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『パルフェ -chocolat second brew- Re-order』感想

http://www.web-giga.com/parfait/parfait.htm

ド安定。一点突破出来るような強力な武器はないんだけど、その分安心して最後までプレイできた。文章も読みやすい。昔のドラマを再現したかのよーな古さはあるけどそれも御愛嬌。そして軽快な日常描写もいいんだけど、さり気ない伏線を回収してきちんと盛り上げてくるところあたり、丸戸氏は計算されたプロットを物語に綺麗に落とすのが得意っぽい。ボリュームもコンパクトに纏まっていて、無駄な話をダラダラ読ませられることがないのも良し。

それでもこれはあくまでもキャラクタの魅力を押し出した作品で、私が『パルフェ』を気に入ったのは喫茶店での空気と、気に入ったヒロインがいたからなんだろうな。特に玲愛と里伽子はクレバーな女子が好きな私には美味しかった。

システムは移動マップでヒロインを選択して進める仕様になっており、疲れた時は区切りをつけてやめられるのも助かった。一度読んだエピソードには説明が入るのも親切。コンフィグ周りも概ね優秀なんだけど、一つだけ不満を挙げると Ctrl が強制スキップに対応してない点。エロシーンを飛ばしがちな人間には面倒な仕様。

話はどれも適度に面白くてキャラクタの配置も良くて文章も読みやすくて隙がなくてシステムも優秀、と欠点らしい欠点ない作品。面白かった。

高村仁

一言で言うと、かなり恵まれている主人公。大学を休学して喫茶店の店長をやり、キュリオ打倒を目指すのは一見無謀だけど、聡明な軍師、天才パティシエ、強烈な看板娘、お節介なライバルチーフが周囲に居るので成功する。もちろんファミーユが軌道に乗るまでは紆余曲折もあるし、仁もきちんと自分で努力するんだけども。

エロゲ主人公らしく鈍いのは、里伽子にフラれて臆病になっているってことで納得はしたんだけど、花鳥姉妹ルートと恵麻・里伽子ルートは共通ルートを殆ど共有する形で進むため、仁が二股をかけているようにも見える。特に顕著なのが玲愛ルートで、仁も自分でそのことを認めている。花鳥姉妹のどちらを選ぶかは、仁がどちらと先にセックスをしたかどうかで決まるのは笑った。まあ一度選んだ後はフラフラしなくなるけども。

仁といえば「家族」への強い拘りを持つ主人公として描かれているが、単に恵麻を特別視していることを「家族」という記号に当てはめて誤魔化しているだけじゃないかな。実際、兄の一人が仁を大切に思っていることは描かれていたのに、仁が一人を特別大切に思っているような描写はあまり見られない。こうして書いてて気づいたが、里伽子は仁のそうした欺瞞に気付いていたからこそ尚更辛かったのかもな。しかし仁の「家族至上主義」が欺瞞かどうか共感できるかどうかはともかく、どのルートでも最後までブレないのは良かった。

どーでもいいけどエロシーンでやたら喘ぐのはなんか笑った。

風美由飛 (CV:高槻つばさ)

無断で夜中のファミーユに入り、無断で制服を着て、無断で勤務を決めた脳内お天気状態な最強ヒロイン。この手のタイプは苦手なので、由飛のキャラクタがファミーユの強力な武器になったことは否定しないけど、他のヒロインにも突っ込まれていたよーに仁が由飛をやたらと贔屓するのが何とも……。まあ仁が由飛を甘やかしてしまうのは、仁自身も里伽子やお姉ちゃんに甘やかされているからなんだろうけども。でもなんだかんだでメインヒロインは由飛だよな、と思わせてくれるあたりはさすが。

シナリオはあまり印象に残っていない。トラウマに苦しむ由飛のために、ほぼ一週間で苦手な曲をマスターしてきた玲愛がどうしても輝いてしまうというか。「頑張れる人間が頑張ればいいんですよ。頑張れない人間は少し休んでろってね」とは仁の言葉だけど、それで由飛の印象が薄くなってしまった気がしなくもなく。ああでも玲愛が風邪でダウンしたら由飛がピンチヒッターに、ピアノリサイタルで忙しい由飛が不在になったファミーユには玲愛がピンチヒッターに、由飛のためにトラウマを克服しようとしている玲愛の代わりを仁が務める、という助け合いで綺麗なトライアングルが出来上がっていたのはニヤニヤした。

由飛のイベントで印象に残ったのは告白シーン。最初はあんまりにもグダグダでポカーンとなったけど、後になって仁のトラウマを解消させる意図があったことに気付いた。一度由飛に振られたと思わせることで仁のトラウマを炙り出し、その傷口に塩を塗り、それでもなんとか仁が好きだと気付いた由飛によって傷を治す仕組み。それでも強引な展開だとは思うけども。特に何度も仁に電話してくる由飛は普通に怖かった……。あれだけ仁が好き好きオーラを出していながら「考えたこともなかった」と答える由飛には驚いたものだけど、ピアノを一日中弾けて玲愛との問題も少し進展してトランス状態に入っていたからいきなり告白されて真っ白になったのかな、と納得させることは出来たよう……な? しかし「桃色の感情」って表現は寒くてキツい。

花鳥玲愛 (CV:松永雪希)

ツンデレとしても優秀、キュリアのチーフとしても優秀、恋人としても優秀、ライバルとしても優秀、極めつけに笑顔が最強。ツンデレは何人か攻略してきたけど、玲愛のツン要素は理不尽をあまり感じなかったのが良かった。彼女には信念があり、その信念から導き出された言動だとわかるから印象がいい。デレた後は強烈なデレが待っているけど、元々由飛に対して劣等感を持っており、自分にも他人にも厳しく接しなければならなかった玲愛が本当は誰かに甘えたかったんだろうこともわかるから納得した。

逆に仁は情けない面が目立つ。玲愛がしっかりしすぎているから相対的にそうなってしまうんだろうけど、それでも途中まで二股状態ってのは印象もあまりよくない。花鳥姉妹は共通ルートも個別ルートに入ってからも一部エピソードを共有するのでこうなったんだろうけど、それぞれ完全な別個のルートとして扱ってくれても良かったんでは。

後半は玲愛が恋愛より仕事を優先することでゴタゴタするんだけど、これはちょっと微妙だった。仕事に対しては真摯であるべきだという玲愛の意見はごもっともだし、物理的な距離が出来て不安になる仁の気持ちもわかる。けどそれを解決するために、キュリオのスタッフまで巻き込んだ大層な計画が発動するのが大袈裟すぎて白けてしまった。んなもん当人同士で解決しましょうよ……。仁が情けない。それと里伽子の発案した計画には「仁にプレッシャーをかける」という真の目的があったにせよ、少しやりすぎにも思える。あれでは「里伽子が本心では玲愛を苛めたかっただけ」と取られてもしょーがないというか、むしろ苛めたかったとしか思えない。仁が玲愛を選んだのは「里伽子並みに有能な女性」を求めた結果であることも多分に含まれていると思うんだけど、里伽子は誰よりもそれを察したからこそ仁から離れようとする玲愛に思うところがあったんじゃないか。言い方は悪いけど「自分の代わりとして仁が選んだ女」を、里伽子が心穏やかに見ていられるはずがないんだから。ただ、仁と義妹のために一番辛い役目を演じた由飛の台詞には泣けたし、キュリオ本店からの帰り道で嬉しそうに笑う玲愛の表情と「お前の周りの世界は…お前が考えるよりも…ちょっとだけ優しいんだよ」という仁の台詞は良かった。それでも全体を俯瞰してみると、やはり玲愛ルートは今一つ盛り上がり切れなかったように思えたのが残念。

ツボだったのは、うっかり中出ししてしまった仁を玲愛が自分の股から精液を垂らしながらガスガス蹴るシーン。玲愛の可愛さと玲愛らしさが濃縮されたとてもいいシーンだった。ベランダ越しの会話からのキスシーンもお気に入り。ああいうシチュエーションはぐっと来るな。あとは序盤だけど、ツンツンしながらも最後には仁に忠告を残していくあたりもライバルを見捨てられない玲愛の真面目さと優しさが滲み出ていて良かったんじゃないでしょーか。

雪乃明日香 (CV:MIENO)

「せんせ」や「てんちょ」呼びを始めとした舌足らずな喋り方、年下ならではの勢いと我儘と甘えたがりな面を出し惜しみせず武器にしてくる積極性、更に策士で打算的な小悪魔でかつ一途な純情娘、と年下属性の美味しいところを詰め込んだようなキャラクタ。いやもーあざとい。あざといけど可愛い。小悪魔らしく策士ぶりを発揮してもだいたい失敗して結局バレることが多いのも、やっぱりあざとく感じつつも可愛い。そしてバレてからは開き直ってストレートにお願いして来るけど、純情に見えてここが一番小悪魔らしくてニヤニヤする。あーでも嫉妬はさすがに鬱陶しかった。仁が鈍いせいもあるんだろうが、基本的に嫉妬してやたら不機嫌になるキャラクタは苦手。

結ばれるまでは仁が攻略する側ではなくされる側だったのも明日香ルートらしくて良いんだけど、その分仁の鈍感度は高い。それでもそれほどイライラしなかったのは、私がイライラがする前に明日香ががっちり仁をホールドしてくれたからじゃないかな。描写がなかっただけで実際の明日香は相当にイライラしたんだろうけど、私にまでイライラが伝染しないのはありがたかった。ただ仁が明日香を好きになっていく過程は描かれないので、仁が明日香の告白を受け入れたのは唐突に感じた。でもこれは仁が明日香を攻略するルートではなく、明日香が仁を攻略するルートだから敢えて描写してないのかもしれん。

涼波かすり (CV:神月あおい)

キッチンとフロアの両方で動けるマルチプレイヤのかすりさんは、物語でもふとした場面で小さな笑いを振り撒いてくれるマルチプレイヤだった。ただ、やっぱりケーキ作り同様に舞台の主役を任せられると弱い。かすりさんの成長物語としてはきちんと纏まってるんだけど、仁が何もしないせいか肝心の火力がない。かすりさんがキュリオに移籍する展開は面白かったのに、その後のバレンタイン・フェアは描写があっさりしていたせいかあまり印象に残らなかったし。というかかすりさんルートって対決ばっかやってたよーな。恵麻と紬というタイプの違う天才同士のやり取りは面白かったんだけどな。むしろ紬やかすりさんの父親のキャラクタが強烈なんだから、この二人をがっつり絡ませたほうが密度のあるシナリオになったんじゃないでしょーか。

セックスから始まる関係は好きなのでそこは美味しかったけど、かすりさんルートをプレイしていて気付いたことは「私はクリームプレイはそそらない」ってことだった。まあでもなんだかんだでかすりさんは本作のヒロインの中ででもかなり好きなキャラクタなので、可愛くて見栄っ張りなかすりさんを堪能出来たのは美味しかった。ウェイトレス姿よりパティシエ姿が似合うあたりも、なんていうかかすりさんらしくて可愛い。

杉澤恵麻 (CV:Yuki-Lin)

養子になった仁の姉だから義姉であり、仁の兄と結婚したから義姉であり、初恋の女性でもある、というややこしい関係にある姉さんだけど、この人自身もややこしい人だった。恵麻の持つ狡さは嫌いではないけど、里伽子が受けた傷のそもそもの原因が恵麻の狡さにあるとも言えてしまうのが厄介。仁が好きだけど禁断の恋になるから仁の兄を仁の代わりにして結婚し、仁の兄が死んだから今度は仁の優しさにつけこんで仁の兄の代わりをさせることで仁を引き止めていた、というエピソードは恵麻のどうしようもない弱さが出ていて、でもそうした弱さを否定することは私にはできなかった。この辺の描写は上手いなー。自分の弱さが結果として里伽子にどんな仕打ちを与えたのかを知っている節もあり、それを黙っているのもずるいなとは思うけど、それもわからなくもないかなと思ってしまう。ただ、恵麻のそうした弱さは結果として里伽子ルートを盛り上げるための土台になってしまったかなと。その土台は必要だったとも思うけど。

そして恵麻ルートでも里伽子は「振られ役」として強い印象を残す。ED では里伽子の左腕が治っていることがわかるが、そこに辿り着くまでの里伽子の時間を思うと胸に来るものがある。しかも里伽子の真実を二人は知らないままってのがもうね……。

夏海里伽子 (CV:浅野麻理亜)

小さな伏線のピースをゆっくりとはめてゆき、出来上がった瞬間にパズルの一枚絵が脆くも崩れ去っていくかのようなシナリオ。里伽子の傷は仁をどん底に突き落とすだけの威力があり、里伽子もそれを理解しているから隠していて、それでも零れ落ちたものが各ルートのあちこちにひっそりとほったらかしにされている。ファミーユに復帰出来ないのも、仁の前では極力食事をしないのも、仁の告白を受け入れなかったのも、それら全部が里伽子の傷に原因があり、その傷を作ったのは仁のせい。でも仁は悪くない。里伽子の腕の神経が損傷したのは里伽子が火事の現場に飛び込むなんて馬鹿なことをしたせいであって、誰が悪いのかと言われたら里伽子が悪い。ただ、里伽子が馬鹿なことをしてしまったのは仁のため。そして腕が動かない恐怖に耐えられず初めて仁を頼ろうとした時に仁は「家族」を優先した。ここの「里伽子ならわかってくれるだろ?」はなかなかにえげつない台詞。でも夫を失った恵麻が動転するのも当然で、仁をずるいやり方で引き止めたことも責められないしそんな義姉を目の当たりにされて仁が放っておけるはずもない。だから里伽子は黙るしかなかった。この「悪くない」の連鎖地獄がとてもいい。

里伽子の傷を知ってからの仁の行動は早かった。家族を一番大事にする男が、里伽子を一番大事にするために里伽子と家族になろうとする。これは仁が「家族」を記号として捉えているとも取れるけど、里伽子の視点から見ると「家族」という記号を得られたおかげで里伽子を一番大事にすることを確約させたことにもなるというか、ある意味では里伽子が仁にはめさせた「鎖」でもあるのかな。仁の送ったブレスレットが里伽子にとっての「鎖」になっていたのと同じように。何にせよ里伽子は一人で耐えて頑張ってきたんだから、ご都合主義だろうがなんだろうがハッピーエンドに到達出来たことは素直に良かったねと思える。里伽子はとても弱い人間だから尚更。