Antipyretic

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『Summer Pockets』感想

http://key.visualarts.gr.jp/summer/

久し振りの Key 新作。と、購入したもののしばらくは積む予定だった……のだけど、あまりにもネットでの評判が良かったのと、何より冊子でのだーまえのコメントに重い覚悟を感じたので、すぐにプレイして一気に終わらせた(ただし卓球と島モンには殆ど触れてない状態)。

先に結論を述べてしまうと、絶賛するまでには至らなかった。だーまえの「Key は健在でしたか?」という問いかけに対しては、「No」とは言わないけど「Yes」とも言えない状態。久々に新作ノベルゲーを一気にプレイしたくらいには楽しんだし良作ではあるのだけど、それでも私の期待値を上回ることはなかった。

理由はいくつかあるんだけど、まず Key の過去作で見たような設定や展開が多く、プレイ中どうしてもそれが脳にチラついてしまった点。出来は悪くないしむしろいいんだけど、でもこれ『AIR』で見たな、『CLANNAD』でもやってたな、『Kanon』ってこーゆー設定だったよねってのが次々と湧いて出てくる。だーまえ抜きの作品だけどだーまえが書いてきた作品の影響を受けすぎていて、ぶっちゃけ Key はこれで大丈夫なのかと少し不安になってしまった。更に言うと、捻りのない展開が多かったこともあって先も読みやすかった。でもそうして Key のエッセンスを上手く抽出して作られているので、私が好きな「Key らしさ」はちゃんとあった。プレイ開始直後に感じたのが「私のよく知っている Key だ!」だったもんなー。でもだーまえの「Key は健在でしたか?」は単に「Key らしかったかどうか」ではないと思ったのでやはり「健在でした」とは言えないかな、と。

良かったところを挙げると、島についてすぐに流れる「Sea, You & Me」という曲。Key は音楽の破壊力でも攻めてくるんだってのを久しぶりに思い出した。「Sea, You & Me」以外はちょっと印象が薄かったけど、「Sea, You & Me」があんまりにもヒットしたので満足してしまった。あと共通ルートの雰囲気は好きだったな。ダレない共通ルートってのは貴重。おかげで『サマポケ』を通して「楽しい夏休み」を疑似体験出来た感はある。あとこれは良かったというより面白かった点だけど、文章でダッシュの多用が多く、だーまえはそういうのは使ってなかったと思うのでやっぱりだーまえは書いてないんだな、てのが実感できた。

改めて私は Key の何が一番好きだったのか考えてみたんだけど、共通ルートの居心地の良さと、楽しい男子キャラクタとのやり取りと、奇跡を生み出すための舞台設定として必要な絶望や理不尽要素と、それらから生み出される感動の破壊力と、それを支える音楽だったんだなと。『サマポケ』はそのいずれもが物足りなかった。ないわけではないけどやっぱりちょーっと浅い。

それでも先述したように「楽しい夏休み」を過ごせたので、プレイして良かったなとは思えた。『サマポケ』は「夏休みは楽しいんだよ」と全力で訴えてくる作品だったけど、そこは捻くれ者の私にもちゃんと刺さってくれた。『AIR』をプレイしていた時も思ったけど、ノスタルジックな田舎の夏ってのはやっぱり憧れますね。次の Key 作品にも期待しているし、また予約して買おうと思っています。

鷹原羽依里

ヘタレ主人公ではない……ように思えたんだけど、最後までクリアしてみるとメンタルは低めかもしれないなと思った。うみちゃんの回想で窺い知れる未来の羽依里も父親としては間違いなく失格だし、その割に羽依里も未来のネグレクトをかます自分のことを知らされても一言言及するだけであまり気にしてない様子なのもちょっとな。まあ部活での失敗で荒れて島に逃げて来た、って時点でお察しだったんだけども。そんな羽依里なので序盤は島でいちいち「俺は飛べない翼なんだ」的な浸り方をするんだけど、島民にそれをネタにされまくるのはニヤニヤした。

しかしいつになったら本来の目的である遺品整理の手伝いをするのかと思ってたら、まさか Pocket ルートまでほぼやらせてもらえない状態が続くとは思わなかった。最後の遺品整理のシーンは好き。

あと一日の終わりに毎回主人公が寝る場面が入るのが、エロゲやってるなって感じがあって懐かしかった。や、『サマポケ』はエロゲじゃないけども。

鳴瀬しろは (CV:小原好美)

最初はノーマークだったけど、プレイしてみるとすごく可愛い子だなと思えた。特にプロローグラストの夜の浜辺での会話がいい。あの笑顔が効いた。ありがちな流れだったけど、ありがちなのがまた良かった。終わってみればここが『サマポケ』で一番好きなシーンになったほど。あと「れいだーん」もニヤニヤしたし、羽依里が釣った魚をその場で調理するシーンも好きだな。最初は「構うな」オーラを出していたのにそれが軟化するのが早かったような気はするけど、共通ルートが短いからしゃーなしか。それでも島の仲間とみんなでワイワイやりながらしろはとの距離をつめてく感じで、派手な話の起伏らしきものはないけど前半は見ていて楽しかった。後半はインパクトのある立ち絵が用意されているおじーちゃんの登場、水中でのがぼぼ会話など印象に残ったシーンはあれど、ハイライトであるはずの未来予知の回避に関しては結構あっさり解決してしまうのでそこは物足りなかった。けどラストの照れた二人のやり取りは好きだし、告白しあって別れたのに結局戻ってくるオチも可愛かった。なんてピュアで初々しいんだ……あの状態の二人こそが私には一番眩しかった。

ところで嵐の海に投げ出された二人の場面で、しろはに一瞬乗り移って不穏な言葉を残した存在は一体何だったのか。

空門蒼 (CV:高森奈津美)

序盤から先が読める内容で真新しさはあまりなく、シナリオどうこうよりムッツリスケベでチョロインな蒼を愛でるルートだった。蒼が可愛かったから退屈を感じなかった。表情豊かでリアクションも派手なので見ていて飽きないし、この子にやられるユーザは多いだろうなとも。羽依里とのやり取りも軽快で、羽依里がのみき達に恋心を指摘される流れも自然でいい。羽依里は女性に免疫がないらしいのに蒼には抱き着いたりするからそこは謎だったけど、まあそれも蒼が相手だからなのかな。しかしエロネタの多さは何だったんだ……。

役割としては七影蝶の説明担当だったけど、その蝶の設定は曖昧でよくわからん。よくわからんといえばイナリも謎。ただのキツネってことでよろしいのかしら。

久島鴎 (CV:嶺内ともみ)

一番好きなヒロインであり、一番好きなルートだった。伏線の張り方やシナリオ構造も好みで、文章も読みやすく二人の掛け合いも可愛かったから、適度にモチベを保ったままサクサク進められたのもいい。切ないけど晴れやかな結末も相俟って、プレイ中は本当に心地が良かった。やや『Kanon』を彷彿させる要素はあるものの上手く料理してくれていたのも良し。ちょっと泣いたけど「泣かせてやるぞ!」的なものじゃなく、じんわりと染み入るように泣かせられたのもたまらん。二人の冒険もワクワクさせてもらった。楽しかったなー。中盤からは殆ど羽依里と鴎だけで話が動いていたけど、展開上それも納得も出来るし、二人のやり取りは飽きることがなかったので気にならなかった。むしろお似合いの二人だと思いました。

「羽依里は以前この島に来たことがあるのでは?」と勘違いさせられたのはまんまとしてやられたというか、他のひげ猫団メンバーらしき人物がいないのは明らかに不自然なのにそれでも気づかなかった。蒼ルートをすでに通った後だったから、羽依里に記憶がないのは蝶のせいだろうと考えていたし、すっかり「この二人は幼馴染みなんじゃろ? 羽依里だけ覚えてないけど鴎は知ってて伏せてるパターンじゃろ?」と決めてかかっていた。全然違った。それと鴎がすでに死人であることは何となく察せられたけど、良一が採石場で落石事故があったと言ってたのでそこの犠牲者なんだろうとも思っていた。これも違った。また羽依里が次々とあっさり謎を解いていくのも都合がいいなとは思いつつ特に槍玉に挙げるほどでもないからスルーしたけど、これもちゃんと伏線になってたのだな。鍵がちゃんと残っていたことも含め、序盤の取るに足らない小さな疑問が解消されていったのも良かった。

気になったのは、海賊船を完成させたのに背景がそのままになっていた点。最初見た時は吹き出した。重要な場面なんだからちゃんと海賊船を立派な海賊船として描いてくれええええええええええ! しろはルートの壊れた卓球台の背景は用意できるのに海賊船の背景を用意できなかったのはなんでさ! シナリオとは関係ないところでこういう手落ちがあるのはもったいない……もったいないさすぎる……。

ところで本の登場人物であるツバメは『AB!』の「あさはかなり……」の子がモデルだったりするんでしょーか。

ヴェンダース (CV:岩井映美里)

プレイ前は一番気になっていた子だったけど、「むぎゅ」「むぎゅ」言われるたびに真顔にならざるを得なかった。Key って前からそーゆーもんだっただろと言われればそうだし観鈴の「が、がお……」も慣れたからそのうち大丈夫になるだろうと思ったんだけど、「むぎゅ」が歌にもなってしまうレベルで登場人物の間で結構重要視されるのも相俟って、結局最後まで慣れなかった。パジャマ姿も無意味にあざとくて辛かった。何度も萎えそうになったというか萎えた。そもそもパリングルスの容器で廃灯台にベランダを作る、という発想からすでについていけなかった。まあこれは後の展開に効いてくるんだけど、ちょっと強引な導入だなと感じたのも事実。更に二人が恋人同士になってからはイチャイチャターンが続き、Key にそういったものを求めてない私にはしんどかった。紬に魅力を感じなかったから尚更。

それでも紬ルートを最後まで読めたのは、おっぱいさんの存在によるところが大きい。おっぱいさんは「おっぱいが好き」という単純なキャラクタ造形なんだけどそれがまたいい味を出していて、見た目や喋り方も含めて好みだった。ただ、羽依里、紬、おっぱいさんの三人で仲良くしているところに紬と羽依里がくっつくんだけど、いわゆる「二人が恋人になっても三人一緒ね」をやっていて、しかし私は「二人+一人」で仲良くやり続けるのは難しいと思う(男子一人+女子二人、という形であれば尚更)ので正直そこは空々しく見えてしまったかな。おっぱいさんが何故あんなに紬を好いているのかがよくわからないのも、それに拍車をかけてしまったよーな。Key 作品でドロドロ三角関係は合わないとは思うけど、それでもやはり上っ面だけの仲良し三人組に見えてしまった。

ツムギに関しては描写が少ないので語れることはあまりないけど、蒼ルートで羽依里が見た記憶が灯台守なら相手は死んでるってことになり、それも ツムギの自業自得とも捉えられそうなのがこう書くと誤解されそうだけど面白いなと。あとツムギの日記を読んだ時は「寝取りかな?」とワクワクしたけどそんなことはなかったぜ!

終盤はものすんごい泣かせに来ていたけど、その場面を含めてもやはり全体を通してみると私には合わないシナリオだったなと。良かったのは他のキャラクタがちょいちょい関わってくる点と、紬の言う「自分探し」がモラトリアム的な意味かと思ったら違った点でしょーか。

ところで紬が遅刻したり行方不明になったりしてたのは何だったん? 人の姿を維持できなくなってたってこと?

三谷良一 (CV:熊谷健太郎)

しろはとの過去の話は、小さいエピソードながらもちょっとぐっと来る。実はてっきりのみきが好きでのみきの気を引くために脱いでるのかとも思ったんだけど、それも違うっぽいかな。欲を言えば、天善もそうだけどもうちょっと羽依里と馬鹿騒ぎする場面が見たかった。あるにはあるんだけど過去作に比べると少ないし、それもあって良一も天善のキャラクタも個性的なはずなのにやや大人しく感じてしまう。ギャルゲーに求める要素ではないかもしれないけど、Key は毎回個性的な男子キャラとの掛け合いが充実していたから今回も期待しちゃったのよな。

しかし何故男性向けゲームの男連中は主人公好きが多いんだ……いや面白いからいいんだけども。

加納天善 (CV:浜田洋平)

うみちゃんに次いで可愛かったのは彼。ほぼオチ担当だったけど、彼はものすごく真面目な子だと思うので、ギャグ要素を抜いた天善の姿も見てみたかった。

能村美希 (CV:一宮朔)

「緑髪+ショートカット」って不人気みたいに言われがちだけど、のみきは可愛かった。しっかりしているようでところどころ隙があるし、恋をしたらきっともっと可愛いのみきが見れそう。

加藤うみ (CV:田中あいみ)

うみちゃん可愛かった……『サマポケ』はうみちゃん可愛いゲーだった……。別にロリコンではないつもりだけど「ゆー・あー・ろりん!」て言われても否定できない気がした。後半には記憶やら何やらが抜け落ちて幼児退行していったけど、やはり序盤のハキハキしていておませさんなうみちゃんが一番好きかな。年齢にしてはしっかりしている子だったから、幼児退行していった時の変わり様が顕著に出ていて効果覿面だった。

羽依里としろはの娘であることは結構早くから予想できたけど、ありがちな設定だし違うかなーと思ったら本当にそのまんまで逆に驚いた。しかし未来から来てるってのはすぐには気づけなかったな。

ALKA ルートはうみちゃんルートでもあり、疑似家族の様子が延々描かれるんだけど、父親してる羽依里と徐々に母親らしくなっていくしろはの描写が丁寧で自然だった。あとは日記の使い方が良かったなー。日記って創作世界では重要なアイテムとして使われがちだけど、「魔法の絵日記」は疑惑を抱かせるきっかけとしても無理がなかった。

Pocket ルートは七海としろはが共有した時間の描写が短いし、もっと言うと気持ち的に置いてけぼりを食らった感も。うみちゃんがものすごく頑張ったのは理解したけど、元々うみちゃんは私にとっては愛でる対象にはなっても感情移入の対象とするにはちょっと厳しいし、また七海の登場も唐突でピンと来なかった。うみちゃんの過去の描写が少ないせいもあるし、そもそもしろはの「呪い」からして実はあまりピンと来なかったのでそれが響いた。あとは酷いことを書くようだけど、ALKA ルートから引き続き連続で幼女の「おかーさんに会いたい」を延々聞かされてちょっとぐったりしてしまったことも否めない。

ところで四人のヒロインルートでのうみちゃんは毎日出かけていなくなってたけど、どこに行ってたのかが気になる。これは後々の重要な伏線になるのかと思ってたのに特に触れられてなかったけど、特に意味はなかったんでしょーか。それか私が見逃してるか気づいてないかのどっちか?