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明治東亰恋伽 Full Moon

http://meikoi-vita.com/

いきなり変なことを書くけど、『めいこい』は女性にお勧めできる作品かなと思った。いや乙女ゲーなんだから女性向けなのは当たり前なのだけど、なんか上手く乙女の萌えツボを突いてくれるというか。

シナリオがいいとはプレイ前からよく聞いてたけど、シナリオがいいというよりはツボを突く展開を構築するのが上手いのかな。衝撃的な展開はないんだけど、ちゃんとニヤニヤできるし楽しい。何より文章がロマンティックでキラキラしていて美しい。キラキラした文章と乙女ゲーという組み合わせが相性抜群なのは言うまでもなく、明治時代という舞台にも合っていてこれも『めいこい』の武器になっている。それと興味を持てないキャラクタが一人もいなかった。個性的な変人が多いけどみんな魅力的だった。主人公も普通の女の子かと思いきや攻略対象たちに負けないくらいの個性があるし、ツッコミ体質な彼女のおかげでコミカルなシーンも楽しめた。乙女ゲーでコメディ要素が強い作品にはあまり巡り合えてないので新鮮だったなあ。それもテンポ良く進んでいくし退屈を感じることがほぼなかった。それでいて甘いシーンはたっぷり甘く、切ないシーンはしっとり切なく描いてくれるけど、ギャグシーンも甘いシーンも切ないシーンもカジュアルに堪能できるのがいい。ポップコーン感覚でそれらを全部一つの作品でしっかり味わえる。お手軽。

その分、雑な部分はものすごく雑に作られている。直前の過程がすっ飛ばされる結末もあるし、好きになって行く過程も重視されていないし、元々モバイルコンテンツとして配信されていた作品だからかどのルートも基本的な流れは同じだった(金太郎飴シナリオと呼ぶには少し違う)。でも「雑に作ってある」のが肝で、雑になったんじゃなくて敢えて意図的にそう作ってある。だから「こまけえこたあいいんだよ」と割り切る必要があるが、そこさえクリアできれば楽しめる。私はとても楽しかった。

絵は色々言われているらしいけどあまり気にならなかった。問題は絵より演出。画面が結構動くのが鬱陶しい。目パチ口パクはイラネ派だけどシナリオを読む分には邪魔にはならないのでまだいい。ダミヘ前のキラキラ演出も最初は笑ったけど、邪魔ってほどでもないから構わん。ただ、ダミヘ中に攻略対象が甘い台詞を囁きながら画面の右へ左へと何故かいちいち移動してくれるんで「落ち着けよ」と突っ込まずにはいられなかった。何より芽衣が歩いたり走ったりするシーンで画面が上下に動き、ダンスシーンではゆるーくぐるぐる回るのが見ていてしんどい。これはやめて欲しかった。疲れた……。

音楽は OP がいい。というか主題歌だけでなく映像や演出も素晴らしい。乙女ゲーで一番好きな OPBL ゲーで一番好きな OP を担当した監督作品なので私が好きにならないはずがなかったんだけども。特に好きなのは PSP 版 OP でこれは何度も見た。

システムも快適。チャプタージャンプが搭載されているし前後の選択肢にも飛べる。システムボイスは不要派なんだけど、これもオフにできる。でも『めいこい』では珍しく、浪川ボイスがツボすぎて何としてでも聞きたくてシステムボイスを拝聴した。ダミヘも私にはあまり嬉しいものでもないんだけど、今回初めて「甘い台詞を囁かれる」ことの凄さを実感させられた……主にけんぬのせいで。まーでも普通に聞けたほうが嬉しいけども。

それにしても大正もいいけど明治もいいもんだなあ。似ているようでやっぱり違う。大正ゲーは多いけど明治はあまり見ないから『めいこい』は貴重。あと木村屋とか風月堂とか私もよく知っている名前が出てきたのも嬉しかったし、明治時代から存在していたことを知ってそれぞれの歴史を思い知らされもした。というわけで明治時代の恋物語をたっぷり楽しめて満足。最初に女性にお勧めするとは書いたけど、男性がプレイするのももちろんありだろう。とにかくものすごく乙女ゲーしてる乙女ゲーでした。

綾月芽衣

牛肉に目がない主人公。私は肉があまり好きじゃないので食欲を刺激されることはなかったけど、とにかく牛肉に関する描写は多かった。でも個性は牛肉関連に集中していて、あとはいい意味で普通の女の子だったんじゃないでしょーか。図々しいところもあるけど、あの個性的なキャラクタを攻略するのなら多少は図々しいくらいがちょうどいい。一応魂依という設定はあるけど舞台装置を整えるための要素に過ぎず、個別ルートに入っても物の怪との関わりがある攻略対象との接点を繋ぐためのものと化してしまっているかな。どうも上手く活かされていない。そこは少し勿体ないなとは思うけど、それでも各キャラクタと芽衣のやり取りは楽しかったから十分満足もした。

ところで私はこの手の異世界トリップ系作品では「主人公は元の世界に帰ったほうがいい派」でかつ「攻略対象も自分の世界にいたほうがいい派」なんだけど、そうなると一番納得できる結末は別離になってしまう。けど芽衣は記憶がほぼ失われているという設定なので、芽衣が明治時代に残った際の問題に対してまだ納得しやすかった。思い出せない家族や友人よりも、今恋をしている相手や家族同然に親切にしてくれる人を選んでしまうのはよくわかる。やっぱり大事なのは今だよねえ。例え時代は違っていてもいつかは慣れる。実際、芽衣は後半には明治時代での生活を心地良く感じていたのだから。しかしそう考えると、記憶が戻る場面が現代 ED でしか描写されないのは上手いなあ。明治 ED の芽衣ははっきりと家族や友人のことを思い出せないままでいるのが幸せなのかも。

一方現代 ED は開き直ったかのよーなジェットコースター展開で、最初に見た時は吹き出した。けどあんまりにも堂々とすっ飛ばすので、「細かいことを気にしてはならぬゲームなのだ」とはっきり気づけたのは逆に良かった。しかし周囲に知ってる人がまだ生まれてない過去にトリップさせられるのと、周囲の知ってる人が故人になってる未来にトリップさせられるのとでは一体どちらがより辛いのか……。

ところでチャーリーさんのおまけコンテンツを見るに、チャーリールートで出会った魂依の女の子を迎えに来た男の子は綾月利正という名前だそうで芽衣の曾祖父である可能性が高いらしい。とするとあの女の子は曽祖母なのかなあ。魂依って遺伝なんか……?

森鴎外 (CV:浪川大輔)

プレイ前の「このキャラクタにハマるんだろうな」という予想はだいたいどのゲームでも当たるんだけど、鴎外さんも予想通りだった。予想外だったのは浪川声にはまってしまったことくらい。浪川氏なら『ラブレボ』や『レンド』も良かったけど、鴎外さんがぶっちぎりでトップになってしまった私の中で。更にあの声で柔らかい物腰なのに芽衣を「おまえ」と呼ぶのもツボったし、「こらこら」とか「いかにも」とか「いい子だ」とか色んな口癖も聞いていて心地良かったし、「子リスちゃん」呼びも鴎外さんのキャラ付けになっているのがいい。というか浪川氏のこの演技ならもはや何でもいいのかもしれない。音声もほぼ飛ばさず聞いたけど、これは私にしては珍しい。

鴎外さんのキャラクタも良かった。序盤の出会いのシーンでもう惚れた。

「たまには俗物に触れてみるのもいいと思ったのだけどね。醜悪な要素も芸術には必要だろう?」

偉い人や金持ちが来ているパーティ会場での絵の題材探しにうんざりしていた春草に、こんなことをしれっと言ってのける鴎外さんに一気に惹かれた。更に言うと私はおかしなイケメンが大好物なので鴎外さんを好きにならないわけがなかったし、それでいてビジュアルも好みとなると最強以外の評しようがない。現在で言う東大医学部に11歳で入学して首席で卒業し、小説家、評論家、翻訳家、陸軍軍医、官僚という職に就いている、てな設定も盛りすぎだろうと笑ってたら実際に森鴎外がそういう人だったと知って驚いたと同時にますます好きになった。今時こんなウルトラスーパーエリートは乙女ゲーにもそうそういないのでは……いや『めいこい』にいたんだけども。しかも金持ちで懐も広く、芽衣にも優しくて紳士でかつ強引で、そして芽衣を揶揄って翻弄する大人かと思えば河原で何度も石投げに挑戦したり笹舟を作ったり春草に嫉妬して大人気ない邪魔をしたりと子供っぽいところがあるのも美味しい。いやもー真剣に結婚して欲しいタイプ。行水だの饅頭茶漬けだの焼き餅茶漬けだの趣味は多少アレだけど私の趣味がいいとも言えないし、そんなもんお互い様だ問題ない。金持ちなイケメン紳士は正義。

シナリオに関しては、話に没入するというよりも鴎外さんのキャラクタと台詞と音声と美味しい展開の数々にやられて満足してしまった節がある。見合いを断る口実に鴎外さんの婚約者役を芽衣が務めることになる展開は王道で好きだし、銀座での人力車デートは乙女の浪漫に満ち溢れていたし、あいすくりんを食べる二人も可愛かった。更に美味しかったのは鴎外さんが過去に失恋していたという設定。美形で有能で金持ちで女性にも優しくてエスコートも完璧な隙のない男が失恋をしていた、と考えるともうたまんねえですよ。しかも失恋を引きずって小説まで書いていた節もあるのがまた。そのくせ普段は甘い台詞を口にして芽衣を散々甘やかしながらも、芽衣視点では本音がなかなか見えてこないのがいい。例えば芽衣とキスを何度も繰り返した翌朝には何事もなかったかのように振る舞えてしまうように。春草ルートでも春草に嫉妬しているんだろうにその辺はあまり出してこなかったし、胸の内を隠すのが上手い人なんだろう。芽衣うたた寝をしている時に本音を告げたあたりからは徐々に独占欲や焦燥感を露わにしてくるが、私としては鴎外さんの芽衣への執着はもーちょっと先まで隠していて欲しかった。隠すなら最後の来るべき場面まで徹底的に隠していてくれるほうが好みなんだよな。あるいは徐々に出すのなら、鴎外さんのドイツでの失恋話をもう少し掘り下げて欲しかった。ただ、寝ている芽衣を前にして春草に本音を零す場面はとても好き。台詞がいい。

「……僕の人生は矛盾に満ちているのだよ」

「公職に就く者として日本のために成し遂げようと思う一方で、重い足枷を払い、己のエゴを貫きたいと猛る自分がいる」

「この期に及んですべてを捨ててもいいとさえ思う、そんな衝動がいまだ己の中に眠っているのだ」

普段は大人でいる鴎外さんが、大人であることをやめてひとりの男になりたいというコンフリクトの狭間で葛藤しているのだと思うとたまらんよね。それを吐露した相手が、まだ子供で恋に突っ走ることが出来る春草ってのもいい。

鴎外さんが芽衣に惚れた理由はわかりづらいが、恐らくは桃介と同じなんじゃないかな。この二人は先進的な考えを持っているから、未来から来た芽衣がどうしても目に入る。加えて鴎外さんは好奇心旺盛で謎を突き詰めたくなる性質なので(だからこそこの人は学業で優秀な成績を収めているのだと思う)芽衣から目が離せなかったんじゃないかな。それと失恋を経験して公人として生きようとした鴎外さんに再び恋心に似た執着心を抱かせるには、明治時代の女性を象徴する「慎ましやかで夫を立てる妻」の見本のような女性では難しいんじゃないかなあ。それこと芽衣のように明治時代の常識が通じず、未来の感覚を持っているような女の子じゃないといけなかった。こう考えられたのは、もっとわかりやすく芽衣への思いが現れていた桃介ルートを先に読んだからかもしれない。

明治 ED では「……かわいそうに。おまえにはもう、逃げ場はないよ」だの「おまえは僕を愛するしかない」だのと芽衣が離れられなくなるように自分が周到に追い詰めていったかのような言い方をするくせに、実は芽衣に必死に縋っているのが美味しい。可哀想な鴎外を見捨てられない、という芽衣の優しさを利用する卑怯さも持ち合わせている。この辺りは他のキャラクタにはできない芸当で、鴎外さんはこうしたところも狡くて弱い大人だなあ。子供で狡くはなれない春草とは正反対で、この二人は本当にいいコンビだなと思った。しかしエピローグではそんな本編の余韻を吹き飛ばす裸での登場で吹いた。

現代 ED は公人ではなく私人として生きることを決めた鴎外さんの新たな道としては思い切った選択で、これはこれで有りかなと思えた。何より鴎外さんは常に未来を見越して動く人なので、平成時代でも問題なく生きていけそうだった。実際パソコンで小説も書いているし「おはようのチュー」とか「お姫様抱っこ」とか「ピロートーク」といった概念も学んで実行しているあたりはさすが。ここの CG は二人とも可愛くて好き。

共通 ED は台詞の美しさに印象を奪われた。

「あれはなんというか……まるで長い夢を見ているかのようだった」

「なにせ突然現れたと思ったら、突然消えて。幸せな夢ではあったが――どうも目覚めが寂しくていけない」

『めいこい』は台詞に気品があってロマンティックでうっとりしてしまうほどだけど、鴎外さんはそれが特にキャラにもハマっていていいなあ。

あと桃介ルートは出番が多く美味しいシーンも多かった。今の大学に足りないものは女学生だと熱弁するシーンとか、いきなり「子リスちゃん」と呼んで芽衣をドン引きさせたり馬をママチャリ感覚で連れてきて芽衣を驚かせたりとか。

菱田春草 (CV:KENN)

春草もいいキャラだった。基本的には変人な鴎外さんに対するクールなツッコミ役兼居候でまともな人だけど、画家モードに入ると結構おかしな人になる。けどあれは口説くというよりも、オタクが熱弁してる状態に近いと思うんだよな。

それと春草は素っ気ないリアクションを返してきた序盤が楽しかった。「すみません、迷惑かけて」「うん、たしかに迷惑」とか「ヘンなこと聞いていいですか?」「嫌だ」みたいな膠も無い態度が面白い。ツッコミ体質でめげない芽衣と、意地悪で天邪鬼だけど実は押しの強い春草はいいカップルになれそうだなあ。好きなシーンは芽衣がラムネを飲む場面、芽衣が「春草さんの絵が大好き」と告げて春草が照れる場面、寒がる芽衣に春草が自分の衿巻きをかける場面。特に三つ目は芽衣が春草を好きになっちゃいけない、春草の優しさに意味はないと必死に思い込んで(だから、あんまり優しくしないでほしいな……)と考えているのが切ないやら愛おしいやらでもー。些細なシーンではあるけど、この時の芽衣は可愛かった。鴎外に呼ばれた芽衣の手を思わず掴んで引き留めてしまう場面もいいなあ。春草は良くも悪くも子供で、嫉妬感情をまったく御せないどころか自分が振り回されているところにも表れている。それと春草は嫉妬深いけど、嫉妬の表れとして素っ気なくなるのも可愛かった。序盤は芽衣を歓迎していなかったから素っ気なかったが、後半の素っ気なさは芽衣が好きで独占したいから、というこの真逆の素っ気なさが楽しい。

そして終盤の鹿鳴館から芽衣を連れ出す場面はクライマックスに相応しく、ドラマティックだった。告白も春草の胸のうちの情熱を感じさせてとても良かった。

「君のことが、好きだよ。……悔しいけど」

「迷惑だし図々しいよ、君は。……でも、好きだ」

この二つの「けど」「でも」がそれぞれ相乗効果となっていていいなあ。短い台詞なのにすごく印象に残る。明治 ED で聞ける告白も好きだな。

「君のことが好きだ。自分でも驚くくらい」

春草は何度も好きだと告げるけど、どれも別段珍しい言い回しってわけでもないのに台詞がいい。「どうせ君は、俺より牛肉のほうが好きなんだろ」も笑った。チャーリーさんに嫉妬するのはわかるけど、まさか牛肉にまで嫉妬するとは思わなかった。しかし街中といい汽車といい、春草は人目を気にせずキスをしてくるのがすごいな!

現代 ED は眼の病気がちゃんと治るのでそういう意味では幸せな結末かも。

通常 ED は「ねえ、ひどいことを言っていい? 君の記憶が戻らなければいいのにって、今まで何度か思ったことがある」と「……昔から、なぜか俺の悪い予感はあたってしまうんだ」という台詞がとても好き。どちらも春草らしさが出ているし切なくもある。

しかし正直に書くと、春草ルートは春草以上に鴎外さんに萌えていた。芽衣が好きなのに大人として二人を見守っている態なのがいい。作中では何度も春草を煽ってみせるが、それも春草をからかっているようで、本気で芽衣に惚れているんだろうこともギリギリで伺えなくもないのが憎いなあんにゃろう。でも時々春草のことを「羨ましい」と何度か言うのが切ない。如才のない男ってこういう時も如才なく振る舞えてしまう。

しかし春草も鴎外ルートでは切ない思いをしている。

「鴎外さんのこと諦めるの?」

「え?」

「だったら――」

芽衣のガールズトーク(?)を春草はいったいどんな気持ちで聞いていたのか。ここで本当に一瞬だけ芽衣を抱きしめるのも良かった。芽衣のモノローグで「一瞬だけ抱きしめられた。……ような気がした」と言っているくらいに本当に一瞬のことで、その一瞬が春草には何よりも得難いものだったんだろうなと思うと。

物の怪については黒猫が出てくるが、どうということもないエピソードで印象に残っていない。終盤、春草が芽衣をモデルに絵を描くことになるけど、芽衣の絵から芽衣そっくりな化ノ神が出てひと騒動、みたいな展開のほうが見てみたかった。

川上音二郎 (CV:鳥海浩輔)

音二郎もいいキャラなんだけど、彼は萌えると言うより惚れるタイプ。しかしルート中のほとんどが芸者姿なのは笑った。音二郎が男だとすでに知っているのに、男の格好に戻った音二郎を見た時に芽衣が「どうしたんですか、その格好っ!」と大袈裟に驚いたのもじわじわ来た。しかし音奴の正体がすぐわかるのは意外だったなあ。でも中の人の演じ分けは素晴らしかったし(無理に女声にはせず、むしろ男声なのに芸者姿でもあまり違和感がないのがすごい)、音二郎がお兄さんとして頼りになる存在だと認識する一方で、男性だと知ってからも音奴もお姉さんとして頼りになる存在だと見れるのが面白かった。

芽衣が音二郎に惹かれていく過程はわかりやすくて良かった。音奴とのギャップもあるんだろうし、音二郎と六畳一間での共同生活を送っている、という状況もある。保護者的立場でいようとする音二郎を相手に、子供な自分を自覚して胸を痛めたり焦れたりする芽衣は恋をする女の子らしさが出ていて可愛かったなあ。

好きなシーンは芸者姿の音二郎に対して「ニューハーフ」や「おネエ」というキーワードを連想し、でもさすがに言えないと口を噤んだ芽衣が不審に思った音二郎に詰め寄られ、挙句の果てには「必殺ジョリジョリ地獄」を食らう場面。あれは中の人も楽しそうに演じていて聞いてるこちらも面白かった。しかし伸びかけた髭で頬擦り攻撃をしてくる攻略対象は初めて見たなさすがに。見事におっさんだった。後は何気に「うまい怠けかた」を習得することの重要さを説く場面も好きだなあ。他にも雨に降られて慌てて二人で濡れながら帰る場面も良かったし、ここは CG が欲しかった。

一番好きなシーンは終盤、神楽坂で彷徨っていた芽衣を拾ったことを思い出して芽衣を猫に例えた時のやり取り。普段は保護者を気取る音二郎の暗さが垣間見える一瞬がいい。

「やっぱり、野良は野良だ。飼い猫にするのはなかなか難儀だよな」

「ホントは、首輪の1つでもつけておきてえところだけどさ……」

「お望みとあらば、首輪だけじゃなく手枷や足枷もつけてこの部屋に閉じ込めておいてもいいんだぜ?」

「おまえの安心しきった顔見てると、たまにそういうこと考えるんだ」

「俺を優しいお姐さんだと思ってるおまえに一度ひどい真似してみたらどうなるのかって……思ったりもするんだけどな」

そんなことを嘯いてから、失望したかと聞いてくる。やっぱり理性のある大人だなあこの人は。しかし音二郎は照れると表情が乙女になるのでそこは吹いた。あの表情、音二郎のキャラクタにはあまり合ってないかもしれないけど好きな絵なんだよなあ。

明治 ED は「……過去のことなんざどうでもよくなるくらい、すげえ未来を見せてやるからさ」と言って芽衣を?っ攫うのが音二郎らしかった。

現代 ED は微妙。自分が座長を務める一座のことを置き去りにしたまま音二郎が現代に来るってのがどうも納得が行かない。責任感の強い人だったから尚更に。

通常 ED では「おまえがまた性懲りもなく道に迷っても、心配することはねえ。俺が何度でも拾ってやるよ」と言うのがじんわり来た。この人は本当に面倒見がよくて困ってる人を見捨てられない性質だから、本当に芽衣を拾ってしまうんだろうな。

泉鏡花 (CV:岡本信彦)

すぐ芽衣を「グズ」と言うし雷だとか犬だとか人肌だとかとにかく苦手なものが多いからぎゃーぎゃーやかましい子なんだけど、あのやかましさは嫌いじゃない。むしろ可愛いとすら思える。「グズ」と言いながらなんだかんだと芽衣に構うし、潔癖症なのに自分から芽衣に触れるようになったりもするので、鏡花ちゃんが徐々に芽衣に気持ちを寄せていく様がわかりやすく出るのもいい。それと鏡花ちゃんはツンデレなので、ツッコミ体質な芽衣とは相性がいいんじゃないかなあ。相合傘のシーンは大好物なシチュエーションだったし可愛いやり取りも見れてもー大満足。浅草でうさぎグッズにはしゃぐ鏡花ちゃんも可愛かったし、典型的なツンデレのお約束リアクションを律儀に披露してくれるところにも好印象。かと思えば芽衣にかんざしを買ってあげたり、芽衣が未来から来た人間であることをすぐに信じてくれるたりもして、二人が何故互いに惹かれ合って行ったのかがわかりやすかった。『めいこい』は別れをどのルートでもきちんと描いているけど、芽衣が未来に帰ることを事前に知らされるのは鏡花ちゃんだけなので、徐々に忍び寄る別れの切なさが濃密で他のルートに比べても桁違いだった。特に終盤の茶屋でのシーンはとてもいい。

「僕はさ、あんたのことなんかすぐに忘れて……、今までどおり戯曲や小説を書いてフツーに暮らすからさ」

「あんたのことは1カ月……いや、1週間もあればすぐに忘れるよ」

「もともと長いつき合いでもなかったんだし、あんたがいなくなったくらいで僕の生活はなにひとつ変わったりしない」

「……でもあんたは、僕のこと忘れるな」

「僕があんたのことを忘れても、あんたは僕のことを絶対に忘れるなよ」

「勝手に1人で帰って、勝手に僕のことを思って泣けばいいよ。そうじゃなきゃ……不公平だからね、こんな気持ち」

この台詞はすごく鏡花ちゃんの意地っ張りな性格と芽衣への強い想いが滲み出ていて、鏡花ちゃんの台詞の中では一番好きかもしれない。「僕が勝手に、あんたを好きなだけなんだよ……っ」という告白も可愛かったなあ。しかし、そもそも私はてっきりどのキャラクタにも最終的には未来から来たことを打ち明けることになると思っていたので、それが鏡花ちゃんだけだったのは予想外だった……。

物の怪の話も、鏡花が作家で魂依りだからかちゃんと盛り上がっていたのが良かった。一応音二郎ルートでも白雪は関わってくるんだけど、音二郎に自覚がないのと物の怪に対して無頓着なのであまり印象に残らなかったんだよなあ。

明治 ED では鏡花ちゃんの魂依としての力が弱まったらしくウサギが視えなくなるけど、嘆くでもなく事実をあっさり受け入れ、でも芽衣に視えてればそれでいいよ、と言うのがぐっと来た。視えなくなった鏡花ちゃんの肩にウサギが飛び乗る締め方も好きだな。

通常 ED も茶屋でのやり取りがあっただけに、鏡花ちゃんの別れの台詞が効いた。

「あんたの笑った顔も、怒った顔も、その泣き顔も……ぜんぶ上手に忘れてあげるから」

鏡花ちゃんの、記憶に拘る台詞はどれもいい。鏡花ルートは面白かった。

藤田五郎 (CV:福山潤)

藤田ルートは八雲が大活躍するルートでもあり、それがまた楽しかった。藤田は鹿鳴館芽衣を拘引しようとしてきたので怯えた芽衣に敬遠されるんだけど、そんな堅物な藤田と藤田を怖がっている芽衣を結びつけるには二人を引っ掻き回してくれる八雲の存在は必須だったんだろう。八雲は激怒しそうだが、彼は図らずも二人のキューピッド役になっていたよーな。藤田に関しては調子のいいことを言って芽衣に心中で呆れられる場面も多かったし、結構笑わされることが多かった。おかげで楽しかった。

文系の多いキャラクタの中でも藤田は元武士で警察官なので、芽衣のピンチに駆けつけて助けてくれる場面がちらほら入る。そこはヒーローのようで良かった。こりゃ芽衣も惚れるよなあ。そこから芽衣も藤田の優しさを感じ取るようになり、積極的に関わっていく。まるで八雲化したかのように図々しくなるけど、藤田が相手ならそれくらい強気で行かないと駄目なんだろう。そして藤田も面倒見がいい人なので、芽衣の袖の解れを直したり突然の剣術の稽古にも付き合ってくれたり、おまけに家事が完璧なことも判明し、更に何かと芽衣を心配してああだこうだ言ってくるので芽衣に「おかん」だと認定されていたのは笑った。あの仏頂面でおかんモードを発揮する藤田は美味しすぎる。プレイ前はノーマークだったけど、予想外に魅力的でかなり気に入った。デレが少ないのもいい。

特に好きなのは藤田邸のキッチンで二人で晩御飯を作るシーン。ここはコミカルに描かれていて面白いし、芽衣も藤田も可愛いしやり取りにもニヤニヤさせられた。更に言うと私は藤田の私服姿の立ち絵が大好きなので、それがずっと見られて幸せだったなあ。あと芽衣が藤田を「硬派な雰囲気の人」と褒めたつもりでいたのに、明治時代で「硬派」は「男色」という意味だそうで、誤解した藤田が狼狽えたり怒ったり、あの八雲が困惑するくらいに「軟派」な男を気取ったりするのは笑った。そして「男色ではない」と主張する藤田に芽衣が「私、藤田さんのことホ……じゃなくて、男色だなんて言いましたっけ?」とストレートに言いかけたのが吹いた。まあ最後まで言っても藤田にはわからなかっただろうけども。八雲に「むっつりポリスメン!」と言われて悔しそうに、でもそのまま去ったのも爆笑した。藤田は本当に八雲と相性がいい。この二人が揃うと楽しい。芽衣と藤田のやり取りも良かったし、何より芽衣が藤田を「攻略した」感があってそこも楽しかった。

キャシーの件に関しては当人同士で勝手に盛り上がられて、あっという間に終わった。

明治 ED では土方の恋を謳った句を自分になぞらえて言及するのが、かつては斎藤一として時代を駆けた藤田らしくて良かった。藤田五郎と言えば斎藤一なので新選組ネタをがっつりやっちゃうのかなあ別にやらなくていいんだけどなあとか思ってたんだけど、匂わせる程度で杞憂に終わってくれた。しかしエピローグでの八雲とのやり取りには吹いた。なんだかんだで楽しそうだな藤田。でも「あの男が一番危険だろうっ」には同意。八雲は紳士的に見えてちゃっかりしてるもんな。藤田が危険視するのもよくわかる。でも芽衣と結婚したことを後悔しているかと問われた時の台詞はとてもいい。

「……俺はこれまで、己の選択を一度たりとて見誤ったことなどない。後悔など、誰がしてやるものか」

これこそ藤田五郎という人なんだな、とわかる。「愛している」という乙女ゲーでは散々聞かされる言葉も藤田が言うなら違和感がない。アフターストーリーも楽しかったなあ。「あなた」と呼ばれて珍しく狼狽える藤田とか「五郎さん」と呼ばれて照れる藤田が可愛らしい。雪の降る庭を見つめる二人の CG も好きだな。

通常 ED も良かった。「我々警察が力になれず、すまなかった」と謝罪してくるのも意外で驚いたと同時に切なくなったし、かつて新選組で多くの別れを経験してきた藤田ならではの言葉の数々が私の胸にもぐさぐさと突き刺さった。

「……俺は、人との別れには慣れている。これまでも何百という者たちを見送ってきた。おまえのことも、同じように見送るだけだ」

「どのみち、永遠などありはしない。別れから逃れられる者はいないことを、俺は誰よりも知っている」

「ただその別れが、今回は思いのほか早く……」

「つい、心の準備をし損ねた。今度ばかりは、うかつだった自分を責めるだけだ」

藤田は恐らく、今後女性を愛することはないのではないかとも思えて遣る瀬無い。

小泉八雲 (CV:立花慎之介)

独特の言い回しが印象的な外国人(外国人にはまったく見えないが)で、藤田のことを私まで思わず「フジタスァアアーーーーーーン」と呼びたくなる。外来語の箇所だけネイティブ(といってもアクセントのつけ方はだいぶ怪しいのがまた面白い)になるんだけど、それでなくても基本的にはハイテンションなので聞いていて疲れたこともあった。でも八雲はこういう話し方でなければならない。音声だけでキャラが立ち過ぎているのがいい。そして立ち絵もすごい動く。上下左右に忙しない。そんな彼を見ているとやっぱり疲れるが、疲れさせるくらいが八雲だろう。それでいて真面目な恋愛シーンでは空気を読んだ声になるし、前髪を下すと美青年になるのはお約束とはいえ笑った。多分下ろしたほうがモテるよね彼。しかし八雲の髪ってオールバックなのかそうでないのかがよくわからなかったんだけど、藤田が「昆虫の触覚ような鬱陶しい前髪」とか「目に入りそうで入らない、その中途半端な長さが鬱陶しい」とか言っててわろた……。やっぱりあれは気になるよなー。でもオッドアイ設定は珍しくないが、義眼だったよオチはさすがに初めて見た。元魂依だったという設定は物の怪を愛する八雲のルーツを見た気がして自然だったと思うけども。

八雲はとにかく最初から最後まで優しくしてくれるので、芽衣が羨ましくて仕方がなかった。初対面の芽衣を帝國ホテルのスイートルームに泊めるし、朝からビフテキもご馳走してくれる。当然エスコートも出来るし頭もいいし教師をやっているから安定感もあるし、何より物の怪を蔑ろにできない芽衣にとって物の怪を愛する八雲は相性がいい。ここらへんは見事に藤田と正反対になっていて面白い。ちなみに変人で文筆家で金持ちで教師で芽衣に優しくてとことん甘やかしてきて、おまけに婚約者設定がついて回るあたりは鴎外さんと共通しているが、キャラクタが全然違うのであまり「被っている」印象はなかった。鴎外さんと違い、八雲はストレートに芽衣への好意を示してくるし常に情熱的(とはいえ八雲も打算的な部分が見え隠れするけども)。そもそも普段のテンションからして違いすぎるし、海外の文化を積極的に取り入れようとする鴎外さんに対し、八雲は古き良き日本の姿を愛している。そんなところも全然違う。

好きなシーンはやっぱりカフェ・フジタの件。八雲ルートはほぼ爆笑させられるルートと言ってもいいが、中でもあれは一番笑った。リアルに吹き出したもんなあ。八雲に振り回されるのは芽衣だけではなく藤田もそうなんだけど、ぶっちゃけ藤田を気の毒に思う場面も多かった……けどそれでも笑ってしまうのは八雲のキャラクタ故なのか。墓地がヒーリングスポットだと言いながらデートに連れてってくれるのも八雲らしい。

明治 ED は八雲に振り回されながらも芽衣が絆されたような形かな。八雲が芽衣に惚れた理由は不明だけど、不明なのも八雲らしいかなと思える。

現代 ED は八雲が可哀想だとしか思えなかった。古き良き日本を愛する八雲をチャーリーさんのマジックによって強引に近代化の著しい平成に連れてきてしまった気がして何とも言えない気持ちに……。最後の CG も明治 ED で使われても違和感ない絵だったし。

岩崎桃介 (CV:細谷佳正)

桃介ルートは『めいこい』の中でも断然好きなシナリオで、明治時代を舞台にしていることに意味があったし、更に言うと桃介のキャラクタも良かった。満足度が高い。

まず芽衣が車と衝突しそうになり、その車に乗っていた桃介が慰謝料を払おうとするんだけど、芽衣は交通費と食事代だけでも貸してもらえたらいいかなと「千円」分をお願いする。しかし明治時代の「千圓」は現代の金額に換算すると数千万になるそうで、当然それまで悠然としていた桃介も凍る。しかし後になってわかるけど桃介は約束を反故にしない男で、また投資家で超金持ちだった。更にラッキーなことに銀行に行ってきたばかりだったので大金が手元にあった(これにもちゃんと納得のいく理由があって後で語られる)。そうして芽衣は初対面の見知らぬ美青年に数千万円をポンと渡される。――という入り方がまず面白くていきなり一気に引き込まれた。芽衣は明治時代に来たばかり(更に言うとこの時はまだ平成時代だと思い込んでいた)だから芽衣と桃介との間に価値観が食い違うのも当然で自然な流れだったし、桃介の立場や人物像もここである程度は窺い知れる。更に言うと単純に二人のやり取りが面白かった。上手い導入だな、と思った。

その後、千圓を返しにきた芽衣と桃介のダンス中の会話がツボった。

「わ、私、千圓を」

「千圓?」

「あなたに借りた千圓です、それを」

「ああ、あの時の。足りませんでしたか?」

「足りました、足りすぎました! だからっ……」

「足りすぎましたか。それは良かった」

このやり取りがすんげええええ楽しかった。「足りませんでしたか?」とさらっと聞いてくる桃介がいいし、「足りすぎました!」と答える芽衣もいい。更に「それは良かった」とあっさり返す桃介も最高じゃないですか。ここですっかり桃介に夢中になった。千圓のことなんてすっかり忘れていたみたいなリアクションがいい。

その後、桃介のいる慶應義塾に入ろうとして追い出されそうになったので桃介の妹だと名乗り出て桃介に会い、芽衣が思わず「桃介さん」と呼ぼうとするとすかさず「これは妙ですね。私の妹なら『兄さま』と呼ぶはずですが」と出合い頭にジャブをしれっとかましてくる食えなさもドツボ(ちなみにこの「桃介の妹設定」ネタはこの後にも何度か出てくるのがまた美味しい)。かと思えば芽衣が返そうとする千圓を受け取るかどうかを思案しながら、当時は高級品だったチョコレートをポップコーンみたいなノリで次から次へと平らげていくのがもー可愛い。結論に到達するとピタッと食べ終わるところも笑った。そして確かめもしないで千圓を受け取るところも面白い。聞けば芽衣が確認したんだからそれでいいと言うが、もちろん芽衣も自分が信用されているわけではなく、桃介は中身に興味がないだけだと気づくので(うわぁ……)と呆れもする。なんか狡いなこの男……。鴎外さんの声を担当したのが浪川でなければ桃介が推しキャラになっていたかもしれない。それくらい桃介はツボを大量に突かれたし、この先も突かれまくる。

ちなみに桃介は慶應義塾にいるから福澤諭吉も当然出てくるのだけど、その時の芽衣の反応が(すごい……リアル一万円札だ……)で吹いた。いやその反応はとてもよくわかるけども。その後福澤先生について誇らしげに話す桃介に「さすが一万円札の人ですね」と返す失礼な選択肢があって更に吹き出した。選ばないわけがないだろうこんなもん。当然桃介は何のことだかわからないので「一万円札」と鸚鵡返しにただ呟くんだけど、それがまたじわじわ来て笑いが止まらなかった。ちなみにこの時に芽衣が記憶喪失だと話すと、警察に駆け込むべきでは? と至極真っ当な意見をくれる。警察は若い女性の話を取り合わない傾向にあるけど塾の人脈に働きかけて三井や三菱や政府の人間に頼ってもいいんですよとか言ってくるからもう「すげえええええええ」とアホみたいな感想しか出てこなかった……。私でも知っている名前が出てくるとスケールの大きさを実感できてポカーンとなるなあ……。こういう時って大抵は架空の名前が使われるし。

その後もチョコレートの件で桃介のことを思い出したという芽衣に嬉しがってみせたり、お礼をしたいという芽衣に花街での常識を教えようとしたり、本気で三井三菱のような大財閥を太刀打ちにしようとしていたことが伺えたり、芽衣がヤケクソ気味に未来から来た人間だというとさすがに本気にはしてくれなかったものの、芽衣の知る日本はまばゆい光に照らされてギラッギラになると言えば「ギラッギラですか」と嬉しそうにしたり、桃介の反応はどれも見ていて楽しかった。だからこそ桃介が何故芽衣に惹かれていったのかよくわかる。まだ電気が普及していない明治時代で電気を研究している桃介にとって、まばゆい光の下で夜でも生活ができる平成時代を生きている芽衣が特別に見える。また桃介は旧態依然とした考えを嫌っているから、明治時代の人間の視点では先進的な感覚を持つ芽衣が数少ない自分の理解者に見えた。桃介の研究を馬鹿にする人間に芽衣は反論もしてくれたから尚更。こう書くと桃介は芽衣が未来の人間だから好きになったんじゃないかと言われそうだけど、正直それは大きいと思う。でも好きになったきっかけなんてそんなことでいい。桃介の中の恋心が育ったのは、芽衣とのやり取りがあったからだろう。

終盤には何故魂依である桃介が物の怪を憎むのかが語られるんだけど、これも納得のいく話で、更にそこから桃介が電気を普及させようとしていることに繋がっていたとはさすがに予想もしていなかったし上手い設定だなと舌を巻いた。要するに彼は母親を物の怪に連れ去られたと思い込んでいたから、夜にしか出現しない物の怪をすべて滅ぼすために夜を明るく照らそうとしていた。闇にしか出現できないのなら、出現できる場所を奪ってしまえばいいと考えた。桃介が日本をまばゆく照らそうとした動機の根には物の怪への憎悪があった。そんな重いものをずっと抱えて生きてきた桃介が悲しかったし、同時に愛おしくもなった。しかし真相を知った後は電気を研究する動機が変わる。物の怪への憎悪から芽衣のためへと。桃介の頭脳と行動力と資金力は、平成時代を恋しく思う芽衣のために「芽衣の知っている未来の世界」を再現することが出来る。明治から平成の世界に近づけられる。そうして芽衣のために桃介が研究している電気は、やがて芽衣のよく知る未来へと繋がっていく。これは明治時代という平成からすればまだ遠すぎない過去の時代だからこそで、それがすごく良かった。遠すぎないから芽衣のいた未来の世界に届きやすい。もう少しで届く。この流れがとても自然で心からいいなあと思えた。

告白も桃介らしい誠実さがすごく出ていてこれがまたいいんだな。

「信じてもらえなくても構わない。そういう振る舞いをしてきたのは私ですから」

「ただの火遊びだと思うのなら、そう思っていればいい。どうせ私の気持ちなど、すべてあなたには伝わらない」

「でも……愛している」

気持ちが伝わらなくてもそれが当然だと弁えていて、むしろ自分の態度にも原因があるのだとちゃんとわかっているのがいいし、その上でそれでも伝えてくるのがいい。一見冷静に見えるけどとても情熱的だなー。現に桃介も「あなたに気づかされました。……私は大人げない男だったのだと」と言ってるし。ほんといいキャラだ……。

他にも寝ている桃介の顔をガン見する芽衣を引き寄せた時や、雨除けに駆け込んだ茶屋でのやり取りも可愛かったなあ。芽衣が攫われた時の桃介の悲痛な懇願、普段余裕を失わない人なだけに心を揺さ振られるものがあった。

明治 ED は一番好きな結末になった。実の母を失い、母を失った悲しみに耐えられなかった幼い桃介のために「母の振りをしていた物の怪」という二人目の母を失い、再び失った悲しみに耐えられず今度は物の怪を憎み、一掃するために桃介は世界を光で照らそうとした。その最中に大きな取引に失敗もしていて、この上芽衣を失えば桃介はどうなるのか、と考えたらさすがの私も胸が痛んだ。この手の作品を読んでいてこういう気持ちを抱くことはあまりないので自分でも驚いた。それと未来に帰るか残るかで迷う芽衣に告げる桃介の台詞がとても良くて、これなら芽衣も明治に残るのも無理はないかなと思えた。

「もしも心残りがあるなら、それでも構いません。答えを出さないまま私のところに来ればいい」

「答えを出さない罪悪感なら、すべて私が引き受けます」

「心は自由です。忘れたくない物は忘れないままでいい。あなたはなにも失う必要はありませんよ」

他のキャラクタはだいたい「忘れさせてやる」と言うことが多いので、桃介のこの台詞は響いた。これも母親のことが忘れられず、ずっと復讐心を抱いて生きていた桃介だからこそ出てきた台詞で、説得力もある。アフターストーリーも芽衣と一緒になるために芽衣の保護者的立場にいる音二郎と女将にきちんと挨拶をしていたのも桃介らしいし、みんなに支えられて生きていることを実感した芽衣が神楽坂を自分の故郷だと決めるのもじんわり来た。更に桃介は、月に向かって顔もどこにいるのかもわからない芽衣の両親にも挨拶をするのが卑怯。これは母を失って悲しみに囚われていた桃介だからこそで、なんかもう見ている私の胸が一杯になった。どうか二人で幸せになってください。

現代 ED では「しいたけの里」派か「つくしの山」派かで言い争う二人に吹いた。きのこたけのこ戦争は私は心底どうでもいいと思っている人間なのでこれもくだらないなあとは思ったけど、くだらないことで喧嘩できる二人が可愛かったので楽しめた。

桃介 ED は物の怪のような不確かなものをずっと否定してきて、チャーリーさんのマジックですら合理的かどうかで判断してしまうほど(このエピソードは笑った)の「ファンタジーの概念何それ美味しいの?」なリアリストな桃介が、エピローグで芽衣が去った後にタイムマシンを夢想してるのがもう美味しいというか泣けるというか……。私にはタイムマシンなんて出来ないとわかっているから尚更。でも「傷心の岩崎桃介くんを励ます回」は吹いた。やめたげてよお! しかも「第1回」って今後何度もやるのかソレ!

慶應義塾つながりでペアになるのが音二郎だったのは意外だった。てっきりチャーリーさんだと思ってたし(チャーリーさんに嫉妬する場面はあるけど)。キャラも総出演で豪華だった。特に音二郎、鏡花ちゃん、鴎外さんは出番が多い。

なんていうか乙女ゲーって基本的に主人公と相手のマンツーマンで進んでいくけど、『めいこい』はスリーマンセルなんですよ。でも三人でも狭いな、と感じていた。元はモバイルコンテンツだったらしいのでそこは仕方ないけど、桃介ルートをやってみてやはり登場人物は多く出したほうが世界が広がるし何より楽しいということを実感。

ところで私はそのシナリオが気に入れば気に入るほど作中の内容を準えるだけの感想と化してしまう傾向にあるんだけど、桃介の感想がまさにそうなってしまった……。

チャーリー (CV:森川智之)

チャーリールートはチャーリーさんが芽衣を明治時代に連れてきた理由、チャーリーさんの正体、芽衣の根本的な問題、それらが全部解決するシナリオで、甘さを重視していた他のルートとは違ってひたすら切なさが残るルートだった。何が切ないって最後の最後まで自分ではなく他の人と結ばれたほうが芽衣が幸せになれたんじゃないかとチャーリーさんが考えていることで、それはある意味で真実でもあるのがまた……。エンディングを迎えた後のアフターストーリーでもそんなことを考えており、チャーリーさんの「芽衣に幸せになって欲しい」という願いは最初から最後まで微塵も揺るがない。

序盤は芽衣がチャーリーさんに靴を投げたりタヌキの置物を振り回したりするので、例えギャグシーンだろうとチャーリーさんがマゾだろうと、暴力を振るうヒロインが苦手な私にはちょっとしんどかった。それだけ芽衣がチャーリーさんに心を許している証拠でもあり、後になってわかるけど長年一緒にいたが故の気安さなんだろうけど。

だからいきなり明治時代に放り出された芽衣がチャーリーさんに付き纏うのはわかる。まだ子供でしかない芽衣が頼れるのはチャーリーさんしかいなかったんだから。しかし彼は芽衣を大事に思っているくせに、肝心なところでは芽衣と距離を置こうとするし芽衣との約束をのらりくらりとかわしたりもする。何故ならチャーリーさんは物の怪で人間ではないから。芽衣が好きだからこそチャーリーさんは他の人に託したかった。ずっと見守ってきた好きな女の子に、優しい世界で誰かと幸せになって欲しくて奔走してきた。それだけでも辛かっただろうに、その子はよりにもよって自分を好きになってしまった。その時のチャーリーさんの歓喜と葛藤を想像すると泣けるなあ……。嬉しいけど、自分では芽衣を幸せにすることは出来ないのだから。それでも芽衣は何もわかっていない子供だから彼のそばにいることを望んだが、芽衣のそうしたところにチャーリーさんも縋ってしまったところはあるのかもしれない。これでは駄目なのだと気づいているのに、チャーリーさんはやっぱり芽衣そばにいることが幸せで、芽衣の判断を受け入れたかった。

しかしチャーリーさんのしたことは、芽衣のためとはいえ恐ろしい。魂依である芽衣は平成では生きづらく、肩身の狭い思いをしてきた。そんな芽衣を気の毒に思い、チャーリーさんは魂依が珍重される明治時代に飛ばした。普通ならここは芽衣に成長を促すべきだと思うんだけど、チャーリーさんは好きな女の子に優しい世界を与えるためだけに、自分で勝手な判断を下して彼女を過去に攫った。それもチャーリーさんは「芽衣のため」だと信じて疑わずにやったことで、その「芽衣を変えるのではなく世界のほうを変えてしまえばいい」という思考回路にゾッとする。後半、芽衣に付き纏う俥夫を痛めつける場面があるが、あの時のチャーリーさんからも感じ取れたある種の非情さが見え隠れするんだよなタイムスリップさせた件については。少なくても私はチャーリーさんを「芽衣のためを思ってタイムスリップさせた優しい物の怪」とは到底思えない。むしろチャーリーさんのエゴに恐怖してしまう。尋常じゃない。それこそが彼が人間ではなく物の怪であることの証左だとも思えて、また遣る瀬無くなるのだけども。

印象残った場面は、他の物の怪から襲われそうになっている芽衣を助けるために「その子は駄目だよ」「その子は君にあげられない」と止める場面。目が開く立ち絵や、声音が変わることも相俟って印象に残っている。そこから雨が降り出し、わざとボロい傘を渡して芽衣を帰らそうとするところからのやり取りも好きだなあ。それと芽衣がチャーリーさんと夜明けまで一緒にいることを願う場面も。芽衣が自分の正体に気づいてしまったことを察したチャーリーさんの諦めたような微笑と、夜明けを浴びて消えそうになりながら芽衣に告げる「ごめんね。ずっと一緒にいてあげられなくて」は切なかった。

でもやっぱり一番好きなのは鹿鳴館の屋根でのやり取りかな。

「僕のことなんか、忘れてくれてもよかったんだ」

「僕のことも、現代のことも忘れて……この時代で誰かと幸せになってくれればよかったんだ」

「その誰かが、チャーリーさんじゃいけないの?」

「……うん。僕以外の誰かと」

「僕では、君を幸せにしてあげることはできないんだ」

これがチャーリーさんのすべてだった。恐ろしいとも思うが、それでも彼が芽衣のことを大事に思っているのは確かで、そうした一途な気持ちは伝わってくる。そしてここで芽衣が「私、今初めて魂依でよかったって思ったよ。だってチャーリーさんがちゃんと視えるから」と告げる場面はもう芽衣が可愛くてしょーがなかった。こんなことを言えばチャーリーさんが苦しむだろうとわかっていて、それでも言ってしまう乙女心。そして月を背景に二人が口づけを交わすシーンも CG が綺麗で良かった。

明治 ED は芽衣がチャーリーさんと明治に残ることを選んだ時のチャーリーさんの第一声が「ごめんね」だったのがもう……。でも彼がそうとしか言えないこともわかる。

現代 ED は一応芽衣が魂依である自分を受け入れて成長するので、TRUE 的な扱いなのかなこれが。実はこの結末以外はどのルートでも根本的な解決には至っていない。魂依である芽衣は強く心を持って生きていけないくらいに弱いままで、明治 ED もチャーリーさんの用意した優しい世界で守られたまま。芽衣のそうした問題が解決するのはこの結末だけだった(芽衣が一人で現代に帰る結末も成長していたかもしれないけどよく覚えていないので今度確認するかも)。そして芽衣はチャーリーさんの意図を知り、いずれ自分が年老いてチャーリーさんを置き去りにすることもわかっていて、それでも今の幸せを受け入れて終わる。狐の根付が割れたのにチャーリーさんが元気なのは腑に落ちないけど、まあそういうご都合主義的なハッピーエンドがあってもいい。しかしまた明治時代へ行こうみたいな終わり方はどうだろな。続編を予感させる締め方は元々好きじゃないし、鏡花ちゃんが教えてくれた「物の怪は力を使いすぎると消滅することもある」という設定が吹っ飛んでしまうんじゃないのか。いいのかそんなポンポンと時代を行き来して。近所のスーパーに行くんじゃないんだからさあ……。やめて欲しかったなこういうのは。

チャーリー ED は一番好きな結末。芽衣は先に一人で現代に帰るが、後で追いつくと言ったはずのチャーリーさんは戻らない。それどころか芽衣はチャーリーさんのことも忘れてしまう。けどこれが一番あるべき形だと思ったし、チャーリーさんらしいなとも思った。蓄音機の件もベタだし予想できていたけど、綺麗な終わり方で良かった。

それにしてもチャーリーさんが物の怪だろうことは一周目で察しはついたけど、てっきり奇跡でも起きてチャーリーさんが人間になってめでたしめでたしで終わるのだと思っていた。けどそんな結末はどこにもなかった。明治 ED であれ現代 ED であれチャーリーさんと二人で一緒になる結末はあるけど、彼は物の怪だから夜にしか会えない。切ないなあ。

おまけシナリオは吉野さん(牛丼屋)の話だった。おもしろすぎた……。チャーリーさんが「君は僕なんかよりも、吉野さんに心奪われてる」とか「君はそんなに吉野さんが好きなんだ?」とか言うから本当に「吉野」という名の人間がいてその人に嫉妬しているようにも聞こえるのがじわじわ来る。芽衣も吉野さんが明治時代にないならチャーリーさんが現代に行ってテイクアウトしてきてよとか言うのがすごい。「時代を超えてパシらせようとする人なんて君が初めてだよ」とチャーリーさんも言うが、笑うに決まってるだろうこんなん。本当にいいキャラしてんなこの主人公。