Antipyretic

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『Quartett!』感想

http://www.littlewitch.jp/home/special/quartett/

ADV は「プレイする」というより「読んでいる」という表現のほうが私にはしっくり来るけど、Floating Frame Director システムを採用している『Quartett!』は「見ている」感覚が強かった。これは見るエロゲ。コマ割りと吹き出しによる演出と、大量の CG 枚数によって支えられた「漫画」の再現が、新鮮で面白かった。

しかしそれは原画を中心としたグラフィックチームの大きな負担になることは想像できるし、結果シナリオ量を絞らざるを得ない原因にもなったんじゃないかな。そして物語はほぼ会話だけで進行していくため、描写の掘り下げにどうしても限界がある。シナリオも悪くはないけど、わざわざ特筆するよーな内容じゃないし描写も薄いから、盛り上がる場面でも淡々と進んでいく。纏まっているとは言い難いカルテットが絆を育んでいくシナリオなのに、その過程が十全に描かれていない。まあこの欠点の原因は私が今更あげつらうまでもなく明白だし、製作者も恐らく承知の上なんだろうけども。

ちなみに登場するキャラクタは結構多いけど、ほとんど名前を覚えられなかった。横文字の名前が覚えにくいってのはあるが、それ以前に話がサクサク進んでいくから覚える余裕がない。鮮烈な魅力を放つメイはともかく、ハンスとシニーナは印象を与えてくれるようなエピソードもないし、いきなり二人で盛り上がられた時は軽くびびった。

システムはスキップが地味に使いづらかった。最速だと早いけど、スキップのたびにいちいち調整しないとダメなのがかったるい。何気に慣れを要求されるよなあれ。

しかし大槍氏の繊細な絵柄はこれ以上はないほど作品世界にハマってるし、音楽も生音で収録されているものが使われていて、雰囲気作りにかけては文句を言う隙がない。センスフルな UI も素晴らしく、FFD だけに留まらずデザインにも気合が入っていて視覚的な面では完璧といっていい。FFD のおかげでキャラクタに躍動感があったのも良かったし、プレイ中は文句も多く出たものの、終わってみればたまには綺麗に纏まりすぎていてあっさりした作品もいいかもしれない、とは思えた。超名作ばっかでもそれはそれで疲れそーだし。

フィル・ユンハース

音楽の楽しさを全身で表現する男。基本的にはどのルートでも何もしないが、フィルはそこにいて演奏するだけでオッケーなので問題なかった。特に好きな主人公でもなかったけど、好感の持てる主人公ではあった。不愉快にならない主人公てのは重要。

シャルロット・フランシア

音楽の楽しさを見失った少女に、フィルが再びそれを教える流れは王道で良かった。しかし共通ルートの話はシャルの葛藤がメインで一番扱いがいいはずなのに、それでも描写が足りてない。後半のマリウス絡みの話にしても、コンクールでルールを破ってしまうのがアレ。シャルがマリウスの曲で演奏したいと思うのは勝手だが、他のカルテットのメンバーまで巻き込んでしまうのはちょっとどうかと思わんでもない。

フィルが大成して一流演奏家として活躍しているのに、シャルのほうは音楽の先生で留まってしまっている結末は、妙に現実的で印象に残る。とても好きな結末だな。

ユニ・アルジャーノ

優秀な双子の姉を持つ妹の苦悩、というありがちな話。コンプレックスを隠して笑顔で振る舞ったり、酒の力を借りないとフィルとのセックスに及ぶことが出来ない様など切なくていじらしいところもあるのは可愛いんだけど、やっぱり描写不足が云々。終盤の手の怪我による波乱もあっさり流されてしまった感がある。

しかしメイが男前で私もメイに意識が向かってしまい、それだけに尚更ユニが不憫でならなかった。ユニもいい子ではあるんだけどな。でもああいうなんでも出来ちゃう子をヒロインに据えるよりは、コンプレックスを持つユニのほうが盛り上がるんだろうなという気もする。もっとしっかり掘り下げていれば、私好みの内容になっていたかもしれないんだよなと思うと惜しい。

李淑花

家の束縛からの解放、というこれまたありがちといえばありがちな話。ただ、家の主人がロリペド趣味っぽいじいさんなあたりが、私が一方的に抱いている Littlewitch のイメージそのまんまで面白かった。まーあの爺さんは普通に薄気味悪かったけど。

このルートはスーファよりもスーファを影で守り、一人で罪を被って去って行ったルカの末路が不憫というか、あの報われなさが印象に残る。スーファは馬鹿ではないし、薄々兄のやったことに気付いて心を痛めるのだろうなと思うとやり切れない。

マリウス・ロッシ

音楽を愛していたはずのマリウスが荒んでしまった経緯は描写されなかったけど、きっとものすごくありがちな内容なんだろうな。や、ありふれた内容になるのが悪いわけではなく、むしろそういうものだとも思うのでそれはそれで良し。そしてこんな酷い男を見捨てられなかったソフィの気持ちは、なんとなくわかる気がする。マリウスが自然と女子にモテてしまうタイプの男だろうことは察せられるし、ソフィにとってもマリウスは最低でも放っておけなかったんだろうな。さすがエロゲ主人公の父親。