Antipyretic

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蝶の毒 華の鎖

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18禁乙女ゲーの中では一番好きな作品かもしれない。ボリュームはちょうどいいし、内容も濃密で絵も美しく『月影』同様に一度のエロシーンで CG が複数用意されている豪華な仕様。大正時代の没落した華族令嬢と館の退廃的な空気も良かったし、それぞれの魅力的なキャラクタの抱える闇に惹かれるようにして一気に読めた。犯人がすぐわかるとはいえサスペンス要素もあり、謎を追いかけるのも楽しい。

UI デザインはパッとしないし、メニューボタンが作品世界に合わせるためか漢字で表記されているので直感での把握は難しいが、とりあえずそれなりに快適なプレイは出来る。次の選択肢にジャンプも出来るのでただでさえ短いシナリオが余計短く感じるが、物語の内容が濃いのであまり気にならなかった。ただ、背景が安っぽいのはちょっとなあ……。初めて車内の CG が出てきた時は驚いた。商業作品の背景とは思えないレベル。更に不満を挙げるなら、華族の名前が石川だったり白川だったり白田だったり飯田だったりと似たような名前ばっかで紛らわしい点と、あとこれは好みの問題だけど三郎に凌辱されるシーンは欲しかった。テキストでサラッと語られるだけで終わったのが物足りなかった。

テキストは軽快で読みやすく、独特の世界観から妖しい魅力を引き出してくれる筆致で作品にも合っている。特に印象的なのが香りの描写が多い点で、百合子の匂いを始めとして香水や体臭などに度々言及されるのが面白かった。BAD ED に力が入ってるのも相変わらずで、『コイビト遊戯』もそうだったけど丸木さんはただ悲惨なだけではなく、説得力があって萌える BAD ED を描くのがほんとうに上手い人だなあと。

野宮百合子

お嬢様なので世間知らずな面もあるが、基本的に言いたいことはズバズバ言うしカマトトぶることもなく、自分の意志もあるし行動力もあり、概ね好感の持てた主人公だった。髪型の変化が CG にも映えて、色んな百合子が見れるのも美味しい。

ところで百合子や真島が持っているらしい匂いには重大な秘密でもあるのかと思ってたんだけど、特に何もないようで少し拍子抜けした。

斯波純一 (CV:茶介)

最初に受ける印象そのままの、真っ直ぐで子供で乱暴で聡明な男。過去に百合子と出会った時の思い出だけを胸に貧乏地獄から実力で這い上がり、百合子の前に現れた斯波を一途だとは思うが、百合子が好きだから結婚して幸せにしたいと思っていたはずの男が、まず百合子と結婚することこそが重要だと考えるようになっており、目的と手段がすり替わっているところが斯波の面白いところで、だからこそ斯波は本来なら交渉に長けた男のはずなのに百合子には拙い対応を繰り返して敬遠されるし、実際他のルートでは心は手に入らなくても百合子を妻に出来るのならば、と結婚してしまう。そこが斯波を真っ直ぐで一途ではありつつも危ういなあと思わせて、なんというか『蝶毒』らしかった。しかし百合子も言っていたように、過去を素直に告げていればすぐに結婚出来た可能性は高かっただろうに、元来かっこつけなもんだからそれを口にすることも出来ず結果として意地っ張りな二人が出来あがり、そんな二人が互いに一喜一憂したり振り回される様は見ていて歯がゆかった。いやまあそこが面白かったんだけども。プレイやの視点では斯波が百合子を本当に思っていることは伝わって来た一方で、百合子が斯波の言動を信じたくても信じ切れずに反発してしまう気持ちもよくわかって、そのあたりの描写が上手いのはさすが。それだけに「優しい男」ED を見れた時は安堵したし祝福もした。『蝶毒』は BAD ED のほうが秀逸なルートが多いが、斯波ルートだけは TRUE ED が一番気に入っている。

ちなみに BAD ED はどちらも遣る瀬無い結末ではあるけれど、斯波の目的が百合子を自分のものにすることにすり替わっているので、そういう意味では両方とも斯波は目的を達成しているともいえる。「座敷牢の恋人」ED は百合子は失明してしまっているし幸せとは言えないが、斯波のものにはなっているんだから。一方「後悔」ED は今際の際の斯波が言っていたように、百合子を妻にして夫婦としての生活を送れたんだから斯波は幸せだったんだろう。例え百合子に殺されることがわかっていたのだとしても。

そして「後悔」ED で斯波と同じくらい印象に残ったのが真島。忌まわしい血を引く最後の人間である百合子が、自分と同じように復讐鬼になろうとしている。それも野宮一家に一気に降り注いだ不幸の原因が斯波にあるのだと誤解をしたままで。百合子の暗い決意を聞いた時、真島は「姫様を犯罪者にしたくない」と言って最初は嫌がるが、結局は協力してしまう。しかし実は何の罪のない男を殺させることで、百合子への復讐を完遂させようとしたのではないのか。でも最初に嫌がったのも本心からで、百合子に辛い思いをさせたくはなかったのも本心からだったんじゃないかなあとも思う。それでも百合子の決意が揺るがないことを知って、結局毒を与えてしまった。あの時の真島の胸の中ではどんな想いが去来していたのか、私には想像もつかない。

斯波の話に戻すと、斯波は公式で最初に見た時から好きなタイプだろうなと思ってたんだけど、本当に予想通りの男で驚いた。ただ、これは私の我儘なんだけどあまりにも予想通り過ぎてそこまでハマれなかった。いい男だと思うし不器用なところも可愛いと思うんだけど、何でもいいからこちらの予想を裏切る要素がひとつでも欲しかった。

野宮瑞人 (CV:平井達矢)

実は異母兄妹ではなく赤の他人だったけど、百合子と瑞人には兄妹としてずっと過ごしてきた時間があり、だからこそ一線を越えることへの躊躇が描かれていたのが良かった。実の兄妹との子として生まれてしまった真島にとっては血こそが憎むべきもので、赤の他人であれば兄妹として過ごしてきた時間は瑣末な問題でしかないのかもしれないけど、普通はどうしても意識してしまうよなあ。自分の出生の真相を知っていた瑞人はともかく、百合子は兄を兄としてずっと慕ってきたんだから。更にこれは瑞人の推察に過ぎないが、瑞人が野宮家に迎え入れられた理由が「実の兄に懸想している妻に嫉妬させたかった男の所業」だったことで、更に「兄と妹の禁断の恋」のどうしようもない連鎖を感じさせて何とも言えなくなる。だからこの二人は兄妹ではなくても、色んな事情がいくつも重なって兄妹として認識せざるを得なかった。そうした中での暗い背徳感が良かった。

真島の正体が発覚してからの対峙が一番盛り上がるのが瑞人ルートなのは、他人だけど兄妹としての時間が存在する瑞人と、実の兄妹だけど兄妹として過ごした時間がない真島との対比があるからだ。真島が淫らに愛し合う百合子と瑞人を詰ったのは、出生や百合子への気持ちからくる自己嫌悪と羨望もあったんだろうが、最後に瑞人が実の兄ではないことを知った時の憑き物が剥がれ落ちたかのような、一瞬の衝撃を露にした真島が痛々しかった。この時の真島には私も完全に胸を突かれた。『蝶毒』で一番の名シーンだった。

瑞人のことで意外だったのは、ルートによっては斯波との結婚をあっさり認める点。斯波に限らず結婚なんて許さないだろうと思っていたし、作者の過去作の傾向と中の人の配役からいわゆるヤンデレ兄様として立ちはだかってくるんだろうと思っていたらそんなことはなかった。百合子が相手を本当に愛しているのなら、とあっさり認めてしまう。認めたのは自分の想いが溢れ出す前に他の男のものになってくれればいいという気持ちもあったのかもしれないが、何にせよどのルートでも本当に妹の幸せを願っていたことがわかってぐっと来た。だから「夜色の髪」ED でこの兄妹が幸せになったことを祝福出来るけど、ただ産まれてくる子供の境遇を考えると未来に陰りが差すのが何とも……。フランスでも二人は兄妹として認識されているし、両親からを愛を得られなかった瑞人の気持ちを思うと家族を欲しがるのもわかるけど、二人のエゴで子供が苦しむことになる可能性がないとは言い切れないだろう。真島は血の繋がりに拘っていたが、この結末を見るとやはり兄妹としての時間や認識の問題も大きいよなあ、と。

一方、BAD ED が他のキャラクタに比べて多いあたりはさすが兄様っつーかなんつーか。「蔵の中で」ED と「つがいの蝶に」ED はど真島が燃やした屋敷から出られず心中する結末だが、前者は燃え盛る炎の中でセックスをしたまま死に、後者は薬を飲んで寄り添って死ぬ内容でどちらも野宮兄妹らしい滅びの美しさがあって結構好きな結末。画家志望らしく兄様が妹と筆プレイで遊んでいるところを秀雄に見られ、彼を共犯者にすべく巻き込んだ 3P が見られる「秘密の共犯者」ED も楽しかった。童貞なのに無理やり二輪挿しを体験させられる秀雄がちょっと可哀想な気もするが、なんだかんだですぐ慣れて三人で楽しんでそう。というかそのうち藤田も含めて四人で、てこともあり得るよなー。

他に印象に残ったのは、真島の下着の色を聞いた時の藤田の反応。BGM のチョイスも素晴らしかった。『蝶毒』は基本的に陰鬱な話だけど、時折こうしてコミカルなシーンが作品を壊さない程度に入っているのが楽しい。

真島芳樹 (CV:大石恵三)

園丁は仮初の姿で実は闇の阿片王、てなオチはさておきそのネーミングセンスはどーなんですか。どのルートでもみんな真面目な顔で「闇の阿片王」を連呼するので困る。最初に見た時から真島は怪しかったし疑っていたが、阿片王云々はさすがに予想できなかったなあ。そして闇の阿片王にようやく慣れてきたところに、「悪人」ED の「氷の女帝」でまた撃沈。しかしこの「悪人」が誰にかかっているのか、と考えると面白い。テキストをそのまま受け取るのであれば、屋敷にいた頃とは違う価値観を受けつけられて悪人になってしまった百合子を指しているのだと思うが、百合子を連れ去って「唯一信頼できる家族」として悪人に仕立て上げた真島が悪人であるとも言えるのがまた。上海に連れ去られる結末だと他にも「上海愛玩人形」ED があったけど、これが真島にとってのハッピーエンドに一番近い結末なんじゃないかなあ。チャイナドレス姿の百合子も可愛かった。

真島は近親相姦の末に出来た子で、その結果として育ての両親を殺されたために己の血を呪って野宮一家に復讐しようとする。しかし真島自身も異父妹である百合子に惹かれてしまう皮肉。この時点で真島が本当に幸せになれる道はもうない。つまりゲーム開始時点ですでに詰んでいる。この時点ではまだ復讐は行われていないが、復讐をしてもしなくても真島本人が幸せではないことに変わりはない。だからこそ真島の正体と目的を知った百合子が「復讐は不幸になるだけ」と止めようとする展開があったら萎えるなーと危惧してたんだけど、それはなかったので安堵した。

「秘めた想い」ED で面白かったのは、結局百合子が最後まで真実を何一つ知らされていない点。百合子の視点から見ればハッピーエンドかもしれないが、屋敷という籠から抜け出して姫であることを捨てたつもりでいても、百合子は実はまだ姫のまま。真島の作った新しい鳥籠の中で庇護されているだけなので、屋敷にいた頃と何も変わっちゃいない。百合子自身は女給を経験し、自分は姫じゃなくなったのだと証明出来たと思っているだけに切ない。実を言うと私は最初、真島がたった二ヶ月働いただけの百合子を受け入れたのが不思議だった。実際、真島は証明したのだと言い張る百合子に「カフェで働いたことがですか……?」と返す。あれは相槌ではなく、「それくらいで証明したつもりになっているのか」という気持ちの表れだし、何よりも真島が百合子の気持ちを受け入れられないのは異父兄妹であることが大きかったんだから。それでも百合子を受け入れられずにはいられないほどに真島が限界だったのかと思うと、二人がようやく結ばれたのを見ても喜ぶというよりは切なかったなあ。百合子を求める気持ちを抑えているのに、百合子は真島への気持ちをぶつけてくる。だから耐えられず、百合子の努力を「利用して」百合子を受け入れた。更に子を成す機能が自分にはないから、二人で寄り添っていれば血は途絶えることになるという理由も出来てしまった。でもそうでもしないと真島は百合子を受け入れられない。恐らく自分に男としての機能があれば、百合子を最後まで受け入れなかったんじゃないか。そして百合子の両親に百合子と二人で生きていくことを告げに行ったのは、真島のせめてもの反抗だったのか。野宮一家は殺さないが、利用出来るものはすべて利用して少しでも復讐してやりたいという凄絶な思い。このエピソードからもわかるように彼は真っ当には生きられない人で、そんな彼が百合子を女として愛せるのは真相を教えないという状況の中でだけなのが哀しい。ただ、いずれ真相は露見するんだろうなあ。この阿片王は結構迂闊なので隠し続けるのは難しいだろうし、また隠し続けられても互いのどちらかが死ぬまでは秘密が露見する恐怖に怯え続けなければならない。

「秘めた想い」ED は甘いようで苦いのがたまらなく極上だったけど、一番好きなのは真島が復讐を遂げる「おかしなお姫様」ED かな。これは真島が本懐を遂げたと言っていい結末だが、実はきっかけを作ったのは百合子にあるのが憎い展開。真島は復讐を開始してじわじわ追い詰めている最中ではあるものの、まだ百合子に手をかけてはいなかった。他のルートでも百合子の両親が殺された後しばらくは落ち着いた状態だったし、時間をかけて追い詰めたかったのもあるんだろうけど、その真の理由は真島が迷っていたことにあるんじゃないかなあと思いたい。しかしこのルートでは真島が動けないでいるうちに三郎を百合子が殺してしまい、真島もこうなったら復讐を完遂させるしかないと追い詰められてしまったんじゃないか。この事件は前兆があったのに真島は三郎をきちんとコントロール出来ていなかったけど、直接引き金を引いてしまったのは百合子だった。だから真島が百合子に向けたいくつもの憎悪の中には、とうとう自分に幕を引かせるきっかけを作ってしまった百合子に対する責任転嫁のような悲鳴もあったんじゃないか。あるいはわざと三郎をそのままにして、いつか引き金が引かれることを想定していた可能性もある。最後は自分に好意を持ってくれている姫をあくまでも「売春客」として買うことで抱いて、それで泣く真島の姿が遣る瀬無かった。真島がはっきりと「愛しています」と告げるのもこの結末だけなのが、更に真島の想いの深さを物語っているようで辛い。

藤田均 (CV:チアノーゼ三太夫)

年寄りだのすっぽんだの言われて反応したり、姫様のためにピアノを弾いたり甘い菓子をあげたり、和装姿で姫様と活動写真を見に行ったり割烹着姿で料理をしたりと微笑ましいイベントが続いていたのに、母乳云々が全部掻っ攫っていった。「永遠の下僕」ED なんて抜きゲのヒロインの如く丁寧な実況をしながら母乳を求め、ひたすら激しいセックスに耽るのが強烈。これは BAD ED 扱いになっているが、正直に乳を求められる分 TRUE ED よりも幸せそうに見える。この百合子なら鼻汁だろうがなんだろうがどんどん舐めさせてくれる気がする。「姫様と執事」ED でも母乳に執着していたのは笑ったが、こちらはまだ藤田が百合子を気遣って欲求を抑えている節がある。あとは CG で描かれた藤田の男性器の大きさも印象に残る。巨根キャラは見たことがあってもだいたいはただのキャラ設定でしかなかったけど、藤田の場合はエロシーンや CG でちゃんと設定が活かされていたのが素晴らしい。そして藤田の母乳への執着や巨根が単なる変態アピールではなく、藤田の出生や過去に遠因があるのが良かった。だから納得もできる。しかし『コイビト遊戯』の兄に続いて藤田までもが鼻水を美味しく頂けるらしく、そこは引くというよりも笑ってしまったけど。文華さんは鼻水に拘りでもあるのかなんなのか。

「秘密倶楽部」ED は一応藤田の BAD ED 扱いになってるけど藤田は申し訳程度にしか出てこないし、秘密倶楽部自体よりも鏡子が恐ろしかった。この ED で気の毒なのは瑞人かもしれない。妹の身代わりになっているのにそれも無駄に終わってしまったんだから。

百合子と藤田の恋愛に関しては、家令としての立場を弁えて線引きしてくる藤田に焦れて百合子が押しまくるが、そんなふうに癇癪を起こす百合子を見ていると百合子の父親の異様な行動が頭を過る。百合子のケースはまだよくあるレベルだと思うし、明らかに自分を好きなのに触れようとしない藤田をもどかしく思う気持ちもわかるのでそこまで異常だとは思わなかったけど、あのまま藤田が頑として動かなければ更にエスカレートして父親クラスまでいってしまったんじゃなかろーか。気性の激しい性格だしなあ百合子。

尾崎秀雄 (CV:須賀紀哉)

ツンデレ幼馴染みで百合子を好きなのが最初からダダ漏れ、と王道なキャラクタなのに屋敷内の人間ではないし、斯波のように通ってくるわけでもないので出番が少なく、本人が真面目一辺倒なのでちょーっと影が薄い。いや周りが濃すぎるせいもあるけど。

シナリオは秀雄に大物華族の佐和子という婚約者がいることが発覚し、三角関係が描かれるのかと思いきや秀雄は最初から百合子にしか目が行かないし、百合子が佐和子と対面する場面もあっさり終わってしまう。佐和子のことはあくまでもきっかけに過ぎず、それよりも百合子と気持ちを確かめ合ってからは佐和子との婚約を壊すためだけに秀雄が出兵志願し、陸軍軍人という設定をフル活用してきた。そこから戦死した秀雄の後を追うように百合子が雪の中で死んでしまう「白」ED があるんだけど、これはあまり印象に残らない BAD ED だった。一方 TRUE ED に向かって行く展開はサクサク進み過ぎて物足りなかった。つーか百合子がピンチだからってシベリアからポーンと戻ってくるのはどうなのか。たぶん秀雄が助けてくれるんだろうなあというタイミングで登場したが、あれにはちょっと吹く。更に最後には軍をやめて鳥の研究に専念することになるが、婚約を破棄させるために出兵志願したり、百合子の危機に気づいて軍規も何もかもほったらかして日本に戻ったり、婚約は破棄されたからもう大丈夫だってことで軍をすぱっとやめたりと、秀雄の身勝手な理由だけで利用された印象のある陸軍が可哀想っつーかな……。ただ、エピローグで語られた幼い秀雄少年が百合子の両親にしていたらしい「百合子ちゃんを剥製にして僕の部屋に飾って置きたい」発言は吹いた。この発言さえなければ二人は普通に婚約して夫婦になっていたのかもしれないと思うと地味にじわじわ来るなこれ。つーかこれならいっそ本当に百合子を剥製にする BAD ED があってもよかったんじゃないでしょーか。

BAD ED といえば「白」ED は印象に残らなかったが、「うそつき」ED は素晴らしかった。秀雄を思うが故に斯波の求婚を受け入れた百合子と、大物との婚約を前にどうすることも出来ず佐和子と結婚した秀雄。ここで面白かったのは秀雄が百合子以外には性器が反応しない点。だから秀雄は佐和子との子が作れないのに、百合子は他の男との子を孕んでしまった。だから秀雄は絶望し、百合子を罵倒し、それでも最後には百合子を失うことを恐れて子供のように懇願する。一見異常に見える剃毛プレイも、そんな矮小な秀雄の必死の独占欲の発露なのだと思うと何とも言えない。

秀雄と言えば忘れてはならないのが童貞らしさ溢れるエロシーン。初めてのセックスでは百合子の乳を舐めるだけで射精し、百合子の性器を慣らすこともなくいきなり突っ込むから驚いた。ただ、普通なら男はここで暴発してしまった自分を恥ずかしく思って凹むことが多いけど、秀雄は一瞬呆然とするもののそのまま何事もなく続けていたのが面白かったというか、大正時代あたりだとこういう感覚が当たり前だったのかなあとか。

天海鏡子 (CV:猫魅愛)

鏡子のやっていることはわかるようでわからないようでわかる、この曖昧さ加減が絶妙でよかった。この享楽的な生き方は金持ちだからこその道楽。子供が嫌いで、子供を産んだことを「ぞっとする体験だったわ」と言っていたのが印象的。でも育児を疎かにはしていないあたりが鏡子という女性なのだと思う。しかし得体が知れない人だな、とは最初から思ってはいたけど目のハイライトが消えた時は震えた。思わず「嘘だッ!!!」が思い浮かんだ。人形がずらっと並んでいる部屋も鏡子のキャラも相俟って恐怖。