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『学園ヘヴン BOY'S LOVE SCRAMBLE!』感想

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絵は古いし、シナリオも攻略人数が多いのに同じよーな展開ばっかだし、ボイスレスで耳も寂しく感じる。でもバラエティに富んだキャラが揃っており、キャラゲーとしては楽しかった。誤解を恐れずに言うと「主人公を男にした乙女ゲー」という印象を持ったけど、むしろそれが良かったのかなと。

古い作品だからシステムは不便なんだろうな、とプレイ前は覚悟もしてたけどそんなこともなく、むしろスキップは恐ろしく早い。おまけに選択後もスキップが続くので、同じような展開が多くても乗り越えられた。さすが VA 謹製。登場人物は多いけど、一ルートが長くはないのでサクサク遊べたのも良かった。エロシーンは薄いが、『学園ヘヴン』が初 BL ゲーだった私にはこれくらいでいい。

ところでおまけコンテンツでシナリオ担当氏が「こういうシチュエーションで王様受けのエロが見たい!」と熱弁していたのは吹いた。こういうのって地雷な人が多いだろうしスタッフもその点は配慮するものだと思っていたので驚きつつも、初めての BL ゲームだったので「もしかしたら BL ゲーム業界ではこういうノリが許されるのかもしれない」と思うことにした……が、その後周囲の詳しいお姉様方に「いや荒れたから。めっちゃ荒れたから」と教えていただいて「そりゃそうよな」と。他にも、本編の CG に使えそうなクオリティの絵をわざわざ用意してまで他のスタッフが中嶋×女王様萌えを叫んでいたのも衝撃だった。攻略対象同士のカップリングという更に大きな地雷を華麗に踏み抜くこの所業、フリーダムすぎる……。私は王様受けも中嶋×女王も気にならない(むしろ中嶋×女王は結構美味しい組み合わせだと思った)から楽しく読ませてもらったけども。トークの内容も同人誌を出しそうなお姉様がブログで書いてそーな熱い語りで、これも BL ゲームというジャンルが出てきてまだそんなに経ってない(?)時期だからこそ出来たことなんでしょーか。今ではちょっと無理そう。

伊藤啓太

すぐ男にドギマギするのが面白かった。ある意味では BL 作品の受け主人公斯くあるべし、な主人公。流されやすい部分はあるものの暗い展開になっても引きずらせない明るさがあり、そういうところも主人公らしい。すぐ人の事情に踏み込もうとするし無神経だと思う場面もあったけど、すべてプラスに働いたしまー良いんじゃないでしょーか。「運がいい」ってのは万能である意味便利な設定だけど、本作の空気と主人公のご都合主義設定が上手い具合にハマっていたので気にならなかった。

丹羽哲也

豪快でいい加減なところもあるが、集会での演説といい啓太を久我沼から庇って毅然とした態度で接する時といい、かっこいい場面が要所要所で見られるのが良かった。一方で西園寺に構ってもらおうとして振られてしょんぼりしたりと、やたらと可愛い面も多い。啓太が何度も王様を可愛いと思うシーンがあったけど、受けにここまで「可愛い」を連呼される攻めもいいな。後で作者が王様受け派だと知って納得したが、私は可愛い子には攻めをさせたいのでどちらかというと王様攻め派。告白シーンでも王様の不器用なところがよく出ていたし、セックスでも何度も啓太に確認するのが可愛かった。

でも一番萌えたのは OMAKE で西園寺に土下座するシーン。王様は啓太とのカップリングより、中嶋と喧嘩している時や西園寺に必死に構う時のほうが好きなんだよな。この関係のままの、恋人にはならない王様×女王様が一番好きかもしれない。

西園寺郁

男らしく竹を割ったような性格のキャラクタで、見ていて気持ちがいい。一方で王様の弱点を見つけて喜ぶなど、子供のような可愛い面もある。ただ七条が「万人向けのカリスマ性ではない」と言っていたように、西園寺は自分にそうあるように他人にもかなり厳しい。特に退学を告げられて混乱する啓太への言葉がそうだった。西園寺の言葉はもっともだが、普通は学生の身分で西園寺のような崇高な目的意識はなかなか持てない。BL 学園はそういう生徒ばかり集められているから、てのもあるんだろうけど、それを踏まえても少し啓太が気の毒に思えたほど。だから実際にこういう人がいれば私は付き合えないけど、西園寺の言葉に納得は出来るし、二次元のキャラクタとして見ても魅力的だとは思った。好きなキャラクタ。

エロは攻め受けの両方があるけど、啓太×西園寺では CG のまるで戦に向かうかのような表情の啓太に笑った。まーでもセックスは戦とも言えるか。

遠藤和希

プレイ前は一番の常識人かと思ってたら全然違った。啓太が男に惚れるのが当然みたいに考えている節があるし、嫉妬もするし、友達だと言いながらキスするし、幼い啓太にキスしたらしいし、若作りで学生服を着て学園内を闊歩してるしで常識人からは程遠かった。なんかもー BL 作品の攻めキャラクタとして生まれてきたよーな人だ(実際そうなんだが)。でもこの設定は『学園ヘヴン』の世界でならアリだと思えるから不思議だな。設定も美味しいところを独占状態で、黒幕、お兄ちゃん、親友、過去の約束、秘めた愛、優秀なエンジニア、スーツ、帰国子女、王子様ポジション、理事長、と他キャラが気の毒に思えるほどの豪華仕様。こういうベタな設定は好きなので、良くできたシナリオってわけでもないけど突っ込みを入れつつもなんだかんだで楽しんだ。ちなみに年齢は最後まで明かされなかったけど、三十路なのは間違いなさそう。

中嶋英明

副会長で怜悧でサドで聡明、とわかりやすいツボを列挙したような設定なのにピンと来なかった。サドは嫌いじゃないが、中嶋に萌えられないのは啓太が従順だったせいもある。というかこの手の「俺は絶対に攻めだろう」とか自分で思っているよーなキャラクタの顔は歪ませたくなるので、中嶋が受けなら楽しめたのかもしれない。それと中嶋は啓太に絡む時よりも、王様や七条と会話をしている時のほうが魅力的に見えた。

ところで中嶋は鬼畜だと以前から噂だけは聞いてたけど、鬼畜ってほどでもなかった。エロシーンはそこまで酷いプレイを強いているとは思わなかったし、啓太を「お仕置きだ」と称して襲ったのも「護衛するために啓太に近づきたかった」という狙いがあってのことで、中嶋は別に鬼畜ではない。体育倉庫で襲ったのも、啓太を狙う男たちから目をそらすためだった。とはいえどちらもやり方が回りくどいからそこは突っ込むべきだと思うが、SM ショーをやっているバーにさらっと行くあたりからもわかるように中嶋の苛めたがりな趣味が入っていたのかなと。つまり最初にも書いたよーに、中嶋は鬼畜ではなくサド。そういう性癖。啓太にとっては中嶋のやり方は大迷惑でしかないが、最終的に中嶋を許すどころか惚れてしまうので、もう好きにしたらいいんじゃないでしょーか君ら。ちなみに選択肢によって眼鏡の着脱が CG に反映されるところはスタッフの強いこだわりを感じるけど、眼鏡属性を持たない私には差分回収作業が増えた分面倒でしかなかった。

ところでこのゲームの作者はライナーノーツで「他の攻めキャラはみんな受けもやれるけど(思えばこれも結構な問題発言な気が)中嶋だけは受けに出来なかった。あいつは攻めだ」的なコメントを残していたけど、私は中嶋は受けのほうが断然楽しいだろうなーとずっと思いながら読んでいたので、好みがさっぱり合わないのかもしれない。

七条臣

七条ルートは、西園寺との過去や理事長とのつながりが判明するのが面白かった。二人が理事長の調査の手伝いをしたり啓太を影から守っていることは気付いていたけど、まさか王様を守るための調停役も任されていたとは想像すらしていなかった。

七条については彼の生い立ちや過去にいじめに遭っていたことなどが語られており、七条が何故西園寺に心酔しているのかがよくわかって面白かった。ただ、それだけに七条が啓太を好きになるのがピンと来ない。七条ルートを最後まで終えてみても、やはり七条は西園寺が好きだとしか思えないんだよな。そもそも西園寺以外の人間を七条が愛するってのが想像つかない。七条が啓太を愛する結末に説得力を持たせるには、描写が圧倒的に足りていない。コンピュータで学園のシステムに侵入して窓の灯りで「I LOVE YOU」の文字を描いて演出する告白には爆笑したものの、その告白シーンだけでは弱い。七条×西園寺の「僕の運命」ED が一番しっくり来る。

成瀬由紀彦

初対面の啓太にいきなりキスをしてくるが、本当に啓太が好きなのは伝わったし基本的には紳士で、プレイ前と後でいい意味で印象が変わった。和希は成瀬のことをプレイボーイだと言っていたが、積極的かつ一途なだけで別にプレイボーイでもないよーな。

ただ、「男同士なのにおかしいですよ」「啓太がいい子で可愛いから性別なんて関係ない」のやり取りがしつこく続けられるので飽きる。というかこのやり取りは『学園ヘヴン』ではいらなかったんじゃないのか。私はてっきり『学園ヘヴン』は「男同士で惚れるのは当たり前なメルヘンボーイズラブワールド」として見るのが正しいと思ったので、成瀬さんが啓太にアタックしたら啓太も照れながらそれを受け入れてキャッキャしていればよかった。なのにこの世界観で、最初だけならともかく何度も何度も男同士で云々をやられると「はあそうですか」としか言えない。んなもん今更やんけ。シナリオも嵐の一切起こらない凪いだ海を延々航海しているようで大人しいし、これといったハイライトシーンもない。それとこのルートの啓太は成瀬に流される形で恋人になってしまうので見ていて面白くなかったし、成瀬に頬をキスされる立ち絵の啓太がもう完全に女の子なのがちょっとな。でも成瀬は啓太が頼めば受けもやってくれそーな気はした。

篠宮紘司

いくつかの突っ込みどころはあったけど、篠宮ルートのシナリオが一番真っ当で良かった。退学を撤回したい啓太と病気の弟を助けたい篠宮とで、MVP 戦でパートナーを組もうにも願いがぶつかってしまう展開は篠宮ルートしかない。そして誠実で優しく真面目な篠宮に啓太が惹かれるのはよく理解できるし、啓太が篠宮の願いの重さを知って譲ろうとする展開にも無理がない。だから篠宮がそんな啓太に言った「お前の度量の広さを、男として尊敬する」という台詞にもぐっと来た。篠宮ルートは、互いに男として尊敬し合っているのがとてもいい。そんな篠宮の気持ちに恥じない自分であろうとして、また優しい篠宮を悩ませたくなくて啓太が気持ちを秘める「離れても…」ED も良かった。

一方、告白しあってセックスにもつれ込むルートは微妙。この二人なら恋愛に発展するのもありだとは思うが、神棚への挨拶を重視するほど弓道場を神聖視している篠宮が、よりにもよって誰が来るかもわからない弓道場で押し倒してしまうのがな。篠宮のキャラクタを安易なエロを入れることで壊してしまったように思えて萎えた。

岩井卓人

第一印象では儚い人だな、と思ってたらそんなレベルじゃなかった。本当に不幸を背負っていて、放っておくと倒れるわ絵を焼くわ自殺未遂をするわでけっこう困った人だった。ていうかぶっちゃけて言うなら面倒。こういう人と付き合うのは疲れそう。

絵の盗作に関しては序盤ですぐ読めてはいたけど、彼の場合は相手が父親で、その愛人の母親も岩井さんの味方をしてくれず父を引き止めるためだけに息子に絵を強請っていた、というどーしようもない状況でさすがに同情した。相手が他人であればもっと毅然とした態度を取れたのかもしれないが、一番味方になってくれるはずの両親が息子の才能を食い物にしていたのが最大の不幸。ありがちといえばありがちな話なんだけど、啓太がビシバシ叱ってくれるのと、お約束な展開とはいえ話にメリハリがあったので読みやすいシナリオではあった。自分の問題なのに、河本を信じられるかどうかを啓太に委ねていたのはちょーっと気にはなったけども。自分で決断しろ、と岩井さんに言うのは酷なんですかねえ?

というわけで恋愛っつーよりは、啓太が傷ついた子供の世話を焼いているように見えた。エロも啓太がリードしているせいか、子供をあやしているような感じだったし。

滝俊介

賑やかなキャラクタだけど、ルートに入ってみると結構暗い問題を抱えていることが発覚して驚いた。親を盾に生徒を脅してレイプとかほんとどうしようもないな久我沼。

滝に関しては、私が方言キャラにそれほど惹かれないこともあってあまり興味がなかったんだけど、他のキャラクタがやけに大人びているせいか、啓太とのやり取りが年相応の男の子同士の会話という感じがしてそこは良かった。ただそうやって友人としてわちゃわちゃやってる二人が可愛かっただけに、恋愛に持っていくのが残念。いやまあ BL 作品で何を言ってんだとか言われそうだけど、それなら恋愛に発展するまでの筋道できちんと納得させて欲しかった。この二人の場合は滝が強姦されているのを啓太が偶然見てしまったことで意識するようになるんだけど、啓太のほうはともかく滝はずっと男に犯され続けて来て男同士の性行為に拒否感はあってもおかしくないと思ったのに、終盤に啓太をあっさり受け入れてしまったように見えて違和感が先に立つ。だから友情で終わる「コンビ結成や!」ED が一番この二人らしくて好きだな。

海野聡

年上だけど童顔で、大きな丸眼鏡に甘ったるい話し方に、天然入っててドジっ子で、「てへっ」とか言い出しそうな舌を出した表情差分が用意されている先生、という女子の萌えツボをあえて外しているとしか思えない設定には、何かと懐かしさが漂うこの作品においてもわざわざ「何年前のキャラだ」とツッコミたくなった。そして眼鏡キャラなので中嶋同様、眼鏡の着脱が選択肢によって CG に影響するのがやっぱり面倒。

シナリオは先生がいかに純粋かをアピールしているらしいんだけど、むしろ機密保持に関して緩い先生にイライラさせられた。というか先生ルートの MVP は女王様と七条なんだよな。啓太と先生は何もしていない。後半になると何故かその MVP の二人はさっぱり出て来なくなるが、この二人が手を打っていなかったらアウトだった。やけに男らしい啓太が見れたのが面白かったと言えば面白かったけど、見どころはそれくらい。