様、何も解決してない結末ではあるけどそれは敵にとっても同じだし、メルクリウスが早々に介入せねばならないほどのイレギュラ展開を起こしたという意味では結構重要なシナリオだったんじゃないか。そして香純は可哀想なことになってたけど、皮肉にも彼女はここで最大の輝きを見せて物語に大きな影響を与えた。

螢が一番輝いていたのはマリィルートのエレオノーレ戦。兄やベアトリスを救う可能性を潰されたことで覚悟を決め、カインになった螢がエレオノーレに「その歳で心まで処女だなんて、終わってるのよッ――!」と痛烈な啖呵を切るのがかっこいい。螢はカイン化したほうが好きだなあ。螢ルートではラインハルトの攻撃を戒が防ぐことで聖槍と劣化聖槍との対決が描かれていたけど、こちらではエインフェリアと劣化エインフェリアの対決になっている。前者は蓮の死想清浄・諧謔への対応策として進軍を一旦放棄することになったが故のラインハルトの弱体化と、そもそもラインハルトは完全体での復活ではなかったから互角に戦えたのだし、後者はマリィと蓮の流出による加護、エレオノーレのプライドを煽っての創造封じ、更にベアトリスの聖遺物の力もあったが、それでも戒は耐えたし螢は勝ったのだ、と思うとなんかこうじわじわと感動が湧き起こるというか。

そして忘れちゃならんのが中の人の熱演ぶり。ベアトリスと二役を演じているという点でも美味しいけど、単純に螢の出番量が多いから当然台詞も多く、更に感情の揺れが大きいキャラクタになっている分色んな演技が聞けるのが嬉しい。かわしまりの無双。

氷室玲愛 (CV:雛見風香)

玲愛ルートというよりは黒円卓ルート、てのが正しい。それも自分の殻に閉じ籠るばかりだった玲愛が動いて引っかき回したが故の黒円卓ルートになっているのが、こう何とも言えないというか……。グラズヘイムに招かれてからは出番が減りに減り、最後のラインハルトとメルクリウスの戦いではついでのように「この事態を動かしたのは先輩だったんだよ! ヒロインの勇気がここまで導いたんだよ!」的なテキストが出て来るんだけど、今更すぎて吹いた。そうはいっても影が薄いことには変わりはないんだよなあ先輩。熊本とか B カップとか結婚詐欺とか花さかじいさんとか可愛いネタは大量に持ってるんだけど、黒円卓内紛のきっかけになったとは言え影が薄すぎた。見せ場らしい見せ場と言えば黒円卓内紛の鍵となるトリファを動かすきっかけを作り、リザと本音で話し合い、イザークとの対話によって魔城の歯車を狂わせ、更にメルクリウスがそもそもの原因であることを気付かせた点くらい……か? あーいやマリィルートのラインハルト戦では最大の功労者とも言えるか。それでもメメント・モリの精神から逃れられない可哀想な生贄というイメージのほうが強いんだよなあ先輩。いやその悲壮さが好きなんだけども。でも好きなヒロインだっただけに、もうちょっと活躍してほしかったというか。

他のルートでは早々に散った団員たちがそれぞれの理由や動機から造反を決意するシーンは燃えたし、その後の三騎士戦も全員に見せ場があった。中でも聖餐杯返上すら計算の内だったトリファの策略には震えたし、瀕死の状態で玉座まで辿り着いたトリファを讃えて願いを受け入れるラインハルトも王としての風格があって惚れ直す。他にも最後のルートでようやく本気を出したシュライバーや、ルサルカが美味しいとこを持っていく。

その後は香純と司狼の死をイザークから知らされて失意に陥る蓮に変わり、マリィが蓮の体で戦うという意外な展開に入ったかと思えば "座" にいるメルクリウスが蓮を助けることで介入し、ここで一瞬だけ軍服を着たメルクリウスが映るシーンで震えた。しかしこの必死の奮闘といい最後には女神になって世界を包んだことといい、むしろ玲愛よりマリィのほうが活躍しているとも言えそーな……。人間らしい感情を覚え、追いこまれていく蓮を見ていられず自責したりメルクリウスの本質に気付いて嫌悪を抱くなど、ほぼポジティブな面ばかりが表出していたマリィルートとは違い、こちらではネガティブな面が強く出ていたのが印象的。私は玲愛ルートのマリィが一番魅力的だと思った。

更にシュライバーと戦うことで業に立ち向かったベイや蓮と司狼の大喧嘩、ここに来てようやく掘り下げが入ったイザークが目立ち、ラインハルトも己の真の渇望に気付いて自滅因子として覚醒する。そして終盤は蓮と先輩の狙い通りだったとはいえ、普通なら主人公がラスボスを倒すところをラスボスと真ラスボスを戦わせるというまさかの展開。確かに最強同士の戦いは面白かったけどそれでいいんですか……。ぶっちゃけ私も「蓮 VS メルクリウス or ラインハルト」より「ラインハルト VS メルクリウス」のほうが面白そうだと思ったけど、主人公の立場は……いやでも蓮が言うように、何でも自分でやろうとする癖があった蓮の成長の結果として捉えたらまだ納得出来る……ような? しかし直後に先輩が自分たちのことを「脇役カップルだよ」とか自嘲したのがもうアレ。

というわけで先輩の印象は薄かったけど、私は黒円卓が好きなので楽しんだのも確か。まあこの手のゲームでヒロインの存在感が希薄になるのはしゃーないのか。

遊佐司狼 (CV:ルネッサンス山田)

規格外の一般人。この表現は何かがおかしいが、そうとしか言いようがないから困る。聖遺物をメルクリウスから与えられる螢ルートはさておき、マリィルートでは無茶苦茶な方法で聖遺物を入手する上に速攻で形成に至るし、聖遺物を入手しない香純ルートでもベイを倒すんだから恐ろしい。ただ、司狼を規格外たらしめている「既知を感じている間は無敵」というご都合主義設定は、メルクリウスの影響によるものだという理由があるので納得はした。まるで主人公のように活躍するし蓮の存在感を食う場面も多いが、司狼のよーに、どれだけご都合主義な展開が来ても理由があるから何でも出来てしまうキャラクタは万能すぎてシナリオを台無しにしてしまう可能性があるし、だからこそ主人公には成り得ないんだろうなと思うと皮肉にも感じる。また司狼にとって「実は自分がメルクリウスの目的のための道具」だという事実は我慢がならないだろうに、知らず装置として優秀な動きをしてしまうのがえぐい。彼は有能だけど有能であることには神の意図があり、有能だからこそ利用される、という事実。残酷すぎる。

蓮の自滅因子なので蓮とは縁を切ろうとしても簡単には切れないらしいが、特別仲良しというわけでもなく険悪というわけでもなく適度にドライなのがいいなあ。そしてそんな二人だからこそ玲愛ルートでの大喧嘩が胸に刺さった。あのシーンは司狼の中の人の熱演もあり思わず見入ってしまった。普段は飄々としている司狼がキレて、蓮の甘ったれた理想主義な態度を責めるのが痛々しい。とはいえ面白かったのは殴り合いが始まるまでのやり取りのほうで、殴りあってからは互いの主張が交差せず進展しないというか、蓮が代替案を挙げるでもなく延々駄々をこねるだけでイライラした。蓮も司狼の真意には気付いていて、でもどうにもならないから必死に駄々をこねるしかなかったのはわかるけど、元々蓮にいい感情を持つのが難しかったのが響いた。結果、長々と平行線での殴り合いを見せられてしまい、感動して見入る獣殿やメルクリウスとは逆に私は後半でダレてしまった。終わってからの司狼の呆気ない自殺には泣けたけども。あれはあっさり逝ってしまうあたりが司狼らしくて切なかったなあ。しかし覚悟を決めていたエリーはともかく、香純のほうは完全に巻き込まれてしまったのが不憫な……。

他に印象的だったのは、やはりマリィルートの「復っ活――とでも言やァいいのか、この場合はよ」。ルサルカに食われた後、内から聖遺物を奪って出てくるとはさすがに思わなかった。ご都合主義だが、司狼は先にも書いたよーに神によるご都合主義の保護を受けているのでどうせやるなら派手にやってくれたほうがいい。このシーンの司狼には惚れた。終盤、戦う理由がなくなった螢にグッサグッサと正論で嬲るシーンも面白かった。螢に発破をかけたかったんだろうけど、イライラしてたのも事実なんだろうなあ。

本城恵梨依 (CV:皆美伊吹)

一番謎だったのはこの人。司狼のご都合主義はメルクリウスによる仕様なので一応説明はついたけど、司狼の既知感が感染しただけのエリーも派手な活躍こそないものの、黒円卓を前にして堂々としていられるあたりは異常。掘り下げが少ないから尚更そう感じるのかもしれないが、空気は読めるわ聡明だわサポートも出来るわで優秀すぎる。

ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ (CV:トム・クノレーズ)

マリィがメルクリウスだけは拒絶したことを思うと、すべてを愛するラインハルトの博愛主義は徹底している。それは王としては理想的かもしれないが、彼は実の息子に与える愛情すら親のそれではない。すべてを平等に、というより無差別に同じ愛を注ぐ。だから父のためだけにずっと歯車として生きて来たイザークが、父の愛を求めてラインハルトにそれを問うシーンは可哀想だった。何しろラインハルトはイザークが息子であるという事実には頓着せず、暗躍していた友の悪辣さのほうに意識が向いてしまう男なんだから。エレオノーレはラインハルトのそうしたところを知っている上で愛しているのでまだいいとしても、母の愛すら与えられなかった幼いイザークには酷。ただ、黄金の獣のそうした姿勢は最後まで変わらないが、玲愛ルートで自分を生み出した父親とも言えるメルクリウスに矛を向けることでイザークの気持ちを理解して、イザークも父が本懐を遂げられるよう導けたことでも報われたので安堵した。イザークとのやり取りをきっかけにラインハルトが父親らしい愛に目覚めたら、イザークには気の毒だと思うけどちょっと興醒めだなあとか心配してたんだけどそうはならなかったのも良かった。

印象的だったのは玲愛ルート終盤のメルクリウスとの戦い。己の真の渇望に気付き、全力で「すべて」を愛すべく唯一の例外だったメルクリウスに挑みにかかるラインハルトがほんっとーに嬉しそうで、見ているこちらもぶっとんだ状況であることも忘れて思わず和んでしまった。「愛が、足りんよ」という他の人が口にしたら唖然となりそーな台詞も獣殿らしくていい。ラスボスなのに全力で愛を示すラインハルトはまるで主人公のようで、二人の対決から蓮が弾かれたことも相俟って更に輝き出す。といってもこれはラインハルトと相対したメルクリウスが最悪すぎただけのことで、全力で愛することが全力で破壊することに繋がるラインハルトも大迷惑な男でしかないけども。ところで獣殿が擁するエインフェリアの中に、イザークが英雄たる資格なしと判断した螢やシュピーネまで混ざってたのはなんかもう笑うしかない。メルクリウスのぶっとんだ技の数々にも吹いたが、ラインハルトもそういう意味では負けてはいない。しかしメルクリウスに攻撃するシーンがあった螢はともかく、シュピーネは CG に出ただけで出番がなかったのが哀れっつーか……いやまあ獣殿はシュピーネのこともちゃんと愛してるんだろうけど。

メルクリウスとの殺し愛はぶっ飛んだ内容で印象は強いんだけど、一番燃えたのはやっぱりマリィルートでの蓮との流出合戦。あの時のラインハルトも嬉しそうで、特に初めて全力攻撃を弾かれて、更にダメージを負ったことで迸る「ああ、私は今――生きている!」という魂の歓喜は中の人の熱演もあって素晴らしかった。玲愛ルートも面白かったけど、やっぱり一番好きなのはマリィルートだなあ。

それにしても全てを愛するラインハルトの唯一の例外である友が一番最悪な男だったという事実は、なんかこー名状しがたい気持ちがふつふつと……。

ところで玲愛ルートのエピローグで、ロートスに「日本へ行きたまえ」とラインハルトが告げたのは何だったのか。蓮と玲愛が再会するための芽を撒いたのはわかるんだけど、メルクリウスがいない世界になったんだからこれまでの出来事が全部なかったことになっているはずなのに、何故ラインハルトにはその残滓があったのか。しかしこの謎は残るが、あのロートスとの奇跡のような会話で締めてくれたのは良かった。黒円卓が好きだったのでこれまでの物語が否定されたのは寂しいけど、『Dies irae』の物語の終幕としては綺麗に纏まっている。この結末を私は受け入れなければならないんだろうな……。

櫻井戒 (CV:石川ゆうすけ)

螢ルートは櫻井家にフォーカスが当たり、カインの謎が一気に解けるのが面白かった。雷を武器に戦っているのがベアトリスであることは察せられたが、私も神父と同じく「戒とベアトリスが結ばれたことで現在のカインはベアトリスになっている」と思い込んでいたから、ベアトリスはカインに殺されて魂が吸収されていた、という真相には驚かされた。リザがカインに何かを仕掛けていたのはわかっていたけど、てっきり「カインの中身が四代目ベアトリスであること」を隠しているのだと思ってたし。実際は偽槍にスルーズ・ワルキューレを埋め込んでいただけだったのか。そうなるとマリィルートでカイン化した螢がエレオノーレに勝てたのは、リザのおかげでもあったわけだ。黒円卓同士の戦いは因縁が強力な牙として剥くが、エレオノーレはリザ、ベアトリス、螢とそれぞれ縁のある女性陣と対決してやられるべくしてやられたとも言える。それにしても結ばれたかどうかがカインの中の人全員には筒抜け、てのはちょっと嫌すぎないか……。

三代目の戒は天然タラシの気配があって笑った。ベアトリスも強がってるけど満更じゃなさそーだし、この二人はいいバカップルになれそう。香純ルートで螢が蓮に櫻井家とカインについて説明をする時に「私の兄さんはほんとはこんなんじゃないからハンサムでかっこよかったんだから」みたいに言い出した時は申し訳ないと思いつつもちょっと笑ってしまったんだけど、実際イケメンらしいよな兄さん。

しかし残念ながらご尊顔をはっきり拝める機会はない。螢ルート終盤で復活するが、仮面を取らないのはシャアのつもりか。でも蓮たちが逃げ切るまでの時間稼ぎに現れた戒には震えた。「ああ、大きくなったね、螢」の台詞はたった一言なのに卑怯。ラインハルトと戒の戦いは、槍のオリジナルとレプリカの戦いでもあったのだと思うと感慨深い。

ヴァレリアン・トリファ (CV:青島刃)

噛ませ犬であっさり退場するかと思いきや、終わってみれば善人であると同時に臆病だったが故の狂いっぷりが強烈で面白い人だったなあ。香純ルートでは三騎士以降の復活を封じることでラスボスとして立ちはだかり、螢ルートではシュライバーを不意打ちで殺したり師弟対決の末に螢もまた自分にとっての子供であることを認めたり回想で戒とベアトリスを弄んでいたことが語られたり、マリィルートでは天敵のマキナに捕まってしまうもののギリギリまで足掻き、玲愛ルートでは黒円卓内紛の大きなきっかけとして動く。どーよこの凄まじい活躍ぶり。黒円卓を代行とはいえ統率出来るだけはあるというか、他にも香純ルートで玲愛の産道を封じたり玲愛ルートではグラズヘイムの心臓を揺るがすきっかけを与えたりと、実はラインハルトやメルクリウスと並ぶほどの重要な人物だったなあと。何しろこの男がどう行動したかで黒円卓は大きく揺れ動くのだから。

トリファの面白いところは先述したように臆病なところで、逃避先として求めたラインハルトの肉体に弄ばれた結果になるのが皮肉。根底が真面目で善人だったから尚更狂わされたと言ってもいい。彼は逃げてしまった人間だったけど、そりゃまーあんな化け物が二人もいれば逃げたくなるのもしゃーないというか、そこは同情してしまった。愛する子供たちを救いたいのに、破壊で愛情を表現とするラインハルトの肉体に頼ったから愛する者を壊してしまう業。完璧なラインハルトの聖槍を一瞬とはいえ解き放てるのに、ラインハルトに真の忠誠を誓っていないがために発生してしまうズレの矛盾。そしてトリファの玲愛への愛情が、後継の血を愛するラインハルトの肉体から誘発されたものなのか、自分の気持ちから来るものなのかわからず惑わされてしまう様は見ていて痛々しくも魅力的。中の人の演技も素晴らしかった。ほんといいキャラよなー。

玲愛ルートでは本来の肉体に戻ってからの活躍もあり、瀕死の状態でシュライバーとの精神を砕かんとするトリファの執念が凄まじい。私が見てきたエロゲの神父キャラクタはどこかが壊れている者が多かったけど、トリファは中でも一番面白い神父だったなあ。

ヴィルヘルム・エーレンブルグ (CV:杉崎和哉)

元々銀髪と赤目の組み合わせが好きなこともあってアルビノキャラを好きになることは多いんだけど、ベイも例外ではなかった。中の人の功績もかなり大きいけど、この手のチンピラキャラはほんと美味しいよなあ。そしてチンピラなのにラインハルトには忠誠を誓っていたり、玲愛ルートのシュライバー戦からもわかるように戦いの前にはきちんと名乗ったりと、案外真面目なところもあるギャップも良かった。

本当に欲しいものが手に入らないという業は、要するに戦闘でも途中で邪魔が入るなりなんなりでどうしても勝てないということでもあり、それに苦しむベイが可哀想ではあるけど司狼のご都合主義同様に上手い設定。中盤までの蓮たちにとって強すぎる敵であるベイが、蓮や司狼を倒せない理由としても繋がるからだ。しかし毎回毎回横槍が入る様は、私にとっても結構ストレスが溜まった。チンピラはチンピラらしく思い切り暴れるのが華なのに、ベイにはそれが叶わない。そこがもどかしい。死森の薔薇騎士も覇道型で、他の覇道型の創造との食い合いになってしまうと厳しいのが辛い。

ただ、因縁の相手であるシュライバーに効果覿面だったのは美味しい。元々ベイとシュライバーはキャラが被ってるとこあるよなあ、とかぼんやり思ってたんだけどそれはベイも感じていたようで、渇望や外見、ラインハルトに忠誠を誓っている点も含めて本当に似ている二人が決着をつけるべく対峙するシーンは燃えた。しかしそれでも苦戦するんだからやはりシュライバーは強い。結局ベイはシュライバーの頭部を吹っ飛ばし、満足して逝けたようだから良かったのかもしれないけど、私にはちょっと不満が残った。シュライバーが後であっさり復活したのは別に構わないし、むしろ三騎士としてのシュライバーの格を下げなかったので良しとするけど、ベイに食われて彼の中にいた司狼が間接的とはいえ戦いに加担しているのがちょっとな。司狼は好きなキャラだけど、ベイのこの因縁の戦いには勝つにしろ負けるにしろ手を出さないで欲しかった。シュライバーの頭を吹っ飛ばしたのも実質的には司狼の銃によるものだったし、そして既知感の感染も影響しているのが何とも……。まあでも今際の際のベイは幸せそうだったし私が文句を言ってもしょーがないよな、とか思ってたらラインハルト VS メルクリウス戦で獣殿のエインフェリアとして攻撃する際、シュライバーとの対決について「結果に不満はあるものの」という心情描写があって「あーやっぱり満足はしてなかったんだな」と笑ってしまった。いや司狼がどうこうではなく、後でシュライバーが復活したことのほうに不満を持ってるんだろうけど。

とはいえ死んだ瞬間のベイの歓喜は本物だったんだろうし、形はどうあれベイは唯一メルクリウスの呪いから脱却出来たらしいので、あまり私がぐだぐだ文句を言ってもしょーがないんだけども。お疲れさまでしたベイ中尉。

ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン (CV:かわしまりの)

ベアトリスに関しては、何故第一のスワスチカはベアトリスの魂で開かなかったのか、という疑問があった。香純がギロチンで人を殺して集めた魂は蓮の聖遺物のためだと思われていたが、実は第一のスワスチカを開くために使われていた。ベアトリスは強い団員だったらしいから狩った魂もそれなりにあったはずで、なのにベアトリスの死だけでは足りなかった。その理由は螢ルートで判明した。なるほどベアトリスは博物館で殺されたが、本人の魂はスワスチカには使われず戒に殺されて偽槍に取り込まれていたわけか。

彼女は主に螢ルートで活躍してくれるけど、上司と部下、友として信頼し合っていたからこそのエレオノーレとの激闘が熱い。殺し合いをしているのに、軍人気質なエレオノーレがベアトリスが相手だと少し丸くなっているのも印象的。シュライバーを失ってまで神父の策略に乗る振りをしたのもベアトリスに会いたいがためだったもんなあ。どんだけベアトリスが気に入ってたんですかエレオノーレ姉さん。ベアトリスも詠唱がエレオノーレへのラブレター状態でほんと仲良しですねアンタら、としか言いようがねえ……。

ベアトリスは常識人だし出番も少なく、濃いキャラクタの多い黒円卓の中ではちょっと印象は薄かった。でも可愛い人だし好感は持てる。黒円卓に所属しているが、一般人の犠牲を極力避けようとしていたところを見ても悪人ではなさそうだし、一方で軍人としても弁えていて螢のように甘い考えを持っていないところがいい(しかし螢はそういう甘ったれた考えを持った上で開き直っているところが可愛いとも思う)。贅沢を言えば戒と螢は当然としてもエレオノーレとの過去、トリファやリザとのエピソードが足りないのはやっぱり気になるわけで。ゲーム開始時点では故人だけど、黒円卓に今でも影響を強く残しているし掘り下げられそうな要素はいくつもあったのに表面的な部分しか描かれなかったので食い足りない感が。ああドラマ CD を聞けってことですかそうですか。

イザーク (CV:雛見風香)

結構序盤から引っ張っていたイザークの父親については、玲愛ルートでヒントが出るまではラインハルトか否定したこともあってトリファかメルクリウスなのでは、と思ってたんだけど違った。イザークの父親はトリファに預けられる前のラインハルトの肉体で、だからラインハルトは知らなかった。確かにリザは死体を操れるんだから、死体との性交は可能だったんだろう。でもそれすらもメルクリウスの誘導によるものだったわけで、もーほんとにすべての事象に関わってたんだなあ水銀……。

イザークはマリィルートで父親と思われる男に流出を促すための邪魔になると判断されて消滅させられたり、玲愛ルートでトリファの尽力によりやっと父親と会話できたかと思えば辛い事実を知らされてメルクリウスに嫉妬し、狂っていく様が痛々しかったけど、最後の最後で蓮と玲愛に見せてくれた笑顔で私も救われた気分になった。

ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン (CV:左高蹴)

そもそもラインハルトに忠誠を誓っているわけでもなく、攻撃を当てることが出来ればラインハルトを倒せる可能性も持つ異質の騎士。しかしマキナが興味を持つのは蓮とメルクリウスだけなので、ラインハルトと戦うつもりはないんだろう。そんなマキナのある一言が玲愛ルートにおける双首領同士の戦いに導いたことを顧みれば、何気に相当の功労者のよーな……作中では軽く言及されただけだったけど。あと寡黙だけど黒円卓の中では一番常識人ぽい。もーちょい他のキャラクタとの絡みがあれば良かったんだけどな。

マキナの戦闘はだいたい蓮との戦いになるが、一撃必殺の創造をどうかわすかの一点に集約されているのでわかりやすかった。一度わかってしまうと後は呆気ないものだけど、マリィルートでは蓮が流出に至るきっかけにもなってるし、なんだかんだでマキナ戦は面白く読んだ。蓮の出生の謎の大部分が明かされるのもマキナ戦だったもんなあ。ロートスの個我は、マキナの中に取り込まれていたものからメルクリウスがサルベージして、蓮の誕生の素材に使った――ということでいいんでしょーか。

ルサルカ・マリーア・シュヴェーゲリン (CV:木村あやか)

ロリババアで既婚者でビッチで残虐な魔女でありながら、一途にロートスを想い続ける乙女なところにぐっと来た。ヒロインにするには危険な設定が多いが、ルサルカはそれが上手く魅力に結実した。香純ルートでは馬鹿にしていた蓮と螢にやられ、螢ルートではスワスチカの生贄にされた挙句にメルクリウスによって聖遺物を司狼に勝手に渡され、マリィルートでは司狼に内から食い破られて聖遺物を奪われるばかりかシュライバーによって生首メッセンジャーにされ、玲愛ルートではトリファの策略を結果として台無しにはしたもののマキナ戦であっさりやられて地上に落されてスワスチカの生贄にされるなど不幸な印象が強いが、だからこそロートスへの想いが輝く。蓮 VS 三騎士戦でマキナにナハツェーラーで足止めしたのも、蓮が聖遺物を扱うことに優れた聖遺物であることと、マキナを引きずり降ろそうとするルサルカの残留思波の執念と、ロートスと関係がある蓮を助けるためでもあったんだろうと思うと泣ける。でもこの報われなさが可愛らしくもある。

ロートス絡みのエピソードが唐突だったのは残念。元々ルサルカの渇望にロートスは関係なかったはずだし、螢ルートで獣殿と対峙する羽目になった螢同様、他の三騎士とは因縁もなく余ってしまったルサルカをマキナにぶつけるための後付けっぽい気配が。

エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ (CV:谷口ケイ)

戦士として邁進してきたが故にラインハルトへの恋心に気付こうとしない乙女。気付こうとしないから余計に恋心は募り、しかしエレオノーレはそれでも報われたいとも思っておらず、届かぬ輝きをひたすら求め続けることですさまじい情熱を持っているのがいい。ある意味、文字だけをみると戦乙女のポジションはエレオノーレにこそ相応しい。あとリザとの会話で出てきた早起き対決エピソードは笑った。複雑な渇望を抱える団員が多い中、エレオノーレの渇望はわかりやすくシンプルなのも良かったなあ。そういうところもエレオノーレの厳格で遊びの無い性格が出ていて可愛らしい。

戦闘では毎回「お前はラインハルトに恋をしてんだよいい加減気付け」と言われている印象が強いが、リザ戦は相手が女を究極に体現したようなリザだった分、説得力もダメージも大きかったことだろう。リザが頬を張ったのも、いかにもこの二人らしい決着のつけ方でよかった。それにしても詠唱は聞いているこちらが恥ずかしくなるほどの情熱的なラブレターになっているのに、エレオノーレは忠義だと思い込んでいる、てのがまた……。ラインハルトも気づいてはいないんだろうが、まあ気付いてもどうにも出来まい。

エレオノーレの創造は必中だが、二次作品では「むしろ当たらないフラグ」とも言われる必中がエレオノーレの場合は攻撃が当たっている。いやでも滅多に剣を抜かないからそういった印象を与えるだけか。ところでエレオノーレの専用 BGM が好み。あと髪は下ろしたほうが素敵だと思います少佐。ベアトリス戦ではそんな少佐に心臓を鷲掴みにされた。

ロート・シュピーネ (CV:三川春人)

まさかこんなに退場が早いとは思わなかった。協定を結んでいたはずのトリファはなかなか形成段階に到達しない蓮への荒療治としてシュピーネを利用し、更に黄金練成の阻止のために動いていたシュピーネの魂を持ってスワスチカを開かせるという鬼の所業で、凄まじい噛ませ犬っぷりに泣ける。極めつけは蓮に容姿を貶されていたあたり。つーか女顔に見られることを嫌がっている蓮が、シュピーネに「不細工」だの「鏡見て出直して来い」だの「顔の差かな」だの言うのがひでえ……。蓮のこういうところも好きになれない。

しかしこんな扱いではあるものの玲愛ルート終盤の獣殿 VS 水銀戦では獣殿のエインフェリアの一人としてちゃんと登場していて、良かったね……と思わずホロリと来た。

リザ・ブレンナー (CV:彩世ゆう)

超人の赤子を生み出すサラブレッド計画に加担していたということで、本人は過ちに気付いて後悔しているしそもそもメルクリウスがけしかけたことでもあるし、更にリザの一見常識人のようなキャラクタのせいで目立たないが、リザの聖遺物が赤子の肌から作られたという事実が示しているように、大量の子を殺したという点では悪魔と言って差し支えない。ただ、同じく子供に関する辛い過去を抱えているトリファと違うのは、「大量に殺した子供たちを救うために自分の曾孫を生贄に差し出す」という矛盾に気づいている点。そして矛盾から来る痛みが自分への罰になっていると考えている厄介な女性で、偽善者の自分に酔っている面もある。リザのこういう歪んだところはツボ。香純ルートや螢ルートでは早々に退場するので印象は薄かったけど、マリィルートの病院戦や玲愛ルートの曾孫との語らいを経て一気に輝き出した。いいキャラクタ。

玲愛ルートでは更にラインハルトに反旗を翻し、地獄巡りに突入させられた時にトリファを友人として「ヴァレリアン」と呼ぶのがとても良かった。マリィルートの病院で「ヴァレリア」としか呼ばなかった時とは対比になっていて泣ける。だからこそトリファは何としてでも目的を達成せねばならなかったし、結果としてそれがリザを利用する形になってしまうのがトリファの業の深さを思い知らされて遣る瀬無いが、リザはトリファのそんなところもちゃんと知っていたはずで、むしろ今まで競い合って来たエレオノーレに張り手を食らわせたことで胸のつかえも取れたことだろう。このエレオノーレとの対決ももちろんリザの見せ場の一つだったけど、元々疑似家族の関係に私が弱いこともあり、玲愛ルートにおける曾孫との会話が一番印象に残った。

ウォルフガング・シュライバー (CV:日椰たぬき)

少年と見るべきか少女と見るべきか男の娘と見るべきか。強力な魅力を持つ黒円卓の一員にしては、珍しくハマれなかったキャラクタ。原因としてはショタ属性が私にはまったくないことと、あとはまースピードスター系キャラって基本的にハマらんからなあ……。実の母親に性器を切り取られ目を抉り取られ、父親だと名乗る男に空いた眼窩に性器を突っ込まれるという壮絶すぎる過去にはさすがに同情したものの、一方で過去を再現した一人芝居は唐突で見ていて面食らったのも事実。中の人が熱演しているから尚更……。ただ、地獄巡りで玲愛が会ったアンナ時代のシュライバーは可愛かったなあ。別に男の娘が好きなわけじゃないんだけど、妙にときめくものがあった。

印象的だったのは玲愛ルートでの神父戦。誰よりも早く動けるけど紙装甲というシュライバーの尖ったステータスは、つまりメンタルが脆いってことでもあり、だから心理面では恐ろしく強いトリファを相手にした時点で詰んでいた。それも相手は自分でも気付かない矛盾を抱えた者同士だったんだから、相性は最悪だったわけだ。そしてトリファによる真の渇望の指摘は、結果として蓮を三騎士で圧倒していたシュライバーに敗北を与えることになる流れには因縁めいたものを感じた。螢ルートでも本気を出す前にトリファにやられていたし、トリファにとっては十人の子供たちを殺した張本人だもんなあ。ベイも因縁としてはいい線行ってるんだけど、彼の場合はベイからの一方的なものでしかないので、決着をつけるのはやはり神父がしっくり来る。

それにしても狂乱状態のシュライバーは反則すぎる。誰よりも早い、てのは確かに強力だけど、真に恐ろしいのは史上で一番多くその手で人を殺してきたが故の燃料の多さ。トリファが指摘した「触れられたくないけど抱きしめられたい」という矛盾した渇望を、そのまま体現するかのような瞬時再生能力。銃を使わずに攻撃するには相手に触れなければならず、だからこそ攻撃を食らっても失われた肉体を捨てて新しく生まれ変わる、という筋が通っているようで目茶苦茶な思考回路。これこそが壊れたシュライバーの真骨頂。

メルクリウス (CV:先割れスプーン)

今現在、私が知り得る限りでもここまで性質の悪い男はそういない。最低で最悪でどうしようもない男だが、最後まで嫌いにはなれなかった。むしろ一番好きなキャラクタになってしまったのが悔しい。忌々しい。ああ忌々しい忌々しい。くそあー! そして中の人の熱演も素晴らしかった。蓮、メルクリウス、ロートスと三役を演じていたが、中でもメルクリウスのあの芝居がかった鬱陶しい喋り方が編み出された演技は必聴。彼の凄まじい鬱陶しさは中の人によって完璧に構築されたんじゃないかな。

しかし鬱陶しく回りくどい話し方をするメルクリウスだからこそ、マリィへの「あなたに恋をした」というストレートな告白からはその想いの深さが感じ取れた。本人も「恥をかいたよ、笑いたまえ」と言っていたけれど、それほど衝撃の恋だったんだろう。そしてメルクリウスは、彼女に抱かれて死ぬためだけに繰り返しの秩序を生み出した。その渇望が流出するのが物語の終点なので、メルクリウスは渇望より流出が先に発生するという目茶苦茶なことになってたのな。そして自分が今の世界を生み出したのに、とてつもない時間を過ごしたことで渇望を思い出せなくなっていったから、メルクリウスは自分が流出させた世界であることに気付きながらもその秩序に苦しむ羽目になった。端的に言うとループなんだけど、メルクリウスの永劫回帰の世界は「死んだらこれまで生きた人生とまったく同じ道を再び歩むために母の胎内に戻る」仕組みになっており、メルクリウスも自分が望んだ結末に導くのが難しく何度もやり直してしまう。現に香純ルートや螢ルートでは失敗している。そしてマリィルートでようやく成功したはずなんだけど、この後にも回帰させているらしいのが謎。エピローグではマリィを女神にする目的が叶ったことで大人しく受け止めている様子だったが、やっぱり殺されなかったのが不満だったのか。しかしその後の玲愛ルートの終結をもってようやく本懐を遂げた。『Dies irae』は恐ろしいほどの時間をかけて、宇宙規模の壮絶な恋を貫き通した男の話だったんだなあ……。他人の人生を自分の勝手で弄んだ究極の自己中心男で、それは自分自身すらも既知感に苛まれるという地獄に突き落とした。しかし螢ルートではベアトリスの出した一方的な条件を呑んだり、香純の決死の覚悟には「乙女の涙が条理を覆すのが定番ならば」と全力で応えたり、真意はどうあれラインハルトとの約束を違えることがなかったりと誠実な面もある。マリィルートでも他でもないマリィに回帰世界の現状維持を提案されて「それだけは認められん。私の友が許さんし、彼への裏切りになる。有り得んよ」と一蹴しており、さり気ないシーンながらも地味に印象に残っている。悪人ではないんだよなこの人。最悪ではあるけど。

とはいってもメルクリウスが酷い男であることに変わりはない。黒円卓の団員に恨まれるのも当然だろう。それだけのことをメルクリウスはして来た。そんな男を唯一愛してくれるのはラインハルトだけだろうが、そんな懐の広すぎる存在が友でいてくれたことにメルクリウスは感謝すべきじゃないのかこんにゃろう。ラインハルトにしてみれば唯一の友こそがすべての元凶だったことにずっと気付けなかったんだから恨んでもいいはずなのに、彼はそれでもメルクリウスを愛するどころか特別な例外として認めている。でもこうして考えると、この二人は友になるべくしてなったのか、と妙に納得してしまう。自滅因子という宿業の力が大きいことは否めないが、少なくてもメルクリウスのことを全部知った上で友でいてくれるのはラインハルトくらいなもんだろう。ただ、獣殿がすべてに気付いてしまうと二人は結局殺し合うんだろうし、相討ちが確定する。それがまた美味しい。

だからこそ、玲愛ルートでのラインハルトとの本気の戦いに触れないわけにはいかない。いつもボロボロの格好をしていたメルクリウスが、初めて黒円卓の正装を身に纏った姿で表舞台に出て来るシーンは鳥肌が立つ。しかし超新星爆発だのグレート・アトラクターだの暗黒天体創造だの笑っていいのかよくわからん技をぶっ放す様はもう完全にギャグの域で、これ絶対わざとだろう正田卿。まさに究極に近くなるほどギャグになる、の好例。しかし獣殿の持つ「神殺しの槍」が "座" の神でもある「メルクリウス殺しの槍」に繋がるのは巧いなあ、と舌を巻いた。聖遺物を扱うことに優れた聖遺物である蓮が聖槍だけは扱えなかったのは、メルクリウスを殺す役目をラインハルトが担っているからか、と納得出来た。そしてラインハルトはそれこそ何度も言及されていたように悪魔のような男で、つまるところこの二人の戦いは神と悪魔の戦いでもあったのだなあと。

しかしあれほど恋を捧げた少女に、メルクリウス自身も触れられないのは切ないなあ。彼にとってマリィに触れるということは神の自殺を意味するし、それは世界の崩壊に繋がるしメルクリウスの本意ではない。だからお膳立てを整えた上でマリィに抱きしめられて殺されたかった。しかしそうした布石を打つのは困難を極めた。何故なら他でもないメルクリウス自身が、マリィに必ず出会うためだけに一本道の同じ時間を繰り返そうとしたんだから、そんな強固な法則を傾けるのは非常に難しい。でも彼は数万年のリセットを何度も繰り返し、ようやくそれを成し遂げた。

全部終わらせた今、振り返ってみれば『Dies irae』はメルクリウスのメルクリウスによるメルクリウスのための話だった。消滅したとはいえ、自分の一番望んでいたものを彼は得られたんだから。自分の筋書き通りに描いたシナリオでは終焉を得ることは叶わなかったが、自分の筋書き通りにはいかなかったシナリオでは終焉を得られた。それもマリィが流出の直前に登場してくれるというこれ以上はないくらいの予想外に会えた上での最期で、誰よりも未知を渇望していたメルクリウスにとっては長く生きた中で一番の幸せだったんだろう。この男のマリィへの一途な想いは恋を通り越して愛と表現したほうが正しい気もするが、メルクリウスはあくまでも「恋をした」のだと終幕のその時まで言い続けた。

勝利おめでとうございますカールさんヽ(`Д´)ノ