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越えざるは紅い花

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普通に面白かったと言えば面白かった……んだけど、私の中で「物足りなかったけど面白かった」と「面白かったけど物足りなかった」は似ているようで結構違っていて、『紅花』は後者だった。世界観や設定から壮絶でドラマティックな展開を期待していたら案外起伏が浅く、拍子抜けさせられる場面が多かったせいかもしれない。要するに温い。だからドラマティックにならない。

女性罹患率の高い腐死のせいで深刻な女不足に陥っていて、他国から女を攫って孕ませるというナスラのやり口は R18 向きで面白そうだと思ったし、元々孕ませシチュエーションが好きなこともあって(ボテ腹は興味ないが)期待していたのに、R18 というジャンルに相応しい題材を持ってきておいて濃密に描いてくれない。そこがもどかしい。『紅花』は全年齢版も出ているけど、序盤はこれをコンシューマに移植したらつまらなくなるんじゃないのか、と思いながらプレイしていたのに、終わってみればコンシューマに移植しても全然問題ないなと思ってしまった。そんな R18 作品。

シナリオも早々に分岐するので金太郎飴にはなってないものの、似通った展開や結末が多かった。すべてのルートでシャルの代わりにナァラが罰を受ける形で各キャラクタと婚姻関係を結ぶ入り方になっており、そこから徐々に恋愛へと発展していく流れも必然的に同じよーなものになってしまうし嫉妬ルートの結末も似ている。R18 乙女ゲーで監禁系が多いのはなんとなく察せられるんだけど、一つの作品で何度も見せられるとさすがに飽きてくる。それとどうも病み方が安易すぎるよーな……。みんないつの間にか病んでないか。豹変が唐突でそれこそ双子なんじゃないのかと突っ込みたくなるほどに。そして唐突さを抜きにしてもツボに来る BAD ED があまりなかったのが残念。というか BAD ED に限らず絶妙にツボを外される展開が多い。来るか、と期待してたら寸前で止まったり方向変換されて明後日の方に展開してしまったり。取ってつけたよーな BAD ED も多かった。

あとは特殊な世界観だからある程度は仕方がないけど、後付けのような法が次から次へと湧いてくるのが……。逆に自国の首を絞めてないか、と問いたくなるよーな法もある。そうした雑な法が罷り通ってしまうくらいにナスラが不安定ってことなのだと理解できなくもないけど、読んでると作者の意図した展開へと持っていくために法が出てくる印象が強い。他にはナァラ、ナスラ、ナラン、スレンあたりは名前がややこしくてごっちゃになる点とか。慣れない序盤のうちはけっこー混乱する。

ちなみに散々 dis られているらしい絵については、好みの絵柄ではないものの言われているほど酷いとは思わなかった。それよりもエアブラシを多用したかのよーな塗りの古さのほうが致命的じゃないですかね。塗りの重要さを改めて思い知った次第。

良かったのは、長すぎず短すぎないシナリオ量であまりダレることがなかった点。挫折癖のある私がフルコンプ出来たくらいには面白いと思えたし、萌えた部分もあった。メインに据えたトーヤ、ノール、スレンのルートからそれぞれのサブキャラクタのシナリオに派生していくが、メインの三人は当然としても派生キャラクタのシナリオも手を抜いているとは思わなかったし、むしろナァラに振られる形になったメインキャラクタの新たな魅力が出てくるのが美味しかった(ただし切なさや背徳感はあまりない)。エキゾチックな世界観も好みだし、キャラクタの衣装を眺めるだけでも楽しかったなあ。

システムは最低限のものしかないが、スキップはそれなりに早いし特に不便は感じなかった。次の選択肢に飛ぶジャンプがあればモアベターかな、という程度。そいやギャラリーやエンディングリストを見れるのが Option 画面だったのは驚いた。普通ならそこは設定画面になりそうなものだけど(ちなみに設定は Config 画面で行える)。

常々思ってるんだけど、R18 乙女ゲーはブラックな設定や展開を盛り込んできても突き抜け切れないところがあるのが勿体なく感じる。それはとっつきやすい作品ってことでもあるけど、せっかくの R18 ジャンルなんだからそこをもうちょっと活かしてもいいんじゃないかなあ……。というわけで『紅花』は満足しかけて結局しきれなかった。期待通りではあったけど期待以上にはならなかった。期待しすぎたかな。

ナァラ (CV:手塚りょうこ)

芯もあるし色んな男が惚れるのも納得のいい女だとは思うけど、一方で鈍感すぎてイライラさせられる場面もある。稀に無神経な発言が飛び出すのはまあ御愛嬌ということで。特にこれといった強烈な個性はないし好みのヒロインというわけでもないけど、ビジュアルは好きだったなあ。しかしフェイスウィンドウでは可愛いナァラが CG だと妖怪になるのは十中八九、塗りのせいだと思うな。

トーヤ (CV:皇帝)

私は有能で孤独な王様か頭脳明晰で厄介な参謀タイプを好きになることが多いのに、トーヤがそれほどピンと来なかったのは真っ当すぎたからだろう。最後に残しておいたトーヤルート(=ルジルート)に入るまでは印象が薄かったくらいだ。

が、トーヤルートに乗ってからはさすがにトーヤの魅力が見えてくる。何故か自信満々に女装して仕事(とノール)から逃げているところをナァラに見つかってあっさり看破されたり、無邪気にナァラが大好きだと連呼したり、特効薬の研究が上手くいかなくて荒れたり(このシーンのトーヤが一番魅力的だと思った)、ナァラを落としにかかろうとイケメンオーラ全開で触れたかと思えば勃起してるのを気付かれそうになって慌てて離れたり、あと口元に手を当てる立ち絵が可愛かったりとか。プレイ前はこんなに子供っぽいキャラクタだとは思わなかったなあ。いやこれはこれで可愛いし歓迎してますが。

一番印象に残っているのは初夜演技。衝立の向こうにいるとはいえ監察官を務めるノールを前に二人が夫婦としてセックスしたことを証明しなきゃならないんだけど、ベッドの上でわざとらしくギシギシ音を立てながら「ああっ! お前の中は最高だー!」と棒演技を披露してくれるナスラ王に吹いた。ナァラも笑いを堪えながら喘ぐふりをするんだけど、そもそも経験がないこともあってトーヤに下手だとダメ出しされるのが可愛かった。ノールはノールで余計な茶々を入れるからもうひどい。絶対わかってて言ってるだろうあの補佐官。終わったら終わったで「どうですか、妃殿下。トーヤ様のものは素晴らしかったでしょう」とか「たっぷり中に注いでもらいましたか?」とかしれっと聞いてくるあたりがもうゲスでたいへんよろしい。そして演技とはいえ勃ってしまったのを誤魔化すために逃げていったトーヤも可愛らしかった。正直、ここがトーヤルートのハイライトだった気がしなくもなく……ああでも実際の初夜も面白かったか。ナァラの言動だけで達しそうになって石像みたいに固まって気を静めるトーヤとか。

それ以降は今一つ盛り上がらなかった。名も無き花が特効薬を作るためのキーになっていることに気付く展開は直前までプレイしていたルジルートと同じだったし、トーヤの侍女がナァラの母親だった件、幼い頃の少年バヤルとの運命の出会いと約束の件、トーヤが双子の兄弟だった件などとにかく色々詰め込み過ぎてそれぞれのエピソードが散漫になってしまっている。特に双子云々の設定はいらなかったんじゃないか。弟は忌むべき存在とされているという伝承はありがちな設定ではあるもののそれで話が面白くなるなら歓迎するが、トーヤルートでは設定をあまり上手く使えてないので、一人で苦しんでいるトーヤには申し訳ないけどぶっちゃけどうでも良かった。むしろ自分が忌まわしい存在であることを引き摺っているからか、何度も「俺には好かれる要素がない」と自虐する傾向にあるのがちょっと鬱陶しかった。ナァラの髪の色を奪ってしまったことを重く受け止めてナァラを避け出した時も「うわめんどくせえ……」と思ってしまったもんな私。

それでも「越えた紅い花」ED を見た時は素直に二人を祝福出来たし、やっぱりなんだかんだでトーヤを可愛い王だと思えたらしい。カリスマ性は最後まであまり感じられなかったけど、国は安泰だろうしこういう守られる王がいてもいいかもしれない。それだけ王が必要とされている=王として認められているってことでもあるのだから。

「紅」ED は駆け足で進むのであまり印象に残っていない。サマルに注意される前のトーヤに戻ったらしく薬を使ってナァラを地下に監禁するんだけど、それはノールのやったこととまったく同じだし、薬の使用に至ってはスレンもやってるしで「またか」という感想しか出てこなかった。一方「楽園」ED はトーヤは戦死、ナァラは狂死するけどある意味二人のラブラブっぷりをオーリに見せつける内容でなかなかに美味しかった。

ノール (CV:紫原遥)

ノールと言えば文鎮だ、と以前から聞き及んではいたけど、ああうんまあ確かに文鎮でしたねはい。女に飽きて肉欲への興味も失せてるし処女はメンドクサイという理由から、初夜で文鎮を差し出して「これを貸しますから、さっさと純潔を散らしてください」。言ってみればただのセルフ異物挿入の強要なんだけど、「文鎮」というキーワードがじわじわ来て笑ってしまった。多分作者はドン引きするシーンとして書いてるんだろうけどあれは笑う。しかしこのインパクトのある展開でテンションが上がったのに、ナァラが突っ込もうとしたらノールが寸前で止めてしまうのが残念。何で止めるんだ。させてやれ! その後、事あるごとに文鎮ネタを持ち出してくるノールは可愛かったけども。特に気に入っているのはナァラがノールの分かりにくい優しさに気付いて「もしかして、心配してくれているの?」と聞いた時の「……腹が立ったので文鎮を二本ほど突っ込んでいいですか」。笑顔で言うから吹いた。図星を刺されてほんっとーにムカついたんだろうな……。

というわけでノールは予想以上に可愛い人だった。ナァラにサラシを上手く巻いてあげられて満足そうにしているシーンですでに可愛さが垣間見えてニヤニヤしたけど、最大の見どころはナァラが暴漢に絡まれる場面。ナァラを助けたいけど自分が助けたと思われるのも癪で、わざわざだっせえええ仮面を用意してまで助けにくるノールがもう可愛すぎた。だって仮面つけたまま影から守ってたんですよね? ナァラ以上に忙しいだろうにナァラの護衛をエスタに任せず自分でやるくらいにはナァラが心配だったんですよね? この出来事をナァラが嬉しそうに報告するのを聞いて心中でこっそり満足していただろうノールを見た時は、思わず「褒めてもらえて良かったね……」とホロリと来た。一度助けられただけであんないかにも怪しい仮面の男を英雄視してはしゃぐナァラも可愛かったなあ。なんて徳のある人物なんだろうと感動していたのもじわじわ来る。いやソレ文鎮で処女散らせって言ってきた目の前の男だからな、と画面に向かって突っ込みそうになった。ただこの仮面云々はその後も上手く使えば面白くなりそうなエピソードなのに、ナァラが正体を知るシーンがつまらないものになっていたのは残念。それでノールに直接聞いてみれば面白い反応も見れただろうに(その後倍返しにされそうではあるが)勿体ないなほんと。

更に言うと最初はもっとえぐいキャラだと思っていたのに、言葉や態度とは裏腹に序盤から優しいしいつの間にか落ちてるしで案外チョロかった……。中盤までは主にオルテ大臣を攻略にかかるナァラが描写されていてノールとのエピソードは脇に追いやられるが、この時点ですでに優しかったもんなあ。そんなわけで気がついたら攻略が完了していたような印象を受けて、なんか落とし甲斐がありそーに見えてまったくなかったのが残念。ただノールはものすごくプライドの高い人間だから自分からストレートな好意を示すことが出来ず、ナァラの方から求めてくるように仕向けていたのは可愛かった。回りくどいやり方で愛や優しさを伝えたり、ねちっこい愛撫を延々施してメロメロにしたり。ナァラがものすごい鈍感なので結構時間がかかってたけど、時々「はよ気付け」と言わんばかりにヒントをボソッと零すこともあったから内心では結構焦れていたんじゃないかと思うとニヤニヤする。だからナァラが自分の気持ちに気付いてノールを求めてからはノールもダダ甘になるんだけど、ここでもやっぱり「良かったねえ……」とホロリと来た。

変態プレイも楽しかったしエロかった。ノールは後半になってもなかなか挿入せず、言葉で責めつつ精液をナァラの中に擦りつけるだけの行為が何日も続くんだけど、この粘着質でギリギリの追い詰め方が官能的で面白かった。それとちんこでかい。最初見た時は目が釘付けになった。あーでも一つだけ難を申し上げれば仕事にエロを持ち込むのはやめたほうが。ノールは一見鬼畜に見えるけど実は政務補佐官としての仕事を全うしているだけであることが多く、そういう有能なところも好きなので会談中のお触りプレイはちょっと萎えた。変態なのはもう全然いいしむしろ見ているほうとしては大歓迎なんですが、仕事から離れたところで存分にナァラを可愛がって楽しんでくだされ……。

他にも風邪ネタが大好きなのでナァラを看病がてらに過去を吐露するノールのシーンはニヤニヤしたし、特に「私のことが嫌いなのよね?」と問われ、もう眠れとでもいうようにナァラの目に手を当てたままキスをするシーンは作中で一番萌えた。

「……信じるから、騙される」

これは「敵国の人間だから」という先入観について言及しているが、ノールルートだけでなくすべてのルートにも言えることでもあるし、何気に作中のテーマとも言うべき重要な台詞になっている。「賭けの果て」ED でも「愛している」とは未だに言ってもらえないことを不安に思い、ルスに帰りたいと言えば離縁するのかと問いかけるナァラに新たな賭を持ちかけることで愛の告白をして来るところが良かった。

「私から……貴女を愛する心を奪ってください。そうすれば帰ってもいいですよ」

面倒な男だけど、ノールのこの回りくどさが途方も無く可愛いと思える。

ただ、シナリオは残念な点も多かった。特にオルテ大臣攻略は正攻法で説得して欲しかったなあ。ヒロインが髪をバッサリ切るというシチュエーションは乙女ゲーではありがちだけど、髪を切った後のヒロインが可愛いことも多いし私には美味しかった。でも言葉できちんと大臣を説き伏せるナァラの姿に期待していたので落胆が大きかったのも事実。つーかナァラの髪をくれれば話を聞いてやってもいい、と提案するオルテ大臣は軽率すぎやしないか……。なんか難敵がいきなり不自然に隙を見せてくれたよーな印象がある。

嫉妬ルートの「愛玩奴隷」ED はそのまんまナァラ性奴隷化。ありがちで特に面白い内容でもなかったけど、ノールさんは輝いていた。というかこちらのノールの方が事前に抱いていたイメージに近い。元々 BAD ED 向きのキャラクタだったもんなあ。

総じて言うならば、ノールルートはシナリオを堪能するのではなく、迂遠な言い回しをしてくるノールの言葉にナァラが振り回されるのを眺めて楽しむルートだった。萌えて楽しんだが勝ち。私は萌えたし楽しんだ。

スレン (CV:堀川忍)

プレイ前は一番興味のないキャラクタだったけど、クリア後に評価は反転した。魅力的なキャラクタだったし、シナリオも王道的な盛り上がりがあって良かった。

スレンは初対面でいきなりナァラを押し倒した敵国の司令官で、妻にされた時も無理矢理だったから印象は最悪だったのに、ナァラを娶る前から妻のための部屋を用意してたり初夜では優しくしようとしたりナァラのためのプレゼントとしてドレスどころか弓もちゃんと用意してあったりナァラの大好きな果物を取りにいってたりと、不器用だけどストレートなスレンの優しさにツンツンしつつも絆されていくナァラが可愛かった。部屋に剣を忘れて出勤したスレンに気付くも(私は絶対に届けてあげたりなんかしないんだからね)と見て見ぬ振りをしようとする時とか、結局は気になって届けにいく時の(別にこれはスレンのためじゃないのよ)というテンプレ台詞が出てきた時は何故か快哉を叫んだ。ナァラのこのツンデレぶりはいい意味でテンプレでわかりやすくて可愛い。おかげでスレンではなくナァラを攻略している気分で眺める羽目になった。

そして重要なのがナランの存在。スレンは忙しいからナランがナァラのそばについてくれるんだけど、愛妻家のスレンが男性であるナランにナァラの世話を任せているのはそれだけナランを信頼しているからで、でもナランはそんなナァラに惹かれてしまう。で、優しさがわかりづらいスレンとストレートに好意を示してくれるナランとでは、ナァラがナランに惹かれていくのも無理はないなと思えるようになっているのが面白かった。私はナランは好みじゃないけど、他国に攫われてきて不安な状況にいるナァラがスレンではなくナランに惹かれるのは当然だよなと思える。素直な優しさは正義。

ここでナランからの好意に揺れると嫉妬に狂ったスレンによってナァラの精神が壊れてしまう「壊れた鳥」ED に到達するんだけど、これはあまり印象に残っていない。今までギリギリ肉体関係を持っていなかったナァラとナランにスレンが強制的にセックスさせることで決定的な罪を与え、最終的には 3P に突入するが、嫉妬で暴走するスレンが唐突に感じてどうも。ナァラとナランの絶望もピンと来なかった。後半のナランのエスカレートぶりから察するにこの二人はそのうちセックスもしてしまっただろうし、「なんかゴタゴタしてしまったけど三人でセックス気持ちいいねハッピーだよねサイコー!」でもよかった気がする。それだけ三人が真面目なんだろうけどいまいち釈然としない。

一方、純愛ルートに入るとシャルがナランを刺した後に自害。ここから分岐する「秘めた告白」ED は『紅花』で一番好きな結末になった。薄いしあっさりしているけど、ナァラがルスに戻った後にルスとナスラとの間で長期に渡る戦争が始まり、戦死したオーリに代わって敗戦の将になったナァラの元にスレンが迎えにくるも燃え落ちる城内でナァラがスレンに告白して自殺する、という悲劇的な終わり方がツボ。これをきちんと描写してくれれば相当ドラマティックな展開になったんじゃないかなあ。

ナランの死後は、ナァラを慰めるスレンが男前で惚れ惚れした。スレンの「お前の旦那だからな」という台詞は何度か出てくるが、いつ聞いても破壊力がある。含蓄もある。確かな愛情と覚悟もある。たった一言なのに本当に素晴らしい台詞。その後もナァラが妻にしか見せないスレンの顔を見て、自分がスレンの妻であることの喜びと愛おしさを実感するシーンは胸に来るものがあった。さり気ないながらも作中で一番の名シーン。

「恋しき戦い」ED は最後の一旦夫婦関係解消の流れが余計な山をくっつけたように感じられたのがアレだったけど、オーリにも見せ場があったしあれほど口説かないと言い張っていたスレンが口説きにくる終わり方になっていたのも良かったしでなんだかんだで満足した。しかし普通に口説いてきたスレンに「どうか私を孕ませてください」って言葉を要求するべきだ、と言い返すナァラには吹いた。最初の出会いの時の台詞をここで持ち出すってことはよほど業腹だったんだろうけども。

とにかくスレンが男前だった。その一言に尽きる。萌えないけど惚れる。乙女ゲーをやっていてキャラクタに惚れることはあまりないし、貴重な体験をさせてもらったなあという感覚が強い。ナァラも可愛かったしシナリオも面白く読めた。欠点といえばほぼスレンとナランしか登場しなくなる点で、だから狭い世界でシナリオが進んでいくけどその分濃密なシナリオになったんじゃないでしょーか。

余談だけど「肉便器」ってアウトなんですか映倫的には。

ナラン (CV:紀之)

ナランはナァラと同い年で年下ではないけど、雰囲気が年下系男子なのであまり惹かれるものもなく。我ながら本当に年下が守備範囲外なんだなあ、と実感した。

派生ルートで背徳感を味わうことに関しては、スレンが愛妻家であることとスレンとナランの間にも信頼関係が築かれていることもあってナランルートが一番濃密なんだけど、それを堪能するよりも単純にスレンの存在に意識が行ってしまった。それくらいスレンが格好良かった。ナァラに振られた時の潔い引き際とか、盟友としてナァラをきちんと支えるところとか、ナァラとナランが惹かれ合っていることに気付いていながらも二人が一緒にいる光景を愛しいものだと思える懐の大きさとか、戦の前のナランとのやり取りとか、窮地に陥ったところでナァラが悲しむからとナランを逃がすところとか、死ぬ直前にナァラへの愛を告げるところとか、自分が死んでしまった時の周囲への手回しや準備の抜かりなさとか、とにかくもうどこを切り取っても男前すぎる。他のルートではより格好良く見える攻略対象は珍しくもないが、スレンのすごいところは自分のルートでもかっこいいところじゃないでしょーか。基本的に攻略対象ってのは自分のルートで駄目なところが出てくるしスレンもそうだけど、そういうところを含めてもスレンはいい男だと思える。しかしナァラが嘘をついたかどうかでこうも展開が変わるとは思わなかったなあ。やっぱりスレンルートの「壊れた鳥」ED はピンと来ない。ナランルートを読むと尚更。

皮肉だなと思ったのはシャルの脱走の件。ナァラの親友だからと見逃したのに(シャルを甘く見ていたせいもあるけど)それでスレンが死ぬのがあまりにも……。スレンはナァラがナランに惹かれていることに気付いていながらナァラを手放せない弱さも持っていて、ナァラも一度はスレンの妻になることを選んだ責任があるから離縁してくれと言う気もなく、こうなるとナァラとナランが結ばれるには物語の観点から見るとスレンを殺すしかなかったんだろうな、とも思えて複雑な気分になってしまった。ナァラとスレンの盟友であり夫婦でもある関係はものすごーく好みだっただけに寂しい。

ただ、男としては好きになれないけど盟友としては尊敬しているスレンと夫婦になった後に、男として惹かれているのに同志としてナランと夫婦になるのは面白い展開。またスレンの妻に横恋慕していたナランがナァラに触れられずに焦れていた前半に対し、後半はナランが一切触れてこなくなったことで今度はナァラが焦れる現象が起きる。しかしそれでうだうだし始めるナァラが好きになれず、ナランルートは後半のナァラが私にはマイナスになった。ナァラの気持ちは理解出来なくもないが、展開を素直に楽しむよりもナァラの鬱陶しさが勝ってしまった。泥酔したナァラを相手にナランが苦戦するシーンも、ナランに迷惑をかけるナァラに苛立たされただけで楽しめず。更に言うと覚悟を決めた後のナランは、甘い台詞を吐いてくれるだけの汎用イケメンキャラになってしまった気がしてこちらもあまり……。前半のナランは好みじゃないものの個性的でキャラクタが立っていたのに、後半のナランは一気につまらなくなっちゃったなあと。

そんなわけでナランは、ナランルートよりもナランの個性が輝いていたスレンルートが印象に残っている。特にナァラを思わず押し倒してキスをするシーンは良かった。ナァラに目隠しをして相手がスレンだと思わせたまま触れる場面もツボ。あそこでもう思い切ってセックスしてしまえば良かったのに。ナァラはスレンだと思っているからスレンの名を呼ぶし、自分ではない男の名を呼ばれてナランの心中は嫉妬が渦巻くのに、スレンだと思わせておかないと行為が続けられないというジレンマに陥って滅茶苦茶にナァラを犯してしまう、とかもう最高のシチュエーションだったんだけどな。そしてその後絶望する二人が見たかった。それなら狂喜乱舞出来た。私が。

ルジ (CV:佐和真中)

女が不足して男に走ってしまう男性が出てくるという世界観は『Lamento』でも描かれていたので、ナスラの状況を知った時は真っ先にそれを思い出したんだけど、やっぱり『紅花』にもいた。男に襲われかけたことのあるキャラクタが。けどルジは最後まであまり興味の持てないキャラクタで、ナァラとの組み合わせも萌えなかった。そしてシナリオもあまり面白くなかった。というか唯一ダレたルートだった。

ルジルートに入ってすぐにナァラとは従兄妹であることが発覚するが、私は異父兄妹じゃないかと思っていたので拍子抜けしてしまったし、従兄妹であることがシナリオに大きな作用をもたらすことがないのもアレ。ルジにナァラへの気持ちを自覚させるためのきっかけになって終了するし、この設定はなくても良かったような。夫がいながらルジに惹かれていくナァラと、王の妻に懸想するルジによる背徳感もない。元々トーヤとの婚姻は契約だったしトーヤもナァラの気持ちに気付いて背中を押すので、後ろめたさがない。そしてトーヤの出番は少ないのに振られてしまったトーヤばかりが気になっていた。雨をテーマにしているところは好きなんだけど、ルジに魅力を見出せないと盛り上がれない。「終わりなき研究」ED の駆け落ちも無表情で眺めていた。

一方、「絶望という名の暗闇」ED は唐突ではあるものの面白そうな気配が漂っていた。トーヤとの子を身籠ったナァラに結婚したのかと聞かれて「してませんよ。……誰かを愛することの虚しさを、ある方から教えていただきましたから」と嫌味を返すルジを見た時は少しテンションが上がった。エルスやバルが飲み会で「ルジはキレると怖い」と言ってたのはこのフラグだったらしい。でもやっぱり唐突に人が変わった印象は否めず、ここらへんで「唐突な豹変」は『紅花』のお家芸だとようやく察した。

ところでルジルートをやってて気付いたが、子供を産んだら他の夫のところに嫁がねばならない、って法は逆効果よなー。まだ貴族になれる道を見つけられたナランはともかく、普通はバルのように子供を作ることを避けるようになるだろうから。

セフ (CV:小田桐ヒョーマ)

ノールルートから分岐してセフルートに入るが、どうやってノールと離婚するのかと思ったら売り言葉に買い言葉――に見せて実は国益を取っての判断だったのがノールらしかった。ナァラが欲しければ差し上げます、とあっさり譲るけど、悩む素振りを一瞬でも見せていたのがツボ。実は苦渋の決断だったんじゃないか。その後も目の前でイチャイチャする二人を見て面白くなさそーにしているノールに萌えた。最後でも「私がお貸ししている妻は元気にしていますか」とセフに聞くという嫌がらせをしているのが可愛い。

セフはルートに突入しないと登場すらしないから期待していなかったが、いいキャラクタだった。この作品は基本的に男らしい攻略対象ばっかだからヘタレなセフは新鮮に見えたし、あの軽いノリも好きだった。ナァラが可愛くてたまんねー! と年甲斐もなくはしゃぐのも可愛かった。俺を利用してもいいよとか俺の片思いでいいよ、とか言えるところもいいし、実は有能なのもお約束ではあるけどやっぱり美味しい。セフは放蕩息子だったしヘタレ気味ではあるが、やる時はやるしなんだかんだで一番安心して見ていられた。実際「優しい音色」ED の安定感は作中随一だったしナァラが一番平和に暮らせる気もする。ところでものすごくどうでもいいことだけど、終盤のエロシーン CG を見るまでセフの髪型がポニテだと気付けなかった……。

でも好きな結末は「月からの使者」ED。死ぬ直前に自分のことを忘れて幸せになれとは言わず、「たくさん苦しんで、泣くといい……」と告げるのが良かった。ナァラの性格をよく知っているからこそ言える台詞で、実際苦しんで泣いたほうが楽になれるだろうとも思う。しかし最後の台詞は四ノ宮那月のキャラソンを思い出して我に返った。

それと忘れちゃならないのが大臣邸の門衛。グラフィックのないモブキャラだけど、ナァラとの些細なやり取りで育まれていく奇妙な関係が面白かった。

エスタ (CV:三楽章)

エスタルートは、まるで人形のようにノールに従うだけだったエスタがノールに壊されて人形になりかけていたナァラを救う展開で、エスタを「ノール」と呼ぶナァラにノールの振りをしてナァラを支えるエスタが切なかった。でもエスタのナァラへの気持ちは恋に似ているようで違うよーな気も。私は恋じゃないほうが好みだし、だからかノールルートの「紅く染まる空」ED のエスタのほうが輝いている気がして好み。

あとエスタに「友達はいないの?」と聞くナァラさんに吹いた。ハハハハまったくもってナァラさんは面白い人ですねハハハハハハハ。

ウル (CV:雪ノ彩シロ)

ウルは片思いのままで終わったのが素晴らしい。ナァラはどうあってもウルを一人の男としては見れないけど聡いウルはそれをきちんとわかっていて、叶わぬ恋を忠誠へと昇華させるのがいい。ナァラをトーヤのところに行かせようとする場面も燃えたし、ナァラに耳を塞いでもらっている間に気持ちを告げていただろうと思われるシーンも来るものがあった。あそこは音声もないからウルの立ち絵の表情変化がより輝く。

サラーナ (CV:星岡奏衣) & シャル (CV:桃井いちご)

サラーナはしっかりした女の子だったけど、シャルはまさかのナァラに恋をしている女の子で驚いた。そしてどの攻略対象よりもヤンデレだったよーな。スレンルートでナランを殺して自殺した時は思わずカチュア姉さんを思い出した。あれはさすがにナランが可哀想だったけど、ルジルートでは恋人も出来て幸せそーなシャルに和んだ。

オーリ (CV:静陵聖)

可哀想な男だが、ちゃんと王の威厳が見てとれる見せ場は多いのでそこは良かったんじゃないでしょーか。非情な判断も出来るし正直トーヤよりも頼もしく見えた。が、だからこそナァラはオーリに惹かれずトーヤに惹かれたのだと思うとそれはそれで皮肉な……。