Antipyretic

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D.C. Girl's Symphony

http://www.sanctuary-otome.com/contents/game/dcgs/

D.C. シリーズの女性向け版。少女漫画を読んでいるかのような、ファンタジー要素を取り入れたピュアな王道乙女ゲー。ここまで王道少女漫画の系統を踏襲している乙女ゲーは何気に貴重で、先が読める展開ばかりなのに逆に新鮮に感じられたのが面白かった。本家エロゲ版のキャラクタも数人登場させてるっぽいけど、それもほんの少しだけなのであまり気にならないレベルなので問題ない。

文章は特に癖がなく読みやすい。絵は独特の服の皺の描き方や女子と男子の顔面積の違いが気になるくらいで万人受けするスタンダードな絵柄だし、システムはかなり安定しているし各キャラの ED でかかるキャラソンもよかった。

敢えて論うほどの欠点がないんだけど、逆に言うと突出したものがないのも確か。王道を綺麗に準えているのと主人公が鈍感過ぎることもあって先はあっさり読めてしまうが、萌えや満足感は与えてもらったのでこれはこれでいいんじゃないでしょーか。

「夏空・そよ風・桜色 はにかみ純愛アドベンチャー」というキャッチコピーには度肝を抜かれたけど、終わってみれば確かにそんな感じだった。キャラクタはみんなよかったし、萌えもツボも綺麗にまとまって揃えられている良い作品。

古城史桜

鈍感過ぎてイライラさせられることはあったけど、素直な可愛さでギリギリ相殺。うじうじしているところも気にはなったものの、これにはちゃんと理由があったので受け入れられた。しかし史桜以外の女子キャラクタがモブキャラを含めて全員アレな性格の持ち主ばかり、てのが地味にキツい。クラスメイトの女子は露骨にバカな子として描かれていて、「その子たちがバカであること」よりも「バカとして描かれていること」が不愉快だし、おーちゃんも兄ルートでの言動に限らず自分勝手なところが多くて好きになれない。お友達はもうちょっと選んだほうがいいんじゃないですかね(余計なお世話)。

四之宮稜平 (CV:鈴木達央)

ちょっと乱暴だけどかっこよくて可愛くて、常に史桜を守ってくれる怪獣王子。稜平が王子様ポジションにいるのは不思議な能力のせいもあるが、それでなくても稜平本人が素で王子様なんだよなあ。勉強も出来てスポーツも出来て家事も出来てイケメンで優しくて一途で誠実で家族思いで、何より主人公にとっては王子様と言うべき男の子。これだけ完璧だとつまらないキャラクタになりかねないが、稜平がいい意味での隙や可愛さもあるのが良かった。完璧だけどつまらなくならないバランスで成り立ってるというか、隙の配分も含めて「完璧に魅力的なキャラクタ」。更に最初から史桜に惚れており、それでも史桜が誰を好きになろうとちゃんと助けてくれるのがずるい。そして他のルートでも稜平が一番に助けてくれることに理由があったのもよかった。史桜の悲鳴がどこにいても聞こえるから史桜が一番辛い時にいつも助けてくれるわけで、史桜と稜平の能力の伏線は全部のルートでさりげなく置かれていた。一番気になるキャラは最後に残すプレイスタイルをずっと貫いてきたけど、史桜の能力の掘り下げがあるし稜平ルートを最後にプレイしたのは正解だった。逆に言えば他のルートではあまり意味をなさない設定だが、瑣末ではあるけど史桜の能力に触れる展開がないわけでもないのでそこはまあ許容範囲かなと。

クラスメイトからの嫌がらせについては稜平が守ってくれるだろうと思っていたからあまり心配せずに見ていられたし、それよりもこうしたイジメが航平ルートでは全くなかったのが気になったというか、その違いが興味深かったというか。航平のほうが人当たりがよく王子様然としているので、クラスメイトの女子からのやっかみを受けるなら航平ルートかなと思ってたんだよなあ。航平が誰にでも優しいから史桜が特別扱いされても目立たなかっただけなのか、それとも違う理由があるのか。他に気になった点としては、やはり史桜の能力。終盤、史桜の考えていることが触れてもいないのに他人に聞こえるようになる日があったけど、何故あのタイミングでああなったのかがわからないままで、おまけにそういう状況になったのがその一日だけだったのも謎。稜平には史桜の考えが漏れていたのに史桜が稜平をどう思っているかが漏れていなかったのは、稜平に伝えたい気持ちがあったからこそそれだけは自分の口から伝えることを史桜が望んでいたからだと解釈してるんだけど、全員に漏れた現象だけは最後までわからないままだった。

好きなシーンは屋上での昼食。「稜平くんの作ったお弁当食べたい、なぁ……?」で落ちる稜平がほんっとにかわいくてかわいくて私にしては珍しく萌え転がった。その光景を導いた航平も含め、あのシーンは三人ともが可愛らしかった。

四之宮航平 (CV:鈴木裕斗)

稜平とは対照的な正統派王子様系に見えるけど、実は自分に自信がなくいつも必死で、そんな航平が鈍感な史桜を相手に頑張っている姿が涙ぐましかった。正直私はどのルートでも稜平に意識を奪われたし、それだけ魅力的な人物がよりによって双子の相手だからどうしても比べられてしまう。航平は欠点を見つけるほうが難しいくらいの出来た子なのに、シナリオも何の苛めかっつーくらいに稜平の優秀さをアピールしてくるので航平の痛々しさがマッハ。史桜と幼い頃の思い出をたくさん持っているのも稜平、史桜の足の怪我に気付いたのも稜平、史桜の欲しいプレゼントをきちんと用意してやれたのも稜平。弟のほうは見た目が王子様で中身は平凡、兄は一見粗野だけど中身が王子様でなんでも出来る。だからこそ彼氏のはずの航平は焦り、性格や好みは全然違うのにだんだん稜平の仕草や性格をトレースして行く展開はゾッとした。ここはプチホラー。

だからこそその頑張りは報われて欲しいなあと思ったし、最後はハッピーエンドでものすごく安堵してしまった。最後の CG が二人きりの絵ではなく稜平を交えての三人の絵だったけど、稜平を相手に対等になれた航平が見られるのが嬉しい。欲を言えば ED 後のふっきれた航平をもうちょっと見ていたかった。航平ルートではあまり表に出ないが、本来の航平には稜平を言い負かせるだけの強さもあるし、いい意味での黒さを持っていることも他のルートを見ているとわかるので、そういう航平を見たかったというか。

中の人の棒演技は気になったけど最後には慣れた。キャラに合ってはいた。

四之宮蒼 (CV:堀江一眞)

この手のキャラは嘘を言っているようで真実を零してたりするのがお約束なので、病気に関してはそれほど驚きはなかった。序盤から伏線はわかりやすく見えてるし、蒼の真意を察することは可能なんだけど、それでも史桜をペット扱いしたりこき使ったり振り回したりとあんまりな言動には何度殴ってやろうと思ったかわからん。ただ、今までの言葉の中に本音を潜ませていたあたり、やっぱり基本的に嘘はつけない人で、それでも冗談を言わなきゃやってられなかったんだろうなと思うと遣る瀬なくなる。そうした蒼の気持ちはよく伝わってきたし、史桜とのデートも全部ちゃんと行こうとはしてくれていた。それで史桜が振り回されることになっても、無茶をすることで兄弟に迷惑がかかっても、それでも史桜と一緒に過ごす時間が欲しかったんだろうと思うとぐっと来る。

終盤の桜の木の下でのシーンも良かった。いつも飄々としていた蒼の慟哭が重い。互いに互いを思っていたことがわかってからも、自分の病気のことを考えて史桜を最後まで求めようとしなかった蒼の決断からも、蒼の中の遣る瀬無さや悔しさや、何よりも史桜への優しさと思いが伝わってくる。最後は手術を成功させた蒼が帰って来たシーンで締められていたが、雪と桜の両方が舞う中での再会ってのがロマンティックで良かったなあ。

ところで唯一気になったのが、蒼が史桜を無視した場面。女子に言い寄られているところに遭遇した史桜を無視して、その後に史桜の反応が見たかったとか言ってたけど、あれも女子にモテる自分が史桜に構うと史桜にが女子に苛められるからそれを避けたんじゃないか。史桜をからかいたかったのも嘘じゃないんだろうけど、蒼は自分が重い病気を持っていることで兄弟にも迷惑がかかっていることを申し訳なく思う人だから、単にからかうだけの理由で史桜を無視したとは思えないんだよなあ。

四之宮渓 (CV:羽多野渉)

カウンセリング恋愛ルートだったけど、肝心のトラウマ救済描写があっさりしていたのは残念。ありきたりなネタといえばそうだけど、テンプレだからこそもっと上手い盛り上げ方はあっただろうから惜しい。ただ、恋人になってからも冷たく見える渓に、少しでも好きになってもらおうと努力を重ねる史桜はいじらしくて良かった。恋して頑張る女の子は世界で一番可愛い。それが乙女ゲーの主人公であれば尚更。そして兄のシスコンぶりが一番発揮されてるのもこのルートで、渓と兄のコミカルなやり取りを見るのも楽しかった。

渓に関しては、ホラー映画を見たことがない史桜に「人生の損失だ!」と鬱陶しいオタクの押し付けがましいテンプレ台詞を振り撒いたり、遊園地でお化け屋敷に突入したかと思えば細かく駄目出ししたりとホラー系の娯楽が大好きな面が見れたのは面白かった。意外に女の子と付き合いがあるのも新鮮。渓は軟派ではないけど、この手の真面目なキャラクタに告白して「軽い遊びのつもりでもいいなら」と返ってくるのは珍しい。

印象的だったのはエピローグで見られる渓の笑顔。これまでずっと不機嫌そうな表情を通してきて、最後の最後に零れんばかりの笑顔を見せてくれたのが良かった。父親の形見の腕時計が再び動き出すシーンや史桜の前で泣き出すシーンではなく、ここで渓は両親の事故死に関する自責の念から解放されたのだということを強く実感出来た。

古城孝明 (CV:平川大輔)

義理でも兄妹として過ごした時間があれば恋愛関係になった時に戸惑うだろうし、そこをクローズアップして来るのかと思ったら違った。そうした葛藤は史桜の保護者である孝明のほうはしていたようで、そこは史桜に告白されても受け入れようとはしないあたりからも伝わってきたけど、兄がそうやって逃げ腰になるせいか史桜はあまり悩んでいない。史桜がまだ子供であったことや、孝明が古城家から離れて暮らしていた期間があったことも関係しているんだろうけど、孝明が自分を好きなはずなのに拒絶するからもどかしく思ったんだろう。何よりおーちゃんが孝明に猛アタックするから気が気でなく、もはや史桜にとって「兄妹」は邪魔な記号でしかなかったのかもしれない。

じゃあ孝明ルートは何をメインとして描かれていたのかというと、親友と同じ人を好きになってしまった苦しみを描こうとしていたんだと思う。「していたんだと思う」ってのはなんか曖昧だけど、孝明ルートクリア後に印象に残るのはおーちゃんのヤバさだったから「していたんだと思う」としか言えない。思えば家庭教師の件でおーちゃんが勝手にななか先輩に返事するあたりから嫌な気配は漂っていた。本人の意思を確認せずにちゃっちゃと決めてしまうななか先輩もよろしくないが、史桜の問題なのにやはり史桜の意志など無視して憧れのななか先輩を肯定したがるおーちゃんはだいぶアレ。更に孝明ルート終盤、おーちゃんによる学校中を巻き込んでの史桜と兄へのやつあたりが陰湿かつ派手で腹が立つ以前にもう笑ってしまった。ていうか笑うしかない。古城兄妹が寄り添っているところを撮って写メをクラスメイトにバラ捲き、孝明を退職に追い込む署名運動を始め、更に孝明にセクハラされただの怪我をさせられただのとでっち上げる。さすがに怒った史桜が問い詰めると「だってキモチワルイでしょ、生徒に手を出す先生が担任なんて」とか言い出すんだからすごい。あなたが言うんですかそれを。おーちゃんに自分の兄への気持ちを告げていなかった史桜にも反省点はあったけど、おーちゃんの所業はちょっと行き過ぎていた。その上、あれだけやられてすごい速さで元の鞘に納まるあたりが杜撰。良かったのはフォローがさり気なく男前な稜平の存在くらいしかない。

龍之介 (CV:大須賀純)

キャラデザを見た瞬間にどういうキャラクタなのかわかってしまった。そして序盤のおーちゃんとの会話で龍之介の正体を確信し、そこから簡単に組み立てられる話の筋がそのまま描かれてゆく。しかし敢えて文句を言うほどのことでもないし、別にシナリオが破綻しているわけでもないからそれはいい。しかしそんな龍之介の事情に終盤までまったく気付かない史桜には苛立った。記憶が戻った龍之介が自分の正体を告げているのに、その真意に気付けないのはさすがに鈍感がすぎる。作者としては史桜が気付くタイミングを最後に持ってきて盛り上げたかったんだろうけど、これではあざとすぎて逆効果。

しかし桜の木の魔法でハッピーエンドになると思ってたので、結局死んでしまうとは思わずそこは驚いた。考えてみれば龍之介が人間になって史桜に会えたことがすでに桜の木の魔法によるものだったから、そこで奇跡は終わっていたんだろう。ぼろぼろになった龍之介の亡骸を抱いて史桜が泣くシーンは切ない。そして弱っている史桜に、つけ込むような真似はしたくないと告げる稜平が反則。兄ルートでもそうだったけど、史桜自身ですら気づいてない本音を掬い上げるような問いかけをしたり、ずるいタイミングで攻略中の相手ではなく稜平が助けてくれたりと、稜平はどのルートでもほんとにフォローが上手い。

肝心の龍之介については、ショタは守備範囲外だし最初は我侭ばかりで鬱陶しかった。しかし徐々に可愛く思えていくことで、最初は戸惑うものの龍之介を愛しく思うようになっていく史桜の気持ちとシンクロしやすく読みやすかった。ただ、史桜が龍之介に抱いた気持ちが幼い恋だったとしても、龍之介のほうはどうだったか。あの一瞬の口づけも恋心は含まれておらず、単に飼い犬が主人の顔を舐めるような愛情表現でしかなかった。あのやかましい兄が龍之介を危険視しなかったのも、龍之介の史桜への気持ちが恋と呼ぶには遠いものだったからだと薄々気づいていたからじゃないか。

成川大瀬 (CV:成瀬未亜)

弟の通う病院の子供たちのために慰問劇をやろうとするところからも優しい子だとわかるし、自分に自信があるところも大瀬の長所だと認識しているが、史桜や周囲の人間をダシにして自分本位に突き進むことも多いので、そこが気になってしまうというか。史桜から恋の相談を受けてすぐ航平に話してしまうのもちょっとなあ。航平は相談相手としては申し分ないとは思うけど、すぐバラすことが多かったので印象があまり良くなかった。