Antipyretic

何かありましたら rpd1998★gmail.com まで

天使のいない12月

http://leaf.aquaplus.jp/product/ten/

欝ゲーじゃなくて中二ゲーと言われている理由がわかった。確かにこれは中二。中二といってもバトルとか燃えとかそっちじゃなくて、まだ幼稚で未熟な少年少女たちが背伸びしようとする意味で。

だから大人の視点で見ると、彼らは悩むほどのことじゃなくても葛藤するし大したことじゃないのに重く受け止める。些細なことで真面目に疑問をぶつけ合うこともしょっちゅうだし、彼らの思考についていけず何が論点になっているのかすらわからない時もある。だから感情移入は全然出来なかった。展開も心理描写も軽いし薄いし浅い。でもそんな登場人物たちとの間の温度差がなくならないまま読み切ったんだから、決してつまらない作品というわけでもないかなあと。雑だし説得力は足りてないし突っ込み所も多かったけど、突っ込むことも含めて楽しんだというか。面白かったかと聞かれると答えに窮するが、好きなところもいくつかあった。

例えばどの子も自暴自棄になるとセックスに突入することが多く、まるで快楽にしか逃避先がないかのような空気でそこは引っかかったけど、自棄気味のセックスに溺れる展開自体は結構好きなんだよなあ。そこに説得力が欠如しているだけで。ハッピーエンドらしい結末がないところもいい。かといってバッドエンドというほどでもなく、あと数年もすれば穏やかに笑って暮らせるようになるのでは、という予感を残しているのがいい。そしてこれは中二ゲーだからこそ出来たんじゃないかな。瑣末なことで真剣に悩める年頃だからこそ、彼らには成長出来る可能性が無限にある。これで登場人物が大人だったら色んな意味で救いがなかったんだろうが、『天いな』はまだ十分間に合う。そしてカタルシスは一切ないけど、物語に漂う停滞感や退廃的な空気も好みだった。短時間でクリア出来るところも好印象。ついでに言えばエロシーンがすぐ終わる点もいい。木田は『うたわれ』のハクオロさん並の早漏だよなあ。これで私がエロシーンを全部読んだエロゲは『うたわれ』と『天いな』になった。これでもーちょい中身が伴ってくれればな……。

絵は今見ると古いなあと思うけど、綺麗だしアングルも面白いものがあったしで見惚れる場面は多かった。特に雪緒ルートは印象的な CG が多い。あと村様はこの時から不安定なよーな。透子や真帆はまだ気にならないけどしのぶが……。音楽は OP「I hope so...」だけは以前から知ってたけど、改めて聞くとやっぱりいい曲だ。

演出は古い作品だし特に文句はないんだけど、射精時の点滅がないのが逆に新鮮で少し面白かった。ただシステムはセーブやロード、既読スキップが設定画面からでしか使えないのがちょい不便。これも古い作品だから仕方ないか。

あーあとプレイ中は何度も『ホワルバ2』を思い出した。原画は『天いな』の片割れだし、「どうしてこんなことになってしまったんだろう」という木田のモノローグから始まるあたりとか、冬が舞台になってたり雪の降るシーンが重要になってたり、三角関係っぽい展開になってたりとか共通点が多い。でも『天いな』のキャラクタは春希ほど頑固ではないし、雪菜ほど歪んでもいないし、かずさほど弱くもなかった。

それにしても『雫』以上に「セックス」という単語を聞かされる作品に会うことになるとは思わなかったなあ……。しかも同じブランドってのがまた味わい深い。

木田時紀

無気力な不良かと思いきや本質は臆病な少年。生きるのも面倒だけど死ぬのも面倒だ、とか思ってるあたりなんてテンプレそのままで一周回って微笑ましかった。そして劇的な過去があるわけでもなさそうなのに厭世を気取っているのは、むしろ劇的な過去が何もないからなんだろうな。何もないから中身のない捻くれた子供になってしまった。だから普通の健全なエロゲ主人公らしさも持っている。ただ影響を受けやすいので、ちょっとしたことで透子がおかしくなっただの雪緒が狂ってるだのと騒ぐし、ヒロインたちの持つ一見異様に見える空気にも呑み込まれていく。有体に言えば主体性がない。あと突然キレたかと思えば次には優しくなったりでキャラクタが定まってないように見えることも多く、そこは混乱させられた。思考回路も結構ブレてるよーな。これは木田の主体性のなさを表現しているというよりは、作者の都合でキャラクタがブレてるだけのような気もするけど。木田への感情移入が出来なかったのは多分それもある。

印象的だったのはポイを拾ってきた透子を詰る場面。

「おまえは自分より弱いヤツを拾ってやって、いい気になってるだけだ!」

木田もしのぶと同じく透子の弱さに依存していた人間だったんだから、この発言がブーメランとして木田自身に返っているのは興味深いなあ。あの場面のポイを見捨てられない透子は、透子を見捨てられない自分そのもので、だからこそ木田はあんなに怒った。同じく透子も自分と同じだったからこそポイを見捨てられなかった。

栗原透子 (CV:鮎川ひなた)

こういう典型的な眼鏡属性ヒロインは久し振りかもしれない。といっても私には眼鏡属性はないけど、それにしても冒頭の木田の「メガネフレームとセックスしろってのか?」は酷いなあ。まあその後セックスしまくるんだけど。

メインヒロインなので最後に残しておいたけど、透子ルートはつまらなかった。求めているのは透子の体だけだから云々ですれ違うんだけど、「透子の体だけ」に執着しているんだからそれは恋なんじゃないのか、としか思えなかった私にはダレた。些細なすれ違い程度で学校をやめるとか言い出す木田がもう盛大に萎える。透子にわざわざ「学校をやめるかも」ってメールを送ってるあたりも構ってちゃん全開で最高に鬱陶しかった(携帯電話を持っていたのはしのぶだったから透子が読むことはなかったけど)。ただ最後のキスは良かったかなと。肉体だけでしか繋がれないと思い込んでいる二人がキスだけをした。キスはセックスとは違うけど唇も肉体の一部には違いないわけで、これが二人の精一杯なんだろうなあと思えて微笑ましかった。同時にセックスから始まった二人がやっとキスをしたことで、ようやくスタート地点に立てたんじゃないでしょーか。

それと透子ルートでも木田という人形を必死に手に入れようとする明日菜さんの痛々しさや、透子としのぶの友情も印象的だったなあ。特に後者は木田と透子の前進も後退もしない関係よりもよっぽど気になっていた。実はしのぶのほうが透子に依存していたことが露呈した後はどうなるのかなと思ってたんだけど、最後に二人の接点をしのぶが作ることで友情の復活の可能性を匂わせる程度で終わっていた。こうしたはっきり答えを提示しないやり方は、恋愛だけでなく友情においても徹底していて好きだ。

榊しのぶ (CV:鷹月さくら)

しのぶは人の話も聞かずにいちいち突っかかってくるので苦手なキャラクタだった。死ね死ねと安易に罵倒するのもアレ。シナリオも微妙。木田と透子の情事を覗き見して興奮してしまうのはありがちな展開としても、そこから木田に犯されることを望むのがよくわからなかった。その後、罪の刻印だのなんだのと仰々しい台詞を吐いてリストカットにまで及ぶともうついていけなくなる。それだけしのぶが純粋だった、ということなのだとしても強引すぎる。透子を裏切ったことを罪だというのなら、透子の相手である木田とセックスしてしまうことのほうが裏切りになるのでは。だから終盤、木田に好意を向けられて恐怖するしのぶのシーンは「今更?」と呆れた。ただ、閉塞的なはずなのにどこか爽やかな結末自体は好み。そこに至るまでの展開が稚拙すぎたことだけが本当に勿体ない。

一番印象に残っているのが初めて木田に犯された時の「お父さぁん……」。そこから最悪な形で処女を散らしてしまったことに対する父親への謝罪が続くんだけど、これは男性にとってはセックス中に言われたら一番萎える台詞かもしれない。

麻生明日菜 (CV:皆美伊吹)

明日菜さんは唯一の年上ヒロインとして木田に自分が捻くれた子供でしかないことを自覚させてくれるんだけど、基本的には甘やかす人だし初っ端から木田への好感度 MAX で、でも明日菜さんも健全なヒロインではないんだろうなーと思ったら案の定。援助交際を繰り返していたという学生時代の明日菜さんは見てみたかったなあ。

明日菜さんの本性を知り、自分と明日菜さんとの間には何もなかったことを突きつけられて絶望した木田が透子に逃げる展開は春希と雪菜を思い出した。ただ、再び明日菜さんと向き合う場面で透子に逃げて透子を抱いたことを言わないだけ木田は春希よりマシ。「必要ないなら言わずにおいたほうがいい」。おい聞いてやがりますか春希先生。春希は他の女を抱いたことをわざわざ全部告白するからなあ……俺の罪だから裁かれなければならないんだとかそれが誠実なんだとか言い出す厄介な誠実厨だったからなあ……。ああいや春希のことはどうでもいいのでした。

話を戻すと明日菜さんルートは結末が結構気に入っていて、子供であることを自覚させられたからこそ明日菜さんを救えないのだと気づき、明日菜さんのそばにいるために人形で居続けることを木田が享受する展開が好み。皮肉だなあと思うのは前半が木田の成長物語になっている点で、木田は明日菜さんによって自分が子供であることを自覚させられてようやく成長の兆しを見せ始めたのに、明日菜さんのためだけに成長を自ら止めてしまったのが何とも言えず……。しかしそこが面白い結末でもあったなあと。

気になったのは透子がやたら語尾に「☆」をつけてきてちょっとウザかったのと、バイトを軽い気持ちでサボるシーンが多かった点。透子ルートでも明日菜さんがクリスマスイブに「てへぺろ☆」なノリでケーキ屋のバイトを抜けて来て、更に店のケーキを一個拝借して来たのがもうアレ。書き入れ時に当日サボられる店長の心理を思うともう……。そしてバイトを抜けて来たのもケーキを持ってきたのもつまらないことでグダグダしていた木田のためだった、てのが最高に腹立たしい。

須磨寺雪緒 (CV:井村屋ほのか)

一番気に入ったシナリオは雪緒ルートなんだけど、シナリオやキャラクタが気に入っているというよりはシーンが気に入った。特に屋上で自殺しようとしていた雪緒に初めて出会うシーンは『雫』の瑠璃子さんの「電波、届いた?」に近い空気を感じた。

「こんなキレイな世界で死ねたらいいのにね」

この台詞もインパクトを与えるには十分で、雪緒の神がかっているかのような不思議な魅力に満ち溢れていて、こうして感想を書いている今でもその場面を思い出すだけで溜息が出るほど。その後、木田が雪緒に怯える展開は過剰で萎えたけど、ラストの二人で自殺するシーンや最後の恋人らしいセックスシーンは出会いとはまた違う味わいがあってやっぱり印象に残った。絵と塗りの力も大きい。美しかった。

ただ雪緒に死の香りが付き纏っていた理由が昔飼っていた犬が死んだから、てのはちょっと浅い。私もペットを失くしたことがあるから悲しみは理解出来るつもりなんだけど、理解出来るだけに死への憧憬に至るのが理解不能。――が、それはもうどうでもいい。

重要なのは雪緒ルートの空気がものすごく美しかったことと、自殺しようと飛び降りた二人が助かったこと。あのまま死んでしまったほうが綺麗な結末になったと思うが、「幼い少年少女たちの希望を残す」という締め方が重要になっている作品なのでこれでよかったのかなと。今までは生を諦めていたから自殺しようとしたけど、死ぬのに失敗して今度は死を諦めたから生き続けるしかない、てな終わり方は「生きようとした」という明るい結末ではないからどこか仄暗いけど、恵美梨が泣いてくれたことが二人にとって大きな救いになったことが僅かながらも希望の火が点いたようでぐっと来たというか。

葉月真帆 (CV:安玖深音)

木田と真帆は帰り道で一緒になることが多かったけど、道端で普通にセックスってなんなんですかスキってなんなんですか的な会話が繰り広げられるのがなんとも……。こ、この子ら真面目やね……。真帆のこういう恋愛に対して夢見がちなのはいいけど、ちょっと真面目すぎるというか一言で言うと「ああもうめんどくせえ!」に尽きる。面倒な子は二次元においては好きだけど、真帆の面倒さはあまり好みではなかった。

価値観が違ってもお互いが本当に好き合っているのであればどこかで妥協点を見つけられたらいいんだけど、それが出来ないんだろうなあ真帆は。功と別れるシーンは「なんで別れてるんだこの二人……」とポカーンとしながら眺めていた。せめて真帆と功の描写があればまだ印象は変わったかもしれないけど、描かれるのは木田と真帆のシーンばっか。いや木田が主人公だから仕方ないんだけど、それならせめて木田と功の会話をもーちょい増やしてくれても……。とにかく当事者であるはずの功が蚊帳の外のように描かれているのがアレ。いやまあ蚊帳の外だったからこそ功と透子が嫉妬したんだけども。

更に言うと木田と真帆がセックスする展開もよくわからなかった。もう功より木田が好きになってしまった、てな理由でいいじゃないか(キレ気味)。

ただ、心と体は別だから本当に好きなら必ずしもセックスしなくてもいいんじゃないかと考える真帆と、心と体は別だから好きじゃなくてもセックス出来る木田の根っこが同じだとわかる場面は面白かった。接点が肉体にしかないと考えてうだうだしていた透子ルートとは対比になってるんだな、とクリアしてから気づいた。それと「恋愛対象にはなれない相手同士」のセックスと結末を描いている点は好み。

余談だけど、私服姿の真帆は少年にしか見えなくて困りました色々と。

木田恵美梨 (CV:みる)

エロゲの妹キャラはお兄ちゃんにべったり系か、兄を粗野に扱いつつも本当は兄想い系かのどちらかばかりを見て来たし、恵美梨は後者のタイプだと思っていたのでまさかヒロインの一人に恋をしていたとは思わなかった。斬新過ぎる。それでもささやかながらも兄妹の絆を感じ取れる場面はあったし、そこは素直に安堵した。

恵美梨が出張ってくるのは恵美梨が恋をしている相手である雪緒ルートなんだけど、この恵美梨の報われるには難しい恋が面白くシナリオに絡んで来たのは良かった。雪緒に恋しているのに女同士だから結ばれそうにない妹に対し、兄は男というだけでよりにもよって逃避で結ばれてしまったという理不尽。そりゃ恵美梨も泣くし怒るし嫉妬もする。他にも寝ている雪緒にキスをするシーンとか、印象的な場面が多かった。恵美梨が雪緒と肉体関係を持ってしまったと思われるエンディングも「兄が一番であるはずのエロゲの妹キャラをヒロインに奪われる」、あるいは「攻略中のヒロインを妹キャラに奪われる」と二重の意味で寝取られちっくなのが最高だった。欲を言えば二人のエロシーンも見たかった。

霜村功 (CV:非公開)

主人公の友人に彼女がいて、その彼女が攻略対象になっているのは珍しい。

功はセックスしたいセックスしたいってがっついてたけど男の子なら普通だろうし、特に問題のある彼氏でもなかった。むしろ真帆を大事に思っていることは伝わって来たし、なのに真帆と上手くいかないのは真帆が面倒な思考回路を持っているからなんだよなあ。功は可哀想だった。功のセックスありきな考え方に拒否感が出たのだとしても、二人でもっと話し合うなり時間をかけるなりすればよかったのに、たった一度すれ違っただけで根に持ってうだうだうだうだ言う真帆に苛立った。というわけで私は功の肩を持つ。