Antipyretic

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時計仕掛けのレイライン -残影の夜が明ける時-

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『黄昏』続編。物語を読んでいて「鳥肌が立つ」という経験をしたのは本当に久しぶりで、特に終盤の怒涛の伏線回収劇が熱かった。新キャラを迎え入れたことで適度な緊張感が生まれ、あまりダレないで済んだのも良かった。シリアスな場面以外でもピスキー・カプレット事件あたりはテンポが良くスイスイ読めてったもんな。

サブヒロインのルートは相変わらず適当。これは前作をやった時から感じていたことだけど、作者も読者が不満を持つことを想定した上で割り切って書いてるっぽい。そして一応ミステリを謳ってるから伏線が重要になってくるし、変に分岐させて伏線に触れるとややこしくなるからサブヒロインルートでこれまでの謎を全部放置するのは英断なんじゃないか、と考えを改めた。ただ、それならそれでもうちょっと丁寧な恋愛過程を……とは言いたくはならないんだなやっぱり。少なくても私はそういう展開を望んでないし、もうこれで良かったのかもしれない。ベストはモー子だけのシナリオにして単品で完成させるか前後で分けて分割販売してくれることだけど、エロゲであることを考えればこの構成が最大公約数になったのかなと。それでもわざわざ三部作にする必要はなかったのでは、という疑問は拭えないけども。『黄昏』も『残影』も短いし。

シナリオ以外は基本的に前作とあまり変わってないが、みっちーや一部風紀委員の立ち絵が追加されたり、視点変更時のアイキャッチがなくなったりはしている。特にアイキャッチをなくしたのは良かった。今回は視点が頻繁に変わるから、いちいちアイキャッチが入ると鬱陶しかっただろう。これで特に混乱することもなかったし、視点の変更切り替えはやっぱりテキストで十分。ちなみに多数の視点でシナリオを描くタイプの作品はあまり好きじゃないんだけど、これは気にならなかった。むしろそれぞれの視点が入ることで好きなキャラクタが増えた。終盤も誰ひとり欠けていても突破出来なかったし、全員に見せ場が用意されていたのも良かった。不愉快なキャラがいないってのは素晴らしい。

今回は笑いもあって涙もあって燃えもあって、とバランス良くいろんな要素がうまく噛み合っていて、なんというかいい意味で「ストレートに面白い作品」のお手本のような作品だった。私は暗い作品が好きだし、救いのない結末であればあるほど美味しく食べるタイプだけど、レイラインは大団円が見たいと思える。今回は盛り上がりが最高潮に達した瞬間に「ここで終わるのか!」というずるいところで終わった(ED で『黄昏』の OP が流れるのも憎い演出だった)んで完結編がますます楽しみになった。

久我三厳

ホムンクルスの話題が出たときにもしかしてみっちーもそうじゃないのか、とは思ってたけど、正確に言うと火事で負った体の損傷の酷い部分を満琉がホムンクルスを作るようにして新しくパーツを作り直した、ということなのかな。本来の肉体と作り物の肉体がうまく噛み合ってないから、みっちーは定期健診を受けなきゃならないような状態になってしまったと。前作の鍔姫ルートで自分の体を見られていたことを気にしていたのが気になってたんだけど、てっきり何かの痕でもあるのかと思ったら「火事に遭ったのに火傷の痕がないことを知られるのを避けたかった」ってのは思いもつかなかったなあ。

ちなみに前作でモー子に散々チクチク嫌味のような攻撃を受け続けていた意趣返しをするかのように、今作ではモー子を翻弄させる場面が多くてそこはニヤニヤした。

鹿ヶ谷憂緒 (CV:森谷実園)

前作のモー子は好きになれなかったけど、今回は刺々しさが消えて一気に可愛らしくなった。焦ったり真っ赤になったりうろたえたり呆気に取られたりといろんな表情が見れるのが美味しい。嫉妬も多いけど、鬱陶しくならないギリギリのレベルに抑えられていたのも良かった。トラウマを刺激されて混乱するみっちーを落ち着かせる場面なんてメインヒロインとしての貫禄もあった。レイラインはモー子がメインになるのでモー子を好きになれないとしんどくなるのがわかりきってるだけに、『残影』で好きになれたのは嬉しかったなあ。普通のツンデレキャラになってしまったなという落胆も少々あるけど、これは我侭の域であってモー子が悪いわけではない。むしろ普通のツンデレになろうがなんだろうがモー子は可愛かったんだからそれでオールオッケーだ。

でもアナザーストーリーは内容の酷さに吹いた。いや、まあ、なんというか……。

烏丸小太郎 (CV:門倉宗一)

ここまで重要なキャラクタだとは思わなかったなあ。モルフェウスの石事件の『らんま』パロで池に落ちて女の子になったりおまるの体力が低下していたりしたのも、伏線だったらしい。みっちーの肉体、学園長やもも先輩の正体、ヴァインベルガー主従の真実あたりはなんとなく察しがつくが、おまるの件だけは全然予想できなかったので最後の最後でやられた。暗示が解けて何もかもを思い出した終盤のおまるの言葉の一つ一つが、今思い返してみても胸に来るものがある。最後の別れには泣けたし、消えたおまるの代わりに睦月が現れるシーンもゾクッと来た。あそこで終わるのは卑怯。

アーデルハイト・リッター・フォン・ヴァインベルガー (CV:白月かなめ)

特査は遺品の暴走を止めることで精一杯だからか学園の謎に対して受動的でそこがもどかしかったんだけど、そこにガツンと喝を入れてくれたのがハイジだった。夜の世界の件など保留されたままだった疑問や謎を全部ストレートにぶつけてくれてどれだけスッキリ出来たか。おかげでレイラインの物語はようやく前進してくれた。中盤は特査を誤解してあれこれ批判してくるが、そうすることで展開にメリハリがついたので良かったとも思う。特査が学園の真実に気付いてからは、魔術の知識がある人間として頼もしい活躍をしてくれるのも大きい。ハイジもルイも本当にかっこよかった。

素は予想と違って随分可愛い女の子で吹いた。ルイに罵倒されてぷるぷる震えるハイジはハムスターっぽいなあ。正直ルイの罵倒は言い過ぎだと感じることも多くてそこは萌えるというより気の毒に感じたけど、なんだかんだで互いを大事に思っていることは伝わってきたので納得はした。というかルイのほうが当主だったし。

ハイジルートについては特に面白い内容でもないので割愛。

ルートヴィヒ・リッター・フォン・ヴァインベルガー (CV:有村祥)

初めて見たときからずっと女性だと思ってたけど案の定。元男性、てのはさすがに予想してなかったけども。ちなみに俺女は地雷だけど、そういう事情があるならばと納得した。というかルイは「俺」という一人称が違和感なくはまっていて、元男性だと知る前から嫌な印象は一切受けなかったという稀有なキャラクタだった。そして一番好きなキャラクタになった。特に男に股を開くのが嫌だと本音を交えつつハイジを孕ませろと熱弁するシーンで惚れた。その時は「必 死 だ な」としか思わなかったけど、元々が男性だったと知ってからは納得した。むしろ同情すらした。しかし事情が事情とはいえ、ハイジを孕ませてほしくて頑張る姿はエロゲ的には有能すぎるよなルイさんて。

ルイのほうが実は当主だった、てのは中盤に察することができた。ずっと不思議ではあったんだよなあ。一介の執事にすぎないルイが何故先代当主(ドロテア)の名前を呼び捨てていたのか。ルイのほうが当主だとしても、当代当主が先代当主の名を堂々と呼び捨てるケースはあまりないのでそういう意味でも不思議だった。実際ハイジは「おばあさま」と呼んでいる。でもドロテアも影武者だったのだと気づいて納得した。だからルイは表向きの先代当主の名を呼び捨てていた。しかしお嬢様のほうが影武者って萌えますね?

村雲静春 (CV:古河徹人)

しーちゃんはモルフィと会うまでは「親分てえへんだてえへんだ!」の役割になっていた気がしてちょっと泣けた。ところで満琉とはフラグが立ったと見ていいんでしょーか。何故しーちゃんとモルフィが出会えたのかも気になってるんだけど、偶然出会っただけ?

村雲春霞 (CV:野神奈々)

スミちゃんも可愛いのにみっちーとラブラブしてる光景がまったく思い浮かばないのは、鍔姫と相思相愛すぎるからなのか。しーちゃん的にはある意味で安心かもしれない。

壬生鍔姫 (CV:かわしまりの)

魔女もやりつつ特査と風紀委員の橋渡しもこなしつつ特査にも協力してくれる鍔姫ちゃんは忙しすぎやしないか……。お疲れ様です。

久我満琉 (CV:shizuku)

モルフィの力を借りようとしたしーちゃんの前に登場するシーンは熱かったなあ。まさかここで妹が登場するとは思わなかった。そして「お兄ちゃんのばかああああ!!」は不覚にも萌えた。ただ何故モルフェウスの石になっていたのかが語られてないのでそこが気になってんだけど、完結編で説明してくれるんでしょーか。

聖護院百花 (CV:涼屋スイ)

実は鍔姫ちゃんが風紀委員長だと思い込んでいたので、ます鍔姫ちゃんがそうじゃなかったことに驚いた。いや鍔姫ちゃんていかにも「風紀委員長」っぽいキャラクタだし……。

もも先輩は結構個性的なキャラだけど、風紀委員が特査以上にただの便利屋にしか思えないのは前作と変わらず。風紀委員のガードは固いとか統率が取れてるとか風紀委員をあんまり舐めるなとかしーちゃんも言ってたけど、そんな印象はないんだよなあ。

リトグラフィエ・ラズリット (CV:鶴屋春人)

人間じゃないよなとは思ってたけど、抱えてる本のほうが本体だとはさすがに予想出来なかった。今回はリトルートがあるんだろうと思ってたので、なかったことにも驚いた。

九折坂二人 (CV:小倉結衣)

最初から怪しかったけどやっぱりクロだった。ただ学園長も主の言いつけを守っているだけなので、学園長が悪人というわけでもないあたりがぬるい。でもそれがレイラインという作品なのかなとも思う。おそらく次で黒幕が明らかになるんだろうが、黒幕も悪人ではなさそう。しかし特査の面々が真実を追っている最中、いつ学園長が気付いて高笑いと共に登場するかひやひやしながら見てたのに、もも先輩にリークされるまで気付かなかったのが意外だった。結構鈍いっていうか呑気なんだなこのホムンクルスは。

で、今回まさかの攻略対象で驚いたんだけど、学園長ルートも別に面白いシナリオになるわけでもなく。ルートに入った途端、昔会ったことあるよねという過去(結局作り話だったけど)が飛び込んでくるあたりからお察しレベルで、やっぱり最後までつまらなかったどころか私の学園長への好感度が下がってしまった。みっちーの恋人になろうと頑張る学園長を健気だと思うよりも先に「鬱陶しい」という印象が来てしまったのが……。学園長からのアプローチがまず急だからみっちーが戸惑うのはわかるし、みっちーが学園長への気持ちに答えをなかなか見つけられないのもよくわかる。だってあんな個性的な人で、かつ教師どころか学園長を相手に恋人になれとか言われても普通は困る。というか悩むに決まっている。なのに一方的にみっちーを襲ったり一日限定で恋人としての時間を過ごしたらあとは君次第だと言ったのに割り切れず恋患ってたりヨーロッパへ逃げるように研修に行こうとしたりで、なんかもう読んでる私が疲れ果てていた。ただ研修はみっちーが止める展開になるのかなとか一度は決めた研修を生徒との恋のごたごたでキャンセルする学園長とか身勝手にもほどがあるよなとかそうなったら嫌だなとか危惧してたんだけど、研修にはちゃんと行ったのでそこは安堵した。この時に流されて学園長の気持ちを受け入れることはしなかったみっちーの態度にも安心した。でもここでエンドマークをつけておくべきだった。そしたら綺麗に終われた。速攻帰ってくるんだろうなと思ったら案の定で、その後は結局みっちーの回答が出る前にセックスしてしまってもうアレ。これでこそ学園長だろうとか言われたら「ああまあそうですね」としか言えないけど、なんていうか私の好みじゃなかった。破天荒なキャラクタなのはいいんだけど、みっちーに迷惑をかけすぎたのがマイナスになった。でも学園長ルートでうんざりはしたけど、学園長を嫌うどころか今でも好きでいられるのは、やっぱりあのキャラクタが好みの系統であることと中の人の演技が楽しいなんだろうなあ。

ところで学園長の喋り方が『Dies』のメルクリウスの女版だと気付いて愕然。