Antipyretic

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月ノ光 太陽ノ影

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「黒い乙女ゲー」という触れ込みだったけど、期待していたよりは随分大人しかった。もっとダークな方向へ落とすことは出来た気がする。シナリオのボリュームはコンパクトで、それもあっさりしている印象を受ける要因になっているが、逆にこれは私にはちょうど良かった。というか短いからこそ濃密な味を求めていたんだけど、まあそれは次作があればそちらに期待するということで。

文章は読みやすくスルスルと内容が頭に入って行く。絵は独特の絵柄と塗りではあるけれど、作品には合っているし安定感もあった。けどやたら顔のアップが多いのは不満。もうちょい引きの絵が欲しかった。一部のエロシーンでは差分だけですませず、細かい段階でそれぞれにきちんと CG が用意されていたのは珍しいっつーか豪華。これはすごいなあ。キャストもハマっていたし、特に遊佐は声も演技も絶妙なはまり具合だった。欲を言えばヒロインにも声が欲しかったなあ。やっぱり男だけが延々喘いでるのはちょっとな。

ところでシナリオと原画担当は BL 方面で活躍している人だからかそれっぽい描写が入っていたけど、美希の父親と先輩の父親の関係は曖昧な表現に留まっていて、かつ一応美希と先輩の「許嫁」という今時珍しい設定の理由になっているのが上手いなあと思った。

まとめると、方向性は好みだったからそれなりに楽しめたけど、どこかでセーブしている感もあったのが物足りなかった。全力でとことん落としてくれてもいいんですよ?

藤原美希

黒いというよりも自分勝手で浅ましい主人公だけど、もっと黒く自分勝手に浅ましい姿を見てみたかった。ちょっと書き方が浅い気がする。でも美希がモテるのはわかる。こういう我侭でどーしよーもない女の子に惹かれていく男の子はいるよなあ、とすんなり納得できてしまう。しかし先輩から三ヶ月もメールが来ないことで延々と悩んでいるのは鬱陶しすぎた。自分から連絡する勇気もないのにひたすら悶々とするネガティブな思考もゲームの主人公として見ている分には面白いが、実際にこういう子が近くにいたら縁を切る。

甲斐聡 (CV:空野太陽)

美希は自分勝手で面倒な女の子だったけど、先輩は繊細で面倒な男の子だった。面倒という意味では二人はお似合いだけど、片方が身勝手すぎて片方が繊細すぎるのでは合わないんじゃないか。TRUE ED では結婚までして幸せそうだったけど、今後もすれ違うことはあるだろうしその都度こじれてそう。特に先輩は留学中に敢えて美希を試すためにメールを出さなかったり美希に嫌われたくなくて婚約を解消したりと、とにかく厄介というか不安定すぎる。再留学の件を隠していたことを美希に責められて、先輩も反省して和解したかと思えば、更に今後ずっとイギリスで暮らすかもしれないことを先輩の母親から知らされて「あれだけこじれたのに何もわかってないのなこの人!」と思わず感動した。でも美希はこの件については何故か怒らないんだよなあ。ちなみにこの後に先輩の部屋に行くことになるんだけど、「パジャマじゃみっともないからさっき着替えたんだよ」といいながらパジャマにしか見えない私服で先輩が出迎えて来て私を笑い殺す気かこの男。ちなみにエロシーンは美希×先輩という珍しい構図になっていて面白かった。

BAD ED では先輩が美希を孕ませようと延々中出しでセックスをするが、展開としてはこちらのほーが好み。しかし先輩の心理描写が浅薄で狂気を感じられなかったのが惜しい。きっかけがメールの返事が素っ気なかったから、てのもなんかなあ……。こういう展開にするなら徐々に先輩の中の嫉妬や美希への疑惑が深まっていく描写が欲しかった。

ところで先輩の父親と美希の父親は恋人関係にあったらしい。美希を熱い視線で見つめたり美希に似ているという美希の父親の肖像画を飾っていたりで、同性愛とかそういった問題以前に先輩の父親が美希の父親に向ける執着が異常。甲斐家の窮屈さは先輩のお見舞いに行ったときからも伝わってきたが、何気にあの一家はおかしいのかもしれない。そんな中で過ごしてきた先輩が歪んでしまったのも、そのへんに理由がありそーな。

フルコンプ後に解放されるおまけシナリオ「真実の愛」では先輩が一番輝いていた。「飢えたハイエナのような男ども」だの「ずる賢いエテ公ども」だのと言いたい放題で、中の人もノリノリで演じてくれていたのがまた素晴らしい。

高見智也 (CV:春野風)

先輩との「許嫁」という関係に正面からぶつかる唯一のルート。そこはやはり幼馴染みだから、てのがあるんだろう。ただ、序盤こそ代わりでもいいからと迫ってくるのが痛々しくもあったけど、先輩から婚約を解消してくれる上にこのルートの先輩は美希の味方でいてくれるので、先輩 VS 智也というありがちな構図にはならなかった。むしろ二人の障害となるのは美希の家族のほうで、智也との関係を認めないのはともかく娘を軟禁するんだから驚いた。そもそも許嫁の関係だって親同士の勝手な都合で押しつけられたよーなもんなのに、娘の意志を無視する美希の現在の父親の態度はどうなんですか。確かに美希は浮気してしまったけど恋愛は当人同士の問題なのだし、許嫁のことがあるにしても親がここまで妨害するのはやりすぎに思える。その後は駆け落ち騒動もあったけど、何にせよ最後は無事ハッピーエンドを迎えられて良かったんじゃないでしょーか。

智也ルートで面白かったのが、美希の浅ましさがわかりやすく出ていた点。智也が真っ直ぐなだけに、美希のそうした黒い部分が浮き彫りになっていたのがとてもいい。遊佐がそんな二人を煽り、三人で落ちていく 3P ルートも結構好きだった。

遊佐拓海 (CV:安芸怜須ケン)

「月ノ光」は言うまでもなく先輩のことを指しているが、「太陽ノ影」が遊佐だとは思わなかった。といってもこの二人は遊佐が一方的に先輩を知っているだけで接点があるわけではなく、でも接点のない二人が美希を通して正反対の位置にいるのが面白い。

遊佐が美希の欠点をズバズバ指摘し、苦言を呈する様は見ていて気持ちよかったけど、部外者がそこまでしゃしゃり出てくるのはどーよ、とも思った。智也は当事者だけど、遊佐は例え正論だとしても外から大人が好き放題言っているだけ。ただ遊佐は愚鈍じゃないからそういう自覚はあっただろうし、それでも言わずにはいられなかったんだろう。そして彼もまた美希に苛立ちながらも惹かれ、最後には自分も当事者になっていくのが面白かった。3P ルートは自分から輪の中に入って行ったが、遊佐ルートでは美希に引きずられてしまった感がある。それが美味しい。そしてそんな遊佐の大人の醒めた部分と子供で可愛い面が混在したギャップが良かった。中の人の演技がまたいいんだよなあ。遊佐拓海の声はこの人にしか出せない。聞いていて心地良かった。

周藤信彦 (CV:南武哲好)

前半は身勝手な相談をしておいて先生から自分の望む反応が得られず苛立ったり、生徒との線引きをする先生に不満をぶつける美希の幼稚な面が目立つ。そして後半、先生が美希の想いを受け入れてからは本人も言っていたよーに嫉妬深くて見境のない男に豹変するんだけど、バイブを突っ込ませたままの学校生活プレイはありがちながらも二人がなんだかんだで楽しそうなんでいいんじゃないでしょーか。教師が生徒に何をやってんだ、という突っ込みはもうこのゲームをプレイすることを選んだ時点で今更。しかし赤瀬が活躍するだろうと思っていたのに、二人の関係を揺るがすよーな事件もなく終わったのは残念。校内でもプレイを強要する先生の様子を見ていると、赤瀬がいなくてもそのうちバレるだろうと思ったんだけどなあ。

ところで先生の私服姿が二面性を表現しているのはわかるけど、あまりにもダサいので私服姿で登場されるたびに微妙な気持ちになっていた。

藤原一輝 (CV:嶋崎比呂)

先生ルートの直後にやったからか、先生の時とは逆で美希のほうが一輝に対して線引きしようとしているのが面白かった。ただ、教師と生徒の関係はいずれ時間が解決してくれるけど姉弟関係は一生付きまとう。とはいえ実際は従兄同士だし、そういった隙から攻めて周囲の理解を得られる可能性はなくもないが、TRUE ED からもわかるように例え従兄弟同士でも姉弟同然に育ってきたのを間近で見ている藤原家の両親は複雑だろうなあ。一輝も最後まで「姉ちゃん」呼びだったし。逆に BAD ED は家族と同居した上で隠れて関係を続けているが、一輝が美希を好きすぎるあまりいつ周囲に関係が露見してもおかしくない爆弾のよーな存在と化していて、その危うさが良かった。

一輝ルートの特徴としては、エロシーンで美希がイニシアチブを取っていたのが笑った。美希のほうから誘い、終わった後は痛がっていた弟の体を美希が気遣い、後処理も美希が担当する余裕を見せつけてくれるし、セックスしたことを遊びだったのかと不安そうに聞いて来るのも一輝のほうで、完全に男女の役が逆転している。

片桐涼子 (CV:神月あおい)

涼子のようなクールビューティは好きだけど、涼子 ED の彼女は何故そこまで美希のためにしてくれるのかが謎。最初は美希に依存しているのではないかと考えたんだけど、それもなさそう。美希に恋愛感情を抱いているわけでもないだろうし、よくわからない。