Antipyretic

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大正×対称アリス episode II

http://www.primula.jpn.com/taishoalice/

『ep1』続編。面白かった。最初から最後までダレることもなかったし、むしろツボに来るような展開も多くプレイ中は楽しかった……が、それでもハマり切れなかった。ツボに掠りはするけど掠るだけで終わってしまう。どちらのシナリオも好みの系統だったし、満足度も結構高いんだけどなー。理由はやっぱり百合花にありそーな気も。

ところで今更だけど、この作品のどこの何が「大正」なんでしょーか。大正と言われれば真っ先に大正時代が思い浮かぶけど、他に意味があるのかと思って調べても特に見当たらず。何の意味もありません、だったらそれはそれで面白いんだけども。あと何気にどのシナリオでも食事での「あーん」イベントをノルマのようにこなしているのも気になるんだけど、逆にあからさますぎて伏線でもなんでもない気すらしてくる。

しかしほんっとーーーに王子様を「救う」ことだけに徹底していて、なんかもう清々しいレベルのガッチガチの乙女ゲーだなあこのゲーム。

有栖百合花

今回は相手に攻められる場面が多い。百合花自身も攻めるのは得意だけど攻められると弱いのだと「かぐや編」で言ってたけど、それ多分攻撃にステータス極振りしすぎて防御がすっからかんになってるだけなのではあるまいか。その紙装甲ぶりは可愛いけど。

今回は前作に比べると百合花の異常な面がわかりやすく出るが、それでも百合花の存在がピンと来ない。腹を掻っ切る百合花を見ても己の身を業火にくべる百合花を見ても、何かが物足りないと感じてしまう。相手に恋をしているというよりは相手を攻略している印象があるからだとか、百合花が完璧すぎるからだとか、チェス盤に配置された存在であることを示唆されているからだとか理由はいくつか思い浮かぶんだけども。まあ百合花の設定は置いとくとしても、キャラクタ的にはドツボなはずなので尚更わからない。

ところで「グレーテル編」では百合花視点だと背景が左右逆になるのが気になる。グレーテル視点だといつも通りの背景だったので百合花視点であることが重要なのかと思ったけど、他のシナリオだと百合花視点でも逆になるような現象は起きなかったもんなあ。

シンデレラ (CV:平川大輔)

シンデレラに安定感があるせいか、百合花を心配してくれたり見守ってくれたり記憶を取り戻す手伝いのためにパーティ開いて人を集めようとしてくれたりと、「かぐや編」は周囲の協力を得られる感じが他のシナリオに比べても目立っていて心強かった。「グレーテル編」の赤ずきんもそうだけど、自分のルート以外では輝き出すという乙女ゲーあるある現象が、主人公が超有能なこの作品だと顕著に出ているのが地味に面白かった。

赤ずきん (CV:前野智昭)

何の憂いもなく正真正銘の正義の人として活躍している赤ずきんを見ていると目頭が熱くなってくる。グレーテルに因縁をつける少年たちについていった百合花を「男は皆、狼なんです」と窘める場面も、赤ずきんの正体を知っているからこそ響く。

かぐや (CV:増田俊樹)

百合花が攻撃に特化したヒロインならかぐやは防御に極振りしている攻略対象で、攻撃特化と防御特化では千日手になりそうなんだけど、かぐやの勝利条件にタイムリミットが設けられているし挑戦者は百合花なので、かぐやにはアドバンテージがあった――のに、結局百合花が自らの矛を粉々にしてまでかぐやの分厚い盾を力任せに貫通させることで勝利をもぎ取っていて思わず「うわあ」。なんだこのマッチョ思考。でもたいへんわかりやすい回答で納得した。愛なんてこれっぽっちも信じちゃいないくせに愛が欲しくてたまらないかぐやに愛を最大限に伝える方法はあれしかないし、百合花にはどうも「ハッピーエンドに持っていかなければならない」と義務付けられている気配があるから実行するしかないし、また敢えてちゃんと実行できるヒロインが配置されているような気もする。

特徴は BAD ED の多さで、かぐやの厄介な性質が顕著に出る。人間は無数の選択肢を経て人生を歩んでいくとも言われるけど、かぐやに対する選択肢だけは全問正解を狙わないとそこでもう終了する。ゲームオーバー。やり直しのチャンスがない。だから「BAD ED」ではなく「即 BAD ED」になるところに意味があるんだけど、そこが面白かった。まさに綱渡り。私は攻略情報を見ながらプレイしたので楽しむ余裕があったけど、自力攻略だったらかなり疲弊させられそう。

交換日記も良かった。物語において日記と手紙は万能すぎるアイテムで、その割に効果的に使われる作品にあまり巡り会えないのでどうかなとか思ってたんだけど、人の顔色を伺うことに長けているかぐやが相手の求めるものを判断する材料を字のみに制限されることで、かぐやの本音が垣間見えたり零れ落ちたりして効果的に作用していたし、単純に二人の日記でのやり取りにもぐっと来た。時々添えられる絵も可愛かったなあ。

しかし『ep1』をプレイした時はかぐやがここまで繊細だとは思わなかった。面倒にもほどがある。でも一番好きなキャラクタは、と問われたら多分かぐやかな。笑顔の仮面が剥がれて必死になるかぐやの表情は良かったし、ブラックかぐやんも可愛かった。

グレーテル (CV:江口拓也)

「グレーテル編」は百合花が山小屋に閉じ込められた状況で物語が綴られるので、相手を救おうとこれまでアクティブに動き回っていた百合花にしては派手な動きがない。けど実はゲーム開始時点ですでにグレーテルは百合花という猛毒に侵されているので、百合花が動く必要がなかったのだと後になって思い知った。

義姉が自分を弟として接しながら男としても見ていて、そんな自分を唯一肯定してくれるのが義姉だけだと思い込み、義姉の歪んだ愛に引きずられたのか自分も義姉を女として見るようになり、しかしここで恋人になるということは姉弟関係の終了を意味していて、自分には義姉しかいないという視野狭窄に陥っているグレーテルは姉の気持ちを受け入れられない。でも姉は食べたくて仕方がない。キスもしたいしセックスもしたい。「姉弟の関係」だけが自分にとってのすべてなのに、両想いで更に血も繋がってないという事実が誘惑して来る地獄、というグレーテルの葛藤は理解出来たんだけど、中盤から「それは結婚すればオールクリア出来るんじゃね?」という考えがぐるぐる回ってて、一人で悶えるグレーテルから一歩引いた距離で彼を眺めることになってしまったのが……といっても面白くなかったわけじゃなく、むしろこういう展開はツボで楽しめていた分、野暮な突っ込みがずっと脳内を支配していたことが勿体なかったなあと。それとどこか精神が歪な攻略対象は珍しくもないが、グレーテルが歪んでしまったのはグレーテル以上に歪んでいる主人公にそもそもの原因があった、という構図はレアケースで面白かった。グレーテルのためなら異常になれるし(そういう考えに至れる時点ですでに異常だとも言える)、グレーテルのためならレイプされるのも止むなしだと思えるし、グレーテルのためなら死んだっていいし、グレーテルのためなら家族を捨てられるし、グレーテルのためなら恋も捨てられる。そうやって底なしに甘やかしてくれる姉というお菓子を食べ過ぎてグレーテルはおかしくなっていく、てのは皮肉としてはストレートでわかりやすくていいっすね。

ただグレーテルは面白いキャラクタだったが、年下属性がないのでグレーテルがもう少し年齢が上だったらツボにハマれたのかもしれないな、と思わずにはいられなかった。でもグレーテルが弟で、かつ15歳だったからこそのシナリオだとも思う。

BAD ED の CG が他のシナリオに比べて豊富だったのも美味しかった。「かぐや編」もそうだけど、今作のシナリオは二つとも BAD ED が映えていて嬉しい。

ところで私は『ヘンゼルとグレーテル』を読んだことがない。お菓子の家が登場する、という知識しかない。だから童話とのリンクを楽しむことは出来なかったけど、百合花とグレーテルの話に集中出来たのでそこは一長一短かも。といっても『鏡の国のアリス』を含め他の童話もだいぶ忘れてるけど、今のところ本作を楽しむのに不自由はしていない。

白雪 (CV:蒼井翔太)

出番は少ないけど「かぐや編」での活躍は本当に「白雪様」と言いたくなるレベル。

魔法使い (CV:羽多野渉)

「かぐや編」は BAD ED が多いので、魔法使いが「タイガー道場」や「教えて!! 知得留先生」をやってくれていたのがじわじわ来た。毎度毎度何が駄目だったのかを丁寧に教えてくれる魔法使いはほんと親切だなあ。ただかぐやの記憶喪失の件は、序盤に魔法使いがわかりやすいヒントをくれたおかげで早々に知ることとなってしまったのが残念。

アリス (CV:松岡禎丞)

上層レイヤにいるっぽいのでこの子には記憶が継承されるのではないか、と思ってたら案の定。今回は自慢の暴言も前作に比べると大人しくなっていた印象で、それはアリスが学習したからなのか私が学習したからなのか。

オオカミ (CV:花江夏樹)

グレーテルは視野狭窄に陥らなければ、オオカミと健全な友情を築いていくことで成長できた可能性はあったんじゃないかな、と数少ないグレーテルとオオカミのやり取りを見ていて思ったんだけど、それが出来ないほどに百合花の毒が強かったんだろうなあ。

猟師 (CV:橋詰知久)

グレーテルだけじゃなくて百合花のほうにこそ注意を払っておくべきだったと思うんだけど、彼が妹の異常性に気付いたのは百合花が学校で暴れた時だったのだとしたらもう手遅れだったのか。両親がいない家にまだ思春期の最中にある妹と義弟を残したままにしたことも対応が後手後手に回ってしまった原因なんだろうけども。