Antipyretic

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WHITE ALBUM2 -closing chapter-

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『WA2ic』続編。面倒なキャラによる面倒な恋愛模様を嫌っつーほど堪能した。かなり面白かった。そしてかなり疲れた。内容に、というよりはその膨大な量に。どのシナリオも面白かったけど、どれだけ面白くても冗長になるとダレることを久々に思い出した。「coda」が来た時も「まだ続くのか……」とげんなりしたもんなあ。それでも最後まで読み切ったのは面白かったからで、結末が気になったからでもある。

内容は『ic』からの続きで、ぶっちゃけ三人とも同じことで延々悩んで傷つけ合うだけなんだけど、それがきちんと読ませるものになっているのはすごい。登場人物全員に感情移入出来ないのに面白かったのは、濃密な人間描写があったからこそ。今回もテキストはくどいけど、くどいからこそ丁寧な心理描写が響いたんじゃないでしょーか。

それと雪菜とかずさのシナリオについては丸戸氏を信頼していたからクオリティの心配はしていなかったけど、春希、雪菜、かずさの物語として出来上がっているところにどう関わるのか、という点でサブヒロインの新規参入は小さな不安だった。しかしそれも杞憂に終わった。サブヒロインは噛ませ犬になるのでは、と危惧していたのに蓋を開けてみたらむしろ全力で噛ませ犬として描かれていた。吹いた。小春は小春希、千晶は小雪菜、麻理さんは小かずさだと作中でも明示されていて、『WHITE ALBUM2』はあくまでも春希、雪菜、かずさの物語なのだなあと思い知らされた。そして手抜きなく噛ませ犬として描かれているからこそサブヒロインのシナリオも面白かったし、何より「cc」はすべてのルートが雪菜のためのシナリオだったのかなと。雪菜の本番は「cc」の雪菜ルートではなくそれ以外の三人のルートのほうで、振られれば振られるほど輝く雪菜が印象的だった。逆に「cc」の雪菜ルートは一番退屈なシナリオってのが……。

絵については今回は複数の原画家が参加しているし村様も前作ほど酷くはなかったけど、新規立ち絵のバランスがやっぱり不安定だった。あと前作でうんざりさせられた自動進行をのっけからかまされたのがアレ。一方、音楽は文句なし。歌も「届かない恋」と「After All」は当然として、新曲なら「closing」が飛び抜けて出来が良かった。特にかずさルート終盤の「もう……雪菜と会わないで……」の瞬間に流れるインスト版は鳥肌が立つ。BGM ならここぞという場面で使われる「Answer」が一番のお気に入りになった。

システムはバックログが全画面表示になったことで見やすくなり、スキップも前より早くなったしディスクチェックもなくなった。だいぶ改善されたが、これだけ膨大なシナリオ量なら選択肢にジャンプできる機能が欲しかった。それとエロシーンで BGV があって驚いた。これって『ic』にもあったんだっけ。

あと忘れちゃいけないのが Leaf の過去作ネタが出て来る点。雪菜が『Routes』の主題歌を歌ったり『痕』を題材にした演劇が出て来たり、バーガーショップの名前がヤックだっり長瀬という名前が出て来たり。おかげで Leaf 歴の浅い私もニヤニヤした。

とにかく疲れた。それでも面白かった。圧巻の一言に尽きる。実は心が抉られると散々聞いていたわりにはそれほど抉られはしなかったけど、雪菜の物語としては文句なしに面白かった。かずさも面倒で重くて厄介な女の子だけど、物語の登場人物としては断然雪菜に軍配が上がる。というわけで『ic』では僅差でかずさ派だったけど『cc』は雪菜派。

北原春希 (CV:非公開)

春希は酷い男だけど、それでもどうしようもない場面や選択があったのは理解できる。開き直ればいいのに根が真面目なもんだからそれも出来ず延々苦しむ羽目になり、真面目だからこそ余計に泥沼にはまっていくのがなんとも……。しかし自罰的になるのは春希の性格上仕方ないが、彼の場合は「雪菜は悪くない」「かずさは悪くない」「自分が悪い」の一点張りで悪い自分に酔っているような印象もある。そこが一番鬱陶しい。だから少しでも雪菜を裏切るような真似をすると、最終的にはいつも罪を告白して雪菜を苦しめる。雪菜も色々捻じれまくっていて春希を責められないでいるのに、それでも雪菜に責められたいしその上で許されたいと思っている。更に厄介なのは、杓子定規な性格をしているせいで「自分が納得出来るだけの罰」を求めている点。生半可な罰が与えられるだけでは納得出来ず、更にうだうだするマゾヒストなエゴイスト。

面白かったのは春希が世界で一番愛している女の子が最後まで変わらなかった点。「ic」から「coda」まで、そして雪菜ルートの TRUE ED でも春希にとっての一番はかずさのままだった。しかし春希はかずさを一番愛しているのに、かずさをきちんと理解出来ているのは雪菜なんだよなあ……(更に言えば雪菜は、春希本人以上に春希のことも理解していた)。まさに恋は盲目。春希は五年経ってもかずさが自分を好きでいるはずがないと思っていたし、自分がコンサートに行かないだけでピアノを弾けなくなるような弱い女の子ではないとも思っていた。春希が単に鈍すぎるのか、自分に自信がなさすぎるのか、学生時代の「孤高のかずさ」への憧憬フィルタが厚すぎたのか。全部か。

余談だけどエロシーンで喘ぎまくってたのは吹いた。まさか主人公の喘ぎをこれほど派手に聞かされることになるとは思っていなかった。そいや『パルフェ』の仁も喘いでたよーな気がする。丸戸主人公って全部こうなのかなもしかして。

小木曽雪菜 (CV:非公開)

ここまで複雑な精神構造をしているヒロインはそういない。中身は本人にもどうにも出来ないほどにドロドロなのに、完璧な聖女を演じ続ける歪な女の子。春希の裏切りをすぐ察するのに全部胸の内に飲み込むし、それも際限がないように見える。実際、雪菜が本音を曝け出すシーンはあの長大なシナリオの中でもそう多くはない。

学園のアイドルとしての雪菜。自分が他人にどう見られているのかわかっているから取り繕って生きてきた雪菜。仲間外れにされることを恐れる雪菜。あれほど裏切られても春希を愛し続ける雪菜。春希の裏切りに気付いていながら決裂を伸ばしたいがために、そして春希のために耐え続ける雪菜。でも本当は我儘で甘えん坊な雪菜。かずさを恐れ、嫉妬しながら、それでもかずさを愛せる雪菜。とにかくいくつものを顔を持っている強烈なヒロイン。属性は強いて言えば「雪菜」ってなくらいにユニークな存在で、春希が雪菜をそんなふうに変えた。雪菜は「普通の女の子」が「エロゲの主人公」によって歪められていったヒロインだと思うんだけど、だからこそ私の中で一番印象的なヒロインになった。愚かだと思うし馬鹿だと思うし恐ろしいと思うけど、恐ろしいからこそ目が離せなかった。しばらくは小木曽雪菜を越えるヒロインは出てこないんじゃないかなとすら思える。

「cc」で雪菜が一番輝くのは先述の通り小春、千晶、麻理さんルートで、特に印象に残っているのは千晶ルートでの千晶との対決。あれで一気に雪菜に引き込まれた。小春ルートで泣いてた姿や、麻理さんルートでの痛々しい姿も壮絶で良かった。春希のために耐えて耐えて耐え続けたのに、結局春希を他の女に奪われる雪菜の暗い魅力が満ち溢れていてたまらなかった。一方雪菜ルートは展開に大きな波がなかったので印象が薄い。丁寧に描かれてはいたけど私好みのシナリオでもなかった。

紆余曲折を経てようやくハッピーエンドに漕ぎ着けた後の「coda」では、かずさとの再会で揺れる春希に振り回されていく。春希がかずさを一番愛していることを雪菜は当の本人たちよりもよく知っていて、それでも耐えようとする。象徴的なのがストラスブールでの再会など運命を感じさせる場面が多いかずさと、電話や離れるタイミングなどとにかく毎回運の悪すぎる雪菜の対比。何のいじめかっつーくらいに世界は春希とかずさを運命の恋人に仕立て上げようとする。でも雪菜は耐える。春希にとっての聖女を演じながら。

そんな雪菜の TRUE ED は見事な大団円――に見えるけど見えるだけで、実際には学生時代と図式が変わっていない。かずさは確かに成長したけど二人のそばに居続けるという苦痛が待っているし、全員がそれなりのハッピーエンドに漕ぎ着けられたように見えてなんだか現実感がない。それと『ic』の感想でも書いたように私は雪菜の罪を「春希とかずさの間に割り込んだ」ことではなく「三人で居続けることに拘った」ことだと思っているんだけど、雪菜は最後まで前者を自分の罪として受け止めて、後者はむしろ叶えてしまったのが恐ろしかった。でもこれが雪菜だよなあ、とも思わされる。それがまた怖い。

ちなみに雪菜に隠れてかずさとの関係を続け、二人で堕落して行くものの最後には壊れていく春希を見ていられずかずさが春希を雪菜に返す浮気 ED があるが、最終的に雪菜と結ばれる結末ならこちらのほうが面白かった。雪菜の誕生日に裏切る春希とかずさ、裏切った翌日は体調不良の春希を看る雪菜、逃避の温泉旅行など『ic』の後半を綺麗に踏襲していて、軽音楽同好会再結成で『ic』の楽しかった学園祭前までの三人の展開を踏襲していた雪菜 TRUE ED とは対称的な構図になっているところも好み。何より浮気 ED のほうが説得力もあったし、雪菜の「最大公約数的ハッピーエンド」は何もかもが上手くいきすぎてやっぱりピンと来ない。ドロドロの展開だったのに結末だけが綺麗すぎた。とはいえ春希から雪菜にかずさが託される展開にはそれまで雪菜の出番が少なかったこともあって震えたし、雪菜とかずさのビンタ合戦もテンションが上がった。というわけで納得の行かない部分はあるものの、雪菜ルートが面白くなかったわけでもなく。

特典小説は雪菜のドロドロした部分が顕著に出ていて、読んでいる私の精神が侵されそうになった。私が雪菜に一番恐怖したのは実はここで、でも彼女の気持ちが理解できなくもないのが何とも言えず……そういう諸々の感情を揺さ振られたせいもあって、また雪菜という厄介で面倒で強かで弱くて恐ろしい女の子の物語として見ても断然面白かった。

冬馬かずさ (CV:非公開)

「cc」は雪菜のためのシナリオだったけど、「coda」はかずさのためのシナリオだった。母親の病の件もあるけど元々弱いので、春希に縋りたくて必死に堪えるかずさを延々見せられることになる。春希には雪菜がいるのにそれでも春希が好きなんだ、と涙目で見つめられたらそりゃ春希も見捨てられないよなあ。雪菜は計算高い魔性の顔を持っていたが、かずさはこういった子供のような魔性の顔を持っていた。

そんなかずさの TRUE ED がすべてのシナリオの中で一番気に入った。

「かずさ、あなたは彼を…そして彼の周りの人たちをみんな不幸にするのよ? …あなたの、おままごとみたいな子供の恋で」

曜子さんのこの台詞がすべてを語っているが、他人から見れば馬鹿馬鹿しいとしか言いようのない子供の我儘で、春希という好きな男も含めてすべてを不幸にした上で手に入れたかずさだけの幸福、という展開がたまらなくツボだった。依緒が「最低の純愛だね。吐き気がする」と評したけどまさにその通りで、それが私には美味だった。「すべてを捨てる恋」はよく聞くフレーズだが、その捨てていく過程をきちんと描いていたのも良かった。これも全部「cc」の雪菜とのハッピーエンドの後にかずさルートがあるせいで、でも春希とかずさはここまで追い詰められないとくっつけない。それくらい春希はへたれで、かずさは素直になれないから。それこそかずさの頼れるものがなくなり、春希が全部捨ててかずさのそばにいる覚悟を決めるところまで行かないとこの二人は互いに手を伸ばせないんだろう。最初から両想いだったくせになんつー面倒なカップルだ……。

エピローグの意味深長なビデオレターの雪菜は、春希は諦めたけど三人でいることを諦めなかったのだと解釈した。別れを切り出されてからの壊れていく雪菜は痛々しかったが、それでも彼女の本質はプラスに向くんじゃないかなあ。何故なら本人も言っていたように雪菜の周りには雪菜を愛し、雪菜が愛する友人と家族がいるから。だからこそ春希やかずさのような人間には眩しくてたまらないのだろうけど。

結局、ひとりになることが怖い雪菜とひとりでは生きていけないかずさ、という孤独への耐性の度合いで運命が決まってしまったのかな。雪菜はまだ「怖い」と思えるけれど、かずさはもう「怖い」と思える段階ですらない。彼女は文字通り「ひとりでは生きていけない」弱い女の子で、だからこそ雪菜ルートではかずさの成長が必須になったのか。

逃避のセックスに二人で溺れていく浮気 ED も面白かった。ルート道中はかずさとのセックスばかりが描写されるが、セックスが背徳の象徴として描かれている。特に春希が隣室で雪菜を抱いている最中に、雪菜の嬌声を聞きながらかずさが一人で自慰に耽るシーンがもう悲痛で最高。一方、春希は壊れていくだけで何もしなかったなあ。このルートはかずさの春希を引きずり込む弱さと春希を最後には突き放した強さ、裏切った春希を支え続けて最後には結ばれた雪菜の強さと異常さが出ていたのが面白かった。

それにしても「コンサートに行く」という選べない選択肢が存在はずるい。私は攻略を見ながらプレイするけど、それでもこの選択肢はいつか選べるんだろうと思ってたし。

杉浦小春 (CV:非公開)

常に誠実であろうとするのは難しい、てな話。名前がそのまんま「小春希」から来ていることからもわかるように、春希にそっくりなだけあって真面目で融通が利かなくてお節介で、そして春希に誠実であろうとして美穂子を裏切っていく様が、雪菜とかずさに誠実であろうとして雪菜やかずさを傷つけていくかつての春希そのままだったのは面白かった。そして恋愛で友情が壊れる様はかつての雪菜と、あとこれは言及されなかったけど学園中で孤立する様はかつてのかずさに似ている。

ただシナリオはちょっと無理がある。例えば小春が学園中でビッチ扱いされる件は大事になり過ぎてついていけなかった。つーか校内でそんな有名なのか小春は。美穂子も被害妄想が過ぎるというか推薦を取り消すあたりは引いたけど、あのくらいの年齢の子なら暴走じみた当てつけをぶちかましてしまうのも仕方ない、と納得出来なくもなかった。けどそれで何故小春が土壇場になって進路を変更しなきゃならないのかわからない。そこまでしちゃうのか、とそこはむしろ小春に呆れた。もう美穂子とは縁を切ってもいいんじゃないかなあ。小春には「春希はやめとけ」と何度も言いたくなったが、「美穂子はやめとけ」とはもっと言いたくなった。そんな中で孝宏の健全さが際立っていたのは良かった。彼は作品が違えば主人公になれたかもしれないキャラクタ。小春にとってのヒーロー。

一方、春希はあまり目立っていなかった。そもそも雪菜の出番が少ないので春希と雪菜はクリスマスの日から進展がなく、小春の学園や友人との問題ばかりがクローズアップされていたせいもある。春希は雪菜を、小春は雪菜と美穂子を裏切っている裏切り者同士という展開は面白かったのに、そこで雪菜があまり出てこなかったのは勿体なかったなあ。春希は追い詰められていく小春に何もしないし、最後もサポートはしたものの一年浪人しての卒業という結末に辿り着けたのは小春が努力したからで。

ただ春希はどーでもいいけど、中盤以降は出番らしい出番のなかった雪菜が最後に魅力を見せつけてきたのは良かった。小春ルートで一番印象に残ったシーンは、と言われたら雪菜と小春の対面だと答える。春希の前では笑顔を向けられる強い女を演じ切り、小春を励まして春希の元へと送り出した直後に一人で泣き出す場面ではやっぱり眼が潤んだ。裏切られても春希を思い続けた女としての風格を感じた。CG の差分表示がまた反則。

結末に関しては、一年浪人しての大学入試合格はいいけど美穂子とまた仲良くなれそうな終わり方になったのはどーかなあ。これで再び親友になれてもそのうちまた美穂子が我儘を言い出して問題を起こすのでは、という気がする。

余談。小春のバイト先がファミレスだったり中川さんが春希を「てんちょ」と呼んだりオムライスにケチャップの似顔絵サービスを要求したりと『パルフェ』ネタがさり気なく散りばめられていたのはニヤニヤした。終盤の受験勉強に集中する展開がそのまんま明日香ルートの展開を踏襲していることも含めて。

和泉千晶 (CV:非公開)

二周しなければならないのがちょっと面倒だけど、その分一周目に散りばめられた伏線が回収されていくのが面白かった。そして千晶が「長瀬」という偽名を使ってたり付属時代に『痕』を演劇で演じていたことが発覚したり(BGM も『痕』の曲で懐かしくなった)、前作の『WHITE ALBUM』と今作の『WHITE ALBUM2』、Leaf に懸ける丸戸氏の想いやリスペクトが凝縮されたシナリオでもあったのかなと。

「とりたてて何か大きい事件が起こるわけでもない、心理描写ばかりの地味なお話。観客の反応は良くないかもしれないけど… 」

「でも、どうしても作ってみたかったんだよね。あの日からの熱狂的ないちファンとしては、ね?」

これは千晶の台詞だけど、むしろ丸戸氏の言いたかったことなのかな。

内容は春希と千晶のシナリオというよりも、雪菜と千晶のシナリオだった。演じることを天職としている天才女優の千晶が、演じることを強いられて来た天才女優の雪菜のキャラクタだけはつかめず、結果として雪菜の複雑怪奇なキャラクタに固執して行く。そして雪菜のほうは、そんな千晶の本心に気付いて指摘する。常に余裕を失わない千晶が雪菜に翻弄される。ここは名シーンだった。もう雪菜さんの格が違いすぎる。千晶が宇宙人なら雪菜は魔王。そしてそんな魔王を翻弄できるのは春希とかずさだけ。

千晶のキャラクタは結構好きだった。春希たちの三角関係を演じるために春希と雪菜に近づいて春希に抱かれたという動機も面白かったし、春希が裏切られる側になる展開にも溜飲を下げた。まあ結局春希に恋する女の子を演じようとして千晶も春希にハマっていくんだけども。だから千晶は小雪菜でもある。中の人の演じ分けも堂に入ったものだったし、劇中劇で両手を胸に当てる場面も良かった。春希が雪菜ではなく千晶を選んだ理由にも納得出来た。要は楽だから千晶を選んだんだけど、武也も言うように辛い時に逃げてもいいと思うし、こういう主人公の選択があってもいいのではないかな。そして一度千晶に裏切られたからこそ裏切るよりは裏切られるほうがいいという結論に春希が到達したことは、裏切られても春希を想い続けていた雪菜の心中を思うともう言葉も出ない。雪菜が春希に振られた「理由」としては、これが最も悲惨。

風岡麻理 (CV:非公開)

このルートだけ浮いてる。それが悪いわけじゃないし面白いと言えば面白かったけど、春希や麻理さんよりも雪菜の打算的で愚かしく必死な姿のほうが印象に残ったのが……。雪菜と麻理さんが最後まで顔を合わせなかったのも残念。といっても別に麻理さんがつまんないキャラだったというわけではなく、むしろ仕事は有能なのに恋愛経験値ゼロの OL で年齢差をいちいち気にしつつも春希に溺れていく様が可愛すぎた。丸戸氏から「さあ萌えろ」と言われているんじゃないかと思うくらいの萌えキャラ造形。そんな麻理さんに春希がみっともなく縋りつく。敢えて言おう、このルートの春希が一番の屑であると!

雪菜に拒絶されてショックだったのは理解出来るけど、それでもかずさのことだけじゃなく雪菜ともこじれた状態でかずさに似ている麻理さんに縋ってレイプしようとした春希にはもう笑うしかなかった。そしてそんな春希に応えようとする麻理さんが健気で、尚更春希のどうしようもなさが浮き立つ。麻理さん相手だと春希のモノローグが敬体文になるのも苛立ちに拍車をかけた。ここまで主人公のモノローグを読んでいて気持ち悪くなったのは初めて。麻理さん海外赴任の件を知って荒れる春希を見た時は大爆笑だった。トラウマをぶっ刺すにしてもピンポイント過ぎてもう。

でも先述したように一番印象に残るのは雪菜だった。春希が別れを切り出そうとしていることを察し、春希から逃げ続ける。ようやく会える日には自分の誕生日を指定して、この日には別れも切り出せないだろうという打算が働いていた。そうしてまで春希を引きとめようとする雪菜の浅ましさがいい。他のルートだと辛い想いを隠して春希のために綺麗に別れてくれるけど、麻理さんルートのグダグダな雪菜のほうが見ていて安堵出来た。この子もやっぱり強い女を演じ続けられないよなあと。限度がちゃんとあった。

春希、雪菜、麻理さんとみんなグダグダだったけど、そんな中でしっかりしていたのが佐和子さん。春希との恋でめそめそする麻理さんを呆れつつも見捨てず、最後まで味方で居続けた。最後の飛行機の件も佐和子がいなければ成し得なかったもんなー。

飯塚武也 (CV:非公開)

何故そこまで、と聞きたくなるくらいに春希の味方でいてくれた。春希を詰ることもあるけど、最後には春希のやったことを否定はしない。けどおそらく読者からも詰られるだろう春希に、味方してくれる人が一人はいてもいいんじゃないかな。雪菜は当事者だから除外するとして、それが出来るのは武也しかいなかっただろうから。

水沢依緒 (CV:非公開)

依緒はとにかく鬱陶しかった。武也も鬱陶しい時があったけど、武也一人だと鬱陶しさがかなり軽減されるのでまだいい。でも依緒はどのシーンでも鬱陶しかった印象しかない。実は春希よりも苛立たされたキャラクタ。

柳原朋 (CV:非公開)

素の雪菜を引き出せるのは朋しかいなかったんだろうなあ。雪菜は溜め込むので、朋のようにキレてもいい相手が存在したのはいいガス抜きになったんじゃないか。実はかずさや依緒よりも朋こそが雪菜の親友になれるのではないかな。

冬馬曜子 (CV:非公開)

曜子さんのキャラは良かった。聡明で狡猾でドライで大人だから割り切ってて、でもかずさのためなら親馬鹿になれるから春希の迷惑も顧みない。それでいて人として越えちゃいけないギリギリのラインはちゃんと弁えていて、でも最後には結局自分と娘を最優先させる。やっぱりものすごい親馬鹿だこの人。でもそこがとてもいいキャラクタだった。