Antipyretic

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femme fatale

http://www.getchu.com/soft.phtml?id=5260

女性の原罪を描いた物語。これはエロゲでしか描けない。

私がプレイしたのは期間限定で無料配信されたリメイク版で、女性陣がフルボイスになっている上にシステムも刷新されたものらしいけど、音声は文句なしとしてもシステムはそれでも使いにくい。まあ古い作品だし、無料で提供されたものなのでこれ以上は割愛。ちなみに「就寝したら昨日の朝に戻る」というバグが稀に発生していたけど、もう一度同じように進めると問題なく突破できたし、そもそも私が対応していない OS でプレイしているからなあ……。ちゃんとコンプできればそれで良ろしよ。

しかしシステムはともかく内容はツボだった。主人公が探偵だったり可愛い妹がいたり、女学院で起きた強姦殺人事件の捜査をするところから始まったりマップ移動形式で進展していくタイプだったりと共通点の多い『殻ノ少女』を思い出したけど、でも『殻ノ少女』よりすごく地味。犯人を追い詰める段になっても盛り上がることもなく、最後まで淡々としている。なのに退屈しなかった。むしろ淡々としていたのが良かった。外国人が多く集まる港町を舞台にしており、エキゾチックな空気が漂っているのもいいっすね。文章も古風で、大正時代ならではの空気を大事にしていることがよくわかる。

シナリオは基本的に一本道で選択を誤ると即 BAD ED。推理パートのような「思索」コマンドはすべて読まないと進めない仕様でフラグを逃すこともないし、そもそも短い作品なので攻略も簡単。だいたい日中、日没に行き先を決め、深夜に考えをまとめるだけの単調な作業になるが、これが苦にならないのはテンポがいいからかな。「思索」もキャラクタや行き先を一つ一つクリックするごとに志信が情報をまとめてくれるので、整理も出来て理解しやすかった。ただ、キャラクタの基本的な情報を確認するための機能は欲しかったなあ。一応マップに配置されたキャラチップが表示されるが、容疑者や被害者のパーソナルデータや相関図はないんよね。いわゆる『殻ノ少女』でいう手帳が欲しかった。

ちなみに読者が推理をする場面はない。それは志信が勝手にやってくれる。というか真相は単純ですぐに察せられるし、後半になると黒幕(というほどでもないけど)がペラペラ喋ってもくれる。じゃあ読者は何が選択できるのかというと今後の対応や行動で、だから推理アドベンチャーではないんだけど、ミステリでも推理をするよりもシナリオを追うタイプの私には合っていた。登場人物の動機や人間関係を重視しているあたりも好み。

絵も独特だけどこの絵じゃないとダメなレベルで合っていたし、エロもちゃんとエロい。興奮できるエロというよりは鑑賞したくなるようなエロさ。この作品はエロシーンに突入するとビジュアルノベルタイプの画面になるけど、絵が見えにくくなるのでせっかくの魅力を殺しているようでそこは残念(ウィンドウをオフにすれば画像をちゃんと見ることはできるけど)。音楽も良かった。文章と絵と音楽がそれぞれ調和して、独自の空気を作り上げている作品に触れたのは久し振りかもしれない。おかげでどっぷり没入できた。

この作品には男尊女卑が根付いているけど、それも大正時代だから自然でいい。男に縋りつく生き方しかできない女たちの弱さと恐ろしさ、どちらにも抗えない男にとってそれらは罪でしかなく、罪だと言いながら女を愛で、溺れ、やがては破滅させられてゆく。

無駄を一切削ぎ落したような構成も好みだったし、システムの使いづらさを軽々と乗り越えて一気にクリアできたくらいには楽しんだ。レトロで淫靡で美しい物語でした。

八神志信

探偵とはいっても実際には何でも屋をやっていた人で、特に卓越した推理力を持っているわけではないが、この作品で重要なのは志信の探偵として能力ではなく町の名士としての立場。だから情報は次から次へと得られるし、先述の通り事件は複雑なものでもないし志信も容疑者である青柳やフレイアにすぐ当たりを付けるんだけど、その二人(特にフレイア)の真意が見えず混乱させられることになる。実は志信とフレイアが直接関わる場面は少ないが、それでも志信がフレイアの真意に固執するあまり後手後手になることが多く、学院の幼い女子が次々と毒牙にかかっていく。これは志信がフレイアに魅入られたせいだとも言えて、こうした点からもフレイアが如何に厄介な女なのかが窺い知れる。

志信はクールな性格で慎重なタイプでもあるけど、慎重すぎるあまり犯人がわかっていても告発するための決定打が得られず行動に移せないことが多く、読んでいるこちらとしては少しじれったくなる場面も多かった。けど自分の行動一つで犠牲者が増えるかもしれない状況では慎重にならざるを得ないのもわかるし、更に言うとそうした重責に耐えられず真相から目を逸らしてしまう気持ちも理解できないではなかった。例え見て見ぬ振りをしたことで女の子たちが破滅へと堕ちていくのだと知っていても、それでも鈴花と聖美を守るのが精一杯だからと青柳に屈してしまう志信を責められなかった。

しかし事件はともかく聖美への態度はじれったいのを通り越して酷くてもう。こちらは慎重というよりは結局ヘタレなだけですごくエロゲの主人公らしい。事件解明のためとはいえ聖美に女性の心理を問う時などはあまりにも無神経で吹いた。

八神鈴花 (CV:桃井いちご)

志信とは兄妹の禁断愛のような展開は一切なく、鈴花は純粋に志信を兄として慕っているし、志信に至っては鈴花に対して兄どころか親としての意識を持ち始める。お兄ちゃん大好きな妹とか兄の愛を手に入れるあまり倫理観を壊す妹とかそんなんばっか見てきたので新鮮だったなあ。いや、お兄ちゃん大好き妹も恐ろしい妹も大好物ですが。たまにはこういう妹キャラクタもいいものだなと実感。可愛かった。

それだけに鈴花とレイチェルがフレイアの魔の手にかかり、男を誘惑するための女としての調教を受けて犯されてしまう BAD ED は痛々しかった。でも拘束されていた CG の鈴花が美しく眼福でもあったことも事実で、何とも言えない気持ちになった。

桧原聖美 (CV:計名さや香)

婚約者である自分から逃げるようにして志信が東京に行ったことには気づいているだろうに、それでも十年待ち続けた女。重い。志信が自分と一緒になる気がないことに気づいていて、それでもせめてそばにいられたらと令嬢なのにメードとして八神家に住み込んで志信と鈴花の世話を買って出る女。重い。性欲に突き動かされた志信に一度抱かれたことはあるもののそれっきり誰とも交わらず、見合いの話もすべて蹴ってきた女。重い。貞淑で優しくて気が利いて頭も良くて、とこの時代の理想のような女。でも重い。

「…だって女ですもの……すべて心が決めますの…。」

「その人だけに縋らなければ、生きていけないって……それが女ですから……。」

聖美のこの台詞がこの作品のすべてを言い表しているとも言えるかな。貞淑でエロくていつも必死で悲痛でそれがまた魅力的で、私の中に一番強く印象を残した。

篠瀬雪乃 (CV:ヒマリ)

高飛車ではあるけど善良。序盤はカレンを誤解していて(青柳とセックスしている場面を見てしまったのなら仕方ないとも思うが)酷いことも言ったけど、事情を知ってからは反省し、カレンを自分の家に匿おうともしていた。作中で一番というか唯一健全でいられた子かもしれない(貞操の方は理不尽にも奪われてしまうけど、心根がという意味で)。青柳を追い詰めようとして返り討ちにあったりもしたが、そこも含めて今後は更に成長していくんだろうなと思える。きっといい女になるんだろう。

ところで志信が青柳たちへの追及を諦める気持ちも理解できるとは書いたけど、事件解決のために目の前の助けられるはずの女の子に手を差し伸べられない志信がじれったいことに変わりはなく、しかしそれも終盤でしっかり糾弾される。異人たちに輪姦される雪乃を目撃していながら見捨ててしまい、更に雪乃がそれを知ってしまったことで詰られる。結局雪乃は許したが、その時の「……結局、わたくしにはそれだけの価値がなかったと言う事でしょうから……」という台詞が痛かった。志信もその時に察していたけど、恐らく雪乃は志信が好きだったんだろうなあ。自分が犯されている時に、よりにもよって好きな人に助けてもらえなかった雪乃の絶望を思うと辛い。それでも彼女は立ち直って志信のことも許したので強い。志信よりいい男を見つけて幸せになって欲しいなあ。

レイチェル・ヴェルレーヌ (CV:民安ともえ)

ただ美しく可愛らしくあるだけで何もできない少女だが、だからこそ青柳やフレイアの毒牙にかかってしまう子。大人しい子だし劇的な活躍もないんだけど、BAD ED のエピローグでの成長したレイチェルの美しさと、木彫りの小鳥のつがいを兄に作ってもらった鈴花を羨むレイチェルのいじましさは印象に残っている。

カレン・ゴールドスウェイス (CV:桜坂かい)

この子は登場してすぐ殺されるなりなんなりして死体で発見されるんだろうと思っていたので、最後まで無事でいてくれたことには驚いたし安堵もした。

カレンといえば保護者を代行してくれているリチャードとの関係で、このエピソードはリチャードの口から語られるだけだったけど、ここでも「父親たろうとした男を惑わせた」として女の罪が書かれているのが印象深い。

BAD ED では青柳のいいように利用されているカレンを不憫に思った優しい資産家に身請けされ、妻を失ったその資産家の悲しみを受け止めて抱かれつつも大事にされてはいた。やっと彼女も少しは幸せになれるのかと思いきや、今度はその資産家の息子がカレンの美しさの虜になり、カレンもそれに歪んだ満足感を得てしまう展開にゾクゾクした。ここの CG がまた美しくて見惚れる。そして息子の友達も伝染するようにカレンの肉体に溺れてしまい、誰かを惑わせたのならその分満たしてやらねばならないのだと考えたカレンは更に堕ちていく、という結末で結構衝撃を受けた。この作品の最大の特徴はここにあるのかもしれないなあ。雪乃の弟もそうだったように、少年が女の色香に惑わされて幼い性欲をぶつけてしまう場面がカレンのこの結末以外にもいくつかあるが、何も知らないはずの無垢な少年すら女の肉体に引き寄せられる様を描くことで女性の罪を強調している。フレイアも自分で言っていたが、カレンはフレイアに一番近い少女。

黎翠玲 (CV:小林和実)

こういうチャイナドレスの似合うタイプの美女は大好物です。基本的に強かで頼りになる女性ではあるけど詰めの甘いところもあり、そのせいで銃を膣内にブチ込まれて殺されそうになった時はみっともなく哀願していたけど、そうしたところが似たような過去を持っていながらもまるで違う女に育ったフレイアとの違いかな。でも似た境遇で同じ女だからか、フレイアの女としての恐ろしさと罪に一早く気づいたのもこの人だった。

フレイア・カーシェンガー (CV:桃井いちご)

速水はサロメのような女と言っていたが、実際にはサロメを羨んでいた女。

フレイアの恐ろしいところは、男だけではなく女をも魅了していくところにある。フレイアに縋ってしまった最初の被害者やカレンのように、頑なにフレイアの潔白を信じようとしていた雪乃のように。そうして女をも惑わせ、フレイアはかつての自分を作り出していく。そうして出来上がったのが BAD ED のレイチェルやカレンだった。

欲を言えばタイトルにもなっている「ファムファタール」を体現したキャラクタなんだからもうちょっと早くに登場してくれればな、とも思ったけど、なかなか登場しないからこそ私の中で「魔性のフレイア」が出来上がったのかなという気もするし、志信も会ったこともないフレイアの真意を探るあまりフレイアの肉体に溺れずフレイアを知ろうとすることに繋がったのかな、とも思えるので何とも言い難い。それでも出番の少なさはどうしようもなく、私にはフレイアよりも聖美やカレンのほうが印象に残っている。

速水

志信、聖美、速水の幼馴染み三人のちょっとした物語は読んでみたい気もするな。ツェイリンに志信が落ちるかどうかでツェイリンと賭けをしていたのは笑った。

青柳

幼い少女を売っては金にしていくクズ。最期は予想通りだったけど、これ以外の最期はあり得ないよなという気もするしあれで納得もしている。