Antipyretic

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『ALICE NIGHTMARE』感想

http://dotaihen.xxxxxxxx.jp/an/alicenightmare.htm

軽くフリゲやりたいなーと呟いたら『お茶会への招待状』を薦められたんだけど、前作をプレイすればより楽しめるらしいのでこちらをプレイ。女性向けフリゲは合わないことが多いけど、こちらは意外にも楽しめた。恋愛描写というか、恋愛要素が薄いのも肌に合った。私は恋愛描写を求めて乙女ゲーをやっているわけじゃないのだな、とも久々に実感した。じゃあ何で乙女ゲーやってんだとか言われそう。まったくだ。

先に好みじゃなかった点を挙げると「会話」。私は会話の応酬を見るのが好きなんだけど、この作品は会話はあるもののキャッチボールのリズム感がないというか、相手の反応を待たず一気に話す場面が結構ある。作者の癖っぽい? でも時代を感じさせるゴシックな作品世界は好みだったし、それらを表現するイラストも美しかった。老若男女問わずモブキャラ一人一人に顔グラフィックが用意されており、血飛沫とか張り手を食らって赤くなった頬とかそういう細かい部分が立ち絵やフェイスウィンドウにも反映されるなど、拘りの感じられる丁寧な仕事に驚かされもした。いやあすごいっすねえ。シナリオも特に真新しい要素はないしどのルートも道中は同じ展開を辿ることになるんだけど、辿る結末が多彩で飽きることはなかった。思っていた以上にボリュームもあったけど一気に読了。『お茶会への招待状』も楽しみ。

アリス・シャロット・キャヴェンディッシュ

アリス・シャロットが精神的に問題を抱えていることは開始直後に察せられるので、彼女の周囲の人間と同じく「アリス・イヴリンなんていないのに彼女はいつ自覚できるのか」という目線で主人公を見つめることになるのが面白かった。ここは変に焦らさず真っ先に開陳してくれたのが好印象だったし、すぐ投げ出す私も続きを読もうという気になったのだと思う。それと私は綺麗なだけのいい子には興味を持てないけど、「いい子」な部分だけが残ったアリス・シャロットには結構好感を持っていて、それはアリス・イヴリンも彼女自身であることが序盤でわかるから、てのが大きかったのかなと。だから父親にあれほど禁じられていた夜会にのこのこと顔を出しに行った時も、アリス・イヴリンが唆したということはアリス・シャロットも半ば「どうにでもなれ」的な面白半分な気持ちがあったんだろうし、「余計なことをしてしまうタイプの主人公か」とイライラさせられることはなかった(アルバートルートでは呑気に延々会話しているのが気にはなったが)。

アリス・シャロットルートは最後を締めるのに相応しい内容で、「公園のお嬢さん」を演じるアリス・シャロットと娘を娘を認識できない母親との会話が特に好きだな。

クリストファー・アーネスト・キャヴェンディッシュ

特に恋愛描写を求めているわけでもない私が女性向けゲームをプレイする最たる理由は「強烈でおかしなイケメンに会いたいから」に尽きるんだけど、本作ではクリストファーが結構いい味を出してて可愛かった。妹を愛するがあまり各攻略対象の BAD ED で「俺を見てくれないなら目の前で死んで妹の記憶に残り続けてやる!」と飛び降り自殺をかましてくれる大迷惑兄さんステキ! 兄さんとのハッピーエンドがないのも徹底していてとても良い。正直、アリス・シャロットの様子からはクリストファーの想いに応えられる可能性は微塵も感じられなかったし、あの状態からクリストファーに恋心を抱く展開に持っていくのは無理があると思ったのでこれでいいんじゃないかな。

ちなみにクリストファーで一番萌えたのがアリス・イヴリンルートで、結局妹の掌の上で転がされるクリストファーが可愛かった。意に添わぬ形で結婚した妻が妊娠したのだと、他ならぬ妹から告げられた時の絶望を思うとたいへんワクワクする。ほんと報われない兄さんだけど、報われないのが良いのだと思います。

アリス・シャロットの身代わりになれなかったことについては、まあしゃーない。私が彼の立場でも見て見ぬ振りをしてしまうだろうし、父親からの虐待で妹が更におかしくなってしまったことでクリストファーも追い詰められてしまった。だからアリス・シャロットに対しては「罪滅ぼしに自分が何とかしなければならない」という幼い子が抱えるには重い罪悪感による強迫観念が依存へと昇華して、結果アリス・シャロットにしか意識が行かなくなったんじゃないかな。クリストファーはアリス・シャロットを女として愛してはいるけれど、恋心ではないとも解釈できるのが最高。

アルバートキーツ

アルバートルートの GOOD ED はお気に入りで、恋愛色がほぼないのも良かった。彼は最後まで執事として接し、執事としてアリス・シャロットとの子を作る。アリス・シャロットは特別な存在ではあるけど、彼もまたアリス・シャロットに恋愛感情を抱いているわけではなさそう。最後まで職務に忠実であり続けたからこその結末というか、そうであって欲しい。しかしアルバートはこれでまた新たに大きな秘密を抱えることになってしまうんだな……しかも今度は当人になってしまったし。それがまた味わい深いというかなんというか。

BAD ED も好みの話だったけど、この結末はクリストファーにとっての理想そのものだったんじゃないか。妹は鳥籠の中でぬるま湯に浸かっている自覚があるけど、現実逃避を求めているので外には出たがらない。こういう形で妹を永遠に庇護してやれる状況こそが、クリストファーの思い描いていた最良の形だったのだと思う。皮肉にもクリストファーが死んだことによってそういう状態になってるけども。

おまけのシナリオは笑った。でも『お茶会への招待状』のサイトを見る限り、息子は服の呪いから解放されたん?

クライド・レッドフォード

独断でアリス・シャロットにイヴリンのことをぶちまけるシーンは短慮だなと思ったけど、この子らしくはあるかもしれない。

GOOD ED のコンサートでアリス・シャロットを想って演奏する場面については、この手の展開が好きじゃないので真顔になったけど(わざわざ観客に言わず黙って演奏してくれよと思ってしまう)、ちょっと卑屈になった成長後のアリス・シャロットは妙な色気があってすんげえ好みだった。

オスカー・フォン・ジルベール

先生は好きなキャラクタだったし、彼も恋愛色が然程なかったのが良かった。

ただ、これは先生だけに限った話ではなく館の住人すべてに言えるけど、アリス・シャロットが受ける虐待問題に関してはもーちょっとやりようがあったのでは? とも思ってしまう。まあ書いても詮無いことかもしれないけども。

アリス・イヴリン・キャヴェンディッシュ

一番好きなシナリオはアリス・イヴリンルートで、館の住人を掌握していくアリスが見ていて楽しかったしエンディングもツボ。さらなる悲劇を作り上げようとするのはアリス・イヴリンがそれを味わったからでもあるし、アリス・シャロットという「不幸な自分自身」をメタ視点で見つめていたからでもあるでしょう。あと兄の項目でも書いたけど兄さんが可愛らしくて、外に目を向けさせてもらえなかったアリス・シャロットと、外に目を向ける気がなくアリス・シャロットさえいればいいクリストファーとの対比がよく出ていた。

ただ一つ気になったのがマリアの件で、彼女のポジションはよくある設定ながらも面白かったんだけど、マリアを辞めさせるのは危険なのではないかなお兄ちゃんよ。旦那様の死の真相を知っている人間を安易に野放しにしちゃあかんでしょう……。ああいう子は追い詰められると何をしでかすかわからないのだし。