Antipyretic

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君と彼女と彼女の恋。

http://www.nitroplus.co.jp/game/totono/

問題作。仕掛けられたギミックは私も考えたことがある内容だったし、衝撃はそれほどでもなかったんだけど、それで真っ向から勝負したのはすごい。Nitro+ だからこそ勝負出来る作品で、バイオ氏らしい作品だなあとも思った。本作は『スマガ』の一部分を切り取って大胆にアレンジを加え、突き詰めた作品だという印象を受けたからなんだけども。

ただ、ヒロインの究極の二者択一というテーマを面白いとは思ったもののそれだけで、結局私には響くものがなかった。私は俯瞰的視点で物語を読む読者で、基本的には代金を払った分の価値を求めて可能な限りフルコンプを目指す。そういう人間だから、ラストで「両方の結末を見ることはヒロインへの裏切りであり冒涜だ」と言われると単純に腹が立ってしまう。本作の伝えたいことは私なりに理解したつもりでいるけど、そのギミックですらやっぱり俯瞰的視点で眺めてしまうというか。というわけで結末は両方見た。両方見ることに少しも躊躇わなかった。

登場人物に惹かれなかったせいもある。『スマガ』もそうだけどバイオ氏の作るキャラには夢中になりにくい。相性の問題なんだろうけど、本作は特にヒロインの二者択一をテーマとしているのでそれが響いた。ヒロインに入れ込むからこその苦渋の決断なのに、私はどちらにも入れ込めない。美雪もアオイも可愛いところはあるけどツボに来ない。ヒロインだけでなく、他にもピンと来るキャラがいなかったことも大きい。

一周目の美雪ルートが呆気ないのも残念。綺麗な物語ではあるんだけど、綺麗なだけで終わった。美雪ルートが盛り上がっていれば、アオイルート突入後の美雪のプレイヤへの憎悪が増してより面白くなったんじゃないかな。

一番良かったのは演出。作中でアップデートが行われるとゲームが強制終了して再起動するのが面白かった。また、美雪がゲームを管理下に置いてからは内容も仕様も美雪にとって都合のいいものに書き換えられ、UI も一昔前のデザインに変わる。セーブデータも強制的に削除されるしバックログでの演出もあったりと細かい。そしてなんといっても私が画面の向こうで会った美雪は 205891132094649/1 の確率で現れた少女であり、だからこそ攻略サイトが役に立たない仕様になっていたのも大きな特徴。演出に気合いが入りすぎたためか動作が重くもっさりしていたのは、まあしゃーないのか。

結論を言うと微妙。本作はメインターゲットを絞った作品で、私は完全にターゲット対象外だった。私の好みとも合致しなかった。相性が極端に合わなかった。ただ、こういう怪作をプレイ出来る機会に恵まれたことは良かったのかなとは思うけど。

須々木心一

一周目のヘタレっぷりには苛立たされたなあ。身分差のない設定での恋愛で「釣り合わないから」という言葉を免罪符にするキャラクタは、本当に鬱陶しいのだということを久々に実感した。アオイの浮気が発覚した時の心一にも引いた。でも嫉妬深くて矮小な心一だからこその物語なので、あのシーンが必要なのもわかる。

ちなみに最初は美雪を選んだけど、それはアップデートを選択して美雪を苦しめた責任を感じての結論で、美雪が好きだから選んだというわけではないしアオイとの結末もその後に見た。そして結末にも特にこれといった印象を抱くことはなかった。美雪の結末は予想通りのストレートな内容だったし、アオイもあれ以外の落とし所はないよなあ。何よりどちらも特に好みの結末というわけでもなかった。まあこの作品の結末は内容云々より、どちらの結末を見たかが重要なんだけども。

曽根美雪 (CV:手塚まき)

美雪がテンプレヒロインなのは、メインヒロインであることを意識しているからなんだろう。だからこそ彼女は反逆を起こして心一を監禁してしまうが、この監禁生活のループには苦戦させられた。このゲームの総プレイ時間はそんなに長くないが、Memory で美雪のイベントを選べることに気付けず、自分で料理出来るターンが来るまで延々やってたから無駄に時間がかかってしまった。おまけにクイズも三度失敗してしまい、本当に私は美雪に興味がないんだなあと我ながら溜息。美雪とのループイベントの数々は、とにかくこの状況を脱出してイベントを進行させたい思いが強かったので、画面の向こうのプレイヤが自分のことを理解してくれた、と感激する美雪を前に温度差を感じるしかなかった。

印象的だったのは美雪が歌ってくれる「Happy Birthday to You」と、アオイルート突入後のあの手この手で必死に妨害してくる姿。特に後者はじわじわと心一を追い詰めて、まだアオイが浮気をしていると決まったわけではないとかしっかりしろとかもっともらしいことを言いながら、過酷な事実を突き付けようとする美雪が痛々しくも怖かった。でも一番忘れられないのは、トイレに立てこもった心一に泣きながら「愛しているのに、殺さなきゃならないのよ!!」と本音が出るシーン。CG も良かった。

向日アオイ (CV:仙道ミツキ)

自分をゲームのヒロインだとは言ったけど、メインヒロインだとはとうとう一度も言わなかったアオイ。心一に恋をした記憶を失わないために他の男に抱かれなければならず、ハルとのセックスで泣きだすアオイのシーンは、NTR 好きとしては美味しかった。

印象的だったのは、やはりアオイの浮気を知った心一が吐き気に襲われてまでアオイを追い詰めていく展開。心一が嫉妬深いのは知ってたし、設定があるとはいえアオイの浮気を心一が許せないのはわかるけど、まさかあそこまで陰湿な暴き方をするとは思わなかったので驚いた。それはともかく美雪や雄太郎を巻き込むのはどーよ。美雪はノリノリだったし唆してたからまた別としても、あんな茶番に付き合わされた雄太郎は気の毒。

曙雄太郎 (CV:ほうでん亭ノドガシラ)

時々かっこいい姿を見せてはくれるけど、あまりピンと来なかったキャラクタ。百面相は面白かったというか血涙はふつーに不気味。

ハル (CV:桐谷華)

実はゲームの構造より衝撃が大きかったのがハルちゃんの正体だった。雄太郎から聞かされる弟の話は面白かったんだけど、それがまさかハルちゃんだとは思いもしなかった。よくよく考えたらあからさまな伏線はいくつもあったのにな。我ながら鈍い。

心一の視点ではアオイを寝取るキャラクタでもあるが、ハルちゃんはアオイに本気で恋をしているしアオイは設定上寝取られないと心一との記憶がリセットされてしまう子で、そう考えるとかなり残酷だよねアオイとハルのセックスシーンは。