Antipyretic

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sweet pool

http://www.nitrochiral.com/pc/software/sweetpool/

沙耶の唄』を BL ゲームにしたらこうなりそうな気も……しなくもないような。グロいビジュアル云々ではなく『おんぬし様』の設定や妊娠して出産する展開あたりが。そして本能か理性を選ぶことで物語が進行していくシステムは『カオヘ』の妄想トリガーぽい。

しかし Nitro+ は「ボタンがどこにもないゲーム画面」に拘りでもあんのか。毎回そういう仕様にしてくるけど、不便だし呼び出したメニュー画面も見づらいのでいい加減この拘りは捨てて素直にボタンを配置してくれんかなあ。ロードも相変わらず遅かった。超速スキップは早いのかなんなのかよくわからない。でもそこまでシナリオボリュームがないせいか『Lamento』よりは快適。

シナリオは蓉司と哲雄の物語が描かれており、BAD ED として善弥や睦の ED に辿り着くシンプルな構成。設定だけは壮大だった前作とは逆を行くかのように物語の箱庭が最小限に留められているので、話も綺麗に纏まってたし文章も意識して余計な装飾を削ぎ落としたのか読みやすくすっきりしたものになっている。でも『咎狗』や『Lamento』同様、序盤が静かで面白くなるのに時間がかかるスロースタータな面は健在。謎もいくつか曖昧なまま放置されているが、これは意図してのものだろうしその曖昧さが独特の世界観を演出しているのでこれはこれでいいんじゃないかな。完全な救済がない潔さも良かった。

絵は高校生にしてはごつい体つきなのが気になったくらいで、好みの絵柄ではないけど作品には合っている。グロに関しては強烈な描写はなかったけど、生理や妊娠や出産など女性だからこそ感じさせられるリアルな重さで攻めて来るところは面白かったし、それが本作の一番の特徴。グロは非日常の世界の話として捉えるのでダメージはそれほどでもないんだけど、出産妊娠は人にもよるけど生理は女性であれば「あまり歓迎できない馴染み深いもの」なので憂鬱になるというか。ZIZZ による音楽も良かった。ED ごとに違うボーカル曲が聞けるけどどれもいい。特に「Miracles may」は名曲。

というわけで『sweet pool』は面白く読めたんだけど、ハマれなかった。主役の二人にも特に惹かれなかった。この作品は蓉司と哲雄の物語なので、この二人にハマれないとそこまで入れ込めないんだよなあ……。それでも CHiRAL 作品の中で「話が一番面白かった」と言えるのは『sweet pool』かもしれない。

崎山蓉司 (CV:春野風)

おぞましいものが自分から排出される恐怖に翻弄される蓉司は見ていて可哀想だった。というか可哀想でない時があまりないんだけど、よく考えたらクラスメイトにいきなり強姦されるってのも大事件なのに、それ以上にわけのわからないことが自分の体に起こっていることのほうが凄まじくて強姦事件の衝撃が薄れて行ってしまうのよなー。

ところで蓉司の身に起きたあの現象をどう呼ぶべきかで迷う。妊娠出産とも言えるし生理とも言えるし排泄とも言えるが、出産だのスカトロだのと称するのも違う気がする。それと毎回出した肉塊を処理しないので、そっちが気になって次の展開に集中できないことも多々あった。混乱と生理的嫌悪と恐怖で直視したくない気持ちは理解できるけど、他人に発見されることもあったので結構ひやひやした。ちなみに肉塊云々は気持ち悪いというより生々しかった。でも中盤でベッドで寝ながら肉塊を生み出して部屋中を塊だらけにしていた頃にはさすがに慣れて来て、後半に哲雄宅での性交後に出した塊を二人で処理している描写が出てきた時は和むまでになった。ところで蓉司の姉が出産する展開は蓉司の出産との対比なんだろうけど、印象的だったのは産まれた子供に姉が蓉司の名前の一部を取って名付けたことを告げるシーン。自分が異常であることはもうわかっているから、姉の子に自分の名前の一部が継承されたことで自分の価値をやっと見出して、それでもう自分は安心して狂って行ける、と結論付けた蓉司が見ていて哀しくて印象に残っている。

理性と本能の選択については違いが最初はよくわからなかったが、二つの BAD ED を見てようやく把握した。あれはメスとしての本能に忠実になるか人間としての理性で応じるかの違いらしい。メスとしての本能に従うってことはオスを求めている蓉司の中の『内なる存在』の意志に従うということでもあるので、哲雄や善弥のようなオスを相手にした時に本能を選択するとその相手との関係を持つ展開に向かってしまう。逆に睦 ED が理性を選択しないと辿り着けないようになっているのは、睦がオスではないからなのか。

城沼哲雄 (CV:鳩マン軍曹)

哲雄は寡黙だし無表情だし行動も唐突で動物のようだと思っていたんだけど、その印象は間違いでもなかった。彼はオスとしてメスである蓉司を求めていただけで、それは動物の本能としては正しい。序盤の哲雄の行動は唐突で、強姦シーンもポカーンとなったもんな私が。そんな哲雄が徐々にさり気ない優しさを見せるようになり、特に何度も蓉司を守ってくれる姿はオスというよりも王子様のようで思わず和んだ。いやでも真面目な話、哲雄は格好良いとは思う。何しろ目立つ判断材料が外見と行動しかない男だから、そりゃ女も寄って来るだろう。そういうところを含めても哲雄は「優秀なオス」なんだろうな。

しかしこのカップルはなんというか大人しいな……。相合傘で二人で帰るシーンを見ていて思ったんだけど、しっとりしているというか静謐な空気が漂っていて、壮絶な設定持ちのわりには派手な動きがない。だからといって退屈というわけでもなく、例えばラーメン屋で食事をするシーンとか学校の屋上で言葉少なにやり取りをするシーンとか、静かな二人だからこそ印象に残る場面も多い。グロテスクなシーンとの対比もあるんだろうけど。でもこれらの和やかなシーンのほとんどが食事シーンで、食欲という人間の本能のひとつでもあるのだと思うと意味深長に思える。

ただこの二人がくっつくのは二人の本能ではなく二人の中にいる『内なる存在』の本能によるところが大きく、また上屋の暗躍もあって外的要因によって惹かれあって行ったというか、惹かれあうことを第三者によってコントロールされているとも言える。公式の「恋でもなく、愛でもなく」というコピーは恐らくこのことを言ってるんだろうが、上述した微笑ましいやり取りを見ていて恋愛とは違うかもしれないけど愛は感じたので、「恋でもなく」のほうはともかく「愛でもなく」はそうでもない気が。

結末は『彼ら』を受け入れる融合 ED の、永遠に拘るからこそ刹那を愛して溶けて行く二人が壮絶で良かった。産まれた純成は美しく赤い目に引き込まれたが、『彼ら』の目的は果たされず邦仁が大事に守っていた『おんぬし様』と同じ末路を辿る可能性はありそう。

人間として生きていくことを願う理性ルートから到達出来る同居 ED は、最後の哲雄の笑顔が印象的。これまで動物的に生きて来た哲雄が初めて「人間らしい」表情をするようになったことで、蓉司の「哲雄には人間として生きて欲しい」という願いが叶ったことの象徴として哲雄の笑顔が描かれている。ただ蓉司のほうは無事ではいられなかったらしく、父親の件を見るに肉体は人の形をしていなかったのか、それとも完全に失われて霊のようになっているのか……どちらにせよ最後には消滅する物悲しい結末。

一番気に入ったのは「Miracles may」が流れる結末。蓉司の「哲雄には人間らしく生きて欲しい」という願いが完全に叶った結末なんだから、最後に到達するには相応しいくらいのハッピーエンドだろう。哲雄の中で蓉司に関する記憶が失われたということは、自分がオスだという自覚がないということでもある。だから蓉司と過ごしたあの異常な時間の記憶がないのなら、哲雄は「人間らしく」生きていける。つまり蓉司とのことを全部なかったことにしなければ哲雄は「人間らしく」生きて行けない。

三田睦 (CV:空乃太陽)

登場人物の中では貴重なまともな人間で、天真爛漫なだけに壊れていく様子がわかりやすく、特に雨の中蓉司のマンションを訪れるシーンはゾッとした。結末も痛ましい。序盤から食べる描写が多かったのは伏線だったのなー。この結末には理性を選び続けることで辿り着くが、そうして蓉司が理性を選び続けた結果、睦が本能の極地と言っていいカニバリズムに到達してしまった対比は面白い。ところでメスが失われたこの結末は上屋にとっては誤算なんだろうが、その上屋の反応が見られなかったのは残念。

ちなみに睦の蓉司への気持ちは恋愛ではなく、匂いに当たったことで友情の嫉妬と独占欲が悪い方向に増幅させられた感がある。恋愛ではなくても醜い気持ちが強くなると恋愛に近くなるのか。睦 ED 以外では睦にとっての救済が用意されているのが救いだが、そこで交わされた蓉司、哲雄、睦の三人で食事に行く約束は永遠に叶わないのが哀しい。

翁長善弥 (CV:緑川光)

哲雄ルートを辿ってから善弥 ED のことを考えると、蓉司と善弥は何度か交わっているのに融合出来ていないんだからやはり善弥は出来損ないだったのだとわかる。出来損ないなら何度交わっても不完全なものしか産み出さないし、多分どちらかが完全に壊れるまで無意味な行為が続けられるんだろう。出来そこないである自分に根深い劣等感を抱いている善弥は、恐らく最後まで諦めないだろうから。悲惨な結末。

善弥はメスとして認識している以外は蓉司に対して特別な感情を持たないが、哲雄には嫉妬と劣等感というマイナスの感情が顕著に出る。善弥 ED も蓉司への執着心よりも哲雄への対抗心が強く出た故の結果だし、蓉司より哲雄との関わりが大きいキャラクタだったのが面白かった。精神的な意味で哲雄×善弥(あるいは善弥×哲雄)。

善弥と関わりの強いキャラクタと言えば姫谷もいるが、この二人からは不器用な家族としての愛情を感じられたのが良かった。姫谷は真剣に善弥のことを思っているし、善弥も姫谷を巻き込むまいとしていた。特に哲雄に腹を刺されて溢れ出た自分の内臓を自分が産んだ子供だと思い込み、姫谷にあげようとするシーンは切なかった。

ところで「夕焼け小焼け」は結局なんだったん? 拒絶反応が起きているんだろうことはわかるんだけど、何故あの時間じゃないといけなかったのかがわからない。

怒った善弥はメデューサみたいで立ち絵を見るたびに吹く。

姫谷浩平 (CV:秋月秀行)

ボロボロになっていく翁長親子を見捨てず、最後まで尽くそうとする男。一番印象に残っているのは融合 ED での姫谷。純成を姫谷がどうするのかは語られないままだったけど結局殺せないだろうし、図らずも邦仁の叔父の行動をそのままトレースするかのように一人で庇護する気がするんだよなあ。翁長親子という自分が守るべきものを失った姫谷が、次に守るべきものとしてあの赤い瞳の子供を選べばどうなるのかと思うと、断ち切れない連鎖のようなものを感じてぞわぞわ来るものがある。

翁長邦仁 (CV:厳蝉秋)

実は貴重なアヘ顔要員なんだけどおっさんのアヘ顔ってどうなのか、と思わんでもない。

上屋武彦 (CV:浅野要二)

最初から怪しいキャラクタだったけど、怪しいままで終わってしまったのは良かったのかどうか。敢えてすべてを語らないのもこの作品のいいところかな。この人が絡んだエロがなかったのは良かった。上屋はあくまでも傍観者であって欲しい。