Antipyretic

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腐り姫 ~euthanasia~

http://www.liar.co.jp/kusaritop.html

近親相姦無双。質ではなく量が。阿片王がこの物語を読んだら発狂するレベル。一応デッドラインスレスレではあるもののこれだけやられるといっそ清々しい。だから人間関係も血縁関係も複雑で、更に物語の構造も複雑で難解。特に中盤以降は理解できない場面も増えてきて、クリアした今でもよくわかっていない。それでもエロゲでしか表現できないような独特の雰囲気は濃密で、それだけでも読む価値はあったかなと。

特にノスタルジックに淡い塗りで彩られた背景と、その風景に溶け込むようにキャラクタの絵が配置される演出が、とうかんもりという舞台の静謐でしっとりした空気を表現してくれていて良かった。CG 枚数は少ないけど、この演出のおかげで物足りないと感じることはなかった。CG も淫靡でインパクトのある絵が多かったし、絵柄も独特だけど作品世界との親和性が高い。音楽も幻想的で耳に残る。後は BGV があったことに驚いたなあ。比較的新しい演出だと思ってたんだけど違ったらしい。ちなみに音声はパートボイスだけど、これはかつての Liar-soft なら常のことだったらしいのでまあ……。

何より重要なのが星空めてお氏の文章。淡々としているのに濃密な描写と、独特のオノマトペのセンスからインモラルな空気が漂っていてとてもいい。特に序盤の沼での蔵女との出会いのシーンには圧倒される。『腐り姫』はこの文章と絵と音楽と演出があってこそ。あーでも透明ちんこは萎えました。久しぶりに見たけどやっぱ萎えるなこれ。

システムも独特で、四日間という短い期間をループする物語に沿うように読者も周回させられる。いわゆる「強くてニューゲーム」を繰り返す構造で、ループしている自覚のある主人公の言動が反映されて多少の変化が入るとはいえ似たような展開を読ませられるんだけど、そこでダレなかったのもめてお氏の筆力によるところが大きいんだろうなあ。

そして人間が赤い雪になって滅んでいく展開は赤という色の残酷さと美しさが活かされているようでカタストロフを好む私にはツボだったし、この現象も一見えげつないように見えて、消えていく人はみんな満たされて崩壊していった、てのがまたぐっと来る。だからこその「安楽死」というサブタイトルなんだろうけど、このテーマが実は蔵女にもかかっているのが面白かった。長く時を生き過ぎて疲れ果てていた蔵女が求めたのは、まさに安らかな死そのものだったんだから。ループという題材も元々好きだったし、四日間を繰り返すシステムも『Fate/ha』を思い出してニヤニヤした。

近親相姦は特にツボというわけではないものの、背徳感だけを切り取ってみれば好きな要素ではあるし、ループするごとに自称恋人→従姉→義母→義妹、と関係を結ぶ相手の血縁が近くなっていく様や、徐々に見えてくる簸川一家の歪みにはゾクゾクさせられた。夏生は五樹の異母姉、樹里は五樹の異父妹、潤は五樹の義妹、芳野は五樹の義母。そして樹里は兄妹同士である両親の間に生まれた禁断の子で、その樹里も兄を愛しており、兄を手に入れるためだけに父親を誑かして関係を持ってしまう。酷いなー。でも面白かった。

不満というか、物足りなかったのは狂気をそこまで感じなかった点。特に樹里の愛情は狂気的ではあるけど、狂気を描く作品は今では珍しくもないので淡々と読んでしまった。樹里がゲーム開始時点ではすでに故人で作中には出てこないせいもあるんだろうけど。ただ狂気を描く作品は好きなので、蔵女とか赤い雪云々は置いといて、単純に五樹が樹里の恐ろしさを現在進行形で知っていく流れを追ってみたかったという気持ちもある。

「盲点」は寒かったけど on/off で切り替えられるし、これを読むことで初めて気付かされたこともあるから不要とは言いきれないのが……。でも「全裸ファイト」は萎えた。

ちなみに終盤の超展開は好みの展開ではなかったものの、そこまで突飛だとも思わなかった。事前に SF だと聞かされていたせいだろうから、何も知らされずにプレイしていれば落胆していた可能性は高そう。でも強引ではあるものの一応ちゃんと着地させてあるし、似たよーな作品だった『痕』ほどの萎えはなかった。

システムは DL 版を買ったのでバグはないし、スキップも未読まで一気にジャンプしてくれるのでプレイは概ね快適。非アクティブウィンドウで動作が止まるのは鬱陶しかったけど、そこまあ古いゲームだから仕方ない。

時系列、血縁関係、人間関係、構造など理解の及ばないところも多かったし、最後まで伝奇で通してほしかったという気持ちもあるけど、雰囲気に浸れる作品ってのはもうそれだけで価値がある。不満を垂らしつつもなんだかんだで楽しんだ、気はする。

簸川五樹

歪んだ人間が集まっているかのような簸川一族の中でただ一人、近親相姦に染まらなかった男。母っぽい人とか兄っぽい人とか姉っぽい人とか妹っぽい人に好かれたり襲われたり誘惑されたりはするけども。樹里との「赤い婚礼」も樹里を女として愛したから心中したのではなく、妹として愛しているからだと思うんだよなあ。樹里とのエロシーンは全部幻想だし、樹里が誰かに犯されている場面も相手は恐らく健昭だろう。ただ「リフレーン」ED を見る限りでは健昭は五樹の生まれ変わりで、そういう意味では五樹は健昭として樹里と姦通してしまったと言えなくも……ああややこしい。樹里が五樹を手に入れるためだけに父親とセックス出来たのも、父親が五樹の生まれ変わりであることを本能で感じ取ったのではないかな、とも。さすがに本人は明確に意識してないだろうけど。

終盤の覚醒した五樹には最初は面食らったが、これも「リフレーン」ED を見た後なら落とし所を見つけることは可能で、つまり異星人だった蔵女の血を引いているからではないのか。だから他人の過去(夏生と青磁のやり取りとか)が見れるし、時間を跳躍することもできる。蔵女を追って過去を遡った五樹を健昭だと思い込んで茂晴が殴るシーンも、五樹=健昭であることの伏線だったんじゃなかろうか。そして朱音に予知能力があったり五樹を唄で導くことができたのも朱音=蔵女だったと。

この「リフレーン」ED の円環の世界もたまらなく好きだけど、私はやっぱり「腐爛」ED を推す。孤独に耐えられなかった蔵女と再会して孤独から抜け出せたかと思えば、二人で消え去ることを選んだことで「二人だったからこそ」の寂しさを蔵女が吐露するシーンが切ない皮肉に満ち溢れていてよかった。CG もいい。最後に見た結末がこれでよかったと心底から思った。その余韻は直後に「全裸ファイト」でぶっ壊されるけど。

ところで夏生、五樹、樹里、潤、と名前の響きが微妙に似通っているのも伏線?

蔵女 (CV:YUKI)

正体はクトゥルフ的なアレということで沙耶を思い出した。

まあ異星人云々はともかく神秘的でどこか恐ろしい雰囲気を漂わせていた蔵女のキャラクタが好きだったから、終盤の心を得たことで普通の女の子のようになった蔵女からは個性が失われた気がして残念。エロゲの平凡なヒロインになってしまったというか。

成年コミックを朗読する蔵女とか、ジュースを飲む蔵女とか、簸川家のテーブルにちょこんと座る蔵女とか、プラダを欲しがる蔵女は可愛かった。

簸川樹里 (CV:YUKI)

「お兄ちゃんどいて! そいつ殺せない!」を地で行く妹。兄だけを愛し、兄以外の存在を認めない。だから邪魔な父、母、犬は間接的に殺す。潤や青磁にも脅迫する。このお兄ちゃん大好きっぷりは『鬼哭街』の瑞麗を思い出すなあ。作中で樹里本人が登場する場面はないのに、存在感がそれなりにあるのはさすが。

簸川芳野 (CV:かわしまりの)

背徳感は芳野とのセックスシーンが一番濃厚だった。自慰もえろかった。しかし健昭=五樹の生まれ変わりであることを考えると、芳野さんが健昭に触れてもらえないことに焦れるあまり五樹を求めてしまうのは当然だったのか。実の娘である潤のことも捨てて、五樹と二人で気ままに生きていこうと駆ける姿は印象的だった。

簸川潤 (CV:金田まひる)

ボーイッシュでツンツンしているのに、母親を「ママ」と呼ぶのが意外で面白かった。もうこの世にはいない樹里の亡霊に怯える哀れな義妹で、作中では一番まともに見えたヒロインだったけど、でもそんな潤も蔵女を殺して(実は殺せていなかったが)「五樹の妹」という位置を手に入れた上で五樹との禁断の関係に溺れてしまうのが何とも。

伊勢きりこ (CV:椎名奏子)

最初は苦手なキャラだった。記憶なんて思い出さなくていいから! 過去のことはもういいから! 大事なのは未来だから! 私はあなたの恋人だから! あなたをちゃんと理解しているから! と押しつけがましく迫ってくるのが鬱陶しかった。でも実は普通にいい人だった。五樹の記憶を何が何でも取り戻させたい夏生とは衝突することになるが、自分のために記憶を取り戻してほしかった夏生に対し、きりこは五樹のためを思って未来を見て欲しがっていた。もちろん好きな人に振り向いて欲しいという打算じみた気持ちもあったんだろうけど、五樹のことをちゃんと考えていたのも本当なんだと思う。

でもそんなきりこが一番惨めな消え方をした。きりこの相手をしていたのは五樹ではなく五樹に化けた蔵女ってのがひでー。でもきりこにとっては最後まで五樹だったんだから、きりこは幸せなまま崩壊した。例え偽りでも本人が気付かなきゃ真実になる。

湖でのセックスシーンは良かった。ほんっとーにエロかった。雨の中の情交で、むせかえるような湿気がこちらにも伝わってくるようだった。

簸川夏生 (CV:西田こむぎ)

夏生はきりこと逆で、記憶を取り戻したいよね? じゃあ手伝うから頑張ろうね? まだ何も思い出さないの? 何なのやる気あんの? みたいな調子でずいずい迫ってくるところがあって、こっちはこっちでやっぱり鬱陶しかった。ただきりこの鬱陶しさは本人の意地っ張りな性格故だったが、夏生はエゴから来ていたのが面白かった。

夏生が五樹に記憶を取り戻してほしいのは五樹のためではなく自分のため。五樹に謝罪したことがあるから謝りたい。だから記憶を取り戻してほしい。でもなかなか記憶を取り戻してくれない。それでは自分が我慢できない。だから記憶を取り戻すための荒療治として性行為を強要する。この身勝手のオンパレードに吹いた。そもそも夏生の謝りたかったことってのが青磁の気を引きたくて当て付けで五樹を逆レイプしたという過去のことで、それを謝罪したくて再び逆レイプじみた行動に出るのがもう本末転倒というか、とにかく身勝手の極致で面白かった。我儘で自分勝手で面倒でややこしい人だけど、そんな厄介なところは嫌いじゃなかったなあ。そして結局、青磁に犯してもらえたんだから目的も達成している。こええぇー。私には樹里よりも恐ろしい女性に映った。

山鹿青磁 (CV:高岡政人)

この二人の結末はループから脱却できたのかそうでないのか、あるいはとうかんもりでの出来事がすべて五樹の妄想だったのか、色んな解釈ができそうで面白そうだなー。こういう出口の見えない二人の関係は結構好みでもある。