Antipyretic

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レンドフルール

http://www.otomate.jp/reinedesfleurs/

悲恋要素はあるけど悲劇ではないかな、てのが率直な感想。これは悲劇なんて大層なものではなく、滅ぶしかないものが当然の帰結に至る過程を描く話。登場人物の選択や想いによって悲劇に到達するのではなく、何を選択しても悲劇的な結末に至るのであればそれは私の中では悲劇ではない……というより私が読みたい悲劇じゃなかった。もっと言うとカタストロフへの御膳立て感がある。そういう箱庭。

『レンド』の面白いところは「何かを犠牲にするしかない」という状況で本当に犠牲にしてしまうところなんだけど、それもお膳立て感があるのではちょっと浸り切れない。設定もすべてが悲劇を演出するための舞台装置と化している。その割に神と花人との体温の問題や蝶の設定などがルートによって食い違うのがどうにも。それとカタストロフを表現するのに重要な「溜め」がないので盛り上がれない。例えばレオン愛情ルートは展開としては面白いのに、物語に「溜め」がないので唐突感が強くついていけないところがあった。また悲恋を描きながら安易な平和エピローグがあったり希望があったりと蛇足が多く、徹底していない。おかげでいつものオトメイト作品に収まってて勿体ない。更にケチをつけると、八方塞な状況で足掻く話なのにみんな真剣に足掻いてるようには見えない。問題に対してどこか他人事というかナメてる。地上世界が疲弊しているのに天上世界では文字通りお花が飛んでいる。このシュールな落差には笑った。

最大の不満はラヴィールシステムの存在。『CZ』の課題といい『十三支』や『サイケデリカ』の戦闘といい何故オトメイトは毎度毎度アレなシステムを入れてくるのか。作品の雰囲気はいいのにラヴィールが見事に壊しているのが勿体ない。おまけに選択肢がなく、全部ラヴィールでシナリオが分岐するので飛ばすことも出来ない。ここぞという場面で出してくるならまだ我慢できるが、些細な場面でも出てくるから鬱陶しい。準備で情報を持つキャラクタが一人しかいないのにいちいちセットさせられるのも億劫。リザルト画面の豪華な SE も物語への没入感を阻害する。それとラヴィールを導入することで選択の重要さを説いているが、そこを重視しすぎているきらいがある。選択までの過程や、選択した結果が蔑ろにされている。だから選択したことが生きてこない。これでは意味がない。BAD ED もこんなにいらん。エンディングリストは全部埋めたが、攻略に頼ったのに回収は疲れた……。愛情 ED、忠誠 ED、愛情 BAD ED、忠誠 BAD ED、共通 BAD ED くらいで良かったのに。というか ED を減らしてでも他に書くことはあったんじゃないか。

良かったのは絵。これは大きな武器になるんだな、ということを改めて実感させられた。美しい絵にはそれだけで価値があるのだ、という主張すら感じた。あとは手のカットイン絵が多かったけどそれも色気があって良かった。音楽はラブジュが担当しているだけあって豪華で作品に合っていたし、声優の演技に圧倒されることも多かった。絵の美しさと背景の美しさと音楽の美しさと声優の熱演で持っているような作品だった。

それでも『レンド』は好きな作品になった。それはキャラクタが良かったのと、好みの作風であったことと、シーンやシークエンスを切り取ってみると酔い痴れた個所もあったことと、耽美で狂気的で破滅的な恋愛模様に萌えたこともあったから。これはキャラクタに萌える作品でもシナリオに酔い痴れる作品でもなく、シーンに萌える作品かな。少なくても私にとってはそうだった。たいへん美味しかった。

なんつーか『レンド』は物語やヒロインの性質はわざわざ尖らせてあるのに作品自体が凡庸なので、あらゆる面から美を主張しているのに俯瞰してみると不格好。富士は遠くから眺めるほうが美しい山だとも言われるが、『レンド』は逆。間近で見ないと美しくない。とにかく変なゲーム。でも好きなんだよなあこのゲーム。

最後に余談。『レンド』は『ノルン』によく似ている。空に浮かぶ箱庭が舞台になっている点、判断材料になるはずの地上の様子など肝心なところを見せないまま進む点、世界の命運という重い責任を押し付けられている点、理不尽な選択を迫られる点、真の目的を隠蔽されている点、曖昧な設定が多い点、それと不満は大量に出るのに嫌いにはなれなかった点などとにかくプレイ中は『ノルン』を思い出さずにはいられなかった。

ヴィオレット (CV:ゆかな)

前半は見た目通りのよく出来た優等生なお人形美少女姫、という印象以上のものがなくつまらないヒロインだと思っていたけれど、後半の暴走しがちなヴィオレットは好み。愛に生きるが故に身勝手な選択することも多かったが、そこは驚かされることはあっても不愉快になることは一度もなかった。女神もウルトラ身勝手な存在だし釣り合いが取れていいんじゃないですかね。むしろやったれやったれ。しかしヴィオレットはミレーヌの中の恋愛感情を切り取って生まれた存在で、だからこそ愛に生きるヒロインになったが、愛に生きることで自らの人生をも翻弄する結果になっていて、つまり愛ってほんとエゴだよね大迷惑な代物だよね厄介だよねという結論でよろしいか元凶のミレーヌさん……。

レーヌとしてはどうかと問われると微妙だけど、これは仕方がない面もある。ヴィオレットはソルヴィエルに対してそこまで真剣になれないが、それも当然。彼女は地上のことなんて知らないんだから。知識はあっても実際に見たわけでもないのなら「知らない」と同義。犠牲があっても具体的な被害状況や死者数を把握しているわけでもない。水鏡の花が萎れたら地上に危機が陥っていることはわかるが、そんなもんでちゃんとわかれってのが難しい。それでもヴィオレットが地上を救おうするのはレーヌであることに拘りを持っているからで、地上の問題云々ではなくレーヌとしての務めを果たすことが重要になっている。こうした目的意識の摩り替えはユベールの教育っつーか洗脳の賜物。だから地上世界が逼迫した状況にある場合、ヴィオレットは騎士の体調から知るケースが多く「地上が危ないから」ではなく「騎士が危ないから」という理由で動く。まあ地上の状況=騎士の体調で繋がっているので結果は変わらんけど。しかしヴィオレットのこの地上への意識の軽さはユベールの意図があるのかなあ。ユベールにとって種人は憎悪の対象で大事なのは女神が眠るパルテダームだから、レーヌがあまりにもソルヴィエルに肩入れしすぎるのは良くないことではないかと思うからだ。ヴィオレットには儀式を行ってもらうことで器として成長させ、かつ地上に肩入れさせないことがベストだから、水鏡の花だけで地上世界の状況を判断させるのはいい手段だったのかもしれない。でもそこまで制作者が意図しているとも思えないんだよなあ。多分これは単なる設定の穴というか隙のよーな気が。

そういうわけで地上世界の無辜の民について軽視されがちなのは仕方ないと思うが、元々は種人だった騎士もそんな感じになってるのはちょっと。ルイはああいうキャラだから除外するとして、特にギスランは祖国を大事にしている男だったのに、後半には主のためなら祖国が滅ぶのも止むなしという考えになっているのが……。ギスランがそういう考えを持つに至る過程が描かれてりゃいいけどそこは割愛されているから不満が出る。

レオン (CV:興津和幸)

基本的にわんこ系キャラは好みじゃないが、レオンは馬鹿ではないし空気も読めるし年上らしい余裕もちゃんとあるからか意外にも好きになれたキャラクタだった。暴走しそうで暴走しない。他のルートだとヴィオレットが幸せならそれでいい、とヴィオレットの恋を見守っているし、レオンルートではむしろ自分の恋心に自信が持てずヴィオレットから逃げるシーンがあるんだから驚いた。それでも序盤は二人で林檎を齧るシーンや林檎を食べた時のヴィオレットの可愛さについてレオンが熱弁するシーン、水車小屋でヴィオレットを甘やかすシーンなど可愛らしいやり取りが多くどれも印象的だったなあ。中でも一番萌えたのはヴィオレットが恋を自覚した時の夜の水車小屋でのやり取りで、まるで懇願するかのようにヴィオレットに逃げろと言うレオンと、その場から動けなかったヴィオレットが自分の気持ちを自覚して、それでもレオンへの気持ちを告げることが出来ず、レオンもヴィオレットのそうした気持ちと立場に気づいた上で答えを急かさないのが萌えた。ここぞという場面ではちゃんと自制出来る大型犬だった。

が、それ以降は失速してしまったのが残念。愛と世界を天秤にかけた選択の理非にではなく、他者(ゼロ)が介入してくる展開に萎えた。輪廻転生だの生まれ変わりだののネタが元々好きじゃないんだけど、これも私からすれば似たよーなもんなのでゼロが出てきた時は心底から落胆した。レオンの一目惚れに理由をつけたかったのかもしれないけど、別に普通の一目惚れでも良かったんだけどな。レオンは一目惚れしていたことが彼の個性にも繋がっていたように思えて楽しく見ていたのに、こんなしょっぱい落ちが用意されていて萎えた。余計なもんくっつけて来ちゃったなーと。

身勝手という言葉すら生温い「愛と罪の楽園」ED に到達する二人の選択は面白く読んだけど、過程が浅いのが残念。二人が共に過ごした時間が短いのは別に気にならない。短期間で燃え上がった恋だからこそ、てのもあり得るだろうと思ったし一時の恋の熱に浮かされて仲間にさえ死んでくれと言える乙女ゲーヒロインと攻略対象がいても構わん。けど短期間で燃え上がる様が描かれているわけでもない。そこまでに至る二人の恋の情念のようなものが足りてない。だから没入できなかった。それ以前に花人や種人を犠牲にすることの重大さが常に割愛されている作品なので、すべてを犠牲にしたと言われてもピンと来ない。おまけにエピローグでは新生双子蝶が現れて萎えた。理不尽な世界から脱却できた可能性を示しているんだろうけどそんな希望はいらぬ。この二人は何も生み出せないアダムとイブで良かったのに。二人だけで罪を背負ったまま、枯れ果てるまで永遠に壊れた楽園で恋人ごっこをしているのが相応しい。それを二人も望んだんだから。

一方忠誠ルートはレオンの個性が潰されたような印象を受けて、薄めたカルピスを飲まされたような気分になった。ただ「北の騎士、彼の名は――」ED は忠義ではないのが面白かった。「綺麗なままでいてほしい」というレオンの一方的なエゴだけで到達してしまった結末で、主の意志は無視されている。でもそこがレオンらしいかなあと。やっぱり彼は忠誠より愛情に生きる人なんだろうな。

しかし中盤、ギスランが倒れた時にヴィオレットが凛々しく「わたしも戦わなきゃいけない時が来たのよ」と言うシーンは失笑した。「今更?」としか思えなかった。ゼロが出てきたことで地上の問題が放置される→ルイに指摘されて「やっと目が覚めたわ」→使命を果たすにはレオンも必要→レオン釣り作戦成功、の流れまではわかる。でもその後「今日はもう疲れたから明日問題をまとめよう」とか「有益な情報が見つかったから明日改めて報告する」みたいに明日明日ってそればっかでポカーンだった。姫様なんて何もすることがないからと茶ぁ飲んでるんだからもう笑うしかない。そうした経緯を経てヴィオレットがようやく覚悟を決めたかのような発言をするから萎える。

それとこの作品は前述の通り悲恋へのお膳立て感が凄まじく、騎士もユベールもミレーヌもゼロもみんな「ほら悲恋だよ! クライマックスが近づいてるよ! 頑張って!」と囃し立ててくれているようにしか見えなかったので、雲隠れしたレオンを釣るためにヴィオレットが倒れる演技をするシーンは皮肉にしか見えなかった。ルイの「ここから先は、ヒロイン次第。……期待しているよ、姫?」という台詞なんてストレートでもうアレ。

ルイ (CV:浪川大輔)

ビジュアルはそれほど好みでもなかったのでプレイ前は興味がなかったが、意外にも好みのキャラクタだった。彼の達観ぶりが好きだったんだけど、それもきちんと理由があって納得できた。「誰かを強く求めるような恋をしてほしい」と願った希求の女神デジレの祝福によって永遠に記憶を引き継いだまま輪廻転生を繰り返しており、死ねない生に疲れて恋ではなく死を求めるようになった青年、てな設定も好み。つーか普通に気の毒。そんな彼のルートが一番面白かったのが嬉しい。

ユベールの意図通りに動く人形として作り上げられていたヴィオレットの性質を見抜き、憐れみ、警告していたのはそんなヴィオレットに自分を重ねていたからで、更にユベールのシナリオを乱そうとするところは浮世離れしているルイにしては珍しく人間らしい一面が出ていて好きだな。その過程で実験と称してヴィオレットを惑わすシーンも良かった。特に一番最初のキスシーンは蠱惑的な空気の密度が凄まじく、見ている私も息が詰まるようだった。そしてこの時のヴィオレットの流されぶりを見ていて、この子なら他のルートで状況に流されて突飛な行動に出るのも納得よな、とも。しかしこの二人の駆け引きではないのに駆け引きじみている一進一退の曖昧な関係は本当に美味しかった。キスシーンが多かったけど、どのキスシーンにも二人のそれぞれの意図や想いがあったのも良し。

そしてルイが女神の侵食問題も華麗に解決してしまう展開も面白かった。ルイのシナリオは四騎士で最後に読んだが、これまで女神の問題でうだうだやっているのをずっと見てきたものの綺麗に解決できた話が特になくいい加減うんざりしていたところに、ルイで叶ってしまったので爽快だった。「慈愛」の女神であることを逆手にとって誘導する手腕は憎たらしいほどで、ほんと色んな意味で酷い男だなあこの人。そこが萌える。

しかしそんな聡明なルイが、予測できる「その後」を予測できていなかった。それほどにヴィオレットをルイが求めていたからで、まさに「恋は人を狂わす」。結果、互いを想っているのに体温を分かち合えず絶望する二人が切なかった。結局ヴィオレットが自分の中のグラースを地上にドバドバ注ぐことで解決したが、これがもう滅茶苦茶な手段で笑ってしまった。さすが恋で暴走するお姫様。ちなみにヴィオレットがミレーヌの力を引き継いだということは彼女が慈愛の女神になるんだと思い、ヴィオレットもまた「慈愛」の冠に縛られることになるのではないかと予想してたんだけどそんな展開はなかった。

そうして到達した「曖昧で愛しい関係」ED は一見平和に見えるものの根本的な問題は何も解決してないが、それはどのルートでも大して変わらんのでまあいいよ(どうでもよくなってきたらしい)。苦痛の輪廻転生からの解放条件は「恋をすること」だが、それをクリアできたかどうかは「死」しかないからすぐには確認できず、だからこそ自分が恋をすることに怯えるルイは可愛かった。そんなルイのためにルイをわざと翻弄するヴィオレットもいいなあ。この二人の関係変化は序盤から最後まで面白かったので、珍しくカップリングとしても萌えた。楽しかった。しかし愛を証明する手段が用意されていることは本来なら恋人たちには喜ばれるべきものだろうに、それが「死」ってのが残酷。それもジャッジは他人(デジレ)の基準に委ねられているのが……。ミレーヌといいデジレといいこの世界の神はロクな事をしないなほんと。しかも結果がわかるのはルイだけだろう。まあ死ねたら「わかる」も何もなくなっちゃうけども。これで駄目だったら更にルイは絶望するだろうけど、さすがにそれはないかな。花人に戻るべくグラースを大量に放出してしまったヴィオレットを目にした時の必死さや、ヴィオレットが菫の花人として生まれ変わった時に流した涙とその後の衝動的なキスシーンを見ていると、ルイがどれほどヴィオレットを求めているのかがきちんと伝わってきたから。

「天上より、愛を込めて」ED はレオンの愛情ルートのギスラン同様、ヴィオレットに覚悟を促すために騎士としてルイが死ぬ話なんだけど、これまで無為な人生を繰り返してきたルイにとって「意味のある死」を与えられたことは救いになったんだろう。ただ、ルイは次も転生しているはずなので一時凌ぎの救いにしかなっておらず、それはグラースの問題を先送りにさせてもらっただけのヴィオレットも同様なのが何とも。

ギスラン (CV:近藤隆)

辛辣で融通の利かない軍人かと思いきや超速でデレたので笑った。でもギスランはそういうところも含めて可愛らしかった。デレの早いツンデレはあまり好きではないんだけど、ギスランはこれで良かった気がする。チョロいところを含めての魅力。命令を求めてわざわざヴィオレット邸までやって来るシーンはあまりの可愛らしさに吹いたし、ピアノを弾けるところもわかりやすい萌え要素になっていて良かった。あの堅物軍人が己の精神を鎮める時に弾いている、てのがまた美味しい。

そんな高潔の騎士であるギスランが「代々の東の騎士は祖国の成り立ち故にグラースに飢えるしかなく、最終的にはグラースを求めて発狂する宿命にある」という理不尽を背負わされる展開になるんだけど、印象的だったのはやっぱり理不尽を嘆くギスランの慟哭。中の人の、血を吐くような魂の絶叫に圧倒された。

そしてギスランは宿命に屈して花人を大量に斬り殺してしまうが、これを誘導したのがエンジュで、ギスランに虐殺の罪を「背負わせた」のがたまらなかった。エンジュが動かなくてもギスランの凶行は止められなかっただろうが、そこに敢えてエンジュの意図を捻じ込んだ。あの誇り高いギスランに大量虐殺という大罪を背負わせたのは愛に生きる身勝手な女の願いだったことに萌えた。そしてエンジュの行動を咎めず共感し、同調した姫はエンジュの自死を受け入れる。

しかしエンジュの命を含めても花紋の完全修復はならず、ヴィオレットは更に苦しむ。そうして使命に殉じようとしたのに理不尽な真相や宿命を突き付けられてもう愛しか残らなくなった二人は更に罪を重ねるしか道がなく、最後にはユベールを殺してしまう。この時にユベールの優しさを利用するかのような騙し討ちになってしまったことも後味の悪さに拍車をかけた。その上ユベールにとっての絶対の存在である女神すらも傷つけて力を奪うんだから徹底してるなあ。そうしてヴィオレット自らがギスランを刺してまで手に入れた愛の物語は結構美味しかった。酷い話だったけど酷いのが読みたかったので満足した。パルテダームやソルヴィエルの事情やグラース不足の件などは解決に至っていないが、もうこのゲームではそれが当然だし今更。しかしこの「戒めなき愛を手に」ED はどうなんだろな。確かにギスランは戒めを必要としなくなったけど、ユベールを殺したことで二人の間には罪悪感が生まれていて、それはある意味では「戒め」とは違う「枷」になっているんじゃないかな。レオンのおかげで多少は楽になったかもしれないが、永遠に消えることはないだろうし何よりもその罪悪感は二人が望んで受け入れたものだから「東の騎士の宿命」以上にどうにもならない。そもそも私には二人がこうして少しでも楽になっているような平和なエピローグ自体読みたくなかったけども。永遠に罪悪感に押し潰されて喘いでいるか、逆に開き直って自分たちの大迷惑な愛の形を誇っていて欲しかった。

忠誠ルートは単純明快な話で読みやすかった。ギスランを救うために女神の器になることを受け入れたヴィオレットと、忠誠を誓っているからこそ主人の決意を拝命したギスランの信頼関係に萌えた。恋情を一切出さないのがまた美しく、ギスランが跪いてドレスに裾に口づけるシーンもぐっと来た。理不尽には理不尽でしか解決できないことこそが、ギスランにとっては最大の理不尽に感じたんだろう。そして「緋色の騎士」ED は再び血の花嵐が吹き荒れるところで終わる。あれほど理不尽だと嘆いた「東の騎士の宿命」を、今度は自らの意志で引き起こす。結局ギスランは最後まで宿命から逃れられなかったのだ、という無情感がたまらなかった。桜舞う中で緋色の剣を振るうギスランの CG も狂気的な色気があって美しい。忠誠ルートならこの結末が一番好きかもしれない。主従の残酷な形の信頼関係を描いた末に血に塗れて終わるのが。

オルフェ (CV:KENN)

えーと宮野真守の歌声が聞こえてきそうな名前で大層困りました。終盤あたりでようやく割り切って名前を見れるようになった。結構時間がかかった。

オルフェはヴィオレットより年上だけど、年下系キャラクタの気配を感じたので最初は興味がなかった。けど思ったより年下っぽい感じはしなかった。どっちかというと同級生っぽい。なので彼のことは好意的に眺めていられた。レオンとは違う視点でヴィオレットを「女の子」として見ているのも、定番ではあるものの美味しい位置かも。

シナリオは微妙。オルフェの短慮で未熟な暴走が花人を大量に殺してしまう展開はやはり「死」や「被害」が軽く扱われていてピンと来ないし、そもそもオルフェが「希望の神」だったという展開も特に面白いわけでもなくいまいち話に乗れなかった。弟神が出来て嬉しくなったのかなんなのかミレーヌが妙に優しいのも萎えたし、隠さなきゃならない事情があって一人で何とかしようとする展開ならまだしも、オルフェの場合は格好付けて一人で何とかしようするのが好みじゃなかった。何しろこれは「年下キャラクタお馴染みの展開」だったから。オルフェとのやり取りでは年下っぽい感じはしなかったが、展開が年下キャラクタそのものだったのが合わなかったらしい。いやまあ「僕には神の力があるはずなんだ!」とか言い出すオルフェは厨二で笑ったけど。それと自分が神の卵だと言われてショックを受けるでもなくヴィオレットの役に立てるかもしれないと期待するオルフェの必死さと、オルフェの神の力に縋ろうとしてしまうヴィオレットの浅ましさが表現されていたのは面白かった。なのにそうしてオルフェに期待しておいて、後の展開であまり私のために追い詰めないで、と諌めるヴィオレットの身勝手さも結構好きだなあ。しかしその後、本当にヴィオレットが殆ど何もしなくなるのは笑った。

しかし「地上の楽園にて、愛を誓う」ED はグラースの供給元がミレーヌからオルフェにシフトしただけのように見えて何とも……。古の神から新たな神に、天上の神から地上の神に変わっただけじゃないのか。最初はグラースを差し出すけど徐々に供給量を減らして慣らしていくつもりなのかなあ。でもそんな上手く行くとは思えない。むしろミレーヌの二の舞になりそーな気が。オルフェは最後まで見てもまだ未熟だと思ったし、下手に力がある分采配を誤ると最悪の事態を引き起こしそう。ヴィオレットがいてくれるから大丈夫みたいな落ちがついていたが、ヴィオレットにも冷静な判断力があるとは思えない。まあ種人が神に頼らない世界を望んだが故に生まれた神なのに、その神が世界をどうにかしてくれる時点で色々おかしいんだけども。本末転倒が過ぎる。オルフェの歌の力が何だったのかも最後までよくわからなかった。それからオルフェが神だったのなら体温の問題は発生しないのか、という疑問がルイのシナリオを読んでから湧き上がったんだけどオルフェが新しい神だから問題ないよとかそういう?

ところで最後のオリーブの樹で瀕死のヴィオレットにオルフェのグラースを注ぐシーンはセックスを暗示しているような描写で吹いた。わざとやってんのかなあ。やってんだろうなあ。わざとじゃなかったらドン引きするけど。

「追憶の騎士」ED は更に印象に残っていない。レオンの忠誠 ED に似ているせいもあるかな。レオンの結末と違うのはヴィオレットも事の顛末を知っている点くらいか。美しい自己犠牲愛と言えばそうだけど、オルフェは公式推奨順で進めていて三人目のルートだったからこの頃には自己犠牲が来ても「あーまたか」としか思わなくなっていた。

そうそうレオンと言えば、オルフェとの別れを受け入れそうになっていたヴィオレットに「2人とも使命感と悲壮感の塊で、正常な判断ができてるとは思えねえ」と言うシーンがあって一分くらい笑い転げてしまったんだけど、今になって考えたらこれ笑うところじゃなかったな……。いやもう壮大な自虐ネタにしか聞こえなかったからつい。

ぶっちゃけオルフェルートはオルフェよりも、他の騎士のルートに比べると出番も多くノリノリで暴れまわっていたユベールが強く印象に残った。オルフェルートをやったことでユベールルートがものすごく楽しみになったくらいだ。

ユベール (CV:杉田智和)

多分ユベールを一番好きになるんだろうな、とプレイ前から思っていたけど予想通り。彼はどうしようもない立ち位置にいることを強いられているのが萌える。女神を敬愛しているが、敬愛しなければならない存在として生まれてしまったことが最大の不幸だったというか。蝶ってみんなこんなもんなのかなあ。四蝶からはそこまで雁字搦めにされている印象は受けなかったんだけども。いや四蝶だって騎士が消えたら諸共消えてしまうらしいけど、彼らは実際には消えるのではなく眠るらしいし(何故四蝶だけ消滅しないのかはよくわからんが)、病的に追い詰められているのはユベールだけっぽいのが謎。

ユベールに纏わることで面白かったのは、愛情ルート終盤まではヴィオレットのことをただの女神の器としか思っていないように見せている点。これは乙女ゲーなのでなんだかんだいいつつユベールがヴィオレットを愛していることがわかる描写は入るだろうと思いきや、振り返ってみるとあまりなかった。女神の器であることが知れる前は「ヴィオレットを甘やかす宰相」としての顔を見せているものの、恋愛感情は終盤まで私にも殆ど読み取れなかった。こうして徹底してヒロインを恋愛対象として見ていることを隠すキャラクタは『プリアサ』のランスロット以来だけど、こういうタイプは美味しい。ヒロインへの想いが読み取りにくいキャラクタがいてもいいと思うし、そうして徹底して隠していることに意味があるのなら尚更。ユベールはその点でも良かった。

逆に恋愛描写が濃いのはヴィオレットのほうなのが面白い。しかも嫉妬という強烈な感情が描かれており、徹底して想いを伏せざるを得なかったユベールとは対比となって効いている。ユベールがヴィオレットへの想いを出せないのは女神の存在があるからで、だからヴィオレットは嫉妬してしまう、という三人の関係が美味。ヴィオレットが嫉妬していると知った時のユベールの、ヴィオレットが嫉妬するほどに自分を想ってくれていることへの歓喜ヴィオレットの気持ちに応えることはどうしても出来ないことへの絶望がどれほどだったかを想像するだけでも楽しい。希望と絶望が同時に襲ってくる展開は大好物なので萌えた。これで双子蝶のために愛情を切り捨てていなければ、ユベールの中の歓喜と絶望はもっと深かったんだろうと思うと勿体ないとさえ感じる。でも双子蝶の存在がユベールのヴィオレットへの想いの証明になっていたのは上手かったんじゃないかな。

愛情ルートは双子蝶の成り立ちを知ったヴィオレットが、ユベールの自分への愛の存在に可能性を見出して攻めていく。自分とゼロの関係をヴィオレットとユベールに重ねて試したミレーヌは身勝手で酷いが、二人が試練に打ち勝てたのは良かったんじゃないでしょーか。ユベールのヴィオレットへの愛情は双子蝶の生成に使われてしまったはずなのに残っていたのかどうか、という疑問についてはゼロへの愛情を糧にヴィオレットを作り上げたミレーヌもゼロと再会したことで湧き上がる愛に震えるシーンがあったので、ご都合主義的ではあるけどヴィオレットも言うように愛情は「モノ」ではなく「芽生える」ものだから、例え一度手放してももう一度好きになってしまうものなのかなと。

最後にゼロが全部一気に解決してくれる「永遠の恋人」ED は笑った。レオンルート以外ではまったく出てこなかったゼロが突然湧いてくるのも笑ったし、ヴィオレットにとって都合の悪いことを全部綺麗に破壊してくれるのも笑った。便利だなあこの人……。ユベールが本音を曝け出してヴィオレットにキスをするものの、やはり守護蝶の理から逃れられず苦しむシーンまでは良かったんだけど、その後は微妙な展開へ。それでもゼロはともかくユベールが藤の花人として生まれ変わるところは盛り上がったし、赤子のユベールを今度はヴィオレットが育成していく流れは立ち位置が逆転していて面白かったけど、「姉姫様」と呼び慕っていた若いユベールが何故か「ヴィオレット」と呼んでかつてのユベールの姿に成長するシーンはさすがに唖然……となったけどまあいいか愛の力でも何でも。しかし私はユベールよりも紫貴のビジュアルが好みだったので、彼が消えてしまったのは少し寂しかったなあ。ヴィオレットにはユベールじゃなきゃならないとは思うけど。何はともあれ収まるところに収まったことは良かったんじゃないですか。ちなみに一番好きな結末はユベールに「私は、女神を、愛している」と告げられて絶望したヴィオレットが女神に体を明け渡してしまう「罪人、ふたり」ED だった。主人公にしろ攻略対象にしろ振られるシーンは好きなので私には美味しい結末。この紫貴はヴィオレットに嘘を告げて殺した罪を永遠に抱いたまま生きていくんだろうなあ。

服従ルートは嫉妬に狂ったヴィオレットが、ユベールとミレーヌに復讐する話で萌えた。ユベールにとって女神の存在がどうしても絶対としてあるのなら、その女神の姿を奪った上でユベールを手に入れようと考えるヴィオレットの貪欲さと恐ろしさが出ていてもー読んでいて楽しかった。器であるヴィオレットがミレーヌを乗っ取る展開にも溜飲を下げたし、それを可能にした理由にも納得できた。慈愛なんて綺麗なものよりも、嫉妬という醜悪な想いのほうが強いのはよく理解できる。狂気を指摘されて怯え、最後には気絶したユベールを冷たく見据えるヴィオレットのシーンは思わず見入った。終盤の桜の下での鬼気迫るものがある誘惑と情交シーンも猥らで良かったけど、私はその前のユベールをヴィオレットが追い詰める最初の一手のほうが印象に残った。しかしそうしてユベールの何もかもを手に入れてしまった「歪みゆく世界で」ED では紫貴が健在だからユベールは狂ったままで、ヴィオレットをヴィオレットとして見ていないのがいい。ミレーヌ様、と呼ばれた瞬間のヴィオレットの虚無に満ちた表情が美しい。一方で狂気が剥がれ落ち、涙を流すヴィオレットをユベールが憐れんで終わる「泣いて月を乞う器」ED も面白かった。あそこでヴィオレットに甘い言葉を囁きかけるユベールの残酷な慈悲もいいなあ。しかし愛情ルートでの双子蝶の件もそうだったけど、ユベールの悪趣味ぶりがただのギャグではなくちゃんと理由があり、伏線になっていたことには驚いた。

茜 (CV:藤村歩) & 瑠璃 (CV:藤村歩)

情報収集要員。基本的に「姫様が大好きですの?」「姫様大丈夫ですか? 具合が悪いなら部屋に戻ったほうが云々」しか言わないのでこの二人の存在に意味はあるのか、とぐんにゃりしていたらきちんとあったから驚いた。しかしユベールのヴィオレットへの愛情から作られた蝶ってことは、レオン愛情 ED の双子は蝶ではなくただの花人なのか。まあ蝶とはいっても偽蝶だから紫貴や四蝶とは性質が異なる部分はあるんだろうし、蝶の設定に関しては融通が利くのかもしれない。でもそれならルイルートで神になったことで花人と体温を分かち合えなくなったヴィオレットが、双子蝶とだけは温かさを分かち合えたのは何だったのか。うーんわからん。まあこの辺はあまり突っ込まないほーがよさげ。

揚羽 (CV:甲斐田裕子)

レオンとの掛け合いは楽しかった。しっかり者で面倒見のいい姉のような揚羽は、レオンの守護蝶としても合っていたように思える。レオン忠誠 ED でのレオンとの別れのシーンなんかもぐっと来た。いつも通りに振る舞う二人がいい。

裏波 (CV:村上和也)

ルイと裏波のやり取りを見るのは楽しかったなあ。騎士と守護蝶の関係でいうならこのコンビが一番好きだった。ルイ忠誠ルートの「甘き忠誠」ED でも、主人の命令を受け入れて軽口を叩き合いながら二人で死んでいくのが実にこの二人らしくて良かった。このシーンでも二人の「死」が例に漏れずあっさり描写されていたが、ここはあっさり描かれていたのが逆に良かったという稀有な例。最後の浅葱への言葉も良かった。裏波の浅葱への想いは純粋な恋愛というよりも依存のようで、裏波にもその自覚があるからこそ彼は想いが報われることまでは望んでいない。美味しい関係。

褄紅 (CV:勝沼紀義)

守護蝶の中でも褄紅が一番しんどい位置にいるんだろうなあ……。「東の騎士の宿命」は騎士だけでなく守護蝶にとっても辛いだろうから。

浅葱 (CV:鷄冠井美智子)

最初は浅葱が男性にしか見えなかったから、一瞬裏波にはボーイズなラブ要素があるのかと思ってびっくりした。浅葱さんは女性です女性。しかし一番まともなキャラクタかと思いきや、裏波の本音を聞かされて以降は印象が変わった。私には裏波たちの諦観のほうが理解できたし、少なくても四蝶の中では浅葱が一番恐ろしい存在のように思える。どういう精神構造してんだろうなあ。ある意味壊れてんのかなあ。

オルフェルートで双子蝶に母親扱いされてショックを受けるシーンは和んだ。オルフェには母親と呼べる存在がいなかったことを思うと、母親のような位置にいられる浅葱とコンビを組めたのはオルフェにとっても良かったのかもしれない。

ボン・ボヌール (CV:佐藤友啓)

ものすごくいい人だったのでこの人が枯れるシーンを見せられると胸が痛くなった。特に「愚かな選択」ED でヴィオレットが儀式でいらんことした結果、ボヌール卿が突然やってきて別れの言葉を残して目の前で枯れるシーンは衝撃が大きかった。その頃はまだプレイして間もない頃で、軽く扱われる大量の死に慣れていなかったせいもあるけど。

エンジュ (CV:篠宮沙弥)

ギスランルートでの暴走ぶりやユベールルートでの恋に狂う姫をすんなり肯定してしまう異常さも印象に残っているが、それ以外でもアドバイスをくれたり密かにヴィオレットの恋を応援してくれたりと恋愛においては概ね頼りになる貴婦人。好きなキャラクタ。

ミレーヌ (CV:ゆかな)

すべての元凶。『レンド』の登場人物たちが不幸なのは、冠に縛られているとはいえ女神の浅はかな行動に出た結果であることに変わりはない。それも解決策はなくどうにもならず巻き込まれた者はただ振り回されるだけ。でも相当酷い女だとは思ったしイライラもしたけど、何故か嫌いにはなれなかった。

ちなみに一番イライラしたのはいちいち幕間のラヴィールで邪魔をしてくる点。妨害も鬱陶しいけど演出がそれ以上に鬱陶しすぎた。