Antipyretic

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GARNET CRADLE

http://www.getchu.com/soft.phtml?id=621145

一言でいえば、長所と短所がどちらも多くもったいない作品。悪い作品ではないし好みでいえば好きな部類に入るだけに惜しい。

不満点はやっぱりコピペ展開を真っ先に挙げるかな。個別ルートに入った直後の美紅がビーズを買おうとする場面、森に魅入られる場面、男子に告白される場面、おかしくなったサーリヤが美紅を拉致しようとする場面など共通している展開は序盤から多いが、更にミフターフ崩壊後の展開もまったく同じで、それを攻略人数分見せられるのが辛い。特に最後のイブリース戦は戦闘がつまらないのに無駄に長いことや、Ctrl で強制スキップ出来ないことも鬱陶しさに拍車をかけている。『ガネクレ』は「物語」であることを強調しているし、絵麻が自分の意図する展開へ持っていこうと誘導しているらしいから同じ展開になるのは当然なんだろうけど、それでもこの仕様はしんどい。既読扱いでスキップ出来ればここまで文句は出なかったんだろうなあ。

そして夢の中の世界を舞台にしているためか、夢から夢へと場所や場面が次々移動していく展開が多く、何がどうなっているのかわかりづらい。恐らく ED 以外は夢の中の話だと思われるが、終盤には過去の回想も入るし時系列の把握が難しい時もある。それとほぼ全員が幼い頃に美紅と出会って一目惚れしているのでややこしい。何よりミフターフの世界設定をきちんと理解出来ないまま物語を読み進める羽目になるのがちょっとな……。後半に父親、絵麻、イブリースが一気に真相を教えてくれるけど何が何やら。結局語られてないように思える謎もあるし、物語の土台となる設定があやふやですっきりしない。その不明瞭なところが『ガネクレ』をミステリアスな世界に仕立て上げている効果もあるんだろうけど、物語を楽しむには結構な足手纏いになってしまっているよーな。

個別ルート突入時の演出も微妙。キャラクタとの交流の積み重ねによって決定するのではなく、分岐で唐突にどのルートに入るかを読者が選択させられて、没入していた『ガネクレ』の世界から意識を一気に引っ張りあげられたような気持ちになる。それに五人の王子から一人選べと言われるのに、ルートが確定したらその王子しか出てこないのが何とも。公平に公平にと連呼されるから余計に。個別ルートに入ると他の攻略対象が出てこなくなる作品は多いけど、魅力的な王子が多いんだから横の繋がりがあればもっと作品世界が広がったんじゃないかなあ。これではヒロインと攻略対象の二人だけで世界が回っている感じがする。二人であることが重要な設定ならそれもいいけど、そうでないならもーちょい頑張ってほしかった。特にサーリヤと理人は派閥もあるんだからそこらへんをがっつり絡めてもよかったんじゃないでしょーか。

逆に良かった点を挙げると、なんつっても丁寧な恋愛描写に尽きる。ロマンティックで少女漫画的で甘酸っぱい展開を堪能できる。私はエロゲだろうが乙女ゲーだろうがこの手のゲームは根幹の物語の面白さを重視していて恋愛要素は副次的な楽しみになっていたのに、『ガネクレ』は夢とかややこしい設定はどうでも良かった。恋愛描写だけで満足した。そういう意味では貴重なゲームかもしれない。

文章は好みじゃなかった。読みにくい文章ってわけでもないが、変なところでくどくなるし「凝視(みつ)める」と書いたり美紅のリアクションがワンパターンだったりと気になるところが多かった。一方、絵は好みの絵柄ではないものの、塗りが綺麗なのとアングルが良かったこともあっていい絵だなと思わせてくれる魅力があった。それと何気にすごいのがモブキャラにも立ち絵が用意されていた点。一瞬しか登場しないのにやたら可愛い子が多かった。時折影絵が入るのも「物語」であることを演出していてとてもいい。

更に強力な武器になっていたのが音楽で、とうとう乙女ゲーにもエレガが来たのか、と感慨深かった。特にいいのが OP。サーリヤの歌う挿入歌も良かったなあ。ちなみに声優陣にも文句はないんだけど、女性陣がエロゲ声優ばっかなのは笑った。

システムは概ね優秀だけど使いにくいところもある。クロニクルはその場でシーン回想が見れるしどこまで進めたのかがすぐにわかって便利だし、スキップが速いのもいい。けどコンフィグは分かりにくいし、一度 OK ボタンを押さなきゃならないのが面倒。Ctrl で強制スキップが出来ないのも気になる。特に『ガネクレ』はコピペ展開が多いから強制スキップしたい場面も多いのに、いちいち設定をいじらなきゃならないのが億劫だった。というわけで一見便利なように見えて、実は使いやすいシステムとは言えない。こんなところでも長所と短所が混在してるのが……。

アラビアンな雰囲気は好きだし少女漫画的展開は良かったんだけど、やっぱり欠点がどうしても足を引っ張っていて絶賛出来ないのが惜しい。

天橋美紅

超人主人公なのに卑屈だし変に頑ななところもあるんだけど、そこは気になるほどでもなかった。好みだった外見に助けられたせいもある。気になったのは初めてミフターフに飛んでサーリヤに捕まり、姫巫女だと言われた時の反応。自分は姫巫女ではないと否定するのはわかるが、椿ちゃんのほうがそれっぽいから姫巫女は椿ちゃんだよ、といい加減な理由で無責任なことを言うもんだから思わず「はあ?」。どうも「姫巫女というわけのわからない役割」という面倒を友達に押しつけただけに見えるんだよな。でも恋を自覚してからは懸命に相手に気持ちを伝えようと努力するので成長は感じたし、何より「恋をして頑張る女の子」は世界で一番可愛いと常々思っているので最終的には美紅を好きになれた。個別ルート突入時の選択肢の演出はネックだが、それでも個別ルートに入ってからの美紅が恋に落ちていく過程は描かれていたし、そこも美紅を魅力的に見せていたんじゃないかな。

でも先述したように、会話のリアクションがパターン化されていたのは最後まで気になった。知らないことが多いから仕方ないけど「え?」と聞き返してばっかだったり相手の名前を呟く反応を繰り返すだけのマシンになったり、泣きそうになると毎度目にゴミが入ったからと誤魔化したり。あとピンチに陥る場面が多く「きゃあああ!」と女の子らしい悲鳴を上げてばっかだったなあとか。これは作者の癖っぽい。美紅に限らないけど「!?」とか「…っ」も地味に多く、ちょっと鬱陶しかった。

サーリヤ (CV:立花慎之介)

エラソーに見えるけどいい人だった。自分のルート以外でも美紅を助けてくれるし、美紅の幸せを願って現実の世界に帰れと言ってくれるのが切なかった。あの後サーリヤは誰もいないミフターフでたった一人の王として君臨するのかと思うと遣り切れない。なんかこのあたりはちょっと前にプレイした『シャルノス』の M を思い出したけども。

ただサーリヤのキャラクタは好きなんだけど、シナリオはあまり盛り上がれなかった。第一印象が最悪だったせいで序盤は素直になれなかった美紅が徐々にサーリヤに惹かれていく様子や、森に魅入られそうになる美紅をサーリヤが助けて優しく慰める場面とかいつも美味しい果物や花をくれるのがサーリヤだと美紅が知る場面とか印象的なシーンは確かにある。ファラーシャが美紅とサーリヤをからかう場面も、普段は捻くれた態度しかとれない二人が素直な反応を返すのが可愛かった。ただ、これまで他のルートをやってきて先の展開がある程度見えてしまったのと、サーリヤの正体やらミフターフの真相やらが特に面白いわけでもなかったのが響いた。『沐浴の泉』からいきなり現実世界に二人で来れたかと思えば自由に移動出来なかったり、何故か執事服でサーリヤが学園に登場して理人と決闘したかと思えば刺されたり、突然獣みたいになりかけて苦しんだりと、ついていけない場面が多すぎたせいもある。サーリヤって猫じゃなかったのか。なんで獣になろうとしていたのかよくわからん。夢魔の本当の姿ってのはイブリースを見るに虎みたいな感じだと思ってたんだけどなあ。羽根は生えるらしいけども。

BAD ED はそれなりに盛り上がったし別れのシーンもぐっと来たけど(でも盛り上がる場面なのに CG の美紅の尻にばかり目が行った)、二人があっさり諦めたように感じて今一つ切なさを堪能出来なかった。運命に勝てない悲恋は好物だけど、そこに持っていくまでにきちんと盛り上げてほしかった。なんか悲恋に持っていくために二人が動かされているような印象を受けてしまう。TRUE ED も BAD ED 以上に惹かれるものがなく印象に残っておらず、美紅とサーリヤの二人にはニヤニヤ出来ただけに残念。最後のイブリース戦も OP が流れる豪華な仕様で盛り上げて来たけど、肝心のイブリースとのやり取りや戦闘が面白くないので白けてしまった。

ところで何故サーリヤがエマに奪われたはずの美紅の父が作った宝剣を持っていたのか謎だったんだけど、美紅の父が作った本物の宝剣とサーリヤが持っていた宝剣は原材料が同じだけで実は別? エマはちゃんと美紅の父から奪った宝剣を処分していて、じゃあ何故サーリヤが美紅の父と同じ宝剣を持っていたのかというと、美紅の願いを叶える形でサーリヤの母親の形見の宝剣が変化した、ってのが正しいのか。

勅使川原透矢 (CV:近藤隆)

透矢は可愛いと思えるところと苛立つところがあり、印象のアップダウンが激しく忙しいルートだった。男尊女卑発言はともかくののちゃんを泣かせた件でまずイラッと来た。美紅が懸命に寄ろうとしているのを撥ねつけておいて、自分は美紅と仲良く出来ないから美紅と難なく楽しそうに会話出来るののちゃんに嫉妬してあんな発言が出てしまった、ってどんだけ子供なんだ……。最初はツンデレなのかと思ってたんだけど、透矢のあの性格は単に未熟なだけじゃないのかなあ。家の件とか色々縛られて育ってきてたいへんだったのは理解できなくもないけど、それで本人がなんとかしようと努力しているようにも見えない。更に美紅に「大っ嫌い!!」と言われてうじうじするのが鬱陶しい。そして周囲の人間が求める「完璧な透矢」として振る舞おうとしてたってのが、なんというかこっちは苦い気持ちにしかなれなかった……。美紅が他の男子に告白された時の「少しは俺の心を読め!」も滅茶苦茶で吹いた。面倒なキャラクタは好きだけど、こういうタイプは好みじゃないなあ私は。それでもそんな透矢を美紅が知りたいと思うのは、やっぱり自分に似ているからなのかな。似た者同士だから反発もするけど、それでも気になってしまうというか。でも美紅と透矢が付き合っていくのは互いに精神を疲弊してそーで、二人の幸せそうな未来図を描くのは私にはちょっと難しい。

いいところもあった。透矢のオーバーなリアクションは見ていて面白かったし、香水の一件でてんやわんやがあったり二人で星を見上げたり初めてキスをしたり、悪戦苦闘しながら花を作ったりラッキースケベイベントが発生したりで楽しく眺められた時もある。逆ギレ告白も透矢らしくて良かった。でも好きになれない要素がそれらを上回った。私にとって透矢は、とことん相性の悪いキャラクタだったらしい。

白土楓 (CV:寺島拓篤)

予想外に萌えた。こういう気持ちを押し殺すタイプも主従の恋も好み。ただ、身分違いに対する葛藤はあまり感じられなかったなあ。どちらかというと自分が夢魔であることに楓ちゃんは葛藤していたらしいが、イブリースとサヤラーン、キイチ先輩の両親のケースがあるので最初は何をそこまで悩む必要があるのか謎だった。イブリースとサヤラーンはあんな状態になってしまったし、キイチ先輩の両親も離れ離れになっているので「悲しい結末しかない」と思っていたのだとしたら納得も行く。けどそれなら何故王子になったのかが謎。王子になるための条件として「証を立てる」ってのがあったけど、あれも雑に説明されただけだったのでよくわからん。

でも終わってみると楓ちゃんルートは満足できた。他のみんなは学園とミフターフとで名前が同じなのに、楓ちゃんと椿ちゃんだけ名前が違っていることにもちゃんと理由があったし、三人での相合傘や、美紅が買っていた赤いビーズが恋のおまじないだと知ってフォークを何度も落としてしまうお茶会の場面は萌えたし、なにより普段は美紅に忠実な楓ちゃんが実はインキュバスだったというギャップがツボに来た。最後のイブリース戦もナスルだけはサーリヤの助けなしで倒してて笑った。すごく……強いです……。

最後は夢魔を相手にどういうオチにするのかと思ったら、美紅が二人のことを強く思い続けていれば存在し続けられる、という心許ない流れでちょっと笑った。でも美紅と楓との間に何かがあっても椿ちゃんが助けてくれそうな気はするし、そのための「三人」での結末だと思えば納得は出来るかも。

西蓮寺理人 (CV:柿原徹也)

どのルートでもしょっぱい策略を張り巡らしていたのが泣けた。なんつー必死な……。あんまり必死なもんで美紅よりも理人のほうに感情移入してしまったもんな。美紅は理人の本音が見えなくて理人への恋に躊躇していたが、理人の視点からすれば美紅のそんな態度は生殺しにもほどがある。美紅がだんだん自分に落ちて来ているのに落ち切ってはくれないんだから。でも美紅の気持ちもわからなくはなく。理人は序盤から怪しいオーラが漂っていたし、毒も盛るしこれまでの『アミーラ』たちを屠ってきている。これは信じろと言われても難しい。そんな必死すぎて空回りしている理人が不憫で萌える。でもこういう胡散臭い男を好きになる乙女ゲーは多いけど、何故その男を好きになるのかよくわからないケースがほとんどを占めている印象で、でもそんな中で美紅と理人はどちらの気持ちも理解出来るくらいに丁寧に描かれていたのが良かった。最後のエピローグで美紅を試すようなことをしたのも、理人の弱さが出ていてあれはあれで好きだなあ。ああいうことをするから美紅になかなか信じてもらえなかったのに、それでも試さずにはいられない理人の臆病さが可愛い。結果として理人ルートが一番好きなシナリオになった。理人を信じたいのに信じきれなくてでも信じたい美紅と、信じて欲しいのにすべてを曝け出す勇気もなくて空回る理人のもどかしいすれ違いがたまらなかった。

中盤には赤いビーズの恋のおまじないを理人もやるところがツボ。図書室でのキスシーンは『ガネクレ』で一番好きなシーンになった。ブランケットに包まれた理人も可愛かったし、禁断の果実に準えて林檎を使った展開も好み。あとゴミ箱と俺とどっちが大事なんだとか言ってきた時は吹いた。あれは多分『ガネクレ』最大のギャグシーン。

櫻沢輝一郎 (CV:平川大輔)

予想外に楽しかった。キイチ先輩の母親が実は遥香先生だった、という展開は伏線もあまり張られず唐突な印象があったし、青いチューリップの件も綺麗だとは思ったけどそれくらいで、ぶっちゃけ真相云々は面白くもないけどそれは『ガネクレ』という作品の特徴なので諦めた。それよりも学園での美紅との爽やかでじれったい恋の過程を眺めるのが楽しかった。体重 500kg ネタは結構しつこく引っ張るけど鬱陶しいとは思わなかったし、犬の写真を見せてくれたり昼休みに一緒に食事をしようと言いたいのに互いになかなか言い出せなくてもだもだしたり、サッカーの練習中の先輩に見惚れたりで、なんか正統派学園恋愛物語を堪能出来る面白さがあった。逆にミフターフのキイチ王子は印象に残らなかったし、キイチにかかった嫌疑を晴らすためにナスルと決闘する流れも意味不明すぎてもはやどうでもいい。他の王子と違って美紅と過去に出会っていた設定もないが、その分学園で徐々に惹かれ合う感じが微笑ましくてかなりニヤニヤさせてもらった。

ところでサーリヤがキイチにだけは笑顔を見せるほどに心を許していたのは、キイチの人柄もあるんだろうけど「人間と夢魔の子」という共通点があったことも影響している?

白土椿 (CV:結本ミチル)

椿ちゃんの好きな人については名前が出なかったけど、もともと楓とは一人の存在だったことからして恐らくは美紅? だから兄の気持ちは妹というだけでなく誰よりも理解出来るし、かつ兄に厳しい態度を取るようになったのか。

それにしてもキャスティングが卑怯だなあ。こんなもん可愛いに決まっている。

野々瀬実咲 (CV:松元恵)

ののちゃんは地味ながらも堅実で幸せな恋愛をやってそーな気がする。美紅の恋を後押ししたり応援してくれたりするいい友達だった。

御園生絵麻 (CV:田中涼子)

絵麻が愛しているのはイブリースなのか保険医なのか。後者かな。最初はイブリースなのかと思ったけどプレイしているうちに「違うな」と根拠もなく感じたから、後はもう消去法で保険医しかいない。この二人が絡む場面はないが、一番最初の会話は絵麻と保険医っぽいので可能性としてはアリかなあと。ミフターフでやっていることも、イブリースのためというよりは「物語を盛り上げるため」だとしか思えない。いや、まあ、その割には私にとってはあまり面白くなかったんだけども。せめて終盤のワンパターン化はどうにかならんかったんですか。

迦神 (CV:古澤徹)

序盤の夕暮れのシーンで羽根の生えたシルエットが見えるし、正体は恐らく夢魔とかそのあたりなんだろうけどただの夢魔ではなさそう?

櫻沢遥花 (CV:氷青)

見た目と雰囲気がツボすぎて一番攻略したいキャラクタだった。エロゲで。それだけにキイチ先輩ルートですら影が薄かったのが残念。

森の魔導士 (CV:保村真) & 天橋鞠子 (CV:田中涼子)

ぶっちゃけこの二人がいらんお節介を焼かなければ美紅は素直に成長して安穏とした恋愛を謳歌出来たのでは、という気がしなくもないよーな。この二人が二人なりに我が子を思いやっているのはわかるんだけど。

ファラーシャ (CV:松元恵)

美紅とサーリヤの両方の面倒をきちんと見てくれるいいおねーさんだった。この人が出て来た時の安心感はすごかった。冬美ちゃんモードも可愛い。

イブリース (CV:古澤徹) & サヤラーン (CV:松元恵)

最後までプレイしてみるとイブリースも可哀想な男だったなあと。ところで『アミーラ』と『アズラ・サヤラーン』の違いがよくわからないのに誰も説明してくれないんだけど、『アミーラ』の上位互換が『アズラ・サヤラーン』という解釈で合ってるんですかね?