Antipyretic

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蒼天のセレナリア

http://www.liar.co.jp/celetop.html

ここまでしっかり冒険活劇をやっている作品は久し振りで、ジブリワールドで冒険をしている気分になった。あるいは『ワンピ』とか『ナディア』とかそのへんの空気。特に序盤に《未知世界》へと突入した直後の一面の青を見た時は、灰色の世界を舞台にしている『インガノック』をすでにプレイしているせいもあってコニーたちと共にモニタ前で感動したもんなあ。世界への没入感がすごい。

そして《未知世界》で会える多種多様な "人" たちは当然として、根っからの悪人が一人もいなかったのが印象的。《三盗賊》にも見せ場はあったし、帝国はコニーの敵ではあるけど一枚岩ではなくマタイオスのように青い理想主義者もいるしネーエルのようにコニーの言動に影響されていく人間もいる。ルビーマンは最後には何故か改心しているし、ゼーズロムもバイロンに利用されていた哀れな子でしかなかった。バイロンも愛していたローラを失って歪んでしまったという経緯がある。そんな優しい世界を、普段の私なら生温く都合が良すぎると感じたかもしれない。けど『セレナリア』はこれでいいと思えた。

が、コニー周辺の「都合の良すぎる展開」は気に入らなかった。コニーはピンチのたびに自分を奮い立たせ、結局は何も出来ず誰かの助けを得られる展開がパターン化する。でも運も実力の内だと言うし、主人公補正も別にいい。問題はコニーが毎度自分を奮い立たせる点。冷静になれ最善を尽くせ、てのはわかるけどそこから先がない。冷静になろうとして最善を尽くそうとして、でもそれで終わる。思考しているように見えて実際は思考停止で、その間にもピンチは迫って来る。そして最後には運で突破する。だからコニーの自身に言い聞かせるという無駄な描写が後半になればなるほど鬱陶しく感じてしまったし、何よりもコニーを好きになれなくなった。最後まで。

更にカルベルティも好きになれず、このメインカップルのやり取りを見せられるのは二重の意味でしんどかった。またキャラの掘り下げが浅いまま終わることも多く、重大な設定すらも敢えて描写していないのが少しもどかしい。読者自身の補完に託したかったのかもしれないけどちょーっと情報量が少なすぎる。というか基本的な単語や設定ですらろくに説明がないまま物語が進行していくのが不親切。最終章も駆け足気味で、エリールやテュケーの真意や背景、バイロンの動機など分かりづらい個所が多かった。何となく把握出来た気もするけど、正解なのか自信がないまま物語が進む。雰囲気に流されるというか、マタイオスの演説やエイダの加勢などわかりやすく熱い展開がなければ白けていたかもしれない。何度か挟まれる御伽噺も複数の物語が混在しているのがややこしい。

そしてパートボイスはこのメーカではいつものことらしいけど、だとしても男性キャラクタに一切声がつかないのは勿体ない。せめて最終章だけでも声は欲しかった。つーか『インガノック』もそうだったけどモノローグに音声はいらないんじゃないか。特にコニーは同じよーなことを延々繰り返すので真剣に鬱陶しい。そこを読ませるくらいなら男性キャラクタに音声をつけてくれたほーが百倍マシ。

テキストはやっぱりくどいけど『インガノック』よりはかなり読みやすい。けどくどくても好きな文章を書く脚本家はいるけど、この人の文章は単純に好みじゃない。合わぬ。それでも『セレナリア』くらいの文章ならまだストレスもなく読めるんだけどな。絵はキャラクタデザインも含めて古いし好みじゃなかったけど、この絵だからこそのこの世界観だと思うしクリア後には好きな絵柄になった。表情がまたいいんだよなあ……。音楽は数は少ないけどいい曲が多かった。最終章で OP のアレンジが流れた時は鳥肌が立った。終盤が盛り上がったのは音楽の力も大きかったんじゃないかなあ。

マップ移動パートは微妙。依頼をこなすのはそれなりに楽しかったものの徐々に作業感が増し、頻繁に変わる天候要素は鬱陶しいし街でも面白いイベントはないし、地図に最初から目的地が表示されているから "人" に次の行き先について聞く必要もないし交易にも大きなメリットがない。思い出を買うくらいか。確かに《未知世界》を冒険している感覚は味わえたけど、一マスずつしか進まないこともあってテンポが悪い――のにマップを埋めて思い出もコンプリート出来たのはこういう単純作業が結構好きだからなのかも。面白くないけど挫折するほどでもなかったというか。ただなんだかんだでマップを埋めた人間として文句を言わせてもらうなら、ギアとシャフトは最新のものが一つずつあれば良いということはちゃんと説明してほしかった。気付いた時はもう終盤で思わず脱力。

なんか不満だらけになったけど、それでも最後までプレイ出来たのは世界観と話に魅力があったから。物語が真っ直ぐなので読んでいて気持ちがいいし、特に終盤の《皇帝騎》を前にしての総力戦は燃えたしカタルシスも得られた。だからこそコニーを好きになれなったことが惜しい。まあこれは作品の欠点というより好みが合わなかっただけなんだけど、それを差し引いても楽しめたのは事実だし面白かった。何しろファンディスクまで一気にやっちゃったもんなあ。主人公のメアリがたいへん可愛らしかった。セレナリアの世界で一番好きなキャラクタは、と問われたらメアリだと答える。良き青空を!

コニー・イル・リクール (CV:野月まひる)

先述の通り私にとって一番のネックになったのがこの主人公。コニーを好きになれない理由はすでに書いた通りだけど、他にもお節介なところが苦手。彼女は自分のお節介が相手にとっての迷惑になるケースもあることに気付いていないんじゃないか。コニーの誰にでも手を差し伸べるところが美点であることも理解はしているけども。

それと《蒸気王》との初遭遇の場面でのカルベルティとのやり取りのように、つまらないことを気にして危機が迫っているのに呆けたりくだらない言い合いをして判断が遅れるところにも苛立たされた。気になる男に裸を見られた乙女の気持ち云々のラブコメのお約束なのはわかるんだけど、肝心な時に人の話を聞かないキャラクタは見ていてしんどい。コニーのこうしたシーンは何度もあってそのたびにイライラさせられるし、ニェルレイ凌辱の時に至ってはコニーだけ難を逃れているのが萎えた。詮索はしないししたくもないと言いながらカルベルティを問い詰めるシーンも二度ほど繰り返され、カルベルティを含めて二人にうんざりした。コニーがいなければ突破出来なかった場面もあったしいい子だとは思うけど、いい子だからといって好きになれるとは限らない。そして声が合っていなかったのもコニーを好きになれない一因。早口も好きじゃなかった。

出自について明確な説明はなかったけど、恐らくはバベッジとローラの孫というか曾孫あたりかな。二人の血を引いているのは間違いなさそう。

シェラ・マキス (CV:金田まひる)

シェラは好きだったなあ。セックスに貪欲な女の子は好みだし、むしろセックスに溺れることでしか心の安寧を保てないシェラの心理を思うと切ない。特にレヴィに告白されて狼狽し、試すようなセックスをするあたりとか。

「好きになった女の子がプセールで……ごめんね」

この台詞は来るものがあった。萌えはしないけど幸せになってもらいたいと思えるキャラクタ。ちなみに一番気に入っているのがコニーに隠れてひっそり(でもないけど)魚王を逆レイプしてるシーン。あれは笑った。

カルベルティ

この手の「お前には関係ない」とか言い出す厄介なタイプは珍しくもないし嫌いではないんだけど、カルベルティ単体ならともかくコニーとセットで苛立たされることが多かったせいか好きにはなれなかった。終盤には視野狭窄な復讐心から脱却して成長するが、その後は活躍らしい活躍がないので印象も薄い。

家族が自分の目の前で殺されてしまったのはバイロンがカルベルティたちの持つ《緑色秘本》を求めたからっぽいけど、その《秘本》も結局ゼーズロムという代替えが用意されたことで「別にいらなかったのでは……」という気持ちにさせられてなんとも。

しかし何故カルベルティだけが生き残ったのか。カルベルティも《回路》を組み込まれてたことから察するに、バイロンは最初からカルベルティを利用するつもりだったのか。迷子になったカルベルティに出会った時に素質を見抜いたとか?

レヴィ・アクィナス

すぐ出番が終わるのかと思いきや中盤にはコニーたちと合流し、それ以降も見せ場が多くて驚いた。特にルビーマンとの戦いはレヴィなくしての勝利などあり得なかったし、《皇帝騎》との戦いでも碩学としてサポートしてくれていたのが心強かった。何気に美味しいキャラクタだよなあ。学者らしい融通の利かない面もあるけど、シェラへの愛情に対しても融通が利かないところがいい。シェラがどれだけ自分を卑下しようとも、自分にとってのシェラは綺麗で可愛くて最高の笑顔を見せてくれる魅力的な女の子で、だから大好きなんだと何度も強く告げるのが良かった。成長すると更にいい男になると思うな彼は。

マタイオス・ノン=デュ

一本芯の通った理想主義者。欠点のない男はつまらなく見えることもあるが、マタイオスは面白いキャラクタだった。ぶっちゃけクリアしてからマタイオスの言動を振り返ってみるとあまり活躍していないような気もするけど、最終章の熱いシーンはマタイオスがいたからこそで、それだけでも価値のあるキャラクタ。エピローグではラス・カサス宅に二日も泊まった経験があることをさり気なく自慢したりホテルの玄関前で待ちぼうけを食らったりと、ネーエルの前では妙に可愛らしい面も出てくるのはニヤニヤした。

ネーエル・サザン (CV:かわしまりの)

マタイオスがネーエルに普段からさり気なく囁いていた愛の言葉の回数をきちんと覚えているあたりは、ネーエルの有能さといじらしさがつまっていてとても良いエピソードだった。あと《セイレン》と《フォルネ》の生態について真面目にレポートを書いてるシーンは吹いた。同人誌とか出しそうな勢いだったなあれは。

ゼーズロム・ユエル (CV:歌織)

実は一番心理描写が濃密だったキャラクタ。心の安寧を保つためにセックスに溺れる点がシェラと同じく共通しているのがもう泣ける。だからこそ最後に泣いて助けを求めるゼーズロムに、コニーが手を差し伸べるシーンがぐっと来た。

ところでエピローグではラス・カサスのところで暮らしてだいぶ雰囲気が変わったらしいけど、ネーエルがマタイオスとの約束を忘れるほどの衝撃を受けたというんだから相当なんだろうなあ。ちょーっとどころかかなり見てみたかった。

ドゥーガ・ル・ビィ・アダム

強烈なキャラクタとルビーへの執着の大きさ故に自滅へと至る様が印象的だったのに、実は生きていてアポンダンス群島で子供たちと仲良くしていたのはポカーンとなった。まあでもこの結末は『セレナリア』らしいと言えるかもしれない。

デ・マクシム

初登場時はコニーたちにとっての最大の脅威になるかと思ってたんだけど、結構あっさり退場したよーな。しかしローラはどれだけモテてたんだ。描写されているだけでも皇帝、《蒸気王》、マクシム、バイロンの四人?

《蒸気王》

《蒸気王》のビジュアルはいかにも「スチームパンク!」って感じでわくわくする。セラニアンでコニーに人目につかないのかと突っ込まれるシーンは吹いた。でもセラニアンといえばやっぱりカルベルティを庇って散るシーンがどうしても印象に残る。前夜のコニーとの会話などでフラグが立っていたとはいえ、あの場面は衝撃が大きかった。最終章、バイロンと共に消滅する直前のラス・カサスとの僅かなやり取りも泣けた。

エイダ・オーガスタ・バイロン (CV:金田まひる)

"情報" を重視する彼女は《機関の女王》らしくてとてもいい。厄介な性癖を持っているあたりもエイダの貴族らしさと天才ぶりが出ているようで気に入った。ビジュアルも好み。そして最終章でマタイオスに加勢するシーンは燃える。

ラス・カサス

彼が出てきた時の安心感は凄まじい。出番は少ないが、《未知世界》で出会う大物たちがみんなその名を口にしていることからも印象には残る。

ヤーロ・マク・ラド (CV:西田こむぎ)

キーパーソンかと思いきやキーの部分は説明されないまま終わった。おいこら。『セレナリア』は《盟約》という言葉があちこちに出て来るが、ヤーロに関してはそれで全部誤魔化されてしまった印象が強い。いやまー多分《皇帝騎》の存在とバイロンの狙いに気付いて(何故気付いたのかも謎だけど、エピローグを見るにヤーロの祖先が関係しているのかもしれない)それをなんとかしようとしていたんだろうが、それで何故《ヒュブリス》に向かったのか。《ヒュブリス》に到達することでヤーロには出来ることがあったんだろうけど、まさか《ヒュブリス》を壊すわけにはいかないだろうし。

C=G・バイロン

『セレナリア』はローラを愛した男の暴走が描かれた物語だった、てのはわかったんだけど、そのバイロンの掘り下げが少ないというか終盤で一気に紐解かれるので理解が追いつかなかった。世界を切り分けて再構築しようとしたらしいけど、ローラの喪失がきっかけなのはわかるとしても何故そこに行きついたのかはわからん。