Antipyretic

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塵骸魔京

http://www.nitroplus.co.jp/pc/lineup/into_08/

これまでの Nitro+ 作品にあった単純明快で華やかな戦闘シーンとは縁遠く、壮大な設定があるのに登場する人外の種類が少ないなど全体的に小さく纏まっているし、公式や OP の印象から中華風の雰囲気を期待していたら想像していたものとは違っていて、なんつうか地味な作品。ただし「地味=つまらない」という評価に直結するわけでもなく。

わかりやすい悪役がいない世界。敵対する種族にそれぞれ価値観や信念があり、それが故に争わざるを得ない背景。意志の疎通は可能なのに解決出来ないもどかしい状況。そんな中で異能を手に入れるけど、それでも戦闘キャラとは言い難い主人公。パワーや駆け引きでスカッと押すのではなく科学的論理によって詰めていく戦法。主人公の対となるライバルの不在。辛うじてラスボスと言えそーなストラス製薬なんてもうすっごい地味。でもこれが面白かった。読者の好みはどうあれ勧善懲悪では描けない物語もあると思うし、これが Nitro+ からリリースされたのが面白いなあ。何よりテーマは「人外との交流」にあるので戦闘がメインではないけど、ままならない世界だから戦闘が発生するのは当然で戦闘シーンは多い。戦闘描写に手抜きもない。燃えるとは言えないけど、克綺が危機を理詰めで突破していくのが新鮮。私は荒唐無稽でヒロイックな戦闘のほうが爽快で好きだけど、これはこれで説得力があるし克綺のキャラクタにもハマっている。そしてままならない世界観だからこそ結末も大団円と言えるようなものがなくままならない切なさがあり、深度は低いけど浅瀬を漂っているようなじんわり来るものが多かった。

他にはやたら食事描写に力を入れていたのも面白かったし、エロシーンもただ喘ぐだけでなくきちんと克綺とヒロインの関係変化が描かれているなど物語がある。これは他の作品ではなかなか味わえない魅力。そして序盤で分岐して以降は各ルートで展開がまるっきり変わるので、作品のボリュームもそこそこある。いちいち論理性を求める克綺のキャラクタも相俟って説明的な文章が多いけど、その説明的台詞を読むのも楽しかった。中華系を舞台にした作品ではないのに何故かあちこちで漂っているアジアンな空気も好きだし、話の合間に入るアイキャッチの演出もちょっと鬱陶しいけど雰囲気は抜群。

で、巷でよく言われる「未完成作品」という評価はその通りだと思ったけど、地団太を踏むほどでもなかった。放置された伏線は確かにあるし牧本さんと恵は特にそうだけど、どちらもそれほど興味の持てないキャラだからか個別ルートが欲しいとまでは思わなかったなあ。謎は残るけど描写がないならないで気にならない。既存のルートのどこかにサイドストーリーのような形で最低限の説明を入れてくれても良かったかなとは思うけど。そこで克綺のオッドアイや心臓の謎も盛り込んでくれればベスト。というか牧村さんや恵よりも克綺の謎のほうが気になるし、それはクラスメイトや妹のルートがなくても描写出来たと思うのでそこは気になるっちゃ気になる。たとえばイグニスや風のうしろを歩むものや管理人さんとのふとしたやり取りの中で、克綺が過去を振り返るシーンを入れたりとか。

絵は Niθ 氏の絵が購入動機の一つなので文句なし。今回も尻に気合いが入っていたし主人公は巨根だったしヒロインの下着は可愛くなかった(でも微妙な下着も巨根も慣れつつあるけど)。CG を効果的に見せるべく細かい演出を取り入れていたのも相変わらず。オリエンタルな音楽もサントラが欲しくなるレベルで、OP「孤高之魂魄」なんてしばらく頭から離れなかったもんなあ。あれは不思議な中毒性がある。歌詞は何言ってんだかわからんけど。ED も流れるタイミングが卑怯。ZIZZいとうかなこ嬢はいいすねやっぱり。

システムは元々 Nitro+ のエンジンがあまり好きではないのでいつものごとく微妙。不満も今まで書いてきた内容と同じなので割愛。しみじみ思ったのは、やっぱりバックログからすぐに戻れないのは地味に苛立ちが蓄積されて行くなあと。数年前の作品なのに動作がもたつくのもちょっと。良かったのは膨大な BAD ED があるんだけど、終わったら自動的に直前の選択肢に戻ってくれる点。これは重宝した。ロード作業いらず。

色々書いたけど、なんだかんだで一番楽しかったのは克綺と峰雪の漫才のよーなやり取りかもしれない。大量の戦闘シーンがあってヒロインも個性的なのに、それらを抑えて親友キャラとのかけ合いというギャグ要素が一番印象に残る、てのは Nitro+ ではレアだ。

九門克綺 (CV:木島宇太)

理屈だけを武器に生きているような主人公だけど克綺は悪意はなく純度 200% の天然で、だからこそ筋が通っていて不愉快になることはなかった。エロゲの主人公らしく恋愛には鈍感だが、それも心の機微が理解出来ないという理由があるから納得出来た。そんな克綺がだんだん人間らしくなっていくのを眺めるのが楽しかった。でも感情的になっても天然理屈屋な可愛いところが残っているのも良かった。恋愛に関しては先述したように元々鈍いのと、作中での時間が十日ほどしかないこともあって強引なところもあるんだけど、それも「まあ克綺だからしょうがない」で納得出来る範囲。

印象的だったのは食事中の立ち絵。リスのよーに頬を膨らませながら『美味しんぼ』よろしく冷静に料理を批評するギャップが効いた。あと驚くと髪型が猫耳のようになるのがあざとい。それと作中で言及がなかった緑と赤のオッドアイも特徴で、オッドアイキャラはよくいるけどここまでビビッドな色の瞳はちょっと珍しい気が。最初は赤い目ってことで夜闇の民あたりが関係してんのかなあと思ってたんだけど、もしかして色は関係ない?

戦闘では克綺のスカーフがマフラーのようにはためく絵が多く、『Dies』の練炭を思い出した。結局克綺が行使した力は主に風と水だったので夜闇の民の力を取り込む展開も見たかったけど、彼らの力って吸血だけだっけ……? 血を吸いこむだけならわだつみの民の力でも出来ちゃうか。吸血鬼は一族を増やしたりは出来るけども。

イグニス (CV:三咲里奈)

話に聞いていた通り雑なところもあるが、それ以上にツボが多かった。二度目のエロシーンは萌えたし、終盤のイグニス復活は展開が読めていても燃えた。それだけで満足した。

序盤は克綺の力を人外に奪われないように守ってくれるし鍛えてもくれるけど、力を人外に奪われないように克綺を殺すことも厭わない冷徹さもあり、能力を手に入れた主人公が力を使いこなせるまで特訓するという厨二のお約束にしては変わった展開になるのが面白かった。そしてめちゃくちゃ強いのかと思えばそうでもなく、人の身だから人外を相手にまともに戦えばあっさり死ぬし、だからこそ道具を駆使してトラップも仕掛けて行くスタイルになっていてそういうところも好きだった。そして実は元々ヒエラルキーの最上位にいる神の一族だから、本来の力を発揮すれば無双出来るところも美味しい。終盤、一度は殺されたはずのイグニスが華麗に復活するシーンは震えた。白いドレス姿も神々しい。

そして途中まではイグニスが何故克綺に惹かれたのかが謎だったんだけど、イグニスの過去が語られてからは納得した。かつて自分を大事に思ってくれていたハシバミ色の瞳をした男はイグニスにとって特別な存在で、その男に克綺の姿と重ねたんだろう。どちらも門を開く者だから共通点はあるし、意識せざるを得なかったんじゃないかなあ。しかしイグニスのこの過去話は面白かった。変化の必要がないほどの万能の神だからこそちっぽけな存在でしかない人間が必要だった、という皮肉はやっぱりままならない世界を象徴しているようで印象深い。まさに「退屈は神をも殺す」。だからこそ絶対の位置にいるイグニスの一族は人を救えるし弄ぶことも出来る。それは神であって悪魔でもある。

そして最初に書いたようにエロシーンが楽しかった。わだつみの民を取り込んだことでどうにもならなくなった克綺とのエロシーンはつまらなかったけど、二度目のエロシーンはニヤニヤした。克綺の「おまえと性交したい」という台詞はストレートで面白かったし、傲岸不遜だったイグニスがグズグズになっていくのがもう最高だった。こういうキャラクタを征服する楽しみを味わうのに克綺のキャラクタがハマって相乗効果が生まれ、とにかく読んでいてずっと楽しかった。何度も克綺の性器の大きさにイグニスが言及していたのも笑った。やっぱでかいよなあれ。お疲れ様ですイグニスさん……。

恵が死んでからの展開は唐突でついて行けないところもあったけど、萌えて燃えたのでもういい。結末はどちらも気に入った。イグニスと生きる世界を望む ED は『デモベ』を思い出すくらいに熱かったし、よくよく考えてみればこれこそがすべての種族にとってフェアな世界なのかなという気もする。結界がないので人は苦しむだろうし克綺の「人はね、生き残るよ」という発言は身勝手だなとも思うけど、克綺も言っていたよーにイグニスが神の一族にしたことと同じことをしたのだと思えばこの二人は案外似た者同士なのかもしれない。もう一つの結末もいい。人類を守って来たイグニスの意志を尊重しているし、魔力を失くした克綺がかつてのイグニスのように人の身でありながらも魔と渡り合い、可能性は低くても共存を目指そうと必死に足掻く姿がぐっと来る。最後のメルを交えた三人の乾杯も良かった。どちらの結末もかつては論理的思考に忠実だった克綺からは考えられない選択で、そう考えると面白いなあと。

風のうしろを歩むもの (CV:由良香)

ここまでインパクトのある名前は『TH2』の「るーこ・きれいなそら」以来。でもるーこは「るーこ」と呼べば良かったんだけど、こっちは「風のうしろを歩むもの」なんて長ったらしい名前を最後まできちんと克綺が略さず呼び続けたことに感動した。絶対に略すだろうと思ったし現に峰雪が提案するシーンもあるんだけど、風のうしろを歩むものが「ダメだよ、リョウ。名前は大事にしなくちゃ」と返すのがなんかいいよなあ。それに敬意を表して私も「風のうしろを歩むもの」ときちんと書くことにする。

このルートは風のうしろを歩むものが人狼だけあって異文化交流が丁寧に描かれており、共感能力が欠落していて人間らしくないけど人間のルールを知識として知っている人間の克綺と、人間にもある共感能力を持っている人狼の風のうしろを歩むものとのちぐはぐなやり取りが面白かった。例えば草原の民にとって本名を教えることが求婚に繋がっていたり、死者への弔いとして死者の肉を食べる慣習があったり。そういう違う種族同士の倫理や価値観の違い、そして食う者食われる者という立場の違いを浮き彫りにし、相互理解を経て恋愛感情を抱くに至る。しかしこの「食べる」という表現にはエロスを感じるなあ。エロシーンでも「食べる」や「食べたい」という表現は使われていたけど、それより以上にカニバリズムに該当する意味で使われるほうがエロい。

「もしカツキがボクを好きなら……ボクのことを食べてくれる?」

人間の概念の下で生きる克綺は当然引くが、風のうしろを歩むものの概念に照らし合わせるとこれ以上の愛の告白もないんじゃないか。特に彼女が一族最後の若者であり、相手が本来なら食べる対象だったはずの克綺であることを思えば意味が重くなる。

「ボクたちはね、誰かが死んだ時は、家族とか、好きな人とか、みんなで集まって、食べるんだよ」

「好きな人が、自分の中で生きますように。ずっと一緒にいられますようにってね」

「だから、一人っきりで死んで、誰にも食べられないのは、とっても寂しいんだ」

私は人間なので実際にこういったことは出来ないけど、克綺も言っていたように概念としては理解出来る。何より風のうしろを歩むものの性格がはっきりしていてわかりやすく、そこから垣間見える草原の民の価値観に嫌悪感は抱かなかった。これは私の中で「狼は清廉潔白で美しい」というイメージが元々あるせいもあるんだろうけど。

しかしそれでも埋められない価値観の差は存在する。それが二人の戦い方や神鷹を制するきっかけとして表現されていた。例えば克綺が異能に目覚めるのは終盤で、これは恐らく異文化交流を濃く描くために克綺をあくまでも「人間」とする必要があったせいなんだろうけど、だから克綺は風の力に目覚めても特訓する時間がない。風のうしろを歩むものに問うても「風の気持ちになって考えるんだよ」とかそんな調子で理解出来るはずもなく、じゃあどうするのかというと倫理的かつ科学的に自分の中で翻訳して駆使する。これは克綺だからこそ到達出来た戦闘方法で、するっと納得出来たし面白かった。二人は同じ力を有しながら種族が違うから違う戦い方をしていて、それでも互いを信頼し合って抜群のコンビネーションでストラス製薬を攻めて行くのが痛快だった。

そして神鷹戦でも、閉じ込められていた二人が外に出られたのは種族の違いがあったからだったのが燃えた。克綺ですらギリギリまで気付けなかったが、人の概念では真空で風の力は使えない。神鷹も勿論そう思っていた。でも風のうしろを歩むものにとって空気と風は別のもので、だからこそ彼女は真空でも風を起こせる。それを知った克綺が空気がないのに吹き出し、声が届かないはずなのに大声で笑うシーンはぐっと来たなあ。そしてここから「今日は死ぬにはいい日だ」から始まる二人の詠唱は燃えた。「人間以外のあらゆる化け物を倒す」という一念に駆られ、化け物になってしまった神鷹が克綺の作った血鏡で自分の姿を見せられて自分自身を食らい尽くす展開も、人間以外の種族を理解しようとしなかった神鷹の人間としての傲慢さが仇になっている。「化け物を駆逐するために人間が化け物になる」ことを視野に入れていなかったから、神鷹は負けた。

最後は同じ世界で生きていけない二人が決断を迫られるが、この三つの選択がどれも素晴らしかった。二人が別れても、風のうしろを歩むものを人の世界に引き込んでも、克綺が人狼の世界に婿入りしてもいずれもどこかに一抹の悲哀が残る。中でも二人が別れる結末が一番気に入った。死後に二人が再会するシーンはないほうが良かったと思うけど、ディディーが存在していることを考えると仕方がないのかも。

他、ヨダ絵無双ルートでもあるのでギャグシーンが楽しかった。特に何故自分を食べようとするのかを克綺が「最初から」話してくれと頼んだら、風のうしろを歩むものが踊り出して幻想的な空気になり、種の起源について語った瞬間に克綺が「違う、そうじゃない」的に一刀両断したのは吹いた。演出や絵も効果的に使ってモニタ前の私も酔い痴れていたくらいに雰囲気が出ていたところの克綺のこの一撃。シュールだ……。作中の空気だけでなく作品と読者の間の空気をもぶち壊した克綺に感動した。ガチすぎる。

花輪黄葉 (CV:霧島七海)

『デモベ』のライカさんみたいなヒロインだった。食事を提供してくれるし母性もあるし実は戦っているキャラだし眼鏡もかけているし、と共通点が多い。ただ管理人さんはその「母性」が重要になっているキャラクタでそこは面白かった。というかわだつみの民の意志に翻弄されて性欲が爆発しそうになっている克綺を管理人さんが助けるシーンで、母親とセックスをするように感じて怖気づく克綺に「お母さんに、甘えるつもりでしてみたらどうかしら?」と管理人さんがアドバイスしたのが驚いた。結局、実際に血が繋がっているわけでもないし切羽詰まってるからということで結局やってしまうけど、そこは普通母親だと意識させない方へ誘導すると思うのに、そうじゃなかったのが「母性」の塊である管理人さんらしいシーンだったなあと。これが実の母親相手のセックスなら「近親相姦」として認識した上で私も読み進めるが、この二人は「血は繋がってない(そもそも管理人さんは人間ではないが)けど互いに母子として見ている」というある種のデリケートな関係だったからこそ強烈なやり取りとして印象に残ったというか。しかし「近親相姦」を意識し始めてからは背徳感に興奮する克綺はなかなかの変態。そいや BAD ED で恵を強姦して食い殺す展開があったけど、あれも「血は繋がってないけど近親相姦に近い」のか。

そして管理人さんルートはもうひとつ「人工知能に心は存在するか否か」というテーマがあって、そちらは元々好きな題材だったこともあって面白かった。管理人さんの優しさに克綺は助けられて来たし信頼もしていたが、管理人さんの優しさは「母性」が生んだヒトガタによる人真似だと知らされて衝撃を受け、更に「子供を人外から守るために存在しているヒトガタは人外に対しては無敵だが、人間を傷つけることは出来ない」のでストラス製薬にはなす術もなく、助けられたはずの恵を見殺しにしてしまう。子供を助けられずアイデンティティが崩壊してただの機械になって行く管理人さんと、そんな管理人さんの傷を暴いて責め立てる克綺のシーンは目が離せなかったもんなあ。そして自分を責める管理人さんを慰めてあげたいけど嘘がつけないから出来なくて、管理人さんを嫌いになれたら楽なのに嫌いになれなくて葛藤する克綺が零した言葉は、理屈だけで生きて来た克綺とただの機械でしかない管理人さんのすべてを言い表しているようで良かった。

「論理が正しいことを知っていても、選べない。感情だけが吹き出しても、割り切れない。僕はとても不自由だ」

「そして、それは、あなたも同じなんだ」

克綺が言うと重いなあこの台詞。

ちなみに管理人さんのビジュアルは、克綺の血をもらってなんとか復活を果たした後の姿が一番好み。ヒトガタも怖いけどなんだか惹かれるデザインで結構気に入っている。「子供に優しくするため」のデフォルトの眼鏡管理人さんの姿はいかにも管理人さん的なデザインだけど、あっちはあまり惹かれないんだよな。

『塵骸』はどのルートも味わいがあってそれぞれ楽しめたけど、テーマが好みだったのと恵がピリピリしてないのとメルクリアーリが活躍することもあって管理人さんルートが一番好きかもしれない。あ、結末は別れるほうが気に入ってます。

九門恵 (CV:みる)

苦手なキャラクタだった。嫉妬を剥き出しにする女子キャラはもう地雷に近い。主人公が鈍いキャラクタであればそれはますます威力を増すので、思われていることに気付かない主人公の鈍感ぶりにも苛立ちの矛先が向くが、克綺の場合は「しょうがない理由」があるので苛立ちが恵一人に集中してしまった。更に恵は作中では不満そうな表情ばっかしてるのでますます印象が悪くなり、プレイ中はとにかくヘイトが溜まっていく。峰雪に冷たいのもダメだった。なんかあの冷たさは理不尽に感じてしまうんだよなあ。とはいえ彼女は巻き込まれて殺されることが多く、そこはさすがに同情した。恵が殺されたのは克綺にブチキレさせるためだとしか思えなかったのも不憫。

ちなみに義妹なんだけど、これは恵を攻略するための設定ではなく「他人から家族になる過程」にこそ克綺の重大な過去があったのではないかなあと考えていた。でも管理人さんルートでは「実の兄」とか書かれていてどっちなんだ。やっぱり攻略させるために義妹にして、ルートを削ったから実妹に変わってしまったのか。そいや管理人さんルートの恵はあまり嫉妬を剥き出しにしないので心穏やかに眺めていられたなあ。吸血鬼になったまま克綺と二人で管理人さんの使命を継承する結末はけっこう気に入ってたりも。

峰雪綾 (CV:先割れスプーン)

エロゲの主人公の親友は美味しいキャラが多いが、峰雪はパーフェクトだった。異能に目覚めるわけでもないのに存在感が濃密。日常では天然理屈屋の克綺に律儀に付き合って漫才で楽しませてくれたりフォローしたりするし、戦闘でも一般人だからアシストくらいしか出来ないけどそのアシストが神がかっている。イグニスルートで木刀を振り回して克綺を助けてくれるシーンは燃えたし、風のうしろを歩むものルートでの魚人との交渉や屋上で魚人をぐるぐる巻きにするシーンなんてもう最高だった。あそこで魚人が呆れているのがまたじわじわ来る。登校中にパンをくわえた克綺とぶつかるシーンも味わい深い。管理人さんルートでも彼がいなければ恵を助けられなかったし、校内に潜入している峰雪を発見して殺そうとしていたメルが結局殺せず自分で苦笑するシーンも、峰雪とメルの二人のキャラの良さが出ていて何気に気に入っているシーンの一つになった。風のうしろを歩むものルートで交わされていた危険と恐怖の違いについての会話も面白かった。彼は MVP。

それはそうと三角頭巾+割烹着姿の峰雪とか美味しいに決まっているのに絵がなくて地団太を踏んだ。料理上手ってのがまた最高じゃないですか。

牧本美佐絵 (CV:矢沢泉)

こういう作品にありがちな日常の象徴的なヒロイン、に見せかけてそうじゃなかった。出番がないように見えて実は後半で結構活躍してたんだよなファンタスティカとして。イグニスルートはイグニスとの戦いで結構えぐい目に遭っているのがなんとも……。

奇綿津見玄比賣命 (CV:矢沢泉)

ビジュアルは結構好みだったし、命を狙っている克綺に対しても彼女なりに誠実に対応していたのが印象に残っている。わだつみの民はどのルートでも全滅するので、そこは淘汰されて滅びから逃れられなかった種族の哀愁が漂う。

メルクリアーリ・ジョヴァンニ (CV:富士爆発)

「こいつ絶対ラスボスだろう」と思ってたしその予想には自信もあったんだけど、微妙に外れていた。そこは意外だった。夜闇の民というか人外のまとめ役でもあり、彼にとってももちろん人間は「餌」で「天敵」なんだけど、克綺に対しては誠実であろうとするし教師として生徒を心配していたのも本当のことで、管理人さんルートでも死にかけの恵を助けるために吸血鬼にしてしまうかどうかの決断を迫られて苦しんだりと、魔にカテゴライズされる存在なのに決して非情なキャラクタではなかった。自分を殺せば恵も死んでしまうことを克綺が知ってしまうとフェアじゃなくなるからと、そのことを秘めたまま克綺との真剣勝負に挑んでいたことがわかる場面は特に印象に残る。だから彼を見ていると人と人外の違いについて考えを巡らせてしまう。会話も出来るしわかりあえることも出来るし友人になることだって出来たかもしれないのに、片方は人として、もう片方は夜闇の民として生まれてしまっただけで相容れない溝が出来てしまうのが切ないなあと。

田中義春 (CV:秋山樹) & 彼方左衛門尉雪典 (CV:風霧瞬)

田中さんはいいキャラだった。出番が少ないのは残念だったけど、それでも雪典よりはだいぶマシ。頭を下げると落ちるけど上げるとバネ仕掛けのように戻る髪とか可愛いじゃないですか。一方の雪典は派手な外見に反して噛ませ犬で終わった。面白いキャラクタデザインなのに勿体ないなあ。メルを心酔しているらしいのに、やられてもあまりメルに悲しまれていないように見えるのが……。いやメルは一族のことを大事に思っていたから、描写がないだけでちゃんと悲しんではいるのだろうけども。

神鷹士郎 (CV:黒瀬鷹)

神鷹の考え自体は否定出来ない。彼はいうなれば人類の未来のためにモンスターを殲滅しようとしているだけで、作品が作品なら勇者や英雄と呼ばれていたかもしれない人物。正直ラスボスとしての魅力は薄いので特に好きなキャラというわけでもないが、こういう人間が主人公の敵として据えられているのがこの作品の特徴。

ディディー (CV:まきいづみ)

物語を読んでいる読者にも秘密で、克綺だけにこっそり本名を伝えるシーンがあったかと思えばスタッフロールで堂々と名前が書かれていてどうなんだソレ。そこに載せるなら最初から読者に隠す必要はなかったのでは……いやまあいいけど。

最初は死神かと思ったけど、彼女は命を刈り取っているわけではないので案内人、てのが正しいか。冒頭の克綺は死にかけているか仮死状態なんだろうけど、あれが克綺が心臓を失くしたきっかけである可能性は高そう。恵が管理人さんルートの BAD ED で心臓がないという克綺に「なら、私のをかえしてあげる」と言っているので、克綺の心臓は恵の体にあるのかもしれない。だから冒頭の克綺が呟いた「わすれもの」とは恵の体に残している自分の心臓のことなのかなあと。だからディディーも克綺をあっさり帰したんでは。

最後に解放されるディディールートは、特に面白いわけでもなく新しい事実が判明するわけでもなくどうにもコメントしづらい内容。恵と牧本さん以外にわだつみの民の女王ルートが構想にあったことも示唆されていてそこは驚いたけども。ていうか「書けなかった」あるいは「削除するしかなかった」ルートのことなんてわざわざ書かんでも。