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『あやかしびと』感想

http://www.propeller-game.com/product/ayakasi/index2.html

荒削りな面はあるけど、それらを吹き飛ばす勢いのある作品だった。メインキャラだけでなくサブキャラもきちんと掘り下げられているのが特徴で、なんといっても男子が目立つ。男子キャラが輝くエロゲはだいたい面白いと思ってるんだけど、『あやかしびと』はまさにそんな感じ。でもエロゲの花はやはりヒロインにあってこそだとも思うので、もーちょい女子にも頑張ってもらいたかったな。

シナリオは双七とすずが病院から脱出するまでの序盤、二人が学園生活を送る中盤、バトルが繰り広げられる終盤の三つで構成されており、特に魅力的な生徒会の面々が絡んでくる中盤が意外にも楽しい。一方、中盤の終わりからはどのルートもハイライトシーンから次のハイライトシーンに繋げるので、どこで盛り上がればいいのかわからなくなる時があった。終盤は好みじゃない展開も多かったし、なんだかんだで中盤が一番面白かった気がする。

最大の欠点はエロシーンが入るタイミングの悪さ。エロが必要ないと言われるエロゲは多いけど、本作は邪魔を通り越して害悪とも言えるレベルで、ここまでエロシーンが作品のクオリティを大幅に下げているエロゲも珍しい。

不満が多くなったけど、それでも『あやかしびと』は面白かった。絶賛は出来ないし毒が足りてないのが物足りないけど、敵が魅力的で戦闘は盛り上がったし、期待を裏切られることもなくお約束をきっちりこなしてくれる安定感もある。やっぱり勢いってのは超重要なのね、と改めて実感した。どっちかっつーと燃えゲーというよりキャラゲーとしての魅力が大きいように感じたけど、例えどんな作品であれ「キャラクタの魅力」という要素は超重要なのでこれでオールオッケーでしょう。

如月双七 (CV:保村真)

すぐ泣く主人公はちょっと珍しいし面白い子ではあるんだけど、周囲に魅力的な男子が多すぎてやや印象が薄い。愁厳とかウラジミールとか虎太郎とか鴉天狗とか九鬼が目立ち過ぎて、主人公ももーちっと頑張れよ的な。いや頑張ってはいるんだけど、周りのメンツを見るとやはり分が悪いというか。好感の持てた主人公だったのは確か。

如月すず (CV:鮎川ひなた)

すずルートは中盤が面白かった。九鬼に攫われたすずを助けようと九鬼に立ち向かう美羽の勇姿から始まり、高速道路でのカーチェイスに入ると全員が一丸となってすずを取り返そうと走る、飛ぶ、撃つ、斬る、の総力戦で燃えた。刀子の跳躍や七海のサポートもいいよね。愁厳の出番がなかったのは残念だけど、これはまあ仕方ない。が、さくらの扱いだけは微妙。というかすずが攫われた状況で何故双七はさくらを抱けるのか。そもそもすずとのエロシーンも蛇足というか、双七とすずが恋人になるのも違和感がある。二人が恋を自覚するまでの描写は丁寧なんだけど、やはり「家族」という結びつきのほうがしっくり来るんだよな。

何よりすずの存在感が薄い。尾の切断シーンまではともかく、攫われてからは戦闘も出来る他の三人に出番を奪われてしまう……って三人どころじゃないか。美羽は九鬼に立ち向かうシーンがあるし、さくらも双七とセックスすることで微妙な印象を植え付ける。そのまま終盤まですずの大きな活躍はないに等しい。最後には八咫鴉の活躍と実は父親でした宣言で、やっぱりすずが入る隙間は最後まであまりなかった。

ラストの超展開バトルはオートで進む上に早すぎて読めないこともあり、なんか知らん間に勝ってた印象しかない。つーか双七がわけわからんモンスターになった時点でテンションが醒め、その後はポカーンと画面を眺めるしかなかった。

すずに関して気になったのは言霊の能力。言霊は打ち消すことも出来るのに、すずルートで双七と美羽にかけてしまった言霊は打ち消せないってのがよくわからなかった。

一乃谷刀子 (CV:一色ヒカル)

日本刀を持つセーラー服姿の長髪美人、てのは強力な要素なのに何故かハマれなかった。むしろ苦手な部類に入る。ネガティブなのはいいんだけど、嫉妬が強すぎるのが辛い。嫉妬キャラは度を超えると鬱陶しいとしか思えなくなるんだよなあ……。それでも可愛いと思えるだけの他の魅力があればよかったんだけど、残念ながら私の目には見当たらなかったらしい。実は愁厳より強いという設定も美味しいのに、戦闘シーンが少ないのが残念。その分すずルートでは暴れてくれるけど、刀子ルートでも無双してほしかった。

那美子の刀子へのストーカー行為をやめさせるために恋人の振りをする、という前半の展開も微妙。元々この手のネタを面白いとは思えないし、やけに引っ張るからうんざりしてくる。トーニャの策で諦めた時もなんかあっさりしてたし最後には凌辱されるしで、那美子はシナリオのために使い捨てられた感がある。

双七が逢難に憑かれてからは先が読めなくて面白かったんだけど、これも長すぎた。ドミニオンを倒すために逢難にイニシアチブを委ねる展開や刀子と九鬼の結託までは良かったのに、双七と逢難の戦いにまで話が及ぶとさすがにダレる。ただ、最後の愁厳には泣けた。どちらかがいずれ死ぬ設定を聞かされた時から兄が死ぬのだろうとは予想出来たけど、それでも愁厳が消滅する場面では気持ちを揺さぶられた。なんというか刀子のシナリオは刀子を好きになれなかった分、愁厳の魅力で持っていたよーな気がしないでもなく。

トーニャ・アントーノヴナ・ニキーチナ (CV:籐野らん)

一番好きなキャラクタ。クールな子かと思いきや表情豊かで見ていて飽きないし、妹からの手紙で幸せに浸るふわふわモードとか照れ顔立ち絵の可愛さとか日常生活を盛り上げてくれる会話とか、とにかくトーニャを見ているだけで楽しかった。ただ、「恋人の振りをする」という展開が刀子ルートと被っているのは地味に気になったけど。

シナリオは九尾の話から逸れ、スパイだったトーニャの背景を浮き彫りにしていく。特にウラジミールのキャラクタが光っていた。チェルノボグ戦が盛り上がらなかったのは残念だったけども。サーシャのキキーモラからトーニャを庇うウラジミールにはぐっと来たし、彼から聞かされた手紙の真実にも泣かされたし、本気を出したトーニャに倒されて正気を取り戻したサーシャとの会話も切なかったんだけど、チェルノボグが手強い敵に見えてそうでもなかったのと不自然な八咫鴉の不在が響いてんのかな。その後もドミニオンを相手に狩人が一人で立ち向かっているというのに双七は生徒会メンバーとの別れを堪能していて白けるし、あれほど双七にとって絶対的な存在として君臨していた九鬼との戦いも大雑把な終わり方になってしまったようで何とも。

あとエロシーンが酷かった。トーニャとのセックスも違和感があったけど、すずを交えた 3P はもう言葉も出ない。そんな無理に入れんでも。

飯塚薫 (CV:嬉野祥子)

双七の初恋の相手だからか、恋人になるまでの描写を飛ばしていきなり双七が薫さんラブになってて驚いた。それ以上にエロシーンの配置がアレ。告白直後に病院の屋上でセックスするのもどうかと思うが、クライマックスに向けて徐々に盛り上がっているところのパイズリと零奈を交えた 3P にはもう笑うのを通り越して無表情になる。更に他ルートで影の薄い薫さんは周囲の男性陣に見せ場を奪われるので、自分のルートでも影が薄い。何より薫さんに魅力を感じなかったのが痛い。双七にとって優しいお姉ちゃんだった薫さんが、ああまで変わってしまった経緯もよくわからん。逆に薫さんに憎悪をぶつけるすずの姿は印象的で、ヒロインの負の面をここまでネチネチと描いていたのが最高だった。

よかったのは九鬼と双七を中心に、鴉天狗と虎太郎と双七のそれぞれの師弟関係が描かれていた点。これで双七の八咫雷天流としての活躍があれば良かったんだけど、信じられないことに存在しないんだよなあ。なんのために学んだんだ……。

一乃谷愁厳 (CV:先割れスプーン)

刀子のために満身創痍になりながらも自分の信念を貫き、最後には双七に妹を託して死んだ会長に泣いた。漢。そして最後に幸せだったかと妹に問われ、本音を隠してすぐに首肯出来るあたりは男らしさに胸を打たれて悶えること必至。

格好良いだけでなく、トーニャルートでの釣り中のガッツポーズとか薫ルートで恋愛相談されてしどろもどろに回答する姿とか可愛い部分もあり、何気に作中で一番の萌えキャラじゃなかろーか。これエロゲだけど。

上杉刑二郎 (CV:北山幸二)

七海とのやり取りはベタ。キャラクタもベタ。リアクションもベタ。こういう委員長タイプの眼鏡っ子と大雑把なバカの、お前ら好きあってんだろってのが駄々漏れなのに本人たちはケンカしているつもりでしかない、という図は様式美も様式美で、もはや懐かしさすら感じる。

刀子に惚れていたらしい設定には驚いたけど、それ以上に美羽と恋人になるルートがあることに驚いた。えー。いや確かに美羽もいい子だとは思うけど。ルートによって恋人が変わるあたりは何気にプチエロゲ主人公とも言えるか。珍しいなこういう仕様。

愛野狩人 (CV:紫原遙)

オチ要員だと思っていただけに、トーニャルートでのドミニオン戦での狩人の登場には痺れた。かっちょえー。トーニャルートのドミニオンが出てきてからの展開は蛇足だと今でも思っているが、狩人の見せ場が用意されていたのは良かったんじゃないでしょーか。

七海伊緒 (CV:小塚環)

眼鏡っ娘がセックスでは淫乱になる、という設定はもうお腹いっぱいです。アナルセックスでも何でもするがよろしよ……。ラブラブ大いに結構。おめでとうおめでとう。

姉川さくら (CV:望月まゆ)

君は自分のサイズにあった制服を着るべきだ。

思えばさくらだけ人妖能力を活かした活躍がないんだけど、精神面で双七を励ましたり支えるなりして一応頑張ってはいた。戦闘要員じゃないからこれが限界かな。ただ、さくらは本人の性格だけで人を和ませることが出来るし、能力はいらなかったんじゃないかなとゆー気も。

新井美羽 (CV:柚木かなめ)

すずルートでの活躍が印象的だった。すずを引っぱたいて取り返しのつかない言霊を引き出すきっかけになったり、すずを攫う九鬼に健気にも立ち向かったりと戦闘要員ではないながらも活躍はある。美味しい子だなあ。

刑二郎とのエロシーンは微妙。七海やさくらもそうなんだけど、まるでノルマをこなすかのよーに無理に全員分のエロシーンを入れられてもなあ……。エロシーンを入れるタイミングが最悪なのは、これも原因の一つだと思うな私は。

加藤虎太郎 (CV:紫花薫)

空気な薫さんを薫さんルートでも空気にしてしまった人。そして薫さんはおろか、双七までこの人に食われて空気化したのが何とも言えない。一応双七にも悪鬼と化した九鬼とのバトルはあるが、直前の九鬼 VS 虎太郎のシーンに迫力負けしている。悪魔に魂を売り渡したが故に九鬼流を使えなくなっている、と九鬼に叩きつけてやるのは弟子である双七がやるべきだったんじゃないかな。とはいえ加藤教諭がかっこよかったのは事実で、そりゃ零奈も惚れるわな。

九鬼耀鋼 (CV:御成門佐清)

九尾にならない九鬼との戦いの後の師弟の語らいには泣けた。息子という拠り所を残酷な形で失って悪鬼刹羅になってしまったけど、それでも九鬼はやっぱり格好良い先生だった。燃えゲーには強くて魅力的な悪役キャラの存在が必要不可欠だと思ってるんだけど、『あやかしびと』は九鬼がいるから面白くなった。MVP。

氷鷹零奈 (CV:野神奈々) & 氷鷹一奈 (CV:野神奈々)

零奈は虎太郎にメロメロになっていた印象が強いけど、一奈はマイナスの印象しかないのがすごい。大抵はどんな悪役にもいいところがあったりするのに一奈には一切ないのが清々しい。かといって悪役としての魅力があるのかと言うとそちらも弱く、強さも中途半端で九鬼同様に私も一奈に対するモヤモヤした気持ちをどう昇華させたらいいのかわからなかった。殺される時はあっさり殺されるんだけど、それでスッキリ出来るのかと言われたらそーでもないのがまた。色んな意味で微妙なバランスになっていて、でもその微妙さは作者の狙い通りな気配も感じる。こういう悪役は珍しいし、一奈は好きなキャラクタになった。

光念一兵衛 (CV:棟方一志) & 光念輝義 (CV:杉崎和哉)

毎回散り様が格好良かった。特に薫さんルートでの二人は必見。しかし二人とも美味しいキャラクタなんだけど、これ以上書くことがないのはアレ。

天 (CV:戸間斗) & 中 (CV:倉久恵古)

天はともかく中は敵としての魅力も大きな活躍もなく、雑魚としか言いようがない。中もあれだけ煽っておいて出番は少ないし、あっさりやられて終了で印象が薄い。

八咫鴉 (CV:時田光) & 鴉天狗 (CV:ヤマモトヒロフミ)

八咫鴉は神様なんだけど、トーニャと同じく日常会話を盛り上げてくれるのが良かった。鴉天狗は強くて格好良いおじいちゃんが好きな私としては当然お気に入りのキャラなんだけど、わりと肝心な時に不在だったりするのは御愛嬌。