Antipyretic

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うたわれるもの

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面白かった。ジャンルは ADV + SRPG になっているが、どちらも互いを邪魔しない絶妙なバランスになっており、また戦闘が続いて疲れて来る頃に ADV パートに、物語に飽きかけてきた頃に SRPG パートに突入するのでとうとう最後まで飽きることもなかった。

SRPG パートは戦略が必要ないほど簡単だが、最低限の緊張感はちゃんとある。簡単なのはシナリオに集中させるためだろうし実際集中出来たので、これくらいのバランスで良かったんじゃないかな。連撃は早々に飽きたけどカットインは格好良かったし、キャラチップも細かく動くし丁寧に作られている。ちなみによく使っていたのはハクオロ、エルルゥ、ドリィ、オボロ、ベナウィ、カルラ、トウカ。特にオボロは成長も早いしエースアタッカーになってくれた。ADV でも SRPG でも MVP。

そして ADV パートはテキストに癖がなく読みやすく、テンポのいいキャラの掛け合いの面白さもあってサクサク進められた。選択肢がなく、移動場所を選ぶ要素はあるものの順序が異なるだけで最終的には全部のイベントが見られる仕様なのも嬉しい。シナリオも目新しい内容ではないけど、一つ一つのエピソードは短いながらも押さえるべき要素は押さえて描かれているからちゃんと盛り上がるし、丁寧な仕事だなと思えて印象は良かった。エロシーンはエロシーンをいつもスキップする私が珍しく全部読んだくらいにすぐ終わるほどで、話に聞いていた以上にハクオロが早漏で笑った(しかし私はエロシーンはスキップしてしまう派なので、短いのは正直ありがたかった)。ただ、一本道のシナリオでなるべく多くの女子とセックスさせようとしているからか多少強引に感じたエロシーンもあった。ハクオロは皇だし女くらい複数いてもいいんじゃねとは思うけど、まるでノルマをこなすかのようにセックスするのでそこは失笑してしまう。しゃーないのか。

シナリオには不満もある。国盗り物語として楽しんでいたのに、後半には超展開になっていくのが好みじゃなかった。ハクオロがサクサク成り上がっていく様にはご都合主義的な気配が漂うし呆気なさもあるが、それでもアヴ・カムゥが出てくるあたりまでは面白かったんだけどなあ。終盤の話も大きな祖語は見当たらないように思えるし、『うたわれ』世界の住人の獣耳要素も単なる萌えのための記号じゃなかったこともわかる。それに超展開でも面白い作品はいくつもあるし、超展開だからといって超展開そのものを否定する気にはならない。でも私が読みたいのは戦記物語だった。

更にもう一つ大きな不満があって、多分エピソードが短いからだと思うけど魅力的な敵がいないのも寂しい。ヌワンギやニウェはいい味出してたけどそれでも物足りない。あとやたら高笑いをするキャラクタが多かった。ヌワンギやニウェもそうだし、終盤だとハウエンクアがやたら笑ってばっかでちょっとワンパターンに感じたかな。

そして独特の語感を持つ世界観なためか固有名詞を覚えられない。メインキャラクタの名前ならさすがに言えるけど、サブキャラクタの名前はもう殆ど思い出せないもんなあ。用語辞典はついてるけど見づらいし。ただ、独特の語感は『うたわれるもの』の世界観を演出するのに重要な要素でもあるので一概に駄目だとも言えない。

絵や音楽はさすがにハイレベル。気になったのは CG 枚数の少なさや音声がないことくらいで、でも別になくても支障はない。OP アニメも良かった。

まとめると、尖ったところはないもののバランスが神がかっている良作。易しい戦闘といい一本道で終わるシナリオといいおまけのよーなエロシーンといい、すべてを全力で突っ込んだら大作になったかもしれないのにそれは敢えて狙わず、いい感じに力を抜いてストレスなく遊べるタイプの作品。完成度の高さは随一。SRPG で何周もさせられるのはかったるいし、あんまりダラダラ続けられても飽きるので一本道なのも嬉しい。

ハクオロ

あまり言及されているところを見たことがないけど、ハクオロは結構珍しいタイプの主人公じゃないかな。ここまで最初から成熟している主人公て他ではあんま見ない。ハクオロはゲーム開始時点ですでに完成されている大人なので、ヒロインたちの影響を受けない。受ける必要がないから。ストレスなく物語を追うことが出来たのは、ハクオロの安定感がずば抜けていたから、てのはある。知略に優れた頭脳を持ち、卑怯な戦法を採る自分を責めたり愚痴を零すことはあってもそれは一瞬で終わり、戦が始まると覚悟を決めて冷徹な司令官の顔になる。しかし最終的にはラスボスになるのは想像していなかった……。

ハクオロは私にとっても好きな主人公で、特に卑怯な手もちゃんと使うところがいい。この「ちゃんと」がとてつもなく重要で、卑怯な手は使いたくないだの正々堂々とやりあうべきだのと理想論で戦争しないのが素晴らしい。ハクオロは正義感もあるし誠実な人でもあるけれど、自分が満足するだけの安い正義を振りかざすようなことはしない。利用するものは利用する。それでも善人で、でも皇だからこそやれることはきちんとやる。そうした分別が完璧。人を統べるとはどういうことなのか、責任とはどういうことなのか、皇になるとはどういうことなのか、全部皇になる前からわかっていた。ハクオロに欠けているのは記憶くらいかな。こういう出来た主人公はつまらなくなりがちだけど、ハクオロは愛嬌もあるしちゃんと面白い。とにかくバランスが神がかっている人物像だったなと。

それでもハクオロですら揺さぶられる時はあって、それがオリカカンとの不毛な争いが勃発したヤマユラの壊滅事件。おやっさんの死は衝撃だったなあ。戦乱とはこういうものなのだ、と言わんばかりに犠牲になってしまった。『うたわれ』は一見平和的な雰囲気があるが、シビアなところは本当にシビアに描かれている(鬱にはならないけどハクオロたちにしっかり共感は出来るレベルでちょうどいい)。あの時にエルルゥとアルルゥがいなければハクオロは修羅の道を歩んでいたかもしれない。それでも家族愛としての印象が強いので、ハクオロがエルルゥを女として見ていたのは違和感があった。

戦闘はハクオロがやられると敗北になるので防御を上げるべきかと思ったが、面倒だったので攻撃中心に上げていったけど問題なかった。一度もやられなかった。むしろ司令官なのにオボロに次ぐアタッカーになってくれていた。

エルルゥ

地雷。嫉妬が鬱陶しすぎた。エルルゥが嫉妬するシーンは序盤から頻繁に入るし、ハクオロが皇としてウルトリィと会話している時でもいちいち刺々しくなるのがしんどい。この手の恋愛絡みで仕事中にも突っかかって来る子は好きになれないなあ。ハクオロが父としてアルルゥを可愛がってる時でもむくれるのはいい加減にしろよと怒鳴りたくなった。中盤以降は国政に関われないからか影が薄くなっていくのが、切ないようなエルルゥが苦手な私には助かったとも言えるような……。

戦闘では唯一のヒーラーなので必須要員。おかげでガンガンレベルが上がっていった。

アルルゥ

ヒロインもいいけど娘的キャラもいいもんだなあ。「おと~さん」呼びがこんなに可愛いものだったとは知らなかった。これでエロシーンがあったらハクオロを私が殴り飛ばすところだったけど、そんなものはなかった。安堵した。地球は青かった

印象に残っているエピソードはカミュとのかくれんぼかな。アルルゥムックルの口の中から出て来た時は、ハクオロと一緒に私も吹き出した。

戦闘では防御力の高さを活かして壁になることが多かったが、やはり攻撃力の高いキャラを優先して使う傾向にあるので後半は出番がなくなっていった。水辺のマップでは著しく弱体化してしまうのも痛い。それとやはりアルルゥのような幼い少女は戦場に出したくないな、という抵抗感もある。ムックルは容赦なく敵を?み殺しているようだし……。

オボロ

オチ要員にされることが多かったけど、そうしたところも含めて美味しい。ユズハにキスをされた時のリアクションが印象に残っているかな。それと序盤では妹への過保護ぶりが指摘されており、それもすぐ受け入れてきちんと成長するのがいい。

戦闘ではエース。素早く動けるし、移動範囲が広いし、おまけに成長が早い。最終的には軍で一番攻撃力が高かったし、紙装甲ではあるけど終盤でも連撃が決まれば敵を一撃で仕留められるので、結局は攻撃を食らうこともあまりなかったなあ。

ユズハ

非戦闘員なので影は薄い。ユズハのエピソードも、病弱なために話に大きな動きがなく大人しい。まさか ED で死んでしまうとは思わなかったけど、元より先の長くない命だと言われていたし変にハッピーエンドにしなかったのは自然で良かった。

ドリィ & グラァ

オボロとの関係が気になるよーな知るのが怖いよーな。シナリオでも伝令役を務めることが多かったが、キャラが立っているせいか妙に存在感がある。

戦闘でもドリィは攻撃力がそれなりにあるので、ロングレンジのユニットの使いやすさも相俟って出撃率は高かった。前衛が仕留め損ねた敵を掃除してくれるのは GJ。

ウルトリィ

一応随所随所で活躍はあるんだけど、どうにも印象が薄い。捨て子の赤ん坊に過剰な愛を注ぐエピソードは印象に残ったんだけど、この件が解決した後のエロシーンは微妙な流れで萎えた……。あそこで入れるしかなかったんだろうけども。

戦闘でも活躍の場があまりない。これはカミュもそうなんだけど、せめて移動後も術が使えたら違ったのかもしれないなあ。攻撃範囲が広いのはそれだけで武器になるはずなんだけど、それでも使う気になれないのが痛い。

カミュ

結局夜な夜な吸血行為に勤しんでいたのは何だったんだ……。始祖の影響? でもムツミは特に吸血鬼じみた衝動があるわけでもなさそーだったし謎。カミュはハクオロやウルトリィとの場面よりも、アルルゥやユズハと三人で仲良く遊んでいたのが和んだ。

戦闘ではウルトリィ同様殆ど使わなかったので成長の機会もなく、ほとんど置物と化してしまった。カミュやウルトリィの代役はドリィでも十分可能だし。

ベナウィ

掴みは良かったんだけど、ハクオロの軍門に下ってからはハクオロに膨大な仕事を押し付けるだけのキャラと化してしまった。ベナウィとしては、まともな皇に仕えることが出来てあれで結構はしゃいでいたのかもしれないけども。でも美味しいキャラクタになりそうなポテンシャルを感じただけに勿体ないなあ。敵だった時のほうが、武人というよりも騎士道を重んじるベナウィの魅力に満ち溢れていて輝いていた気がする。

戦闘では思ったより火力が出なかったけど、それなりに強いし機動力もあるしで使いどころはあり、なんでもソツなくこなせるあたりはさすが。

クロウ

サムズアップしてる立ち絵がじわじわ来る「ういッス」の人。オボロとくだらないことで喧嘩していた時のクロウは可愛かったというか大人気ない。笑ったけど。

戦闘面においては、いわゆる「敵対している間は強そうに見えたのに味方になった途端に弱くなるキャラクタ」の典型。その筋肉は飾りなのか!

カルラ

一番好きなキャラクタ。ナ・トゥンクについて早々、下衆な男たちを圧倒的な強さで虐殺するカルラのシーンはとても好きだなあ。デリホウライやスオンカスとのイベントも面白かった。『うたわれ』はハクオロが成熟しているので主人公の成長物語にはならなかったが、その分デリホウライの成長は超特急で必要最低限の描写しかないとはいえ結構印象に残っている。カルラのほうも弟とは会ってもいいんじゃないかと思ったんだけど、まあ思うところがあるんだろうな。それにしてもカルラは素直じゃないというか捻くれているところがあったけど、強引で理不尽なくせに妙に物わかりが良く聡明な女だからこその上品な捻くれ方をしているところが独特で面白かった。元皇女なせいもあるんだろうけど。それとスオンカスとの関係はかなりツボった。予想外の萌えだった。

「今この時だけ……誰よりも愛してあげる」

今際の際のスオンカスは、カルラに愛されて幸福だったんだろうなあ……。

戦闘では攻撃力は高いけど紙装甲、という極端でわかりやすいアタッカー。役割がはっきりしているのが彼女のユニットとしての武器で動かしやすかった。

トウカ

オボロはオチ要員だったが、トウカはギャグ要員だった。「某としたことが!」という口癖もあざといが、その露骨なあざとさが逆にいい。あの泣き顔がまたいいんだな。恐ろしい断末魔(?)で締めくくられる人形イベントやアルルゥの寝顔を前にしてほわわんとなるシーンなどでギャップが効いており、見ていて楽しかった。ところで子作りの方法を誤解したままでそれっきりということは、結局ハクオロとの子は出来なかったのかな。

戦闘はバランス型として最初から完成されていて、カルラ同様使いやすかった。強くて速いオボロ、強いカルラ、バランスのいいトウカの三人で上手く立ち回ってくれる。

アムルリネウルカ・クーヤ

まさかあんな結末になるとは思わなかった……。尊大な物言いや、そんな態度とは裏腹に可愛い性格が気に入ってたから衝撃は大きかった。しかしギリギリのところで皇として踏ん張って来て、その末にゲンジマルをあんな形で失ってしまったクーヤを正常に戻すのはそれこそ酷なのかもしれない。ディーとの関係にしても先代のツケを回された感もあり、まだ幼い肩に乗せられていた荷は重かったのだと思い知る。

ただ、クーヤの他国侵略の決断はもうちょっと丁寧に書いても良かったかなあ……。恐らくハクオロと違って部下に恵まれてないところを書きたかったんだろうけど、ずっとハウエンクア(とディー)が一人で頑張ってるだけで淡々と進んでしまったような。クーヤの葛藤はハクオロとの深夜の会話以外にももうちょっと入れても良かったかな。

ゲンジマル

こういう最強おじいちゃんはだいたい好きになることが多いが、ゲンジマルも例外ではなく好きだった。武人の頂点にいる漢、てのはそれがおっさんだったりおじいちゃんだったりするとときめく。ゲンジマルの死を機にクーヤがあんなことになってしまったが、それでもゲンジマルが想定していた最悪の筋道よりはマシな展開だったのかな。

ディー

一応黒幕ってことになるんでしょーか。裏で人々を争わせたりして暗躍していたけど、皇になって戦争を何度もやってきたハクオロも同じことだと糾弾するシーンはいい。ハクオロも自分に真っ当な正義は掲げられないと言っていたけど、『うたわれ』はこうして安易に主人公の言動を正当化しないところが好きだな。

ハクオロは人間らしい感情を持ち合わせていたけど、ディーはそうでもないのかな、と思いきやゲンジマルを失うことを恐れていたし友情も感じていたようなので、彼にもちゃんと情というものはあるんだろうなあ。