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ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生

http://www.danganronpa.com/1/

サイコでポップな独特のセンスを生かした絵と演出、スピーディーな学級裁判、強烈なキャラクタと容赦のない退場、露悪趣味に徹した展開、大量に盛り込まれるパロネタや下ネタ、あざといくらいのブラックユーモアと、他ではあまり見られないユニークな要素がつまった毒々しい作品。とにかく胸糞悪い作品で、でもやめ時が見つからなかった。むしろ胸糞悪いからこそ止まらなかった。こういう面白さを押し出しているのが面白い。

私はこの手の作品は推理要素よりも追い詰められていく人間の心理描写が読みたいんだけど、本作ではその点が動機になることは多かったものの、疑心暗鬼に飲み込まれていく過程を描くのではなく学級裁判で推理しながら暴いていくのがメインになっているので、期待していたものとは少し違った。いやまあそれでも十分面白かったけど。

クローズド・サークルのミステリとしては犯人やトリックを把握するのは容易で、現場を見ただけで把握できるレベルのものすらある。しかし本作の推理要素は副次的なものでしかなく、学級裁判でクラスメイトの誤認や矛盾を論破することで爽快感を得ることに楽しみを見出すことが重要になっており、本格的なミステリには敢えてしてないっぽい。要するに推理ゲーではなく学級裁判ゲー。実際、裁判中は緊張感が常にあったし事件は読めていても裁判の行方は読めないことが多く、そこは文句なしに面白かった。「犯人を指摘出来れば犯人が処刑され、間違った結論を出すと犯人以外のキャラクタが処刑される」というルールもシンプルでわかりやすく、わかりやすいからこそ残酷でいい。多数決によって犯人を決めてしまうのもその後におしおきをわざわざ「見せられる」のも、どちらも最高に後味が悪くて素晴らしい。ただおしおきは CHAPTER 01 の処刑が一番悲惨で、そこで慣れてしまったせいかそれ以降は物足りなく感じてしまった。

裁判中のミニゲームはバリエーションもあったけど、あまり楽しめなかったなあ。ノンストップ議論は勢いもあったし議論している感じも出ていて良かった。ここはフルボイスになっているのも大きい。例え犯人やトリックがわかっていても、徐々に真相へと近づいていく様を眺めるのは面白い。閃きアナグラムやマシンガントークバトルは単調で微妙。クライマックス推理もコマを選ぶだけなんだけど、絵の内容を把握しづらい時があった。でも失敗しても簡単にリトライできるところは親切で良かった。

文章は悪趣味で嫌らしくかつ読みやすく、絵も作風に合っていて良かった。絵といえば血の色は全部ショッキングピンクになってるんだけど、それが余計に『ダンガンロンパ』特有の毒々しさを感じさせてとても良かった。背景も入室した瞬間の飛び出す絵本のような演出も味がある。若干待たされるので、終盤になるとちょっと煩わしくなったけども。校内を徘徊している時に感じられる閉塞感もいい。音楽もシーンに合わせた選曲がいいし、楽曲のクオリティも高くサントラが欲しくなるレベル。

一方、システムへの不満は多かった。例えばマップからワープしようにも一度メニューを開かねばならない上にワープ出来る場所が限定されており、特に終盤であちこちに向かわなければならない時は面倒に感じた。△ボタンで簡易マップが開くけど、こちらを無くして手帳から開けるマップのほうを採用してほしかったな。

キャラクタはみんな個性的かつ魅力的で、だからこそプレイしているこちらも陰鬱な気分にならずにはいられなかった。殺害動機に遣る瀬無いものが多いのも何とも言えず、そこがまた良かった。キャラクタとの掛け合いもテンポがあって面白いし、自由時間では好感度を上げることによって掘り下げてくれるのもいい。キャラクタ専用の結末はないけど、あっても攻略が面倒になるだけだろうからなくて良かった。ただ通信簿のコンプリートは挫折した。チャプターセレクトでやり直せばいいんだけど、自由時間から始めることは出来ないしそこに辿り着くまでが億劫。通信簿を埋めることで好きになれたキャラクタも多数いたので、出来れば全員埋めたかった。

作中のキャラクタだけではなくプレイヤをもとことん嫌な気分にさせる、という意味では一種の完成形に近いかもしれない。コロシアイ学園生活は見ていて不愉快な気分になったけど、それは「良質の不愉快さ」だった。何よりサクサク遊べたのも良かった。

苗木誠 (CV:緒方恵美)

主人公の幸運設定はよく見るけど、そう思わせて実は超高校級の不幸だったのは面白かった。そして最後には超高校級の希望へと変わるのも納得。苗木は不幸属性の持ち主だったから人一倍希望を求める気持ちが強かった。だからこそ終盤の台詞が輝く。

「ボクは諦めたりしない。飽きたりしない。捨てたりしない。」

「絶望なんかしない!!」

まさに江ノ島の対極にある存在で、江ノ島の誤算は苗木の存在だったんだろう。本人は自分を平凡だと言うけどとんでもない。とにかくタフ。彼は優しい子だったけど、その優しさも彼がタフだったからこそ生まれたものなんだろうなあ。

舞園さやか (CV:大本眞基子)

いきなり苗木に積極的に接して来たり武器を探しに行ったかと思えば適当な模擬刀を見つけた後はあっさり話を変えたりであからさまに不自然な点が多く、最初から怪しかった。部屋の交換の申し出なんて絶対に殺人を考えてるよな、と警戒していたら案の定。結果的には返り討ちに遭い、第一の被害者になってしまったのは予想外だったけども。そんな舞園さんの予想外の行動力やキャラクタ、ビジュアルは好みだったし、この数多いキャラクタの中でもかなり好きな女の子になった。「エスパーですから」も可愛い。

舞園さんが苗木を本当はどう思っていたのかはわからないままだけど、恐らく彼女自身も自分で理解できてはいなかったんじゃないか。モノクマから「動機」を与えられたことで追い詰められていたし、そんな状況で自分の気持ちと向き合える余裕を持つのは難しい。ちなみに私は霧切さんと同意見で、舞園さんには迷いがあったのだと考えている。モノクマに DVD を見せられる前から苗木とは仲良くしていたし、あの「助手ごっこ」も本当に楽しんでいるように見えたから。でも例え苗木に好意を持ったのだとしても、吊り橋効果による影響は大きいんだろうなあとも思うけど。

わからないのは舞園さんが桑田を狙った理由なんだけど、芸能界をそれこそ必死に生きてきた舞園さんにとって「カッコイイから」という理由だけでミュージシャンを目指そうとしている桑田が気に食わなかったのか、と考えたんだけど根拠としては弱いか。桑田が女好きでチョロそうに見えたから、てのが一番わかりやすい理由かもしれない。桑田の通信簿を全部埋めると、桑田が舞園さんを狙っていることがわかるし。

桑田怜恩 (CV:櫻井孝宏)

最初のクロ。でも彼の場合はきっかけが正当防衛だったし、殺意があったかどうかについてはセレスに論破されていたが、あの異常な状況だと殺意が生まれてしまうのも仕方がないかなとも思える。モノクマの狙い通り「殺人が起きやすい状況」が作り上げられていたんだから、桑田はそれに影響されてしまった。彼自身もモノクマから与えられた DVD によって揺さ振られていたこともあるし、だから「不運」としか言いようがない。とはいえ殺意を抱いてしまったことには変わりはないし、桑田自身のためにも本来なら罪を償うべきではあるんだけど、モノクマのおしおきが酷いからなあ……。特に桑田のおしおきが一番残酷だったよーな。最初に見せられたせいもあるんだろうけど。

桑田は真っ先に退場するし、同時に退場する舞園さんとは違って苗木と時間を共にするような強制イベントもないので印象は薄いが、「超高校級の野球選手」という設定がちゃんと犯行に反映されていた数少ないキャラではあったな、と。ランドリーでの証拠隠滅方法は滅茶苦茶だけど、その滅茶苦茶がまかり通るのが「超高校級」設定なのだとすんなり納得できた。でも『11037』はさすがにわかりやすかったなあ。アホな私でも初めて殺害現場を見た瞬間に犯人がわかってしまうレベルだった。

終盤の「アホアホアホ」連呼は、崖っぷちにまで追い詰められてどうしようもなくなった桑田の必死さが生々しくて何とも言えない気持ちになった。哀れ。

霧切響子 (CV:日笠陽子)

ヒーローでありヒロインであり探偵。序盤から存在感も安定感も抜群で、たいへん頼もしかった――と同時にイライラさせられることも多かった。十神もなんだけど、二人して裁判では苗木に何度も代弁させようとしてくるのがうんざりした。まあ裁判は多数決を採っているし、全員からの信頼が一番高そうな苗木に敢えて言わせたかった、てのもあるんだろうけど。それと裁判以外でも CHAPTER 05 以降は意味深長な台詞をさらっと言い残して何も説明せずに去っていくなど苗木を悪戯に振り回すこともあり、それも地味に苛立たされた。でも一番イライラしたのは CHAPTER 04 のさくらに関する隠し事の件。苗木が何か隠し事をしていることに気づいて、それを教えてもらえず苛立ってその後しばらくシカトしてくる霧切さんがもーめんどい。霧切さん本人はしょっちゅう隠し事をしているようにしか見えなかったから尚更、彼女の態度が身勝手に思えて気に入らなかった。苗木は仲間を信じろと言ったくせに、みたいなことを言ってたけど秘密の内容によっては対応や扱いも当然違ってくるし、信じるにしても通すべき筋や段階がある。何より仲間を信じているのであれば、言えない事情があるんだろうなと考えるのが普通じゃないかなあ。さくらの秘密が暴露されてからは反省していたけど、結局謝罪がなかったのも気になる。黒幕の襲撃が予想される隠し部屋に苗木を行かせたことも最後まで謝罪せず。一言「ごめんなさい」と言うだけで印象は違ったんじゃないでしょーか。

一番印象深かったのは、やっぱり CHAPTER 05 での黒幕の罠による裁判。この時に霧切さんは苗木を見捨ててしまうが、これは霧切さんの心情も理解できる。自分の失態で苗木を巻き込んでしまうものの、自分の命惜しさに苗木を救える手段(自分がすべての部屋のドアを開けられる鍵を持っていることを提示する)があるのに救わなかった。苗木を自分が殺してしまうという覚悟を決めた上で、見て見ぬ振りをした。でも自分の命を惜しいと思うのは人なら当然のことだし、何よりも霧切さんには目的もある。そしてモノクマがタイムアップを宣言しなければ、犯人が苗木でも自分でもないことをわかっていた霧切さんは時間をかけてみんなとの議論の中で真相へと持っていくつもりだったんだろうこともわかるから、あそこで苗木を見捨てた霧切さんを責めることはできなかった。

ちなみに苗木が霧切さんの嘘を追及すると分岐するが、こちらの結末は苗木の妄想というか想像? 苗木が霧切さんの嘘について言及すべきかどうか葛藤している最中に画面が暗転するが、あの暗転が晴れたあたりからが恐らく現実との境界線かな。それ以降で嘘を追及すると苗木の想像の中の展開で、嘘を追及しなければ現実のルートという扱いになると見て良さそう。だからあの衝撃の結末は夢オチみたいなものだけど、これがまたえげつない内容で吹いた。黒幕の思惑通りに苗木の指摘によって霧切さんの疑惑が確定し、処刑されてしまう(ちなみに霧切さんが処刑される時にアルターエゴが何もしないのは現実ではないから。苗木はアルターエゴがウイルスを仕掛けていることなんて知らないから想像の埒外)。この処刑も後味の悪い内容。机に座って性教育を受けている霧切さんが机ごとベルトコンベアでゆっくりと後ろに向かっていくんだけど、終点にはプレス機が待ち構えているという外道っぷりで、これを霧切さんのために用意していたモノクマはよほど霧切さんが気に入らなかったのだな、てのがよく伝わってきた。これから死ぬ子に性教育ってのがまた酷いし、彼女の顔色が赤から青に変化していくのも痛々しかった。

十神白夜 (CV:石田彰)

かませメガネ。でも噛ませ犬として見ても十神は有能なキャラクタで、そういう意味で大活躍してくれた。偉そうではあるけど、十神は十神で人に甘えず自力でそれこそ死に物狂いで這い上がってきた人だからこそあんなに自信満々なのも納得がいく。偉い人は偉そうにしていてもいい。千尋の死体にわざわざ偽装工作をしたりコロシアイをゲームとして楽しむなど厄介な面もあるが、人の心を顧みなかったが故の失態を犯してからは成長し、最後にはツンデレになるというお約束もこなす。「なん……だと……」系台詞も終盤には連呼してくれるのも美味しい。テンプレ台詞と言えば序盤の「俺は一人で行動する」云々もそうだけど、こんな露骨なフラグを立てておきながら最後まで生き残ったのは笑った。

ところで CHAPTER 02 では事件を引っ掻き回し、それでも真相に辿り着いた苗木を危険視していたが、あれはアンタがご丁寧にもヒントを大量に教えてくれていたからじゃないですか何言ってんだ、と突っ込みたかった。あんな親切に教えておいて、苗木は気づかぬまま十神を犯人だと指摘するピエロになってくれるだろうと本気で思っていたのだとしたらいくらなんでも人を舐めすぎですよお坊ちゃん。

衝撃だったのはやはり CHAPTER 05 の分岐。苗木、十神、葉隠とその三人の子供たちと朝日奈さんが笑顔で写っている写真が出てくるので朝日奈さんが三人の子を産んだんだろうけど、穏やかな笑顔を見せている十神にも驚いたし、腐川さんが死んでいることにも驚いたし、腐川さんの遺影を十神が持っているのも驚いた。一見みんな穏やかで幸せそうなのに、上手く言えないけど眺めていると地味にダメージの食らう絵だなあ……。

朝日奈葵 (CV:斎藤千和)

サービス CG が用意されてたり巨乳ぶりを何度も言及されたり(主に腐川さんに)出産する結末も夢オチとはいえ見れたりと、わかりやすい位置にいる女の子。まともな価値観の持ち主で友人思いでもある朝日奈は好きなキャラクタだけど、髪は下ろしたほうが可愛いと思うな私は。最後まで生き残れてよかった。ドーナツいっぱい食べてください。

ただ CHAPTER 04 でさくらの死を償うためにみんなを巻き込んで死のうとしていた思考回路は異様。これは CHAPTER 02 で千尋の死体に細工をした十神の姿とも対比になっていて、違うのは十神はゲームを盛り上げるための演出としてやっただけで死ぬ気はなかった点と、朝日奈は追い詰められて本気で死のうとしていた点。だからこそ十神は衝撃を受ける。それでも朝日奈が実際に殺人に手を染めていなかったのは幸いだった。

朝日奈といえば CHAPTER 05 での分岐 ED だけど、あれは薄ら寒かったなあ……。『ダンガンロンパ』は何かとえげつない作品だが、こういうえげつなさもちゃんと用意しているところも面白い。ゾッとした。しかし子供が全員あそこまで父親に瓜二つだと、誰の子だなんだのと修羅場にならなくていいですね(我ながら酷い感想)。

石丸清多夏 (CV:鳥海浩輔)

「超高校級の風紀委員」は何がすごいのかよくわからんが、彼が特に何らかのジャンルで優秀だったのではなく、単に真面目で規律に忠実なキャラクタだから風紀委員っぽい。空気の読めない言動が目立っていたが、悪い子ではなかった。

印象的だったのはやっぱり CHAPTER 02 から CHAPTER 03 までの流れ。サウナでの我慢比べを経て大和田との仲を深めて「兄弟」とまで呼ぶようになり、しかしその大和田がクロだったことで石丸は絶望し、大和田を最後まで庇っていたのが遣る瀬無い。マシンガントークバトルもすでに犯人だと認めてしまった大和田ではなく、それでも無罪を信じようと抵抗していた石丸が相手となったのがまた……。そして大和田が処刑されてから廃人のようになるも、アルターエゴの励ましによって一見覚醒――したように見えて実際には更に壊れてしまったような気がしないでもなく。これは復活ではなく現実逃避だろう。名を「石田(石丸+大和田)」と名乗り、口調も大和田のしゃべり方を模倣したような乱暴なものになり、かつての石丸以上に暑苦しい性格へと変貌するが、正直この時点で石丸の退場が予測できてしまったし、それが当たってしまったのが……。

石丸はとにかく極端で、まだ仲良くなって日もたってない大和田を何が何でも信じようとする点やその後の廃人化と覚醒にもそれがよく表れている。それが痛々しかった。

腐川冬子 (CV:沢城みゆき)

ダウナーな文学少女かつアッパーな殺人鬼。ジェノサイダーが登場してからは殺人鬼のテンションが高いこともあってそちらの印象のほうが強いが、どちらかというと根暗な文学少女の腐川さんのほうが好み。通信簿も真っ先に埋めた。とはいえ世を賑わせていたらしい殺人鬼と一応協力関係を結べる、という展開も面白かったし、ジェノサイダーも奇妙な頼もしさがあってこちらはこちらで美味しい。萌える男は全員殺してきたジェノサイダーが十神だけは殺そうとは思わないらしく、そこらへんは「よくわからんがさすが十神だ」と述べるしかないけれど、十神に惚れたことで外の世界に出てももう殺しはしないと言ってたし、十神一族再興を目指す十神にとっても心強い存在になるんじゃないかなあ。いや殺し以外に何ができるのかと問われるとアレだけど、もう一人の人格は文才があるのは確かだし、何よりも腐川もジェノサイダーも十神の命令には忠実なのだから、やれと言われれば何でもやりこなしてしまえるんじゃないか。それこそ愛の力で。

大和田紋土 (CV:中井和哉)

CHAPTER 02 でのクロ。犯行動機というより殺意の衝動のきっかけとなったのが、弱いまま自分から脱却しようとしていた千尋への嫉妬だったのが……。

千尋は大和田は強い強いと一方的に称えていたけど、序盤から恐怖を覆い隠すために凄むシーンが多かったので強いという印象は受けなかったなあ。でもこれは私が物語を俯瞰的に眺めているから気づけたことなんだろうし、コンプレックスを抱いている千尋にとっては大和田の「一見テンプレのような男らしさ」は正に理想そのものだったから、強く見えてしまったんだろうことも理解できる。でも大和田に強い強いと連呼するシーンは「もうやめてやれよ……」と思っちゃったな。大和田があまりにも気の毒で。ただ千尋に非はないし、やはり殺してしまった大和田が悪いけども。

大和田のキャラクタはこう言っちゃなんだけど面白かった。兄との勝負の最中、負けそうになって焦って死にかけた大和田を兄は庇って死んだ。自分が殺してしまったようなもので兄との勝負にも勝てなかったが、それでも大和田は「自分が兄に勝った」「負けそうになった兄が焦って自滅した」と嘘をついた。兄に暴走族のチームを託されて、真実を話すことでチームを分裂させるわけにはいかなかったから。でも自分の罪を隠しておきたいという気持ちもあったんだろう。皮肉にも今際の際の兄が「男同士の約束」だと託したことで重い理由が出来てしまった。伏せなければならないから真実を伏せたのも本当で、でも伏せたいから伏せたのも本当だった。しかしそうした罪悪感に耐えられるほど大和田は強くない。重すぎたんだろう。それも無理からぬことだとは思う。

そして残酷なことに、千尋殺害の折にも大和田は同じような状況に陥ってしまった。千尋の秘密を打ち明けられ、咄嗟に殺してしまったとはいえ千尋が男であることは伏せなければならない。何故ならば「男同士の約束」だから。そのために大和田は千尋の殺害現場ごと入れ替えるようなことまでしたり千尋の電子手帳を壊したりしている。一方で、自分の罪を隠蔽できるから、という理由もあった。学級裁判の最後のほうまで自首もしないし、苗木に指摘された時も抵抗しているのがその証拠。

先にも書いたように理由はどうあれ大和田が千尋を殺してしまったのは事実だが、そうした状況を作り上げたのはモノクマなんだよなあ。モノクマに追い詰められて不安定になっていたところに、同じくモノクマに追い詰められているはずなのに強くあろうとしている千尋の姿を見せられて殺してしまった、てのがもう……。

おしおきも最後にバターになってしまったらしいのがなかなかにえげつない。大和田の顔写真の入ったパッケージが出てくるあたりもシュールで悪趣味。

大神さくら (CV:くじら)

さくらの誠実さは数少ない台詞からも感じ取れたので、彼女が内通者だと知ってからも不安は感じなかったなあ。ただ自殺は予感していたし、実際その通りになってしまったのはやはり寂しい。安定感のある貴重なキャラクタだったし、さくらが死んでしまった時は死を予感していてもショックを受けた。しかも真相を追ってみると、咄嗟の行動とはいえ葉隠とジェノサイダーには殺される勢いでビンで殴られているし、みんなのため、そしてけじめをつけるための自殺だったのにモノクマが余計なことをしたせいでさくらの遺志を誤解した朝日奈が絶望し、おかげで全員が危うく処刑されるかもしれなかったんだから一歩間違えばさくらの決意が無駄になったかもしれなかった。それでもさくらは苗木たちなら乗り越えてくれると信じていたのかもしれない。自分が死後に何が起ころうとも、例えモノクマが引っ掻き回しても、みんなが自分の遺志をちゃんと汲んで生き延びて黒幕と戦ってくれるだろうと。実際その通りになったし、あの十神ですらさくらの死と朝日奈の(誤解だったとはいえ)覚悟を知ってゲームを降りると宣言したのが熱い。学園長室のドアの鍵を壊してくれたのもさくらだったが、ここから真実への道が開いていったことを思えばさくらなしでのゲームクリアは不可能だった。私は物語の中でキャラクタが安易に自殺するような展開は白けるけど、そんな捻くれた私でもさくらの選択は尊いものだと思えた。ゲーム開始時点ではさくらがここまでの貢献度の高いヒロインになるとは思っていなかったなあ……何気に貴重なパンチラ要員でもあるしな。

ちなみにさくらは強かった人だと結論づけられていたが、黒幕に脅迫されて内通者になってしまった弱さも抱えているので朝日奈の言葉も正しい。ただ、生きるために足掻こうとして死んでいった仲間たちを見てきてさくらも逃げることをやめた、てのがいい。これまでの仲間たちの死がさくらを変えた。苗木も言っていたように、例え死んでしまっても一人残らず無駄死ににはさせまいという思いも感じる。

朝日奈との友情も良かった。あの環境だと疑心暗鬼に陥っても不思議はないが、この二人は自然と親友と呼べる仲になったんだろうなあ。二人ともいっそ怖いくらいに相手を信頼していたのが眩しい。普通の学園であれば放課後に二人で女子高生らしくドーナツを食べに行ったりしたのかな、と妄想すると楽しい。と同時に切なくなる。

山田一二三 (CV:山口勝平)

よくある「オタク像」をそのまま表現したかのようなキャラクタ設定だけど、山田は基本的には常識人であることがわかるし可愛いところもあるしで結構好きだった。私の動かす苗木が自由時間を山田と過ごすことはなかったが、山田自身は二次元以外には興味がないと言いつつみんなの輪の中に馴染んでいた。つーか同人作家として成功するには横の繋がりも重要になってくるし、山田に協調性があるのは当然なのかも。見ていて特にイライラさせられる面もなく、ウザく描かれてはいるがウザくない。下ネタも多かったけど、彼の下ネタはいい意味でテンプレを踏襲していて不快になることはあまりなかった。

しかし CHAPTER 03 で共犯を持ち掛けたセレスの誘導によって石丸を殺害するも、口封じのためにセレスに殺されて呆気なく退場。死ぬ直前に記憶が戻った山田の心境を思うと遣る瀬無い。ところで死後とはいえ霧切さんのような美女に自分のパンツの中に手を突っ込まれたのは山田にとって幸福だったのかそうでないのか。学級裁判でそのことを苗木が告げた途端、パンツに食いついたのがジェノサイダー、朝日奈、さくらと女子ばっかだったのはなんかめっちゃわかる。いや笑ったけども。

最後でセレスがアルターエゴに恋をしてアルターエゴのために動かされた山田のことを振り返って、「愛の力…それが歪んだ愛情であっても、やはり愛情とは人を狂わせるものですわね。」と告げるシーンは印象的だった。

セレスティア・ルーデンベルク (CV:椎名へきる)

ビジュアルは一番好きだった。けどセレスと自由時間を過ごすことがなかったせいかギャンブラーと言われてもピンと来なかったし、一人で「外の世界は諦めて大人しく学園での生活を受け入れて適応すべき」だと主張したり山田を召使いのように扱ったり西洋の城でイケメン執事にヴァンパイアの格好をさせて侍らせるという夢のためにギャンブルで荒稼ぎしていたことを告白したり、「強姦されて写真に撮られて脅された」と殺そうとしている石丸の名誉を傷つけたりそれで山田を殺意を引き出してコントロールしたりその山田を騙して殺したり、普段も得体のしれない風を装ったりしていることからも「超高校級の魔女」のほうがまだしっくり来たかもしれない。おしおきも魔女狩りをモチーフにしていたのだし……。「超高校級の魔女って何?」と言われても困るが、石丸みたいなよくわからない「超高校級の風紀委員」が罷り通るなら魔女でもいけそうだなと。

セレスが活躍するのは彼女が真犯人だった CHAPTER 03 だが、犯行自体がお粗末な上にセレスの誘導があんまりにもわかりやすく必死でもう見ていて可哀想なくらいだった。死体発見アナウンスを利用した点は面白かったんだけどなあ。セレスは苗木たちが真犯人に辿り着けたのは山田のせいだとか言っていて、確かに厄介なジャスティスロボを作ったり血で汚れた眼鏡を吹いたり台車を引いた痕跡を残したりと山田には迂闊な点が多かったけど、セレスも露骨すぎた。むしろこっちのほうがわかりやすかった。

ちなみにセレスは初めから山田を殺すつもりで彼を利用したことについて「勝つ為に全力を尽くしただけですわ。」と答えて朝日奈たちに顰蹙を買っていたが、セレスの意見を否定することは難しい。確かに殺人はやっちゃいかんが、そういうルールになっているからセレスはそうしただけのこと。私としてもセレスのやったことをやっぱり肯定はできないけど、セレスのような価値観を持つ存在がいてもおかしくないな、とも思う。

「自分の為に他者が犠牲になる事について、わたくしは何も感じませんし、何も思わないのです。」

「わたくしは…そういう風に完成してしまっているのです。」

けどこの台詞は、セレスが「そうしないと生きていけなかったから」ではないかとも思えて切なくもなる。勝つためには他者も利用するし犠牲にもする。そのことをセレスは何も感じないようにしているし思わないようにしている。しかし実際は感じないのではなく思わないのでもなく、感じないようにしていて思わないようにしている、てのが正確じゃないかなあ。そういうふうに完成しているのではなく、完成させるしかなかった。そして綻びが見え隠れしているから実は未完成。その後、自分が生まれ変わった後のことについて言及し、一度言葉を止めてから「マリーアントワネットになりますわ。」と答えているのも「生まれ変わったら今度は自分の本来の価値観に対して忠実に、そして嘘をつかずに生きていきたい」と答えたかったんじゃないか。セレスの言葉に対して葉隠が「そしたら、また処刑だけどな…」とも言っているが、セレスはそのこともわかっていたからこそ、敢えてマリーアントワネットになるのだと答えたんだろう。だからセレスは本当は石丸や山田を犠牲にした罪悪感を抱えていて、でも自分が生きるために犠牲にするしかなかった。そのことを最後まで隠したまま処刑された。セレスは孤独な魔女だ。

というわけでセレスは面白いキャラクタだった。元々ビジュアルは好みだったのだし、自由時間で彼女と話せばよかったと後悔したくらいには。

葉隠康比呂 (CV:松風雅也)

彼が最後まで生き残れたのが一番驚いた。そして占いは何気に一部が本当に当たっているのが恐ろしい。それと葉隠の通信簿を埋めてみたら、仲良くなるどころか葉隠のどうしようもなさが浮き彫りになってくるのは笑った。ただ彼は悪い人ではないし、苗木も言っていたように適切な距離を保ったままであればそれなりにいい付き合いは出来そうな感じ。アホな発言も多いし天然でそこがまた厄介だけど、不思議と憎めない奇妙なバランスで構築されている面白いキャラクタだったなと。

江ノ島盾子 (CV:豊口めぐみ)

絶望厨。本当に「それだけ」と言っていい動機だったのは驚いた。だからこそ江ノ島本人にもどうすることもできない。江ノ島は産まれた時から絶望していた子で、それはある種の才能で絶望の天才。だから江ノ島は結果として、自分の生まれ持った才能に殺されたと言ってもいいんじゃないでしょーか。悪役としても一本筋が通っていて見ていて清々しいくらいだった。江ノ島が真に求めているのは本当に絶望だけで、そのために黒幕として暗躍する自分が失敗する要素も故意に入れていた、という設定はずるいけど説得力もある。そうしたずるいところを含めても魅力的だった。最後の自分に向けたスペシャルなおしおきはこれまでのおしおきを全部再現しただけの内容で落胆したが、最後のモノクマを抱いて笑顔でピースしたまま圧死したシーンがもう本当に可愛くて心を鷲掴みにされた。

ちなみに飽き性っつーことでキャラクタがころころ変わるけど、あの「演じているキャラクタ」の中なら私様が気に入った。自信満々な立ち絵もいいし王冠を載せているのも可愛い。でも一番魅力的だったのはやっぱり素の江ノ島かな。絶望的な可愛さだった。

人類史上最大最悪の絶望的事件については、いきなりスケールの大きい話になったので面食らったが、これまでの閉塞感のあった学園生活よりも外の世界のほうが絶望的だった、という展開はこれはこれで対比が効いていてありかもしれない。ちなみに人類史上最大最悪の絶望的事件についての詳細は語られなかったが、そちらはぶっちゃけ興味がなかったので説明がなかったのはありがたかった。

不二咲千尋 (CV:宮田幸季)

男の娘設定は声優でバレバレだが、制作サイドのほうも隠す気はなかったんだろうなあ。特に CHAPTER 02 突入後は初っ端からわかりやすいヒントが散りばめられている。しかしいつかは自分でみんなに秘密を告白しようと決意していたのに、殺害された後になってみんなに知らされてしまうのが、なんというかこうあまりにも……。大和田との結末についても、二人ともが些細なことですれ違ってしまったのことが原因だったとも言えるのが切ないやら何やらで胸を塞がれるような思いだった。

千尋の死後はアルターエゴが活躍するが、元々外身も中身も可愛かった千尋の人格を受け継いでいるせいか、人工知能だというのに石丸に喝を入れたり山田をメロメロにさせたことで「二人の男による奪い合い」が発生するのは笑った。しかしそれをセレスに利用されて石丸と山田が殺されてしまったのはなあ……。この二人が殺された経緯をアルターエゴが知らされなかったのは救いか。――と、私もこうしてアルターエゴを人間と同一視しているから山田が恋をするのも納得はできなくもない。結局はさくらの代わりに処刑されてしまうが、その後もウイルスを仕込んでおいて苗木の処刑を助けるなどファインプレイで魅せてくれるのも良し。貢献度の高いキャラクタでした。

戦刃むくろ (CV:豊口めぐみ)

むくろとして登場する場面が正体不明の死体としてしかないのであまりコメント出来ることは少ないが、最初の苗木の江ノ島へのさり気ない印象が伏線になっていたのはやられたなあ。でもこの時のむくろのニカッとした笑顔はすごい良かった。妹は残念なお姉ちゃんだの絶望的に可愛くないだの言ってたが、正直この姉妹の見た目の違いがわからん。

妹のほうはガチで絶望厨だったけど、姉がどの程度イカレていたのかは不明。超高校級の軍人なのにグングニルの槍を避けられなかったところを見るに、結構迂闊というか妹と比べても覚悟も性格も絶望度合いもマシじゃないのかなとは思うけど。

モノクマ (CV:大山のぶ代)

外道で下ネタも連発してくるのに何故か憎めない。中の人の功績も大きい。ずるいとも言うな。モノクマ大山のぶ代氏が演じたというだけで本作は 60% くらい勝利を掴んだようなもんだけど、その最大の武器に頼り切らずきちんと作られていたのは良かった。

でも最後の意味深長なモノクマ復活は蛇足。江ノ島は実はまだ生きてます的なオチだったら萎える。彼女は絶望に幸福を感じながら笑顔で死んだからこそ良かったのに。