Antipyretic

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WHITE ALBUM2 -introductory chapter-

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シナリオが短いことも影響してるんだろうけど、それでも恋愛模様だけを描いた作品でダレずにプレイ出来たのは私にしては珍しい。学園祭でのバンド演奏を成功させるまでが前半の物語になっており、三人が絆を深めていく様を描きながら不穏な未来を感じさせる小さな刺を突き刺すことも忘れず、ライブで頂点に輝いた後は刺の効果が出て徐々に壊れていく。本音から見て見ぬ振りをしてしまった春希の痛々しさ、本音を出さざるを得なかった雪菜の痛々しさ、本音を隠すしかなかったかずさの痛々しさと三人三様の痛みが丁寧に描かれていた。そんな中でも春希はその時その時で誠実になろうと努力するが、誠実になるべき時と相手を間違えて行く。それも致命的に。三人を上手く表現しているのが OP の「届かない恋」。名曲だとは思うけど、「春希がかずさを思って書いた詞」に「かずさが春希を思って曲をつけた」上で「雪菜のための歌として雪菜に歌ってもらう」という構図になっていることを知った後ではもう残酷な歌にしか聞こえない。雪菜は歌詞の意味に気付いただろうし、春希は自覚がないから尚更。

テキストは読みやすいけど若干くどい。『パルフェ』の時もこんなんだったっけ。読みやすい文章なので多少のくどさを看過出来る程度ではあるけども。問題は村様の絵。せっかくのいい作品を原画が一人で足を引っ張っているような……。ぶっちゃけ CG が出た瞬間に冷める場面も少なくなかった。立ち絵も腰が細すぎたり腕が長すぎたりと不安定なのが気になる。『TH2』の時は特に村様の絵が駄目だとは思わなかったんだけどなあ。

演出は自動進行が鬱陶しい。意図はわかるしライブシーンはそれでいいけど、それ以外のシーンではいらなかったんじゃないか。クリックが効かない状態が何度も入ると地味にストレスが溜まる。終盤、春希がかずさを探しに行く時のアニメーションもアレ。スキップ速度が遅いのも気になる。短いシナリオだし一本道だからスキップなんて使わないだろうと思いきや、二周目に仕掛けがあるので結局使う羽目になる。バックログがテキストウィンドウ単位でしか遡れず、おまけにロードした後はそれまでのログがさっぱり消えてしまうのもちょっと……。更に言うとディスクレスでプレイ出来ないのも面倒だし、それ以上にディスクチェックが頻繁に行われるのが心底からうざい。

発売前からあちこちで文句が出ていた分割商法に関しては、ちゃんと切りのいいところで終わらせてあるし『ic』だけでも十分面白かったから文句はないんだけど、ボリュームが足りてない。といっても私は短い作品が好きなので長さ自体に不満はないけど、値段と釣り合ってないのが引っかかった。6000円でこれはちょっとなあ……。

――と、文句も色々書いたし二人のヒロインにハマれなかったのは残念だけど、それでも一気に読み終えたくらいには面白かったので続編は購入する予定。これはまだプロローグだけど、シナリオはもう完成しているらしいし丸戸氏ならこの面白さをきちんと最後まで維持してくれるだろう、という信頼もある(本作を含めて二作しか読んでないけど)。不安要素は発売日と村様の絵のクオリティくらい。

ちなみに前作の『WHITE ALBUM』は理奈ルートを途中までプレイしただけで内容もほとんど覚えてないけど、本作をプレイするのに何も問題はなかった。知っているとニヤニヤ出来る場所はいくつかあったけど、多分まったく知らなくても問題ない。

北原春希 (CV:非公開)

三角関係を題材にした作品は主人公に苛立たされるケースが多いけど、春希はスペックが高いし行動力もあるので思ったよりは心穏やかに見ていられた。その行動力が仇となる場面も多かったけど、それが面白い話でもある。

この歪な三角関係は誰が悪かったのかというと、作中でも示された通り全員それぞれに罪があったんじゃないかなあ。春希の罪はかずさに惹かれていながら雪菜の告白を受け入れた件になるんだろうけど、安定を望む生き方をしてきた春希には典型的なツンデレであるかずさが自分の気持ちを受け入れてくれるとは想像も出来なかったんだろうし、面倒見がよく鬱陶しいほどのお節介人間だからこそ雪菜の告白を撥ね退けられなかったのも理解出来る。そして雪菜は素直になれないかずさと、人の真剣な願いを拒否できない春希の性質を知っていたからそこに付け込んだ。というよりは付け込むしかなかった。

小木曽雪菜 (CV:非公開)

最初から当て馬オーラがすごい。大人しいように見えて強かだったり、好きなものに対しては空気を読まなかったり、かずさに宣戦布告をしたり、かずさとの思い出を延々語る春希に苛立って同じ苛立ちをかずさも味わうように仕向けたり、傲慢だったりするところは好み。しかしどれだけ自己中でも我儘でも強かでも、好きな男の子に好きになってもらえないのではどうしようもない。だからこの子はどうあっても最後には笑顔ではいられないんだろうな、てのが早くから見えていて痛々しかった。プレイする前はもーちょい三人のバランスは拮抗するだろうと思っていたのに、蓋を開いてみればとんでもなかった。

雪菜の罪は三人でいることに拘った点。実は両想いだった春希とかずさの間に割り込む形になってしまったけど、これはかずさに気持ちをさっさとぶつけなかった春希と春希に対して素直になれなかったかずさが悪いとも言えるし、多少の打算を含んでいたとしても雪菜が春希に告白することは別に責められるようなことでもない。でも春希と恋人になった上で三人でいることを強要したのがまずかった。恋愛が絡むとどうしたって「二人」が出来上がるし、「二人」と「一人」をくっつけても「三人」にはなれない。雪菜もそれにはもちろん気付いていたはずで、それでも縋らずにはいられないほど仲間外れにされることを恐れている。そして春希とかずさの裏切りを知っても二人を責めないのがまたタチが悪い。雪菜が春希とかずさを責められる人間だったらまだ楽な道が見えていた。

雪菜がカラオケで歌うシーンで「深愛」が流れたのは笑ったし、合言葉で「ここがあの女のハウスね…」が出てきた時は吹いた。丸戸氏のサービス精神が全開。

冬馬かずさ (CV:非公開)

昔の作品にいたよーな懐かしい感じのツンデレ。黒髪ストレートなところも鉄板だし、真面目な委員長×ツンデレ不良ってな組み合わせも王道の中の王道。

そんなかずさが春希への想いを封じ、雪菜の我儘で二人の近くにいることを強いられてその陰で泣いているのが切なかった。特に三人での温泉旅行の帰り、想いを抑えきれず思わず春希にキスしそうになったことで自分の愚かさに気付いて一人で号泣するシーンは胸に来るものがあった。でも一番印象に残っているのはやっぱり春希に自分の気持ちを吐露するシーン。挿入歌の力も相俟ってあの一連の流れには思わず見入ったけど、両想いだったことを知ってキスをした春希にぶつけた嫉妬が一番強烈だった。あそこで拒絶じゃなくて嫉妬を持って来るのが最高に痛いなあ。

かずさの罪は意地を張り続けた点。素直に接していれば春希もかずさと恋人になれる可能性を見出したかもしれないし、春希と雪菜が恋人になった後でも三人でいることを拒絶すればまだ苦痛は浅かった。例えかずさが春希を好きじゃなかったとしても、カップルのそばにいろってのは大迷惑なお願いですよ雪菜さん……。かずさがそれを拒絶できなかった気持ちもわからないではないし、そうした弱さがかずさの魅力の一つでもあるけど。

二周目の冬馬母娘の会話も良かったし、特典小説もかずさが春希に惹かれていった経緯が丁寧に描かれていてそのいじらしさはあざといほどだった。雪菜とかずさはどちらも特に好きなキャラクタというわけではないけど、敢えて選ぶなら僅差でかずさかなと。

「不倶戴天の敵になるか、………生涯の大親友になるかのどっちかだと思う」

かずさのこの予想は見事に的中したが、最終的にはどうなるのか楽しみ。春希を中心としたトライアングルの決着も気になるけど雪菜とかずさの関係変化も気になる。

飯塚武也 (CV:非公開)

Laef のゲームに登場する親友キャラに緒方理奈派が多い気がするのはなんでだ。

空気を読むスキルにかけては優秀すぎる男。一番印象に残っているのが特典小説で春希を悪く言う女子にキレるシーンだった。何気にちらほら見え隠れする恋の過去も気になる。恐らく依緒が関係してるんだろうけどそのあたりは描かれるんでしょーか。

しかし彼も一緒に演奏させてやっても良かったんでは。軽音楽同好会の部長なのに扱いが酷すぎやしないか。三人の物語だから、てのはわかるんだけどもうちょっとこう……。特に雪菜にとっては完全に眼中にないのが泣ける。あれほど仲間外れにされることを恐れているくせに、自分はナチュラルに武也を仲間外れにしてしまうあたりからも雪菜の持つ傲慢さが出ていてそれはそれで面白いと思うし好きだけど。

水沢依緒 (CV:非公開)

雪菜の唯一といっていい友達だけど、あまり雪菜を理解出来てないよーな……。どちらかというと武也のほうが雪菜のことも含めて春希をよく見ている。